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絵巻物

カテゴリー:未分類

著者:秋山光和、出版社:小学館
 原色日本の美術の8巻目の大型本です。図書館から借りて読みました。
 絵巻物について、入門的かつ総合的に解説してくれています。大型のカラー図版によって、絵巻物の素晴らしさがよく分かります。絵巻物は、その描かれた時代の日本を視覚的に再現してくれる歴史遺産であるだけでなく、日本が世界に誇りうる一級の芸術品だと思いました。大判の本なので持ち運びするには不便ですが、絵巻物を原寸で読めるのはうれしい限りです。
 絵巻物は世俗的絵巻と宗教的絵巻に大別される。世俗的絵巻は、物語(源氏物語絵巻や紫式部絵巻など)、説話(信貴山縁起絵巻、伴大納言絵巻など)、戦記(平治物語絵巻、蒙古襲来絵巻など)、和歌(三十六歌仙絵など)、記録そして雑(鳥獣人物戯画)がある。宗教的絵巻には、仏典・装飾経(餓鬼草紙など)、寺社縁起(北野天神縁起絵巻など)、高僧伝(一遍聖絵など)がある。
 光源氏が五十日の祝いに薫をだいている場面を描いている源氏物語絵巻を眺めると、当時の貴族の邸宅の様子がよく分かります。
 人物の顔は「引目鉤鼻」(ひきめかぎばな)に決まっている。斜め正面むき、やや後方から見た横顔、極端に頭を小さくしたうしろ姿の3つに限定されている。そうは言っても、絵を描いた作者の表現力が不足していたわけではない。特定の効果を意図してつくり出されたスタイルである。喜びも悲しみも、一切の感情が表情として示されていないにもかかわらず、画面を全体として眺めると、不思議なほど人物の気持ちやその置かれた情況が、ありありと見る者に伝わってくる。
 「引目」についても、一本のように見えながら、ある部分を強調し、あるいは軽い点を加えて瞳のあり方を暗示するなど、それぞれの顔にひそやかな命をかよわせている。
 彩色法にも独自のものがある。下描きの墨線を厚い彩色顔料で全部塗り隠したうえで、改めて色や墨の線で描き起こしをして画面を仕上げていく技法がとられている。「つくり絵」の技法である。
 絵巻物は上下の最大幅が50センチもある。横の長さは10メートルから15メートルに及ぶ。みる者は絵巻物を手にとって、あるときには停めてじっくり眺め、あるときには早く巻きすすめることができる。緩急のリズムをみずから生み出し、調節することで、画面効果を作り出すことに参加できるわけである。
 絵巻物は中国の画巻に学んでいる。しかし、日本式の絵巻物として、10世紀に独自に発達をとげていった。13世紀の後半に盛りあがりをみせ、14世紀になると最後の輝きを放って、急激に減退していった。
 以上のような解説によって絵巻物を知ることができるわけですが、ともかく、カラー図版を眺めるだけで楽しい絵巻物の解説本です。そこには中世に生きた人々の顔が写実的に描かれています。なーんだ、やっぱり中世の人って現代日本人とあまり変わらないんだなー・・・と、驚かされます。

グローバル経済下のアメリカ日系工場

カテゴリー:未分類

著者:河村哲二、出版社:東洋経済新報社
 アメリカに日本企業が進出して長くなります。なんとかうまくやっているようです。自動車産業は、アメリカ企業を圧倒しつつあるようですが、なぜそれが可能になったのか、そこにどんな問題があるのか、私の関心のひとつです。
 アメリカ型システムは、単能工的専門化体制を特徴とする。個々の作業者が遂行すべき「ジョブ(職務)」概念が明確で、かつ「ジョブ」間の垣根が高い。個々の作業者は職務定義によって明確に定義された職務を厳密に遂行することが求められる。これは少品種の大量連続生産に適した方式である。
 日本型労務編成は多能工による班組織を特徴としている。頻繁な機種の切り替えに対する柔軟な作業の再配置を可能とする。作業現場の作業長は、現場ノウハウを熟知した現場作業員から内部昇進で確保される。
 日本型システムでは、アメリカ型の職務対応賃金はそのままでは採用できない。昇格・昇進といった人事管理もアメリカ型とは異なってくる。日本型経営・生産システムは、多品種生産をより高効率・高品質で実現するシステムである。
 日本企業の経営システムは長期継続志向と職務間の垣根の低さにある。日本企業が行ってきた能力評価は、仕事の成果ではなく、仕事のプロセスを評価する。成果主義賃金と銘うちながら、実は仕事ぶりを評価する制度であることが少なくない。
 日本の自動車メーカーは、アメリカの自動車産業の中心地であるデトロイトをあえて避け、伝統的に農業地域であった地域に進出したのが特徴的。ここには、UAWなど、戦闘的な労働組合の影響から逃れようという意図があった。また、すべての工場が、設立当初から、プレス工程から最終組立工程までの一貫生産拠点であった。
 アメリカで日本車が売れる原因の大きなものとして、車に対する信頼性が高いことから、中古車の価格が新車とほとんど差がないことがあげられる。
 日本型システムは、製造現場での絶え間ない改善活動や問題解消活動によって維持されている。このような能力構築システムそのものを現地工場でいかに実現するかというのが、大競争下での現地生産の成否のカギとなっている。
 韓国の三星電子が急成長を遂げている。三星電子の経営スタイルは、生産現場は日本式なのに、その基本的な人事制度は日本式ではなく、欧米式に近い。そのミスマッチには驚くべきものがある。
 うーむ、なるほど・・・。そう思いながら読んでいきました。それにしても労働組合のない日系工場というのはどうなんでしょうか。たしかに労務管理はやりやすいのでしょう。でも、いったい企業は何のためにあるのか、その基本を忘れて暴走する歯どめが本当に必要ないものなのでしょうか。そんなことを言うと、今の企業の置かれている厳しい現実をおまえは知らない。夢のような青臭いことを言うな、そんな批判の声が飛んでくるのでしょう。だけど、ですよ。一級建築士による安全手抜きのビル建築を見ていると、今の日本企業の多くがあまりにも目先のもうけを追求して、大切な基本的倫理を忘れ去っている、それが心配でなりません。

萌え萌えジャパン

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著者:堀田純司、出版社:講談社
 この本を読むと、つくづく日本は変わったと思い知らされます。私のあずかり知らないところで、こんなに巨大なマーケットができあがっていたなんて・・・。日本の社会の闇の深さに愕然とさせられます。オタク族は、今や2兆円市場になっているのです。ええ、商業主義にもしっかり毒されているわけなんですよ。
 そもそも萌えとは何なのか。本来は芽が出るという意味だが、今では、特定のキャラクターないしその一部について深い思い入れを抱き、心が奪われる状態を指す言葉。
 萌える気持ちは古き良き時代の、あの初恋に似ている。魅力的な対象の現実の不在から発生する不安定さ。その補完。ふれたい、でもふれられない。このもどかしさ・・・。
 キャラクターは実写ではなく、しかも写実ですらない。それゆえにこそ現実が解き放たれて、深く人の本態をわしづかみにする魅力を放つ。キャラクターは、魅力的であればあるほど、現実でないからこそ現実を超えた魅力をもつという矛盾を、愛する者に痛切に感じさせる。うーむ、なるほど、そういうことなのかー・・・。といっても、実は分かったようで分かりません。私にとって、それは難解な哲学的な解説そのものです。
 萌え系は文系の人より、むしろ理系の人にこそ深く親しまれる。そんな傾向があるそうです。また、萌え系にはグッズまであります。そのヒット作が、このところ有名な抱きまくらです。
 抱きまくらは最終崩壊兵器だ。愛好者の人格が崩壊してしまう。
 本来サブカルチャーであったマニア層が、90年代の日本社会では大きな消費集団を形成した。1994年に「セーラームーン」は年商200億円を達成した。1995年には、そのキャラクターグッズは5000種に及び、累計売り上げ高は2000億円になった。なんと、なんと・・・。そのすごさには息を呑むものがあります。
 コミックマーケットは、3万5000サークル、51万人の人を日本全国から集める世界最大のイベントになった。1日に1万部以上が売れ、トータルで20億円の金額が動いている。ええーっ、なんということでしょう。とても想像できないスケールです。
 2003年の出版物全体の販売部数のうち、漫画の占める割合は38%。漫画家は4500人もいる。フランスにも日本の漫画が、そのままマンガとして進出しています。
 ちなみに、私のフランス語学習歴は30年をこえています。ちっともうまく話せませんが、あきもせず、こりることもなく毎週、日仏学館に通い、毎年2回、仏検を受けています。なんとか準一級には合格しましたので、今は仏検一級にチャレンジしています。手元に残っている問題冊子をみたら、初めて受けたのは1995年でした。ですから、なんと10年以上も受験していることになります。これには我ながら驚いてしまいました。10年前ひと昔といいますが、10年前の無暴さには呆れてしまいます。今でもまだ合格圏にはほど遠いのですが、それでもようやく4割台の点数がとれるようにはなりました。フランス語を聞いて耳で分かるようになったのがうれしくて、続けています。これも一種のオタクなんでしょうね。自分でもそう思います。
 萌えの対象は声優にまで及んでいる。10代の女の子の将来なりたい職業の9位に声優がランクインしている。たかがオタクの世界だなんてバカにしてはいけない。そんな日本社会の現実をよくよく思い知らされる本でした。

下流社会ー新たな階層集団の出現

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三浦展著 光文社新書
【あなたの「下流度」チェック】…半分以上あてはまればあなたはかなり「下流的」
□1 年収が年齢の10倍未満だ
□2 その日その日を気楽に生きたいと思う
□3 自分らしく生きるのがよいと思う
□4 好きなことだけして生きたい
□5 面倒くさがり、だらしない、出不精
□6 一人でいるのが好きだ
□7 地味で目立たない性格だ
□8 ファッションは自分流である
□9 食べることが面倒くさいと思うことがある
□10 お菓子やファーストフードをよく食べる
□11 一日中家でテレビゲームやインターネットをして過ごすことがよくある
□12 未婚である(男性で33歳以上、女性で30歳以上の方)
かなりズバズバ書かれているので、反感を持って読んだ人も多いだろう。わたくしは立ち読みで上記チェックのみ行った。だって目次だけで内容が全部わかっちゃったんだもん(第2章の、謎のキーワード連発の部分は除く)。目次だけならアマゾンで検索すると見ることができます。
チェックの生活内容は、一時期スローライフとしてもてはやされていた記憶がありますが。
この本の読者層って「自分は勝ち組か負け組か」とドキドキして生活しているタイプの人ではないか。
本来こんなに売れる類の本ではないと思うのだが。
下流は自民党とフジテレビが好き!と言い切られても・・・

再審と鑑定

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著者:谷村正太郎、出版社:日本評論社
 著者の古稀を記念して刑事弁護に関する論稿を集めて本にしたものです。著者と対話したことはありませんが、そのお話を聞いたことは何度もあります。誠実そのもの、謙虚な口ぶりの話に、いつも感心しながら聞いていました。
 白鳥事件と芦別事件が大きくとりあげられています。ご存知のように白鳥事件は、再審事件の門戸を大きく開いたとされる最高裁判決が出ています。でも、いま読んでみると、なーんだというような、当然のことが書かれているにすぎません。
 白鳥(しらとり)事件は1952年1月21日、札幌市内の路上で自転車に乗って走行中の白鳥警部(警備課長)が拳銃で射殺されたというものです。当時28歳だった村上国治・共産党札幌市委員長が10月10日に逮捕され、3年後の1955年8月16日に殺人罪で起訴されました。村上国治は現場にいたのではなく、殺害を指示したというのですから、共謀共同正犯です。ところが、物的証拠は何もありません。唯一の証拠が弾丸でした。白鳥警部の体内から出てきた弾丸と、札幌市郊外の幌見峠で拳銃の射撃訓練をしたときに「発見」されたという弾丸が同一のものかが問題となり、同一だとする鑑定書が出されました。しかし、その鑑定書をつくった学者は自分でしたものではないことが判明したのです。
 最高裁の1975年5月20日の決定は次のように述べています。
 「無罪を言い渡すべき明らかな証拠とは確定判決における事実認定につき合理的な疑いをいだかせ、その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠をいう」
 「明らかな証拠であるかどうかは、もし当の証拠が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたとするならば、はたしてその確定判決においてなされたような事実認定に到達したであろうかどうかという観点から、当の証拠と他の全証拠とを総合的に評価して判断すべきである」
 「再審開始のためには確定判決における事実認定につき合理的な疑いを生じぜしめれば足りるという意味において、疑わしいときには被告人の利益に、という刑事裁判における鉄則が適用されるものと解すべきである」
 なかなかいいことを言ったのですが、それでも最高裁は結論として再審開始を認めませんでした。運動の盛りあがりに押されるようにして村上国治は17年間の獄中生活のあと、仮出獄することができました。45歳になっていました。お金に替えられない貴重な青春が奪われてしまったわけです。
 芦別事件も、同じ1952年の7月29日、北海道の根室本線の芦別駅付近で線路がダイナマイトで爆破されたというものです。被告人がつかったとされた発破器は盗まれたのではなく、土砂崩れのために埋まっていたのであり、会社はそれを発見してつかっていた。検察は、それを知っていた。したがって、被告人が犯人ではありえないことを知りながら当初の筋書きどおり起訴した、というのです。本当にひどい事件です。
 著者は刑事記録を読んでこのことを知り、それまで抱いていた裁判所に対する幻想がうちくだかれたとしています。私も、このくだりを読んで、腹がたってしかたがありませんでした。権力をもつ人間のやることは、昔も今も変わりません。決して、単に昔のこととすますわけにはいかないのです。
 それでも、そんなひどいことをした検察官の個人責任は認められませんでした。いえ、一審判決は認めたのですが、二審も最高裁も認めなかったのです。こんなことでいいのでしょうか・・・。
 先輩弁護士に学ぶべきところは大きい。それを実感させられた本でした。

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