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昆虫ー脅威の微小脳

カテゴリー:未分類

著者:水波 誠、出版社:中公新書
 まさに、おどろき、驚異の世界、生命の不思議のオンパレードです。こんな本を読むと、生きていて良かった。ああ、そうなんだ、人間ばかりが万物の霊長なんて言って威張っているのはチャンチャラおかしい、そんな気がしてきます。
 著者は、前書きで本書を通して、日ごろ感じている昆虫の微小脳の面白さ、凄さの一端を伝えたいと書いていますが、たしかに、その凄さはしっかり伝わってきました。こんな大変な研究をして、それを分かりやすく伝えてくれる学者を大いに尊敬してしまいます。
 地球上の昆虫は登録されているものだけで100万種にのぼり、すべての動物種の3分の2を占める。熱帯雨林には1000万種をこえる未登録の昆虫が生息していると推定されている。昆虫は海にはほどんどいない。昔、浅い海を生活の場としていた甲殻類の一部が陸上への進出を試み、そのなかの成功したグループの一つが昆虫の祖先となった。
 昆虫が繁栄できたのは、一つに軽くて薄いクチクラからなる翅を獲得し、高い移動能力を実現したこと。二つは変態によって、成長と繁殖の完全分離を実現し、効率的な資源利用を可能にしたこと。三つには、花をつける植物(被子植物)と共生関係を結んだこと、にある。
 ハエには、哺乳類のような血管系はなく、すべての組織や気管は直接血管に浸されている。これを開放血管系と呼ぶ。血液は、背脈管という心臓の役割をする気管の働きによって、体中を循環する。ハエには肺もない。酸素は体の両側にある気門から気管系によって体の組織へ運ばれ、また代謝によって生じた二酸化炭素は気管系によって体外に排出される。小型のエンジンでは空冷式の方が水冷式よりも効率がよいのと同じで、ハエのような小さな動物では空気を直接組織に運ぶほうがはるかに効率がよい。
 ハエは翅を1秒間に300回も上下に羽ばたく。これによって、1秒間にその体長の 250倍も飛ぶ。これを誘導するのが複眼。複眼の視力(空間分解能)はヒトの眼より何十分の一と劣るが、動いているものを捉える時間分解能は数倍も高い。蛍光灯が1秒間に100回点滅するのをヒトは気がつかないが、ハエには一コマ一コマが止まって見える。だから、ヒトがハエを追っかけて叩こうとするとき、ハエにはスローモーションのように見えるので逃れることができる。
 昆虫の複眼も微妙に異なっている。トンボの複眼は、空を見る背側(上方)の部分にはサングラスがかかっていて、過度の光が光受容細胞に入るのを防いでいる。
 ハナアブでは、オスとメスの複眼の大きさも形も異なっている。オスは左右の複眼が正面で接していて、正面の物体を同時に捉えることができる。メスは、左右の複眼が離れているので、両眼視はできない。ハナアブは飛びながら空中で交尾する。オスは眼の正面にメスを捉えて距離を測りながら追尾し、タイミングを計って交尾する。メスは追跡行動しない。なーるほど、うまくできているんですね。
 トンボの複眼は、左右2つあわせても個眼は5万個。デジカメの画素数500万というのに比べると粗い。単眼は、空と大地とのコントラストを検知している。単眼は、空間解像力を犠牲にして、明暗の変化を感度良く受容できるようになっている。
 単眼は、ごく単純な情報しか検知できない。しかし、素早い行動の制御のためには、複雑な情報処理を行う複眼よりも圧倒的に有利だ。
 鳥の翼は前肢が変化したもので、昆虫の翅は胸部の背板が側方に伸びて生じたもの。起源がまったく異なる。
 ゴキブリの実験を紹介しています。
 ワモンゴキブリに、砂糖水を与える前に、特定の匂いをかがす訓練を2〜3回すると、匂いを嗅がしただけで唾液の分泌を起こすようになる。ええーっ、これってパブロフの犬の実験と同じではありませんか。哺乳類以外にも唾液分泌の条件付けが可能なんですね。
 ミツバチの有名な8の字ダンスが、実は真っ暗な巣箱のなかで行われるものであること、したがって、周囲のハチは視覚的に捉えることはできず、触覚にある音受容器によって音として読みとる。
 ひゃあーっ、そうだったのですか。ちっとも知りませんでした。てっきり、見て分かっているのだとばかり思っていました。長さも幅も高さも、わずか1ミリ以内という昆虫の脳って、かくも精密なものだったんですね。大自然の奥深さに驚きます。

クマムシ

カテゴリー:未分類

著者:鈴木 忠、出版社:岩波科学ライブラリー
 小さな怪物、クマムシについて日本語で書かれた一般向けの本としては最初の本だと言われると、ヘーン、そうなのー・・・、という感じです。でも、読んでいくと、なるほど怪物としか言いようのない小さな生き物ではあります。
 クマムシは大きいものでも1ミリぐらい。ほんの小さなケシ粒ほどの大きさしかない。昆虫ではないし、節足動物でもない。電子顕微鏡でとった写真があります。8本足のクマとしか言いようのない姿をしています。
 クマムシは私たちの身近に、どこにでもいる。1000種ぐらいいて、そのうち1割は日本でも見つかっている。
 オニクマムシの歩くスピードはクマムシのなかでは、ずば抜けて速い。その速度は、秒速0.1ミリだ。もちろん、これはゾウリムシの泳ぐスピードのほうが、よほど速い。
 クマムシは海にもすんでいる。フジツボの殻のすき間にすむクマムシ(イソトゲクマムシ)は乾燥に耐性がある。しかし、フジツボの内部にすむ別種のクマムシは、乾くと死んでしまう。ただ、海こそクマムシの生まれた故郷であり、今もそこに大勢の種がすんでいる。
 クマムシの化石も見つかっている。白亜紀のコハクに閉じこめられているクマムシは、現代のオニクマムシにそっくりだ。
 クマムシは、絶対零度近くまで冷やされても生きのびることができる。また、X線をあてても、ヒトの致死量の1000倍の57万レントゲン(5キログレイ)にも耐えると報告されている。
 ところが、クマムシは何をしても死なないというのは完全な誤り。クマムシには、実は簡単に死んでしまう。
 クマムシをゆっくり乾燥させていくと樽のようになる。乾燥状態のクマムシはトレハロースという糖が蓄積される。組織に含まれる自由な水分はほとんどなくなる。水分がなくなると、それを媒体とする化学反応は起こらない。そして水の代わりにトレハロースが入りこんで、タンパク質や細胞膜分子の形をがっちり保持している。つまり、水を放出し、そのかわりにトレハロースを蓄積してクマムシは生きのびる。だから、クマムシを電子レンジに入れてチンしても、水分がないので、クマムシは平気なのだ。
 カラーグラビアの写真を眺めるだけでも楽しくなる本です。生物の多様性を保全しようという呼びかけに、共感を覚えます。

ヒバクシャになったイラク帰還兵

カテゴリー:未分類

著者:佐藤真紀、出版社:大月書店
 ジェラルドは1974年に、カリブ海の島で生まれ、アメリカに移住した。貧しい家族に負担をかけずに教育を受けるために軍隊に入り、軍からの給付金で大学にすすんだ。ジェラルドはイラクに派遣され、5ヶ月後から、1日に5〜8回、針で刺すような激しい偏頭痛に襲われた。
 アメリカ兵で体内に劣化ウランが確認されたのは、サマワに駐留していた兵士たちだった。サマワでは、開戦直後の一週間に激しい戦闘が行われた。劣化ウラン弾は、戦車が爆発するときにウラン酸化物の微粉末を発生するので、弾頭が命中した戦車は、戦場での放射線の大きな発生源になる。戦車が人に近いところにあればあるほど、微粉末を吸いこむ危険は大きくなる。
 オランダ軍の分遣隊がアメリカ兵と交代するために、サマワに到着した。オランダ兵はガイガー・カウンターで宿営地の周辺を調べ、放射線のレベルが高いことが分かったので、宿営地にとどまることを拒絶し、かわりに砂漠に野営を張った。ジェラルドの娘が生まれたとき、赤ちゃんの右手には、通常の子どもよりずっと短くて小さい指が2本だけあった。劣化ウランの影響だとしか考えられない。
 そこでジェラルドは、2005年9月29日、アメリカ合衆国陸軍省を相手に損害賠償を求める裁判を起こした。1人あたり500万ドルを要求している。
 イラク戦争でのアメリカ兵の犠牲者は2500人(2006年6月)をこえた。傷病兵は数万人にのぼるとみられている。
 そもそもアメリカ軍は、劣化ウランの危険性を熟知していたうえで、使用している。放射線によるガンの発生は、細胞分裂が盛んに生じている個体ほど生じやすい。つまり、細胞分裂が盛んな成長過程の胎児・乳幼児は成長のストップしている成人よりも、放射線によるガン発生率が上昇する。
 イラクからの帰還アメリカ兵には、湾岸戦争シンドロームといわれる病気がはびこっている。1990年8月から2002年5月までに、22万1000人の帰還兵が障害者と認定され、1万人以上がすでに死亡している。ちなみに、戦闘での死亡は145人、うち35人は自軍の誤射による。
 ミシシッピー州での調査によると、251人の湾岸戦争からの帰還家族で、戦争後に妊娠して生まれた子どものうち67%が重度の疾患にかかり、先天性の傷害をもっている。それは劣化ウランによる影響の可能性が強い。
 イギリスは、イラク駐留兵に対して、あなたは劣化ウランが使用された戦場に派遣されています、という警告カードを配っている。では、日本ではどうしているのでしょうか。
 サマワにいた日本の自衛隊員の今後の健康が本当に心配です。

分断される日本

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著者:斎藤貴男、出版社:角川書店
 日本の格差社会を英語でいうと、どうなるか。それは、不平等としか言いようがない。しかし、行政当局は、格差とはいっても、不平等とは言わない。格差はどこまでも客観的な現実をあらわす表現でしかない。ところが、不平等といってしまったら、そこには行政の失敗のイメージが生まれる。
 そうなんですね。格差がどんどん拡大していっていますが、それは貧富の差がますます大きくなって、貧乏人はさらに貧しくなり、その対極にいるスーパーリッチは徹底して肥え太るということなんですよね。もはや「一億総中流社会」なんてことは誰も言えなくなってしまいました。とっても残念なことです。
 先日の日経新聞(10月11日)によると、100万ドル(1億1900万円)以上の純金融資産をもつ個人を富裕層と定義し、日本には141万人いるといいます。アジアの富裕層の6割近くを日本人が占めています。2位は中国の32万人で、韓国、インドと続きます。そして、富裕層の保有資産総額でみると、日本はアジア全体の5割近く(46%)を占めるというのです。さらに、純金融資産が3000万ドルを上回る超富裕層についてみると、日本人の比率は30%で、中国の29%に並んでいます。
 いやあ、日本のリッチ層って、こんなにも層が厚いんですね。こういう金持ち層が金持ち減税を推進し、規制緩和をすすめ、福祉をバッタバッタと切り捨てているのですね。
 毎日新聞(10月17日)によると、東京では英国製生地をつかった60万円のスーツが30代の男性に売れている、1足10万円もするフランス製の靴がどんどん売れているといいます。そして、豪華客船で世界一周するクルーズ・プランは1人300万円〜
2000万円もするのに、即日完売でキャンセル待ちが出ているとのこと。それに反して、年収200万円以下の人が981万人にもなったというのです。世の中は不平等がますます深刻になっています。
 ゆとり教育とは何か。できん者はできんままで結構。限りなくできない非才や無才には、せめて実直な精神だけを養ってもらったらいいのだ。これまでできない子たちにかけてきた手間とヒマ、そしてお金を浮かせて、これをエリートたちにふり向ける。そのエリートたちが将来のわが国を背負っていってくれる。つまり、ゆとり教育とはエリート教育のこと。ズバリそうだとは言いにくいので、まわりくどく言っただけのこと。
 なーるほど、そうだったんですか・・・。でも、それがうまくいかないことは、日本の現状が証明しています。むしろ、できない子にも手をかけるフィンランド式の教育を見直すべきだと私は思います。

明日のブルドッグ

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著者:高橋三千綱、出版社:草思社
 ブルドッグを飼うのは大変だ。とにかくむつかしい。なんたって手がかかる。冬の寒さに弱い。オスは、いうことをきかないので、まるで大変だ。ブルドッグは皮膚が弱い。
 ブルドッグに訓練は向かない。犬のなかでももっとも頑固な犬で、訓練しようにも、言うことをきかない。とにかくマイペースの犬で、自分の好きなようにしか動かない。人間が創ったくせに、人間のいうことをもっともきかない犬だ。
 マイペースだけど、ブルドッグほど愛情の深い犬はいない。
 猟犬と違って、そんなに走るのが得意な犬じゃない。とにかくデリケートな犬なんだ。馬よりずっと敏感で神経質だし、手間もかかる。いつでも人のそばにいたがるのに、構われると、シカトしたりする。
 家人の誰にも媚びようとしない。散歩の途中で犬と出会ったとき、相手の犬がどんなに吠えても見向きもせず、無関心のままだ。
 寒さに強い犬はいくらでもいるが、暑さに平気な犬はいない。毛の長い大型犬にとって、高温多湿の日本の気候は敵といってもいい。ブルドッグの毛は短いが、暑さにはことに弱い。
 妻を従えて角を曲がってきたブル太郎は、30メートルほど先で立ち止まる。向こうに立っている人間は誰だというように顔を上げて毅然としている。数秒後に歩き出す。飼い主を認めたのだな、と思って私はゴルフクラブを手に立っている。喜色満面で飛びついてくるだろうと私は待ち構えている。ところが、ブル太郎は私のすぐそばを通りはするが、顔を上げることも、立ち止まることもせずに、そのまま歩き過ぎてしまう。それを見て妻はくすくすと笑う。ときには、ほらパパよ、と注意を促すこともあるが、犬の方ではまったく無視して行ってしまう。コケにされた飼い主は憮然としてぶっ立っている。
 飼い主の顔色をうかがう犬は多いが、飼い主に対して不機嫌な顔を向ける犬なのだ。
 頭の固さは生まれつきで、そのためブルドッグは帝王切開で子どもを産む。その時点で、すでに親子とも人間の世話になるように出来ている。実際、成犬になってもブルドッグはひとりでは何もしないし、やろうとしない。大便のあと、肛門を拭くのも飼い主の役目である。そうしてくれと尻の穴を突き出してくる。耳の垢を取るのも、鼻をおおう分厚いしわの下の溝を清潔にするのも、すべて飼い主の仕事である。
 この本は飼い犬のブルドッグの様子をそのまま描いた実話だとばかり思って読んでいましたが、実は小説なのでした。それでも、ブルドッグの性格などは本当のことなんだろうなと思いながら、最後まで楽しく読み通しました。
 例の何とも言えない奇妙な顔をしたブルドッグの写真が何枚も紹介されていて、ほんわかした気持ちになっていくのが不思議です。

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