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イエズス会の世界戦略

カテゴリー:日本史

著者:高橋裕史、出版社:講談社選書メチエ
 天正遣欧少年使節の原マルチノ、中浦ジュリアン、伊藤マンショ、千々岩ミゲルの4人はローマで教皇グレゴリウス13世に謁見した。その教皇グレゴリウス13世は、イエズス会に日本布教の独占を認める小勅書を発布した。
 16〜17世紀の日本でキリスト教を布教していたのは、ほかにフランシスコ会、ドミニコ会、アウグスティノ会がいた。しかし、日本における活動の長さや重要性を考えると、イエズス会を抜きにして日本のキリスト教史は語れない。ザビエルを筆頭として、大勢のイエズス会宣教師が来日して教勢を拡大していった。
 イエズス会は上長(じょうちょう)への服従、会の目的達成のためには手段を選ばない、戦闘的な集団意志をもつという特色がある。その入会希望者には厳格な選抜と訓練を課していた。
 1549年のザビエルによる日本開教以降、日本イエズス会は着実に日本における地歩を確立していった。1570年までに3万人の信者を獲得し、九州から畿内までの西日本各地に40もの教会をたてた。ヴァリニャーノが来日した1579年までに信者は10万人となっていた。在日イエズス会員の人数も、1565年に12人だったのが、1579年に55人、秀吉による宣教師追放令が発布された1587年には111人となっていた。
 キリスト教徒領主は、大村も有馬も、有事の際に宣教師を保護するどころか、逆に教会からの保護を受けなければならなかった。そこで、長崎を軍事要塞とする方針がヴァリニャーノによって打ち出された。
 イエズス会は、竜造寺隆信とたたかっていた有馬晴信を援助するため600クルザドを出費した。
 ヴァリニャーノによる長崎を軍事拠点とする指令は、長崎に弾薬や大砲などの武器の配置、そして長崎の住民とポルトガル人の武装兵士化を意味していた。長崎の町を2重の柵で囲み、砦を築き、そこにいくつかの大砲を置いた。また、港内のフスタ船も大砲で武装していた。
 こうした教団の世俗化に反対する日本人イエズス会員が教団を去り、徳川幕府に教団の内実を報告した。それで、イエズス会は、実際の軍事力を行使しないまま、キリスト教勢力による日本の軍事征服という、一面では信憑性をともなった風評によって日本を追われることとなった。軍事的に自らを守ろうとする方針は、同時にイエズス会自体の存続に危機をもたらす両刃の剣でもあった。
 イエズス会が、この戦国の時期に軍事にかなり深く日本の武将も肩入れしていたこと、自らも武装拠点をつくりあげていたことを初めて知りました。キリスト教宣教師の恐るべき役割を認識した思いです。
 現在の日本でイエズス会は、上智大学、エリザベト音楽大学、栄光学園、六甲学院、広島学院などを展開している。
 イエズス会って、昔も今も、日本で活動しているのですね・・・。

沸騰するフランス

カテゴリー:社会

著者:及川健二、出版社:花伝社
 フランス語を勉強しているということは、フランスという国に関心を持っているということでもあります。日本と違ってアメリカの言いなりになんか決してならないフランスは左右いずれを支持する国民もきわめて政治参加意欲の高いのが特徴です。この点は、日本人はもっと見習うべきだと私は確信しています。
 それはともかく、この本は迫りくるフランス大統領選挙の内情を現地取材で分かりやすく解説してくれるものです。アメリカの大統領選挙のように、共和党と民主党といっても、しょせん同じ穴のムジナみたいに大差がないのと違って、フランスは、政策的にはっきりした違いをもつ候補者が激突するので、面白いところです。
 今度のフランス大統領選挙は、治安優先の保守政治家ニコラ・サルコジと、左派のセゴレーヌ・ロワイヤルとの対決だと一般にはみられています。この本は、それぞれを掘り下げると同時に、その他の候補者についても密着取材しています。なかでも、極右の国民戦線のルペンについて、その主張を詳しく紹介しています。私は認識を改めさせられました。ルペンは極右なので排外主義をとっています。もちろん、私には、とても支持できません。ところが、ルペンはアメリカを次のように厳しく批判しているのです。これには驚きました。日本の右翼にぜひ読んでもらいたい文章です。
 災難のなかとはいえ、アメリカ国民は政府に対して自己批判を求め、責任の一端があることを認めるよう迫らなければならない。アメリカが悲劇的な状況下にあるとはいえ、彼らの涙によって我々は目をくらまされてはならない。
 アメリカは、その力が絶対的なものだと考えている。とりわけ、ソ連が崩壊し冷戦の脅威がやわらいで以来、責任の範囲と能力の限界を見誤っている。
 10年にもわたるイラクに対するアメリカの経済封鎖によって、貧困や治療の欠如が原因で100万人の子どもたちが死ぬという災害がもたらされた。その数は世界貿易センタービルの犠牲者の200倍にあたる。惨劇と呼ぶにふさわしいニューヨークの哀れみは、しかし、絶対視されてはならない。非人間的な不正の政治を再考することに心を傾けることも同様にしなければならない。
 この指摘は、まったくそのとおりではないでしょうか。
 極右はフランスの失政を栄養にして育つ生き物だ。フランスがどん詰まりになればなるほど、増長していく。治安悪化と移民問題。これはフランスが抱える暗部だ。その暗部を除去する救国の士として、国民戦線は長く支持されてきた。
 このように解説されています。なるほど、と思いました。
 この国民戦線(フロン・ナショナル)のナンバー2のブルノー・ゴルニッシュ全国代理は京都大学に留学したこともあり、妻は日本人で、日本語がペラペラです。
 実は、私も20年ほど前にフランスに初めて訪問したとき、一緒に会食したことがあります。昼食を同じテーブルでとったのですが、彼が新鮮な生の牛肉を香辛料と混ぜあわせたタルタルステーキを実に美味しそうに食べるのを、ついついうらやましく眺めたことを今もしっかり覚えています。まだ旅行の初めのころでしたので、慣れない生肉を食べてあたったら大変だと遠慮したわけです。

ブルー・ローズ

カテゴリー:社会

著者:馳 星周、出版社:中央公論新社
 すさまじいバイオレンス・ノヴェルです。年の暮れはともかく、正月に、のんびりした気分で読む本としては、とてもおすすめできません。なにしろ、次から次へと人が殺されていくのですから・・・。実に凄惨です。背徳の官能と、帯にうたわれています。たしかに怪しげなエロスがしきりに漂うのですが、少なくとも私の好みではないエロスなのです。
 話は、公安警察と刑事警察の対立を軸として展開していきます。
 国松警察庁長官の狙撃事件で公安警察が何度も重大なミスを犯して、結局のところ、犯人逮捕にこぎつけることができませんでした。これによる公安警察の威信低下はひどいものです。最近、街頭ビラ配布での強引な逮捕が相次いでいるのは、そんな公安警察による失地回復だという指摘がなされています。公安って、本当にひどいことをするものですね。罪なき人を罪に陥れるのが公安の得意技です。やっぱり、どうしても刑事警察に肩入れしたくなります。あなたも、この本を読むと、そんな気についなってしまいますよ。
 ブルー・ローズというのは、青色のバラの花のことです。赤いバラはあっても、青いバラはできないことになっています。黒いチューリップと同じです。もっとも、チューリップにも黒に近いものがありますし、バラにも青に近いのが最近出来たと思いますが・・・。
 わたしが入庁したころの公安警察官という連中は、いけ好かないが腕は立つ者ばかりだった。しかし、昨今の公安警察官は間抜けばかりだ。もっとも、それは刑事警察も変わりはない。警察官のサラリーマン化が進んでいる。かつては堅牢だった警察官のモラルに亀裂が生じている。バブル経済がなにかを変えたのだ。いずれ、世界に誇る検挙率も落ちるだろう。
 日本警察の検挙率は、もうとっくに地に落ちてしまっていると私は思いますけどね。
 この本を読みながら、警察って、そしてキャリア警察官って、いったいどれだけ事件を内々もみ消しているのか、もみ消す力があるのか、ついつい考えこんでしましました。どなたか正直な内情を教えてください。
 あけましておめでとうございます。本年も書評を書き続けます。昨年よんだ本は502冊でした。その7割を紹介していることになります。読めば読むほど、大自然と人間社会の奥の深さに触れるという気がします。日本を外国へ戦争に出かける普通の国にするため、美しいアベ首相ががんばっていますが、負けてなんかおれません。今年も平和憲法を守り続けるために、愉しみながら弁護士活動と執筆を続けていきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

渋滞学

カテゴリー:社会

著者:西成活裕、出版社:新潮選書
 東京の弁護士会館についている4台のエレベーターはなかなか来ず、待つ人(その多くは、もちろん気ぜわしい弁護士です)を大いにイライラさせる存在です。2、3分待ちはザラです。ところが、やって来るときには次々に来ます。1台目は満員で2台目はガラ空きというパターンです。どうにかならないものか、弁護士会はなんどもエレベーター管理会社にかけあいましたが、一向に改善されません。この本によると、それも一種の渋滞減少なのであり、仕方のないことのようです。
 大規模なビルに複数のエレベーターがあるとき、放っておくとダンゴ運転をしてしまう。利用客が一番多い階にエレベーターは集まる傾向があるので、他の階ではかなりの待ち時間になり、結局、複数のエレベーターがあっても、分散せずダンゴ状態になる。そこで、時間帯ごとの利用階の頻度をコンピューターに学習させ、それにもとづいてある程度、将来のエレベーター運行ルートを予測し、そのうえでなるべくすべてのエレベーターが分散した状態になるように運行するようにする。したがって、無人なのに勝手にエレベーターが動いていることがある。これをエレベーターの群管理という。しかし、これをやると、運行の電気代はより高くなる。
 車間距離が40メートルいかになっても相変わらず自由走行の時速80キロメートルで走っている状況はメタ安定。このメタ安定状態は通常は5〜10分ほどの寿命しかなく、徐々に渋滞へ移行する。
 メタ安定状態とは、何らかの原因で短時間だけ出現する不安定な状態をいう。車間距離が200メートルより短くなってくると、自分の速度をそのまま維持しようとして早めに車線変更し、追い越し車線を走るほうがよいと判断する。
 しかし、皆が同じように行動すれば、結果として追い越し車線の方が混んできて速度が低下してしまう。だから、混んできたときは走行車線を走ったほうがよい。長距離トラックの運転手は、経験的にこのことを知っている。
 赤信号でたくさんの車が止まっている。青信号に変わった。全部の車が一斉に動き出せば、すぐに動けるのにと思う。しかしこれは実際には難しい。車一台あたり静止時に前後8メートルを占めているので、車1台あたり1.5秒かかる。たとえば、自分が信号機から10台目にいると、15秒ほどで自分の発進の番になるということ。
 明石歩道橋事故についての解説があります。大いに関心をもって読みました。
 通常は1?に5人で危険な状態になり、将棋倒しの状態が起きる。明石では、事故のとき、その3倍の15人いたと推測され、一時的に圧縮状態になったわけで、そのときに人が感じた力は1?あたり400キログラム。これはとてつもない大きさだ。現場付近の300キログラムの荷重に耐えられる手すりが壊れていたことから判明した。医学的には200キロで人間は失神するといわれている。
 難しいところもあって十分理解できたわけではありませんが、予想以上に面白い話が満載の本でした。

帝国と慈善 ビザンツ

カテゴリー:ヨーロッパ

著者:大月康弘、出版社:創文社
 ビザンツは、その領土的遺産を引き継いだオスマン帝国と同様、他民族からなる文化複合の世界帝国だった。
 89人いたビザンツ帝国の歴代皇帝のうちの43人がクーデターで失脚した。
 ビザンツ帝国では、後のオスマン帝国と同じく、エリート官僚は固定化された社会階層から輩出される存在ではなかった。絶えず広く帝国各地、各層から有為な人材が登用されていた。この世界では、ギリシア語を話すことが条件であり、ときに識字能力をもたない人物が皇帝になることも珍しくはなかった。エスニシティが問われることもなく、異民族間の通婚も決して稀ではなかった。
 文字も読めない一介の地方農民のせがれが帝都に上り、コネを求めて有力者の従者団の一員となる。その人的信義関係をテコに国家の官職に与り、最終的に皇帝のポストを得ることのできた社会だった。そのような者が一再ならず登場したビザンツでは、単に社会的流動性が高かったというにとどまらず、帝国を支える人材と富の流通、権力による収奪の回路が、コンスタンチノープに象徴される中心に向かって流れるばかりでなく、その中心から環流するさまざまなチャンネルがあった。
 皇帝の座をめぐる権力闘争は行われたが、皇帝権力の存在そのものが否定されたことはない。皇帝就任のあかつきには、卑近な論功行賞にとどまらず、どの人物も、ほとんど必ず帝国民に対する広範な善行を施した。国政の継続と皇帝に期待される「善き行い」の持続にビザンツ帝国の一つの特質が示されている。
 教会は集積した財貨を、いろいろの慈善活動を通じて帝国社会に広く還元していった。現在も見られる病院、救貧院、孤児院、養老院などは、まさにこのビザンツ帝国の5、6世紀に出現した。
 市民の寄進、遺贈は教会の重要な財源基盤だった。そして、その財源をつかっての慈善施設の経営は、教会活動のなかでも日常的に最重要な領域を構成していた。
 ギリシアに住む11世紀の女性(修道女)の遺言状が紹介されています。彼女は、遺産を修道院に寄進すると書いているのです。
 日本人の学者が、ビザンツ帝国のことを深く研究しているのを知って感動しました。
 ビザンツ帝国の断面をほんの少し知った気になりました。ハードカバーの400頁ある、ちょっと値のはる本なので、紹介してみました。

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