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子どもが見ている背中

カテゴリー:社会

著者:野田正彰、出版社:岩波書店
 現代日本、とりわけ日本の教育行政に対する悲痛な叫びとも思える告発の書です。読みながら、思わず背中を伸ばし、居ずまいを正しました。著者の真摯な態度に対して心から敬意を表します。それにしても、日本の教育って、こんなにまで地に墜ちているのですね。
 教育基本法がついに改正(改悪というべきでしょうが・・・)されてしまいました。教育を国家が統制する。個人の伸びやかな個性を殺いでしまう日本の教育を助長する方向です。悲しいことです。
 それにしても、教師をこんなにも統制して、どうしようっていうんでしょうね。広島の民間校長の自殺を追跡した第2章を読んで、さすがの私も大いなるショックを受けてしまいました。
 その小学校では、教頭(51歳)が2002年5月10日、過労のため脳内出血で倒れました。次の後任の教頭(47歳)が2003年2月14日、心筋梗塞で倒れました。夜12時まで仕事をし、パーキングで仮眠をとって夜中の2時に帰宅し、朝5時には家を出るという生活をしていたそうです。
 そして校長です。2003年3月9日に勤務先の小学校で自殺しました。毎晩、夜10時、11時に家に帰る忙しさでした。精神科に通院するようになっていました。教育委員会に何をいっても、甘いと言われる。死ぬまで働けということだね、と家人にこぼしていました。
 民間出身の校長としてマスコミにも報道されていた人です。自らすすんで希望して校長になったとばかり思っていましたが、実はそうではなかったようです。31年間つとめた広島銀行から校長職に推薦されたのです。56歳の副支店長で、リストラの対象者だったのです。自宅から通勤できる、小規模の問題のない学校を希望していました。当然のことでしょう。経験がないわけですから。ところが車で90分かかる、大規模校を押しつけられてしまいました。学校文化がまったく分からないまま苛酷な教育現場に押しこまれたわけです。そして、早く成果を出せと駆り立てられ、必要な急速もとれず、治療も十分に受けられませんでした。これでは、自殺したというより、教育行政に殺されたとしか言いようがありません。
 京都の中学校の通知票が15頁もあり、評価項目が272項目にのぼることを知って、腰が抜けそうなほど驚いてしまいました。教師がそんなに1人1人の生徒を評価することができるのでしょうか。また、そんなに細かく評価する意味があるのでしょうか。
 教師たちが自律した人として考えることを侮蔑され、させられる教師になっているとき、生徒たちも同じ状況にある。まことにそのとおりだろうと私も思います。
 都立高校で「日の丸」への起立強制と「君が代」斉唱強制がなされていることについて、東京地裁は2006年9月21日、違憲判決を下しました。私もこの判決を支持します。愛国心の押しつけが逆効果であると同じです。「日の丸」も「君が代」も押しつけられて尊重する気になんか、とてもなれません。今、学校以外で「日の丸」を見ることはありません。「君が代」斉唱なんて、馬鹿馬鹿しくて、私は何十年もしたことがありません。なんで今どき、天皇の御代がずっと栄えてほしいなんて歌わせるのでしょう。冗談じゃありません。
 何ごとによらず押しつけが効果をあげることはないのです。もっと教師の自由にまかせたらよいのです。前にフィンランドの教育を紹介しましたが、生徒も教師も学校でのびのびと過ごし、落ちこぼれをなくす教育が、国全体のレベルアップにつながっているという現実を日本人も直視すべきです。

テスタメント

カテゴリー:アメリカ

著者:ジョン・グリシャム、出版社:新潮文庫
 出だしからあっと言わせます。
 世界的な大富豪が自分の書いた遺言書を前に3人の精神科医から質問を受け、その様子はビデオで撮影されています。大富豪はまったく正常です。ところが、精神鑑定が終わったところで、その大富豪は別の自筆遺言状を取り出し、署名するのです。そして、そのまま窓の外へ飛びおり自殺します。うーん、なんということ・・・。
 小説は、この最後の遺言書が有効かどうか、有能なアメリカの弁護士たちが何組も登場して、この自筆遺言状を無効のものにするため策略を練るところから展開していきます。
 3人の精神科医を解任し、大富豪は実は精神的に正常ではなかったという召使いの偽証が成功するかのように思えます。何回も何回もリハーサルを重ねて、完璧に嘘を塗り固めようとします。しかし、所詮、嘘は嘘。たちまちバケの皮をはがされてしまうのです。アメリカの有能な弁護士たちは、まさしく顔が真っ青。
 アメリカの民事裁判のすすめ方は日本とはかなり違うようです。正式な事実審理の前に裁判所で証人調べがあるのです。ここで相手方の弁護士の反対尋問にさらされます。そこをパスできなければ、次へ進みようがないわけです。
 アメリカの弁護士にも、もちろん守るべき弁護士倫理があるわけですが、倫理を足蹴にして高額の弁護士報酬を得ようと狂奔する醜い弁護士たちが描かれています。これは、あくまでも小説です。でも、日本でも身につまされる話になってきましたね。

新・細胞を読む

カテゴリー:未分類

著者:山科正平、出版社:講談社ブルーバックス
 人間の身体をつくっている細胞を電子顕微鏡で美しい写真として紹介したものです。まことに人間の身体とは繊細かつ巧妙な化学工場そのものだと感嘆してしまいます。こんな精巧きわまりないマシーンを並の人間が自分の力でつくり出したとは、とても思えません。かといって神がつくり出したというには、あまり完璧でないのが気になってしまいます。
 紹介されているカラー写真を眺めているだけで、人体の神秘がよくよく伝わってきます。
 人間の骨の内部をとった白黒写真があります。破骨細胞というものがあり、古くなった骨をむさぼり食っている様子を示したものだというのです。あの硬い骨を食いあさる細胞がいるというのです。しかも、同時に、骨をつくってもいます。骨では、絶えずつくっては壊す営みが行われているのです。
 中年太りを大いに気にしている私です。自分の裸を鏡で見ることなど、滅多にありませんが、温泉に出かけたときに、つい見えてしまうことがあります。肥満度120%の突き出たお腹に、我が身体ながらおぞましさを感じてしまいます。間食もほとんどとらず、それなりに減量に努めているつもりなのですが、あと3キロ体重を減らしたいと思っても、まったく減ってくれません。このごろでは、体重計に乗るのも嫌やになってしまいます。
 脂肪細胞とは、大量に貯蔵した脂肪のために、自らの細胞要素が周辺に圧迫されて、細胞全体が大きく膨れあがった、そんな細胞だ。
 幼児期に大量の脂肪を摂取すると、脂肪細胞数が増加する。これは肥満予備軍になる。肥満にともなって脂肪細胞数も増えるらしい。そのうえ、脂肪細胞に蓄積された脂肪はなかなか放出されにくいので、それを減らすのは大変なこと。
 人間の舌を電子顕微鏡で見た写真があります。舌には無数のトゲがあるんですね。舌状表面には糸状乳頭がたくさんついていて、これで食物を引っかけて、のどの奥へと送ってやる。糸状乳頭は舌表面にある角質層がトゲのようになって覆い被さったものである。人間の舌は先が細くて鋭利な糸状乳頭がもっとも多い。
 ここまで人間の身体は分析され、目に見えるようになっているのか・・・。科学技術の進歩には感嘆せざるをえません。それでも、人間はガンなどの病気を服することはできていないわけです。楽しくもあり、考えさせられる写真集というか、本でした。

新世代富裕層の研究

カテゴリー:社会

著者:野村総合研究所、出版社:東洋経済新報社
 お金持ちとは、年収1億円以上を2年以上にわたって手にしている人。
 世帯年収2000万円以上を稼いでいる人たちを富裕層という。
 年収1500万円以上をパワーリッチ、年収750万円〜1500万円をプチリッチという。
 シティグループでは、純資産が3億円以上で、運用できる金融資産が1億円以上の人についてプライベートバンクの顧客として厚遇する。
 みずほフィナンシャルグループは、預かり資産5億円以上の顧客について、プライベートバンキングでサービスを提供する。
 野村證券は、最低契約金額3億円で、サービス優遇する。
 このように、自由に動かせる金融資産が億の単位の人が顧客として優遇され、それ以下の人は「ゴミ」扱いされるのです。これは昔からそうでしたが、今はあからさまに差別されるのが昔と違うところです。だから今では両替手数料まで取るのです。
 メリルリンチの調査によると、日本には金融資産100万ドル(1億円)以上という富裕層の基準をみたす層が全国に40〜60万世帯あり、そのうち70%が首都圏、大阪、名古屋、福岡に集中している。
 金融資産が1億〜5億円の富裕層マーケットの規模は2005年時点で167兆円、81万世帯である。2003年から拡大基調になっている。今後、団塊世代のリタイア、少子高齢化にともなう遺産相続の増加によって、金融資産5億円以上の超富裕層よりも、1億〜5億円の富裕層が増えていくと思われる。
 富裕層には銀行や証券・投資会社への不信感が根強い。手数料にも敏感であり、ほとんどの人が毎日インターネットを見て学んでいる。
 野村総研がこのような本を出したということは、この富裕層を狙った商売のノウハウを広めようということなのでしょう。
 日本が勝ち組と負け組に二分化していっている今、勝ち組にたかって、そこから吸い上げて自分の生活をまともなものにしようと叫びかけている本のような気がします。
 同じ団塊世代のみなさん、銀行や証券会社の甘い言葉にのせられないよう、お互いに気をつけましょうね。

モスクワと金日成

カテゴリー:朝鮮・韓国

著者:下斗米伸夫、出版社:岩波書店
 日本敗戦時、朝鮮半島に進出してきたソ連赤軍第25軍の役割は、当初、関東軍が朝鮮半島をつうじて日本本国に脱出することを防ぐことであって、朝鮮の占領や支配ではなかった。1945年8月8日、ソ連軍司令部は、12万5000人からなる第25軍に朝鮮半島北部の占領を命じた。
 スターリン治下のもとで、軍人たちが直接政治に関与する習慣はなかった。第25軍の政治面での責任者はシュトイコフ大将だった。彼は、もともとは軍人ではなく、スターリン統治下で台頭した共産党官僚であった。1930年代末にはレニングラード市党委員会の書記をしていた。
 朝鮮半島の57%の面積と人口1100万人の北朝鮮がソ連軍の占領地域となり、人口1700万人の南部はアメリカ軍占領地域となった。北は日本の残した工業が主で、南部は農業地域と考えられていた。
 38度線による分割は、あくまで暫定的措置のつもりだった。アメリカと同じく、ソ連外務省も、38度線での分断を正当化する考えは当初はなかった。スターリンも、この地域に社会主義やソビエト型秩序を目ざす構想は、少なくとも当初はなかった。
 ところが、スターリンにとってアメリカが日本に原爆を落として実践使用したことが大きな衝撃だった。これは対ソ警告の意味もあると解していた。当時、ソ連は国内でウランを産出しておらず、東欧と北朝鮮のみだった。そこで、スターリンにとって核開発は至上命題となった。
 スターリンは、パルチザン派出身のソ連軍大尉金日成を北朝鮮の指導者として選んだ。
金日成は、1945年9月19日、元山港に上陸した。主導的にではなく、受動的に朝鮮の解放を迎えたし、ソ連軍隊との協同作戦ではなく、ソ連軍の庇護下に、静かに、人々の噂にのぼることもなく上陸した。このとき、金日成は金成柱と名乗っていた。
 スターリンが金日成のような軍事専門家を北朝鮮の指導者として選んだのは、スターリンにとって、占領軍を通じて指令を忠実に実行させるのに、どちらかといえば無名の金日成は打ってつけの人物であったから。
 このように、金日成は、スターリンの指名によって指導者となった。ただ、金日成本人は、不得意な政治よりも、軍事、しかもモスクワでの軍務に戻ることを望んでいたという見方もある。
 10月14日、平壌のソ連軍歓迎集会で、金日成大尉がソ連軍服を着て、金日成将軍として登壇した。この集会は、金日成帰国歓迎集会ではなかった。ソ連軍金日成大尉は、第25軍が準備したロシア語草稿を田東赫が訳したものをそのまま演説した。
 金日成について、中国共産党側は必ずしも認識していなかった。かつて中国共産党員であったものの、指導幹部ではなかったからだ。名前も、金民松と誤記していた。
 1946年8月に北朝鮮労働党第1回大会が開かれた。このとき初代委員長には中国派の金?奉がなり、金日成は副委員長だった。名誉議長にスターリンが就任している。
 1950年代はじめ、ソ連からの軍備提供の見返りとして、北朝鮮は、金9トン、銀 40トン、そして放射性物資モナジットを1万5000トン提供することになった。
 金日成は、3月30日にソ連に入り、1ヶ月近く滞在した。4月25日、クレムリンでスターリンと会談したとき、金日成は、南でのパルチザンの活動が高まっており、やがて20万人の労働党員が南で蜂起するとスターリンに請け負った。
 スターリンは金日成の武力統一案を承認したが、同時に東アジアでのパートナーとなった毛沢東にも意見を求めるよう金日成に働きかけた。
 金日成は朴憲永とともに中国を極秘に訪れ、5月13日夜、北京で毛沢東と会談した。6月25日、北朝鮮が武力統一を仕掛けて戦争は始まった。とたんに誤算が続出した。
 最初の日から通信が麻痺した。各師団と本部の連絡は途絶えた。人民軍司令部は、第一日目から戦闘を管理していなかった。指揮官は未経験で、戦闘を管理しておらず、大砲や戦車を操作できず、連絡を失った。
 8月28日、スターリンは、金日成に電報を送り、次第に膠着していく状況に苛立っていることを伝えた。
 南労党の朴憲永が北に留めおかれたことも北の占領権力と南の民衆の距離を拡大した。
 金日成ら最高指導者は近代戦の経験をもたず、軍人、戦略家としての資質が低いことが直ちに露呈した。
 1950年12月13日、金日成は、密かに北京を訪れ、毛沢東に面会した。中朝軍司令部が出来て、金日成は彭徳懐と同格の地位となった。
 当時、北朝鮮軍は4コ師団、3万2800人、人民志願軍(中国軍)は18個師団、 20万3600人。中国軍が主体といってよい。ちなみに、対する国連軍(アメリカ軍)は12万3000人、韓国軍は8万8000人だった。
 このように北朝鮮指導部は彭徳懐が指揮する戦時体制を12月に承認していた。
 彭徳懐は、金日成が朝鮮戦争で多くの誤った判断をしたことを、口を極めてなじった。2人の間には深刻な亀裂が生じていた。
 朝鮮戦争は、ロシア資料によると、北朝鮮と中国の死傷者は200〜400万人、韓国40万人、アメリカ14万人。アメリカの専門家によると、中国兵90万人、北朝鮮兵 52万人が死傷した。ちなみに、ソ連は、航空機335機と飛行士120人を含め、全体で士官138人と 161人の兵士を失った。
 40万人の国連軍兵士が死傷したが、そのうち3分の1が韓国兵。
 朝鮮戦争の停戦は、北朝鮮の平和を意味しなかった。それは新たな粛正の波の始まりだった。金日成の影響が弱かった。党機関に対して打撃が加えられた。具体的な標的は、責任秘書として党機関に影響のあった、ソ連派の大物・許哥誼(ホガイ)を粛正することだった。
 金日成は、こうやって次々と粛正していき自らの独裁的な地位を確立したのです。いろいろ勉強になることの多い本でした。この本を読んで強く感じることは、ソ連と中国と北朝鮮が政治的に緊密な一体関係にあったという事実はなく、相互に強い不信感を抱いていたということです。決して共産主義の一枚岩ではありませんでした。
 金日成は南の蜂起は間近なので、北がちょっと南侵すれば朝鮮半島はすぐに統一化できると強引にスターリンと毛沢東を引きずりこんで戦争が始まったということのようです。

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