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イラク水滸伝

カテゴリー:イラク

(霧山昴)
著者 高野 秀行 、 出版 文芸春秋
 驚くばかりの現地踏査ルポルタージュです。イラクに広大な湿地帯があり、そこはアウトローたちの逃げ場でもあるというのです。なんで中国の「水滸伝」がイラクに出てくるのかという謎が本文を読むと、見事に解明されます。
 この巨大な湿地帯、アフワールに入った日本人は少なく、その実情を紹介した本もほとんどありません。そんなところに、冒険家の著者は山田隊長と2人して出かけたのです。
 この湿地帯は、イラクのペルシア湾に面した地方にあります。ここは、ティグリス川とユーフラテス川が合流する地点です。ハウィザ湖とハンマール湖という大きな湖があります。そして、ここに生える葦(アシ)は、なんと高さ8メートルもありますので、この茂みの中に逃げ込んでしまえば簡単には見つかりません。葦でつくった浮島があり、そこに住居もあります。
 この湿地帯はユネスコの世界遺産に登録されたばかり。
 この湿地帯での郷土料理は「鯉(コイ)の円盤焼き」。イラクでは5千年前から鯉が食されている。イラクでは法律によってアルコールは一切禁止されている。しかし、多くの人が日常的に密造酒や密輸酒を飲んでいる。
 イラクの「軽いご飯」は、50代の日本人にとっては十分にヘビー級。
 イラクの独裁者のフセインは干拓しようとして水路をつくりましたが、結局のところ失敗しました。この湿地帯にひっそりと生活してきたのがマンダ教徒です。
湿地帯の人々に多いマンダ教は、とても風変わりで特殊な宗教。マンダ教徒は洗礼者ヨハネを信仰している。マンダ教徒は、イラクでは「サービア教徒」と呼ばれている。マンダ教徒は伝統的に「舟大工」を生業にしている。マンダ教徒は古星術の使い手として知られ、サダム・フセインも頼っていた。マンダ教徒は全世界で10万人未満、イラクには3万人以下しかいない。マンダ教徒は絶対平和主義。
 マンダの人々は2つの名前をもっている。一つはフツーの名前で、もう一つは星に由来する名前。こちらは他人には絶対に教えてはいけない。
 湿地帯では水牛が飼われている。ゲーマルは、水牛の乳製品である。
 この湿地帯では燃料に困ることはない。葺の再生力はものすごい。ただし、葺(カサブ)が密生した中へ入り込むのは困難。
 湿地帯が放っておかれてきた理由は簡単。ここには何の利権もない。この一点に尽きる。石油などの天然資源は、ここにはないのです。20世紀のイラク水滸伝の主人公は意外にもコミュニスト(イラク共産党)だった。
 この湿地帯には私有地はない。人々が所有するのは水牛だけで、あとはみな公共のもの。湿地帯には道がなく、集落もない。家にトイレはなく、敷地の端ですませるだけ。
 マンダ教徒は、同じ信者内でしか結婚しないので、他の民族の血は混じらない。その目はきょとんとしたように丸く、顔立ちにちょっと愛嬌がある。
 マンダ教徒が結婚するときの婚資(結納金)は高い。水牛10頭分にも相当する。これを潜脱する方法として、同じ家同士で娘を交換したら、婚資がいらなくなる。
 浮島では女性は姿を隠さない。隠す場所もない。
 本文474頁もある大作ですが、旅行記をのぞく気分で軽々と読みすすめることができました。それにしても著者は勇気があります。また、山田隊長の存在も大きいと思いました。
 イラクの知られざる湿地帯の実情を知ることができる本です。一読をおすすめします。
(2023年9月刊。2200円+税)
 日曜日に庭の畑からサツマイモを掘り上げました。昨年と同じ場所に畝(うね)を4列つくっていました。うち1列は先に掘り上げているのですが、小ぶりのイモばかりでした。それで残る3列に期待をかけていたのです。ところが、前より少しだけ大きいものがありましたが、ほとんど小ぶりばかりでした。どうして、なんでしょうか。
 同じ場所にジャガイモを植えて6月に収穫したのですが、ジャガイモは店頭の商品と遜色ありません。
 サツマイモって、意外に難しいのです。来年は、苗と植える時期を変えてみようかなと考えています。
 庭にチューリップの球根を全部で300個ほど、あちこちに植え込みました。春が楽しみです。

ルポ・国際ロマンス詐欺

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 水谷 竹秀 、 出版 小学館新書
 会ったこともないのに、メールの文章だけで結婚しようと思い、相手の言いなりになって、大金を次から次に送金していく人が後を絶ちません。会ったことがないといっても、ネット上で相手のハンサムな顔は見れますし、声も聞けるのです。といっても、「国際」というからには、日本語に変換したものです。ところが、それが、みーんなニセモノ。怖いですよね、ここまでネットで社会は「すすんで」いるのですね…。「顔」も「声」も変換できて、いかにも本物らしく対応するのです。
そして、信じ込むほうにも、いささか問題があります。ちょっと怪しいなと思いつつ、夢心地に浸っていたい気分から、その疑問を自ら打ち消してしまうのです。騙される人の特徴は、寂しさや失望感をかかえ、心に隙間のある人。
 自分は不幸であるというイメージをもち、悲観的にとらえている人、ある程度教養があり、異文化に関心をもっている人。損を現実化させたくない心理が働く。
 素直で、真面目な、いわゆる「いい人」が多い。自分が善意だから、相手も善意だと思い込んでしまう。
でも、結局のところ、騙される人が悪いのではない。騙す人間が悪い。これは私も弁護士としてまったく同感です。
この本では、騙す人間の正体を探るため、著者はアフリカのナイジェリアにまで行ってきました。そこで出会った騙す悪人の正体は…。
 なんとなんと、ナイジェリアの大学生たちが、お金欲しさに「ロマンス詐欺」をやっているというのです。ナイジェリアの若者たちは、10人のうち8人までもがサイバー犯罪に関わっている。彼らは深刻な犯罪をしているとは考えていない。彼・彼女らを「ヤフーボーイ」とか「ヤフーガール」と呼ぶ。
 貧困だけが理由ではないようですが、貧困が主要な要因であることは間違いありません。それにしても、「国際ロマンス詐欺」がアフリカの大学生のアルバイトの舞台になっているとは驚きました。世の中は狭いものです。なにはともあれ、ネットだけでのつながりというのは、映画をみているようなものなんです。目の前のスクリーン(大画面)に見とれているうちに、吉永小百合と結婚できるなんてことが絶対にありえないのを、いつのまにかありうると錯覚して大金を投げ捨ててしまうというものです。ちょっと例え話に品がありませんでしたね、失礼しました。
(2023年8月刊。1100円)

台湾侵攻に巻き込まれる日本

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 半田 滋 、 出版 あけび書房
 「北朝鮮や中国が攻めてきたら、どうする!」
 この不安と焦燥に駆られた人々が5年間に43兆円もの超巨大軍事予算を精神的に支えています。これまで軍事費は年に5兆円を上回っただけでも大問題だったのに、今や年間7兆円を軽く上回る軍事予算です。
 「北朝鮮がミサイルを発射した」と言ってJアラートを発令し、恐怖をあおり立てる政府広報。同じことを韓国がやっても、報道すらされません。北朝鮮のロケット(「ミサイル」の正体)は宇宙空間を飛んでいるのです。「日本の上空」ではありません。「ミサイル対策」と称して、学校や役所で机の下に潜り込む訓練をしていますが、戦前の防火(消火)バケツリレーと同じく、単なる気休めでしかありません。意味のないことはやめるべきです。政府は、それよりイスラエルに軍事行動の停止を求めるべきです。
 自民・公明の岸田政権はアメリカの兵器を「爆買い」し続けています。トマホークなんてスピードが遅いので、もはやアメリカ軍は使っていないとのこと。そして、オスプレイは多くのアメリカ兵を殺してしまった「未亡人製造機」と言われるほどの欠陥機。それを今度は佐賀空港に配備するのです。本当に許せません。
 「戦争が始まったら、シェルターに逃げて…」
 地下のシェルターに逃げ込めて一時的に助かったとしても、地上に誰もいなかったら、どうやって生活していくというのですか…。食料がいつまでもあるはずはありませんよ。
 宮古島に住む全住民を避難させるのに必要な飛行機は363機、船は109隻。そんな大量の飛行機と船が確保できるはずはありません。同じく、沖縄県民146万人を九州に避難させるとのこと。うまく運べたとしても(ありえませんが)、いったい九州のどこにこれだけの人を収容するというのでしょうか…。
 日本政府は、公式見解では台湾を独立国としてみていません。なので、台湾は日本と「密接な関係にある他国」とは言えません。
 アメリカは大量の半導体を必要としている。台湾のメーカー(TSMC)は、世界の半導体シェアの6割を占めている(高性能のものに限れば9割)。だから、台湾を確保しておかないと、アメリカという国自体が存続できない。
 中国は既に空母を2隻保有し、戦闘機も2000機もっている。無人の岩があるだけの尖閣諸島をめぐって武力侵攻するのは、中国の国益に合わない。
 アメリカとアメリカ軍を守るため、日本は集団的自衛権を行使する。つまり、日本を守るためではなく、外国(アメリカ)を守るため、日本人青年の血を流させようということ。
 日本がアメリカから「爆買い」するトマホーク400発を保有したとしても、中国は巡航ミサイルをすでに2200発も保有している。こんな格差があるのだから、「抑止力」が働くはずもない。
 アメリカからオスプレイ17機を購入する代金は3000億円。日本全体の司法予算はそれとほぼ同じの3300億円。しかも年々少しずつ減っている。裁判官の人数は増えていないどころか、減っている。思わず涙が出てしまいます。
 大軍拡予算がすすめられるなかで日本の軍需産業(「死の商人」たち)は喜びに奮いたっている。三菱重工業は誘導弾の新規開発に奔走している。まさしく、金もうけのためなら、何事も身を惜しみませんという姿勢です。
 自民党・公明党の脅しとウソに負けないようにしましょう。それにしても先日の参院選(補選)の投票率の低いこと…。6割以上の人が投票所に行っていません。これでは日本は救われません。
 著者の本は、いつ読んでも具体的な状況が的確に紹介されていて、大変勉強になります。
 一読を強くおすすめします。
(2023年10月刊。1980円)

私の職場はサバンナです!

カテゴリー:アフリカ

(霧山昴)
著者 太田 ゆか 、 出版 河出書房新社
 南アメリカ政府公認、そしてただ1人の日本人女性サファリガイドである著者がサファリを案内してくれる、読んで楽しく元気の出てくる本です。
 サファリとは、ヒスワリ語で「旅」という意味。大自然の中で、野生動物を観察しに行くアクティビティのことです。
 サファリガイドは午前3時45分に起床し、4時15分に出勤(といっても自宅兼職場)。サファリに出発するのは午前5時。3~4時間ほどのコースです。戻って午前9時に朝ごはんを食べて休憩し、午後4時ころから2回目のサファリに出発します。同じく3~4時間かけます。夜8時に仕事を終え、ときにはツアー参加者と一緒に食事。
 自宅といっても、著者は同僚6人との共同生活(部屋は個室)なので、夕食は交代制でつくります。
 著者は子どものころの夢は獣医になることでした。でも、理系科目が苦手だったのであきらめて、環境保護の分野へ転身。サファリガイドの訓練校があり、南アフリカ政府公認のガイド資格があることを知って、まだ英語に自信はなかったものの、大胆にも入学したのです。
 この訓練校では、実地での教育・訓練と教材を使っての授業を受けます。英語の授業はついていけなかったので、スマホで録音して夜に自分のテントで聞き直します。
 このとき、「生まれて初めて、勉強をするのが楽しいと心から思えた」とのことです。やはり、目的意識がはっきりしていたからでしょうね。
6ヶ月間の訓練のあと、サファリガイドになるための試験を受けました。200種類以上の鳥の鳴き声を覚え、鳴き声を聞いたら、すぐに鳥の名前を言わなくてはいけません。また、動物の足跡を見て、動物の種類、右足か左足か、前足か後ろ足か、どれくらいのスピードで歩いているかを答えます。
 著者は、なんと、1回でパスしました。次は、6ヶ月間の実習。すぐに実際のツアーを案内させられました。これで無事に終了しても、次なる難関は、就職先が見つからないということでした。
 外国人(日本人)であることは不利。道なき道をサファリカーで進むなんて女性に出来るはずがない、パンクしたタイヤの交換ができるのか…。そんな偏見にあい、困難にもめげずに探していたら、環境保護のボランティアを運営する団体にめぐりあえ、ついにサファリガイドとしてスタートできたのでした。日本の両親は猛反対でしたが、結局は、渋々、追認してもらったとのこと。すごいです。
私はNHKテレビ『ダーウィンが来た』を毎週欠かさず楽しみにしていますので、ライオンの生態も少しは知っているつもりでしたが、ライオンのオスは8頭のうち1頭しか無事に大人になることが出来ないというのには驚きました。
 また、ライオンを狙った密猟も知りませんでした。ライオンの歯や爪を装飾品にする、骨はトラの骨の代替品として、伝統薬として高値で取引されているとのこと。ひどい話です。
 過去を20年間で、ライオンは43%も減少したといいますので、半減したわけです。まったく人間は罪つくりの存在です。
 密猟対策として、サイの角(つの)が狙われるので、あらかじめ切除してしまう作業がすすめられています。ところが、オスのサイは角で戦って、メスを得るわけですので、その武器を取り上げてしまったら、どうなるのかが心配されているとのことです。悩みは尽きませんね…。
 「大好きな動物を守る」という幼いころからの夢を実現し、サファリガイドを始めて7年たった著者による若さと喜びにあふれたレポートです。ぜひ、サファリ・ツアーに行ってみたいと思いました。でも、朝5時出発して、3時間とは…。
(2023年5月刊。1562円)

石製模造品による葬送と祭祀

カテゴリー:日本史(古代史)

(霧山昴)
著者 佐久間 正明 、 出版 新泉社
 福島県の郡山(こおりやま)盆地の南端、阿武隈(あぶくま)川東岸の丘陵にある正直古墳群には、滑石などのやわらかい石で、刀子(とうす)や鉄斧(てっぷ)剣、鏡などをかたどった石製模造品が祭祀遺物として副葬されていた。
 いやあ驚きました。大量に発掘・発見されています。所在地は郡山市です。
この古墳群には50基以上の古墳があったようです。1970年12月にブルドーザーが掘削していると、凝灰岩(ぎょうかいがん)の石組が出てきた。内部が真っ赤に塗られた箱式石棺だった。
 残念なことに石棺に人骨はなかった。酸性土壌のため、石棺内に流入した土砂に埋もれた人骨は残らなかった可能性が高い。
 そして、緑色を帯びた石材が使われていて、基部には紐(ひも)を通すための貫通孔が認められた。赤色顔料は、蛍光X線分析によると、水銀朱であることが判明した。
 そして、残っていた人骨から次のことが判明した。
 男性で年齢は30歳前後。別のところからは、妊娠した徴候(痕跡)があることから、顔は平坦、身長は157センチの女性。
 いやあ、すごいです。骨の断片から、年齢も身長も判明するのですね…。石製模造品は古いものほど写実的で、新しいものほど簡略化されたものばかり。ともかく、驚くほどよく出来た模造品です。圧倒されます。
発掘調査は、ひとつひとつはほとんど無意味な作業としか思えませんが、当たれば、それまでの苦労が十二分に報われる瞬間になります。これはもう、止められませんよね。
 発掘調査の現況について、写真とともに知ることができました。発掘現場の方々は、お疲れさまです。
(2023年2月刊。1700円+税)

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