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帝国と慈善 ビザンツ

カテゴリー:ヨーロッパ

著者:大月康弘、出版社:創文社
 ビザンツは、その領土的遺産を引き継いだオスマン帝国と同様、他民族からなる文化複合の世界帝国だった。
 89人いたビザンツ帝国の歴代皇帝のうちの43人がクーデターで失脚した。
 ビザンツ帝国では、後のオスマン帝国と同じく、エリート官僚は固定化された社会階層から輩出される存在ではなかった。絶えず広く帝国各地、各層から有為な人材が登用されていた。この世界では、ギリシア語を話すことが条件であり、ときに識字能力をもたない人物が皇帝になることも珍しくはなかった。エスニシティが問われることもなく、異民族間の通婚も決して稀ではなかった。
 文字も読めない一介の地方農民のせがれが帝都に上り、コネを求めて有力者の従者団の一員となる。その人的信義関係をテコに国家の官職に与り、最終的に皇帝のポストを得ることのできた社会だった。そのような者が一再ならず登場したビザンツでは、単に社会的流動性が高かったというにとどまらず、帝国を支える人材と富の流通、権力による収奪の回路が、コンスタンチノープに象徴される中心に向かって流れるばかりでなく、その中心から環流するさまざまなチャンネルがあった。
 皇帝の座をめぐる権力闘争は行われたが、皇帝権力の存在そのものが否定されたことはない。皇帝就任のあかつきには、卑近な論功行賞にとどまらず、どの人物も、ほとんど必ず帝国民に対する広範な善行を施した。国政の継続と皇帝に期待される「善き行い」の持続にビザンツ帝国の一つの特質が示されている。
 教会は集積した財貨を、いろいろの慈善活動を通じて帝国社会に広く還元していった。現在も見られる病院、救貧院、孤児院、養老院などは、まさにこのビザンツ帝国の5、6世紀に出現した。
 市民の寄進、遺贈は教会の重要な財源基盤だった。そして、その財源をつかっての慈善施設の経営は、教会活動のなかでも日常的に最重要な領域を構成していた。
 ギリシアに住む11世紀の女性(修道女)の遺言状が紹介されています。彼女は、遺産を修道院に寄進すると書いているのです。
 日本人の学者が、ビザンツ帝国のことを深く研究しているのを知って感動しました。
 ビザンツ帝国の断面をほんの少し知った気になりました。ハードカバーの400頁ある、ちょっと値のはる本なので、紹介してみました。

日本テレビとCIA

カテゴリー:社会

著者:有馬哲夫、出版社:新潮社
 今日の日本人にとって、テレビは軍事や政治とはまったく関係のない、単なる大衆娯楽のメディア。とくに日本テレビは、プロ野球やプロレスなどのスポーツ番組として、バラエティや音楽など、娯楽番組に定評がある。
 しかし、その設立の狙いは、アメリカ的民主主義や生活様式を日本人が学ぶことにあった。優先順位として上位にくるのは、共産主義国からの軍事的脅威に対する心構えだ。
 アメリカの世界戦略のなかで、日本テレビにはポハイク、正力松太郎(読売新聞社主)にはポダムという暗号名がつけられていた。
 正力は、文化・教育のメディアとしてテレビを考えていたが、GHQと接触して、反共産プロパガンダのメディアとして位置づけを変えた。
 アメリカが直接に共産主義とたたかうのではなく、日本にそれをさせる。単に日本を助けるのではなく、それがアメリカの資本家の利益にもなるようにすることが求められた。
 公然、非公然の手段によって、日本のマスメディアは、アメリカの対日心理戦略に確実に組み込まれ、かなりコントロールされた。毎晩のゴールデン・アワーを占領したアメリカ製の娯楽番組ほど大きな威力を発揮した番組はない。
 日本テレビはNHKと歩調をそろえて、アメリカのNBC、CBS、ABCがアメリカで放送して実績をあげた娯楽番組を放映した。たとえば、「名犬リンチンチン」「パパは何でも知っている」など。
 いかにもプロパガンダくさい番組より、ごく自然な娯楽番組のほうが、日本人を親米的にするうえで効果がある。
 マッカーシズムの時代には、西部劇は共産主義に対して開拓時代のアメリカ的価値を改めて称揚する意味があった。
 これらの娯楽番組が共通して発揮した絶大な効果は、日本人を番組のなかの人物、とりわけ主人公に感情移入させたことだ。つまり、日本人であるにもかかわらず、アメリカ人の気持ちになって考え、彼らの視点からものごとを見るようになった。
 現在の例をあげると、アメリカ側からのニュースや素材が多く採用されているため、日本人の多くはイラク戦争をアメリカの視点から見ている。そして、9.11でワールド・トレードセンターが崩れ落ちている映像を見ると、アメリカ人でもないのに、これはテロリストが起こした悲劇だと思ってしまう。対日心理戦略計画に、日本のメディアにできるだけ多くのニュースや素材を提供せよとあるのは、まさにこのためなのだ。
 なーるほど、そういうことなんですよね。日本のテレビは、昔も今もアメリカ的価値観に完全に占領されています。それで、アメリカのイラク侵略戦争への日本人の反対デモの盛り上がりが今ひとつ欠けていたんですね・・・。恐ろしいことです。

裁判と社会

カテゴリー:社会

著者:ダニエル・H・フット、出版社:NTT出版
 聖徳太子の「十七条の憲法」に「和をもって貴しとせよ」とあることを根拠として、日本人は昔から裁判が嫌いだったというのが常識になっています。しかし、この常識は間違っていると私は考えています。この本も同じように考えています。
 聖徳太子という人物が本当に存在したのかということも疑われていますが、その点はおいても、「十七条の憲法」には、裁判があまりにも多すぎるので、減らしなさいとあるのです。日本人が争いごとを好むのをいさめた言葉なのです。言葉の表面だけをとらえて昔から日本人は裁判が嫌いだったなんて、まったくの見込み違いです。実際、30年以上弁護士をしていて、裁判が好きな日本人の男女を数多く見てきました。いわゆるインテリではない人たちにも、けっこう裁判マニアがいるのです。
 この本では、日本とアメリカと中国でアンケート調査をして、日本がとくに裁判を嫌うということはなかったという結果を紹介しています。
 日本では、津の隣人訴訟が有名です。お隣同士で親しい間柄の二家族があり、子どもたちが近くの貯水池で遊んでいたところ、一人が溺死してしまったことから、死んだ子の親が隣人を訴えて裁判を起こし、裁判所は損害賠償を命じました。すると、マスコミが取り上げ、原告となった親を非難し、ついに訴訟は取り下げられました。そして、そのあと今度は、訴えられた隣人まで嫌がらせの電話や手紙が集中したのです。
 これは、日本人が裁判を嫌う例証として、よく取り上げられるケースです。
 ところが、この本によると、1994年のアメリカのベストセラー小説にも同じようなテーマを扱ったものがあるそうです。そして、アメリカ人の親は、隣人に対して訴訟することを考えもしなかったというのです。津の隣人訴訟は、日本人の特異な訴訟観を証明するものではないのです。
 アメリカ人は、友人とのあいだでは、借用証などの書面なしに、握手の信頼関係でお金の貸し借りをすることが多い。
 著者はこのように述べています。なーんだ、これじゃあ、日本人と同じではありませんか。日本人とアメリカ人と、いったいどこが違うのでしょうね
 著者は、裁判所の人事配置について、日本の大企業の人事慣行とよく似ていると指摘しています。なるほど、そのとおりでしょう。
 雇用主に忠実でない労働者はどこか居心地の悪い場所に左遷される。ただし、解雇されるまでにはいかない。それには特別の理が必要とされるから。
 この本で、著者は、交通事故と破産事件の処理をめぐって、裁判所が意識的に政策形成したことを指摘しています。なるほど、と思いました。交通事故では賠償基準表をつくり、破産事件でも少額管財事件をふくめて簡易・迅速処理を実現しました。
 これについては、熱心かつ創造性豊かな弁護士が訴訟を追行し、その熱意を熱心かつ創造的な裁判官が受け容れたという事情がある、という指摘です。まったく同感です。
 日本法の本質は3分で喝破できるものではないという著者の言葉に私も賛成です。何ごとも、そんなに簡単なことはないのです。

公安化するニッポン

カテゴリー:社会

著者:鈴木邦男、出版社:WAVE出版
 著者は早大出身の新右翼のリーダーです。公安警察で活動していた何人かの元警察官との対話からなっている異色の本です。
 過激派のセクトの中にも公安に通じているスパイがいる。バレそうになったら、公安が手配してアメリカへ逃がす。
 革マルは内ゲバで殺された人が78人いると書いているが、そのなかに実は警察官も混じっていた。ええーっ、本当なんですかー・・・。ところが、実は、とうやら本当のことのようです。
 機動隊がエンジンカッターで鍵を切って過激はセクトのアジトを襲撃する。ドアを開けて盾と警棒を持って突入していく。マスコミも中までは撮れないので、中に入ったらやり放題。その場にいた人間の頭を叩く。歯向かう人間は警棒で鎖骨を折ってしまう。機動隊の装備は重厚で、鉄も入っているので、殴りかかられても平気だ。
 中にいた人間が「おれもサツカン(警察)だ」といっても、機動隊員は「うそだろ、うそだろ」と言って信じず、叩き続ける。危篤状態で病院に運ばれ、本人が職員番号を言って本物(潜入スパイ)だということが分かる。それで大至急、蘇生するオペレーションをやってもらうけれど、手遅れになる。これで死んだのが何人もいる。
 遺族が、「スパイみたいなことをさせて、どうして守ってくれなかったのか。殺したのは警察官じゃないか」と激しく抗議したので、潜入スパイは下火になった。
 こうやって10人は死んでいる。殉職したら、4500万円もらえる。このほか裏ガネももらえて、階級も特進するので、合計8000万円くらいは支給される。そして、警察の弥生廟にまつられる。
 そうだったんですかー・・・。警察官も内ゲバの被害にあって殺されていたんですね。でも、これって、亡くなった人には申し訳ありませんが、ほとんど無意味、いわば犬死にみたいなものではありませんか。
 スパイ(組織内協力者)に求められるのは、「頭がいい」が「意志が弱い」こと。これが理想的な人物の条件。意外にもトップに近い人間ほど脇が甘い。末端は上部の査問を恐れて治安機関と接触することに恐怖を感じるが、トップは全部自分の腕三寸だと思ってしまうから。
 公安警察は全国に1万人いる。公安調査庁は、わずか1500人。スパイを摘発する防諜能力はほとんどない。もっぱら組織内部のスパイから聞き出した情報を評価している。
 私の親しかった弁護士(故人)は、父親が公安刑事でした。オヤジは昼間は家でブラブラしていて、夕方から出勤していた。なんだか暗い家庭の雰囲気だったという話を聞いたことがあります。なるほど、スパイ・ハンドラーとして、フツーの警察官が味わえるような社会正義の実現はできなかったのでしょうね。スパイの獲得って、要するに人間を堕落させることですよね。そんな仕事で生きていくなんて、みじめな人生じゃないでしょうか。そう思いませんか。

反米大統領、チャベス

カテゴリー:ヨーロッパ

著者:本間圭一、出版社:高文研
 ベネズエラというちいさな国が今、世界の注目を集めています。アメリカが今もっとも嫌っていながら、倒すことのできない大統領がいるからです。
 ベネズエラの石油輸出量は世界5位、石油埋蔵量は世界6位。今のままの石油生産を 300年も維持できる。
 中南米の国々は、いま大きく左傾化している。ブラジルのルラ大統領アルゼンチンにキルチネル大統領、ウルグアイのバスケス大統領、ボリビアのモラレス大統領、そしてニカラグアのオルテガ大統領など。
 先日、キューバの革命記念日にフランスの有名な俳優であるド・パルデューが現地に駆けつけたという新聞記事を読んで驚きました。キューバはアメリカからは依然として敵視されていても、今や孤立なんかしていないのですね。
 ベネズエラの人口で、先住民は数パーセントしかいないが、混血は7割近い。チャベスも、父親は先住民の血を引いた混血。
 多くの中南米の国々の軍人は、アメリカにある軍人養成学校で学んでいる。その出身者が60年代から70年代にかけて左翼政権を倒し、軍政を樹立した。ところが、ベネズエラは、このアメリカの軍人養成学校「米州学校」で学んでいない。
 チャベスは37歳のとき、中佐として軍事反乱を起こし、失敗した。そのとき、テレビの前で90秒間、語ることができた。
 同士よ、残念ながら、今は、我々が目ざす目的は達せられなかった
 私は、国家とみなさんの前で、今回のボリバル軍事行動の責任をとる。
 この言葉によって、無名の男が1700万人の国民の人気を得た。責任を認めたから英雄になったわけだ。
 チャベスが大統領になったあと、軍部が反乱を起こし、チャベスは身柄を拘束された。ところが、暫定大統領となった商工会議所連盟会長がモタモタし、チャベス支持の国民が決起したため、反乱した軍部は動けなくなった。
 この本は、そのあたりの息づまる攻防戦(いえ、軍事的な市街戦があったというのではありません)を生き生きと描いています。
 チャベスは独裁者に転化する危険性があると著者は指摘しています。なるほど、そうかもしれません。でも、私がチャベスのしていることで、いいなと思うのは、次の2つです。医療と教育です。ここにチャベスは本当に力を注いでいるのです。この点はどんなに高く評価しても、しすぎということはないと思います。
 国内総生産に占める教育予算はかつて3%以下だったのが、今は6%。学校給食を受けた子は、24万人から85万人に増加した。識字計画への参加者は100万人をこえている。医療面では1700万人もの人々に医療が確保された。キューバから大量の医師を受け入れている。
 そして、チャベスは、毎週日曜日のラジオ番組に実況中継で出演する。それも、なんと、朝9時からの5時間番組だ。全国各地をまわって直接、国民と対話している。それをそのまま全国に実況中継している。うーん、すごーい。すご過ぎます。
 いま、ベネズエラから目が離せません。

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