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ブレア首相時代のイギリス

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著者:山口二郎、出版社:岩波新書
 数十分の演説によって政策の内容を説明して国民の理解を得ることなど、はじめから放棄している。むしろ、テレビCMと同じく、15秒ほどの短い時間で、印象的な言葉を断片的に叫び、国民の好感を得ることこそが重要となる。こうした断片的な言葉をサウンドバイトと呼ぶ。メディアに映るリーダーのイメージを管理するのは、スピンドクター(メディア政治における演出家、振付師)と呼ばれる人々。
 リーダー個人の魅力やイメージによって国民の支持を動員し、選挙での勝利、重要政策の推進を図る政治の手法の拡大を政治の人格化と呼ぶ。この傾向がすすめば、国民は政策の中身をじっくり考えて判断するのではなく、特定の政治家の個性で政治の動きを正当化してしまう。人格化された政治は夾雑物を置かないといっても、テレビという媒介(メディア)が常にリーダーと国民との間に存在するのであり、直接的関係も仮想のものでしかない。
 これって、まるで日本の小泉純一郎のやり方ではありませんか。でも、ここではイギリスのブレア首相のやり方のことが書かれているのです。まったくウリふたつですよね。
 ブレアの下で党本部のコミュニケーション総局が力をもち、党幹部の演説・コメントなどすべてを管理している。政治家の言動は官僚的なコントロールに従った芝居のようなもの。細心の情報管理がなされている。
 イギリスでは労働組合という最大の支持基盤を、日本では郵政族議員と特定郵便局長を、それぞれ自ら切り離すことによって一般市民の支持を得るという成功を、ブレアも小泉も収めることができた。既成政党に対する飽きが広がった状況においては、人格化されたリーダーによる既成政党攻撃という手法は、一度は大きな効果を発揮する。
 しかし、このような政治の人格化がすすめば、権力の正統性根拠はカリスマに移る。そうなると、権力は属人的なもの、権力者の私物となりかねない。独裁の誕生を招いてしまう。
 これはこれは、いまの日本でもまったく同じです。自民党をぶっつぶせ。そう叫んで国民の快哉を得て首相になった小泉純一郎は、自民党をぶっつぶすどころか、史上空前の巨大議席を占め、日本という国と社会そのものをぶっこわしつつあります。そして共犯者ともいうべきマスコミは、今なお小泉を天まで高くもちあげ、今や小泉が誰を後継者として指名するのかにだけ注目するなんて、まるでお隣の独裁国家と変わらない記事にあふれています。いつから、日本はこんな国になってしまったのでしょうか・・・。
 イギリスには、かつて鉄の女と呼ばれたサッチャーがいました。中産階級出身から成り上がったサッチャーは、市場中心の「小さな政府」をつくるにあたって、社会などというものは存在しないと豪語しました。この世の中にあるのは、政府と市場と個人・家族だけであり、頼りとするのは自分と家族しかいないということ。くやしければ、がんばりなさい、というメッセージである。
 しかし、そうだろうか、と著者は反問しています。人は生まれるときに、親や家庭の経済環境を選ぶことができない。貧困家庭に生まれた人は、はじめから機会を奪われており、機会の不平等は、今も階級格差の著しいイギリス社会では、個人の努力なんかではどうすることもできない。だから、機会の平等の確保は、まさに政府の任務だ。社会から排除された人が大量に社会の底辺に滞留すると、犯罪や反社会的行動の増加、それにともなう警察や刑務所の拡充など、秩序維持のコスト増加、労働力の質の低下と経済活力の低下、貧困の増加による国内需要の減少など、さまざまな問題が生まれる危険は無視できない。すべての人が社会に帰属し、参画することが、経済活力にとっても、人々がよい生活を送るためにも重要である。
 著者のこの指摘に、私はまったく同感です。ホームレスを大量につくり出した社会では、安心してこどもたちを野外で遊ばせることすらできません。
 それでも、ブレアは労働党です。日本の小泉とまったく違うのは、ブレアが首相に就任するにあたって叫んだ言葉です。私がやりたいのは3つある。それは、教育、教育、教育だ。この点です。それで、教育予算を増やし、教員の志望者が増えました。本当に大切なことです。もっとも、ブレアは、ひどい成績主義路線をとっているようなので、手放しで礼賛するわけにはいきませんが・・・。
 今の日本の政治のあり方を考えるうえで、日英比較は大変参考になる。つくづくそう思いました。

植物という不思議な生き方

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著者:蓮実香佑、出版社:PHP研究所
 冬のわが庭は手入れの時期です。庭のあちらこちらを掘り返しては春に備えています。いま花が咲いているのはロウバイくらいのものです。その名のとおりロウそのものといった黄色い小さな花が枯れ葉に見え隠れしています。香りロウバイというのですが、私の鼻が利かないのか、残念なことに、あまり匂ひはしません。昨年はアガパンサスの青紫の素敵な花が少ししか咲きませんでした。今年はもっと花を増やしたいと思って株分けをしてみました。うまくいくことを念じています。
 水仙の茎がぐんぐん伸びてきました。あまりに増えすぎたので、心を鬼にして半分ほど始末してしまいました。やはり、庭にはいろいろの花を四季折々に咲かせたいので、仕方ありません。
 サボテンの子どもたちがたくさん増えていましたので、こちらは始末するのはさすがに忍びがたいので、小さなポット苗を30個ほどもつくって、知人にわけてやりました。わが庭のサボテンは、もう少くなくとも3代目です。両手をあわせて輪をつくったくらいの大きさになると、白い花を咲かせ、たくさんの子どもサボテンを自分の周囲につくって、親(本体)は、そのうちスカスカになって枯れてしまうのです。
 ジャコウアゲハの幼虫はウマノスズクサという毒草を餌にしている。ウマノスズクサの毒は、虫の食害から身を守るためのもの。ところが、ジャコウアゲハの幼虫は平気でウマノスズクサをたいらげる。それどころか、ジャコウアゲハの幼虫は、毒を分解するのではなく、ウマノスズクサの毒を体内に蓄えてしまう。こうしてジャコウアゲハは毒を手に入れた。こうなると、鳥はジャコウアゲハの幼虫には手が出せない。
 多くのハチが中空にぶらさがった巣をつくる理由は、アリに襲われるのを恐れてのこと。ハチの巣の付け根には、アリの忌避物質が塗られている。
 コガネムシは、花粉を媒介する昆虫の中で、もっとも古いタイプの昆虫だ。
 昆虫界で紫色を好むのは、ミツバチなどのハナバチの仲間。アゲハチョウは情熱の赤色を好む。そのためチョウをパートナーに選んだ花たちは赤色や橙色をしている。ユリやツツジの花がそうだ。
 日本でイチョウの木はありふれているが、実は、欧米ではほとんど見ることのできない木だ。銀杏は美味しいけれど、臭いですよね。
 古代ギリシアの学者アリストテレスは、植物とは逆立ちした人間であると評した。人間の口に相当する根が一番下にあり、胴体に相当する茎がその上にある。そして、人間の下半身にある生殖器が、植物の一番上にあう花だということ。
 一方、プラトンは、人間とは逆立ちした植物であると言った。人間には神様に与えられた理性がある。だから、理性をつかさどる頭が天上の神に近い一番上にある。つまり、植物が大地に根ざした存在だとすれば、人間は天に根ざした存在なのだ。
 この本は、何もモノ言わない植物が実は、いかに賢い存在であるか、よく分からせてくれます。自然界って、ホント、奥が深いですよね。

かんじき飛脚

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著者:山本一力、出版社:新潮社
 著者の筆力には、いつものことながら感心させられます。ぐいぐいと本の中の世界に引きずりこまれてしまいます。
 ときは寛政の改革をはじめた松平定信が老中首座にすわった江戸時代です。吉宗の孫として、紀州御庭番を思うように操り、天下の雄藩である加賀の前田藩のお取り潰しを狙うのです。そうはさせじと、前田藩の用人が画策し、飛脚が登場してきます。
 江戸時代、将軍家と雄藩とは水面下で激しく対抗・抗争もしていました。表面上はにこやかに笑顔を交わしつつ、その内実はお互いに足を引っぱりあっていたのです。
 老中定信は、幕府の財政支出を抑えるため、ぜいたく禁止令を出し、札差し(当時の金貸し)の貸金(借りた大名や武士・町民からいうと、もちろん借金)を帳消しにしてしまう棄捐令を発布しました。ところが、借りていた大名・町民が借金がゼロになって喜んでいたのは、ほんの2ヶ月ほどのこと。あとは札差しがお金を貸せず、ぜいたくもしなくなったことから、世の中の動きがすこぶる悪くなって、大層な不景気をまねき、老中定信の人気(威信)は一瞬のうちに凋落してしまいました。
 加賀前田藩には幕府当局に知られたくない2つの秘密がありました。それを御庭番の働きによって探知した老中定信は、前田藩に無理難題を吹っかけます。ここで救いの主として登場するのが飛脚なのです。
 飛脚のなかにも御庭番と内通する者がいたりして、雪中に走る飛脚が狙われてしまいます。ここらあたりの描写の緊迫感は何とも言えない心地よさがあります。
 史実とかけ離れている話なのでしょうが、歴史小説として大変面白く読みました。

731

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著者:青木冨貴子、出版社:新潮社
 戦争中、中国東北部(満州)に関東軍731部隊が巨大な施設をつくって細菌戦をすすめていました。京都帝国大学から助教授、講師クラスの若い研究者が次々に参加しました。
 中国人の捕虜などが憲兵によって「特移扱い」とされると、「マルタ」と呼ばれ、人間扱いされなくなる。野外で杭にしばりつけられ、ペスト感染の実験材料にされたり、細菌を注射する人体実験をして生体解剖するということが連日あっていた。
 終戦後、日本軍は徹底した証拠隠滅を図った。しかし、石井四郎部隊長は軍中央の命令に反して、研究データの多くを日本に持って帰った。これが後にマッカーサーのアメリカ占領軍との貴重な取引材料となり、石井四郎たち731部隊の首脳陣の助命を可能にした。この徹底防諜という指令は東京の参謀総長からの命令だった。これは細菌戦をすすめていた731部隊のことがばれたら天皇にまで累が及ぶという心配によるものだった。
 石井四郎部隊長ほか多くの軍医は終戦のとき、爆撃機で東京に逃げ帰った。それは8月22日から26日までの間のことであり、厚木か立川の飛行場に降り立っている。
 ところで、アメリカが大戦中にもっとも心配したのは、ドイツの細菌戦だった。あれだけ医学のすすんだドイツが細菌兵器に手を出したらと、・・・。その脅威は絶大だった。しかし、戦争が終わってドイツを占領したアメリカ軍は、細菌製造工場をどこにも発見することはできなかった。つまり、細菌兵器はなかったのである。
 ところが、日本軍は、その細菌兵器を完成させ、実戦でつかっていた。ペスト菌をただばらまいても病気をひきおこすことは難しい。しかし、ペストに感染したノミをばらまけば有効だということが実証されていた。ペストノミは731部隊が発明した当時の最新秘密兵器だった。
 終戦直後、石井四郎が満州から帰国して、東京・若松町の自宅にいることをアメリカ占領軍のトップ(マッカーサーとウィロビー)は知っていた。ところが、それを隠し、ワシントン政府をだまし、ワシントンから派遣されてきた調査官まで欺いた。
 石井部隊にいた研究者たちは、持ち帰った研究データをロシアにはまったく秘密にし、アメリカに対してのみ提供する。ソ連の訴追を免れるよう保護されるという保障をアメリカ軍から得て、秘密のうちに調査報告書を作成した。
 大東亜戦争は中国・朝鮮の文明化に貢献したのだと恥ずかし気もなく高言する日本人が増え、マスコミのなかで勢いづいているのは怖い気がします。731部隊のやったことひとつだけをとっても、そんなことが言えるはずはありません。
 日本軍の細菌戦を主導した石井四郎が、なぜアメリカ占領軍から戦犯とされるどころか、免責され庇護されてきたのか。それを資料にもとづいて明らかにした貴重な本です。

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著者:秋山徳蔵、出版社:中公文庫
 昭和天皇の料理番だった人が語った本です。さすがにプロの言うことは違う。なるほど、なるほどと、すっかり感心してしまいました。
 大正天皇の御大礼の宴会を準備したときのことです。なにしろ2000人が参加する宴会ですから、50人もの料理人で担当したそうです。
 献立を考えるのにひと月かかった。料理にも、重点が一つあって、それが光っていなければならない。その他のものは、それ自身としてはもちろん立派なものでなくてはならないが、重点になる料理の光を消すようなギラツキがあってはいけない。そうして、コース全体が渾然とした調和を保ってこそ、最上の料理といえる。頭に浮かんでくる献立を、思い切って片っ端から落としてしまう。ところが、そのなかに、どうしても落としきれないものが残ってくる。10ぺん考えても、20ぺん考えても、その献立が頭の中に坐っている。それがホンモノである。こうして煮つめて煮つめて、最後に一つの献立を決定した。
 献立の次は、材料の心配だ。生ま物が大部分だから、早くから買い込んでおくわけにはいかない。そのときになってパッとそろうように、もし甲の方に万一のことがあったら乙の方で間に合わせるようにと、万全の手配をしておく。不測の事故ということも考えなければならない。たとえば、スープの鍋をひっくり返したら、どうするか。出さないわけにはいかない。かといって、それだけのものを二重につくっておくことはできない。それで、ダシや味の素を用意して、お湯を湧かしておいて、万一のことがあったら、即座に代わるべきものをつくる。
 料理の一番の奥義は何か。やっぱり香りだ。ことにフランス料理は香りだ。材料の香り、補助味の香り、香料の香り。そういったものが渾然となって、味と色彩とともに一つの交響楽をつくりあげる。これがフランス料理の芸術たるゆえんだ。だから、料理の修業は鼻の修業といってもよい。
 とにかく、料理を専門にする人は、鼻を大切にしなければならない。風邪もひかないように気をつける。また、歯も大切にしなければならない。入れ歯をすると、味に対する感覚がガクンと落ちてしまう。
 うーむ、なるほど、なるほど、そうなんだよね・・・。すとんと腹に落ちることが書かれていて、とても感銘深く思われました。

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