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地底の太陽

カテゴリー:朝鮮・韓国

著者:金 石範、出版社:集英社
 済州島4.3蜂起のあと、日本に脱出してきた人々には、前にもまして苛酷な現実が待ちかまえていた・・・。
 済州島は、今や日本からも気軽に行ける観光地となっているようです。残念ながら、私はまだ済州島に行ったことがありません。その済州島は朝鮮戦争の始まる前、苛酷な戦場となっていました。
 済州島は自然も人間も焦土化、廃墟と化する。山にたてこもるゲリラ部隊が、仲間を裏切ったとして処刑し、また、拉致した警部幹部を身内がピストルで射殺した。ゲリラ司令官は討伐隊に殺された。討伐隊によって村民500人が虐殺され、全村が焼却されて廃墟と化した無男村があった。
 ときは、日本で松川事件が起きたころ。今ではアメリカ軍もからむ謀略事件とみなされている松川事件も、当時は多くの国民が共産党のしわざだと思いこまされていた。
 逆コースの政治弾圧の流れのなかで、日本でも朝連組織や民族学校が閉鎖されていった。このころ、日本社会が暗い気分におおわれていた。
 アメリカ支配下に李承晩独裁国家が軍警暴力によって成立した。やがて6月25日に朝鮮戦争が始まる。
 日本と韓国の暗いつながりを実感させる、鬱々とした重い雰囲気の小説です。
 私も「火山島」(文藝春秋、全7巻)を読みました。衝撃の内容です。息つく間もなく手に汗を握って、展開を追っていきました。いえ、決して心躍るという内容ではまったくありません。むしろ逆なのです。ともかく、ぐいぐいと力まかせに引きずりこまされ、目をそむけることもできずに読みすすめていきました。平和な日本にいては、とうてい想像できないような苛酷な現実がそこにはありました。それを日本でも引きずって生きる人々がいたわけです。

腐蝕生保

カテゴリー:社会

著者:高杉 良、出版社:新潮社
 生命保険会社のドロドロした内実が、これでもか、これでもかと暴き出され、本当にいやになるほどです。でも、この先いったい主人公はどうなるんだろう、どうするのかという思いに負けて、ついつい読みすすめてしまいます。さすがは企業小説の大家だけあります。たいした筆力です。上下2巻あり、1巻が400頁という大部の本をあっという間に読み終えてしまいました。
 生保の社長がアメリカ視察に行く。ゴマスリ幹部が、社長の愛人も現地で同行するように手配します。まるで、会社の私物化です。それでも、そんなゴマスリ幹部は社長の覚えが目出たくて、どんどん出世していくのです。
 そんなー・・・と思いつつ、これが企業の現実のようです。苦言を呈する輩は、どんどん閑職へ飛ばされていき、ワンマン社長の周囲にはイエスマン重役しか残りません。やる気のある若手はそんな上部の腐敗ぶりに嫌や気がさし、さっさと他の会社へ転職していきます。そんな勇気も自信もない人は、うつ病になったりします。ノルマに追われるのです。 生保レディは、契約とってなんぼの苛酷な世界に生きています。そこでは、やる気のあるレディーを確保し、成績をあげることのみが数字で追求されています。生保レディーは、また入れ替わりが極端に激しい世界でもあります。
 苛酷な競争が強いられるなか、架空契約、色仕掛け、なんでもありの世界が生まれます。
 自爆とは、業績をあげるため、あるいはノルマを達成するために、架空契約をつくって保険料を自腹を切って支払うこと。
 イラクではありませんが、自爆は日本の生保業界では昔から横行しているのです。
 ノルマを達成しきれない営業所の責任者はついに夜逃げし、自殺に走ってしまいます。まさしく悲劇です。でも、その悲劇を踏み台にしてのし上がっていく幹部もいます。企業犯罪とまではいきませんが、こんな企業の実態をそのまま是認していいとはとても思えません。鳥肌が立ってしまうほどの迫真の経済小説です。

十七歳の硫黄島

カテゴリー:日本史(戦後)

著者:秋草鶴次、出版社:文春新書
 硫黄島の戦闘が体験者によって刻明に再現されています。地獄のような地底で凄惨な逃避行を続けていく執念を読んで、腹の底から唸り声がわきあがってきました。感嘆、驚嘆、なんと言うべきでしょうか。よくぞここまで思い出して書きとめたものだと感心するばかりです。なかでも、地底の臭いの描写が私にはもっとも印象的でした。
 出征の前の晩。祖母はこう言った。
 死ぬでないぞ。死んで花実が咲くものか。咲くなら墓場はいつでも花盛りだ。
 著者は17歳の通信員。薄暗い壕内に寝起きする。通信科の隅にはバケツの水が用意されている。水番がいつも見張っている。一度に小さな茶碗に一杯だけ飲める。これは雨水。しかし、硫黄ガスの臭気と室温を溶かしこみ、ゴミや微生物も見え隠れしている。そんな水を一度でいいから思い切り飲みたいと願っていた。
 壕内の衛生状態は日一日と悪化した。微生物や虫の繁殖はものすごい。蚊とハエ、蛾は昼夜なくとび回り、のみとしらみもどんどん増えている。排泄物の累積に厠もたちまち満杯となる。
 アメリカ軍は上陸本番の前、2月18日に海岸線に緑、赤、黄、碧(あお)の小旗を立てた。部隊ごとの上陸地点を示す目印だ。
 アメリカ軍が本格的に上陸したのは2月19日。午前10時までに1万人が上陸した。それまで日本軍は一切反撃しなかった。突如として日本軍のラッパが鳴って反撃が始まった。著者は、この様子をずっと見ていたのです。
 彼我の距離は1キロ足らずの地に、双方あわせて5万をこす人間の殺戮戦がくり広げられた。10時間に及ぶ膠着戦だった。1分経過するごとに3人が死に、1メートルすすむたびに1人が死んだ。
 2月24日、早朝摺鉢山の山頂に再び日章旗が翻っていた。
 そして翌25日早朝、またもや摺鉢山に日の丸が朝日を浴びて泳いでいた。
 ええーっ、本当でしょうかー・・・。
 硫黄島攻防戦におけるアメリカ軍の総被害の7割は2月27日までのもの。あとは局地戦に移った。
 日本軍は、この1週間、飲まず喰わずで、兵器以外に手にしたものはない。
 壕内に霊安所がある。眼前に青紫色のあやしげな炎のようなものが立ち昇った。そしてすぐに消えた。ローソクのような燃え方に似て、ボボーッと燃えては消え、ボボーッと燃えては滅している。自分のまわりで消えては燃え、灯っては消えている。まるで蛍の一群のようだ。燐に取り巻かれてしまった。
 死が近い者はうわ言をいった。
 「今日は休みだよな。面会人が来ることになっているんだ。もう駅に着いているかなあ」
 「まだ戦争、やってんのかい?もうやめようって、みんなが言ってるよ」
 そうなんですよね。私は、このセリフを紹介するだけでも、この本の書評をのせる価値があると思いました。
 著者は、短かく見ても一週間、長くみたら半月は水一杯も口に入れていませんでした。それでも運よく、缶詰をあけて食べ、サイダーを飲むことができました。
 自分の傷口に丸々と太った真っ白い蛆(うじ)がいた。口中に入れると、ブチーッと汁を出して潰れた。すかさず汁を吸いこんだ。皮は意外に強い。一夜干しでもあるまいに。しばらくその感触を味わった。
 うえーっ、そ、そんなー・・・。これって正気の沙汰ではありませんよね。まさしく地獄のような地底での話です。
 木炭も食べました。軟らかそうで、うまそうだ。急に甘味を思い出し、思わずかじりついた。・・・。すごーい。
 5月17日まで島内を逃げまわり、気を失っているところをアメリカ軍の犬に見つけられ、捕虜収容所のベッドに寝ているところで目がさめたのです。まさしく九死に一生、奇跡的に助かったわけです。
 あの戦争からこちら60年、この国は戦争をしないですんだのだから、おめえの死は無駄じゃねえ、と言ってやりたい。
 著者の言葉です。本当にそのとおりです。この60年の日本の平和を守ってきた日本国憲法(とりわけ9条2項)を変えるわけにはいきません。

会社とは何か

カテゴリー:社会

著者:日本経済新聞社、出版社:日本経済新聞社
 私は学生時代のちょっとしたアルバイト以外、会社で働いたことがありません。この本を読むと、つくづく会社に入らなくて良かったと思ってしまいました。人員削減、派閥抗争など、営利本位の企業という制約以上の悪弊が多くの会社にはあり過ぎるような気がします。もっと社会のための会社というのがあって良いように思うのですが、そんなことを言うと、現実の厳しさを知らな過ぎると叱られそうです。
 アメリカを中心に、世界のファンドが企業買収に回せる資金の総額は100兆円を上まわる。時価総額トップクラスのゼネラル・エレクトリック(アメリカ)やエクソン・モービル(同)が40兆円ほどだから、買えない会社はないということ。
 マイクロソフトは時価総額30兆円。2004年暮れには、3兆円もの配当を実施した。おかげで、アメリカの国民所得の伸び率がはね上がった。うーん、そうなんですかー。
 2005年(1〜7月)に日本企業が決めたM&Aは1500件をこえた。M&Aは、今や、めったにない非日常の出来事ではなく、あらゆる企業が成長のテコとして使いこなす時代となった。
 ボーダフォンはソフトバンクに買収されたが、このとき、負債の山と引きかえに顧客 1500万人をそっくり手に入れた。
 会社法が改正され、一定の条件をみたす非上場企業なら、取締役は1人でいいことになった。そこで、新日鉄化学は、グループ会社にいた69人の取締役を7人に減らした。ええーっ、そんなことができるのですか。ちっとも知りませんでした。
 法改正で委員会等設置会社というシステムが導入された。しかし、この委員会制を導入した電機大手会社は、みな経営不振となり、導入していない自動車会社は快走している。日本には、経験豊かな社外取締役の層が薄いところに問題がある。そうはいっても、日本の主要企業2000社の半分以上に社外取締役がいる。
 ソニーのトップは外国人(ハワード・ストリンガー)。彼は、自宅がロンドン近郊、そしてニューヨークに常駐する。東京の本社には、月に1〜2回通う程度。ソニーグループの社員の6割は外国人。利益も海外で稼いでいる。
 今や、インターネットによる取引が個人の株式売買の8割を占める。
 世界には創業200年以上という長寿企業がある。しかし、それはアメリカには1社もない。長寿の秘訣は、環境に敏感、強い結束力、寛大さ、保守的な資金調達にある。
 日本全国のコンビニ4万2000店の7割が脱サラなどによる「持たざるオーナー」である。
 日本では、過去30年で、新入社員の入社動機が変わった。1971年では、将来性があるというのが3割でトップ。現在は、個性を生かせる、仕事が面白い、自分らしく仕事ができて手早く結果を出せる職場に人気が集まる。
 三井物産は13年ぶりに独身寮を新設した。今なぜ同じ釜の飯が重視されるのか。寮生活を通じて若いうちに人間関係を存分に培ってもらい、人を育てたいというのだ。今こそ人材だ。
 大卒者の2割が職に就かず、入社して3年間のうちに3割が離職する。
 うむむ、なかなか大変な状況ですよね。

警察庁から来た男

カテゴリー:未分類

著者:佐々木 譲、出版社:角川春樹事務所
 「うたう警察官」に続く、道警シリーズ第2弾です。北海道警察に警察庁から監査が入ります。東京からやってきたのはキャリアの監察官です。いったい、今度は道警の何を問題にしようというのか。道警本部は戦々恐々です。
 北海道には管区警察局がない。行政域の広さが他の地方の管区ほどもあるので、とくに管区警察局は置かれず、直接、警察庁の監督のもとに入っている。この点は、警視庁に似ている。
 私の大学時代の同級生の一人が警察庁に入り、県警本部長や首相秘書官(?)などを歴任したあと管区警察局長をつとめ、まもなく退官し、いまは天下りして公団理事をしています。管区警察局長はキャリア組の上がりのポストの一つになっているのです。
 道警本部では、有名な警部の不祥事のあと、生活安全部を強化すべく部長を警察庁から派遣されたキャリアになった。ところが、そのキャリア部長が自殺してしまったので、道警本部がポストを奪い返し、今では道警本部採用の準キャリアが部長になっている。
 ファイル対象者とは、私生活や素行に問題があると見られる警察官のこと。いったんファイルが作成されると、その警察官がどこの所轄署や部局に異動になろうと、ファイルそのものもついてまわる。上司は対象者に対し、必要に応じ、監督と指導を行う。
 ススキノ交番は、4階建て。勤務する警察官は50人。いわば小さな城塞だ。
 監察の対象となった事件は2つ。一つは、タイ人の若い女性が売春させられているところから逃げ、交番に走りこんだのに、交番の警察官が追ってきた暴力団に何ごともなかったように身柄を引き渡した件。もう一つは、ボッタクリ・バーでトラブった客が不自然な転落死をした件。二つの事件のどこに共通項があるのか・・・。
 推理小説(最近は、警察小説と言います)ですから、もちろん、ここで、そのタネ明かしはできません。なかなかよく出来た本だという感想を述べるにとどめます。
 警察官にとって、退職後どうするのかは、職業人生の半ばを過ぎたあたりから、昼も夜も頭を離れない大問題となる。警察と関係の深い自動車学校や交通安全協会の役員は幹部の指定席。ウェイティングリストまである。
 大部分の警察官は、退職後は自力で再就職先を探し、現場労働者として働いて年金給付年齢がくるのを待つ。つまり、ほとんどの退職警官は、何の専門性も生かせない民間企業に再就職し、慣れない仕事で苦労して、たちまちのうちに老けていく。
 キャリア組は違う。天下り先に事欠かず、困ることもない。
 警察でも団塊世代の大量退職が始まりました。老後をいったいどう過ごすのかは深刻です。釣り三昧などで悠々自適をしはじめると、とたんに亡くなってしまいます。そのため警察共済は、黒字だといいます。在職中にひどいストレスを受けて、それと共生してきていたのに、そのストレスから突然解放されると、今度は燃え尽き症候群のようになって、まもなく生命の炎が消えてしまうというのです。
 先日、「あるいは裏切りという名の犬」というフランス映画をみました。ジェラール・デパルデューも出演する警察映画です。デパルデュールは団塊世代です。私と生まれた月まで同じ(1948年12月)というのを初めて知りました。この映画では、野心満々、権力欲だけがギラギラしている警視の役まわりを演じています。
 フランスの警察には日本と違って労働組合があります。ときにはストライキをし、デモまですることで有名です。ところが、そんなフランスの警察はかなり高圧的で強暴なことでも定評があります。そして、暗黒街との癒着もあるようです。この映画には、そんな実話を下敷きにしています。寒々とした展開です。フランス映画の例にならって、どんな結末なのか、最後まで予想できませんでした。見終わったとき、重い疲労感が残りました。
 日本の警察もフランスと同じで、内奥まで入っていくと決して清潔とは言えないことを、この本は背景にしています。
 先日、名古屋の読者の方から、言葉づかいについて配慮が足りないというご指摘を受けました。私としてはズバリ本質をついた表現だと一人悦に入っていましたが、なるほど、そのような懸念もあるのだと反省し、早速、訂正しています。
 誰か読んでくれているのかなあ、なんて思いながら書いていますので、こういう形で反響があること自体は、とても手ごたえを感じるものです。今後とも、どうぞご愛読いただきますよう、よろしくお願いします。

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