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ネパール王制解体

カテゴリー:アジア

著者:小倉清子、出版社:NHKブックス
 本場の中国では、今や毛沢東を崇拝している人なんていません。昔は日本にもいましたが、今では聞きませんよね。ところが、ネパールでは、今も毛沢東主義を信奉し、武装革命を目ざす人々がいて、全土の8割以上を実効支配しているのです。なぜ、でしょうか。
 最新のニュースによると、毛沢東派も内閣に入って大臣を送り出したとのことです。内戦状態が終結すればいいですね。
 国王とマオイスト。世界のほとんどの国で既に過去の産物とみなされている二つの勢力が、ネパールでは21世紀に入って国家の土台を揺るがす存在にまで力をもっている。
 マオイストは、2006年3月の時点で、1万5000人をこす兵力をもつ人民解放軍と、さらに、ほぼ同じ規模の人民義勇軍をかかえ、国家の土台を揺るがすほどの勢力に成長している。
 ネパールには、右から左まで、さまざまな共産主義が存在する。国王の側近となり、王室評議会の会長にまでなった王室コミュニストさえいる。
 1949年にインドのカルカッタ(コルカタ)で創設されたネパール共産党は、何度も分裂・合併をくり返し、大小の政党を生み出した。1990年の民主化後に制定された新憲法でもヒンドゥー教を国教とし、国民の8割がヒンドゥー教徒だと言われながらも、宗教を認めない共産党がネパール政治に重要な役割を果たしてきたのは興味深いこと。
 ネパール共産党・毛沢東主義派ことマオイストが1996年2月に人民戦争を開始した当時、この小さな政党が8年足らずのうちに国土の8割を支配するほどの勢力になろうとは、誰も予測していなかった。
 2001年6月1日。ネパールの歴史を変えたナラヤンヒティ王宮事件が起きた。ネパールの第10代国王ビレンドラ一家五人全員をふくむ王族10人が殺害された。「犯人」の皇太子も2日後に死亡した。
 与党のネパール会議派も最大野党のネパール統一共産党も、真実を公にしない王室に抗議せず、逆に真相を求めて街頭行動する市民を抑えようとした。そんななかで、陰謀説を主張して国民の真情をひきつけたのがマオイストだった。
 王室ネパール軍がマオイスト掃討をはじめた結果、二つの勢力の全面対決が決定的となった。その結果、犠牲者が急増し、2006年はじめまでに1万3000人をこえる死者を出し、何十万人にも及ぶ人が村に住めず、国内難民となり、またインドへ脱出していった。
 マオイスト武装勢力のメンバーでは、女性が3割を占め、最低位カーストのダリットやマガル族などの割合が高い。マオイストは、国のため、あるいは党のための犠牲を最上のこととして教えられる。そのため、しっかりした思想があれば、死ぬのも怖くはない、と考えている。
 ネパールの山岳地帯に住む人々の多くは、モンゴル系民族だ。そのひとつマガル族は、全人口の7%を占める。民族の問題はマオイストが自分の体内にかかえる爆弾でもある。マオイストの党首プラチャンダもトップ・イデオローグのバッタライも、インド・アーリア系の最高位カーストであるバフンの出身。党幹部の構成をみると、今も高位カーストのバフンやチエトリの男性が大半を占めている。その点では、他の政党と変わりがない。
 ネパールの王室は陰謀を包みこんだ風呂敷。ネパールが統一されてから、1846年にラナ家による独裁政治が始まるまで、首相として国王に仕えた人物で自然死した人は一人もいない。
 1962年に始まったパンチャーヤト制度では、王室がコミュニストの増殖を促した。それは何としてもネパール会議派をつぶしたい王室の意図が背後にあった。
 日本はネパールの主要な援助国になっています。そのネパールの実情の一端を知ることのできる貴重な本だと思いました。
 著者は今年50歳になる東大農学部出身のジャーナリストです。日本女性はネパールでもがんばっているのですね。

プロ弁護士の思考術

カテゴリー:司法

著者:矢部正秋、出版社:PHP新書
 一度もお会いしたことはありませんが、国際弁護士として活躍中の著者の本は、いつも大変学ばされる内容であり、感服しています。
 考えることは戦いである。自主独立の気概があれば、難問も必ず解決できる。自分で考えるためには、どんな場合でも、まず事実を確認し、根拠を吟味することが大切である。
 ときに近くを見て、ときに遠くを見る考える遠近法こそが、自由自在に考えるために必要である。うーん、なかなか鋭い指摘ですよね。
 すべての契約には個性がある。契約は一回的である。依頼者の立場、売主か買主か、貸主か借主か、ライセンサーかライセンシーかなどを考慮し、依頼者に有利なように契約をつくりあげるのが弁護士の役目。契約は、しばしば書類のたたかいと言われる。
 インターネットでサンプル契約を集め、適当に取捨選択して契約をつくる若手弁護士が多い。これでは自分の考えがない。検索上手だが、考え下手の弁護士が増えている。ビジネスとオフビジネスのメリハリをつけた生活をすると、仕事のストレス感は減るし、簡単に気分転換ができるようになる。何よりも、オフ・ビジネスの楽しみがあると、仕事中も忙しいと感ずることが少なくなる。
 ビジネスの世界は利害打算を基本とする。いわば灰色一色のモノ・トーンの空間である。一日中、仕事に密着していては、伸びきったゴムのようにもろくなり、切れてしまう。
 弁護士の重要な資質のトップとして、オプションの提案力があげられる。オプションの有無は仕事の品質に決定的影響を与える。日本の弁護士は伝統的に一つの正解を依頼者に提示してきた。しかし、外国の依頼者は、そのような考えを嫌う。弁護士は最低三つのオプションを提示すべきだ。弁護士はあくまで選択肢を提供し、経営者はその是非を検討して方針を決める。
 オプションが多いほどビジネス交渉では強い立場に立つことができる。選択の自由があるとき、人は最大の自由を得ることができる。自由はオプションの中にしか存在しない。オプションは自由を意味する。うむむ、これにはまいりました。私も伝統的なやり方でやってきました。考え直さなければいけないようです。
 常識的なオプションだけでは、ほとんど役に立たない。必ず極論も考えることが必要。極論は、大胆な発想をするための突破口となる。極論を考えるのは、現実から一歩身を引き、現実を冷静に観察するよい方法である。極論を考えられないというのは、権威や権力に迎合し、伝統・因習・常識に毒されているからだ。これらは、思考を暗黙のうちに束縛している。
 多くのものにあたって失敗し、その中からよいものを見つける。試して失敗したときは、失敗の原因を考え、あとに役立てる。日々の生活のなかで小さな実験と小さな失敗をくり返し、成功への法則性を見いだす。失敗から学ぶ習慣を身につけると、失敗を恐れなくなるという大きな副産物を得ることができる。
 法律家は、新人から中堅、ベテランになるにしたがって、権威や常識に対して健全な懐疑心をもつようになる。権威や常識を疑うかどうかが、法律家の成熟度を示す目安だ。疑うときに疑わず、疑うべきときに疑うのが若手に共通する欠点だ。
 天の邪鬼は小うるさく扱いにくいが、みずからの目で時代を分析する創造性と可能性をはらんでいる。異質の意見こそ社会にとって貴重だ。
 そうなんですよね。まあ、私自身も天の邪鬼だと周囲からは思われているのでしょうね。テレビは見ないし、ゴルフもカラオケもしないし、芸能界ともスポーツ界とも、とんと無縁の生活を送っていますからね。でも、本人は、いたってまともな人間のつもりなんですが・・・。
 上申書とは、上級の官庁や上役に意見を申し述べること。弁護士と裁判官は上下関係にないから、おかしなタイトルだ。私も、ずいぶん前から上申書というタイトルはつけないようにしています。
 まじめな弁護士は紛争の解決がたいてい下手。法律家は、美徳の中に悪徳を見い出し、悪徳の中にも美徳を見い出す複眼が必要だ。
 ふむふむ。なーるほど。大いに勉強になりました。

マイナス50℃の世界

カテゴリー:ヨーロッパ

著者:米原万里、出版社:清流出版
 江戸時代、大黒屋光太夫は伊勢の港から江戸へ向かう途中、嵐にあってアリューシャン列島に流されてしまいました。そこからカムチャッカにわたり、当時のロシアのペテルブルグ(今のサンクトペテルブルグ)に向かい、そこで女帝エカテリーナに会って帰国の許可を得ました。大黒屋光太夫が大変難儀した冬の旅程をTBSが再現しようとしたのに著者が通訳として同行したのです。
 ヤクーツクの冬は、日照時間が一日4時間ほど。太陽は午前11時に顔を出したかと思うと、午後2時には隠れてしまう。18時間の夜と6時間のたそがれ時からなっている。
 マイナス40度になると居住霧が発生する。人間や動物の吐く息、車の排気ガス、工場の煙、家庭で煮炊きする湯気などの水分が、ことごとく凍ってしまってできる霧のこと。冬には風は吹かない。この霧が出ていると、視界はせいぜい4メートルほどになってしまう。前を走る車の排気ガスのため、1メートル先が見えなくなる。怖いですね。
 地表面は凍土が凍ったり溶けたりするので、建物は土台からねじれひん曲がり、どんな建物でも50年ともたない。
 しかし、最近のビルは4〜5階建てのコンクリート住宅。凍解をくり返す層よりさらに深い15メートルほど杭をうちこみ、地表面から2メートルほどの高さの杭にビル本体の基礎を置く。つまり高床式のビルをつくるわけ。基礎の杭を固定するには、塩水を隙間に流すだけ。すぐに凍って杭をしっかり支える。
 マイナス50度の戸外で働く労働者は40分間、外で作業すると、20分間はあたたかい室内に戻って身体を温めるというサイクルで仕事をする。
 ヤクートは、世界有数の鉱物資源大国。トンネルや鉱山などの坑道は、掘るのは大変だが、ひとたび出来たら凍結しているので、支えは不要。落盤事故もない。
 氷上で釣りをする。魚がかかったら引きあげる。ピクッピクッ。そして三度目にピクッとする前に魚は凍ってしまう。10秒で天然瞬間冷凍になる。
 マイナス50度の野外ではスキーやスケートはできない。寒いと氷はすべらない。あまりに寒いと、まさつ熱では氷がとけないので水の膜もできないから、スケートもスキーもできない。
 現地の人の家は三重窓の木造平屋。マイナス50度でも、洗濯物は外に干す。トイレは室内になく、すべてこちこちに凍るので臭気はまったくない。うーん、困っちゃいますよね。お尻をマイナス70度にさらすなんて・・・。
 ビニール、プラスチック、ナイロンなどの石油製品はマイナス40度以下の世界では通用しない。ひび割れ破れ、パラパラと粉状になってしまう。現地の人は人工繊維は一切着ない。帽子も手袋もオーバーもブーツも、全部毛皮。下に身につけるのも純毛と純綿。毛皮はぜいたく品ではなく、生活必需品。酷寒のヤクートで育った獣たちの毛皮は、毛並がたっぷり豊かで、密。現地の人がはいている膝まである毛皮のブーツは、トナカイの足の毛皮で作るに限る。
 こんな寒い国に生きている人々なのにロシア第二の長寿国だ。不思議なことですね。
 著者は昨年5月、がんのため亡くなられました。愛読者の一人として、その早すぎた死が惜しまれてなりません。この本は、著者がまだ30代の元気ハツラツな女性だったころに小学生向けに書かれた紀行文をまとめたものです。文才があることがよく分かります。おかげでマイナス50度の驚異の世界を知ることができました。

決定で儲かる会社をつくりなさい

カテゴリー:社会

著者:小山 昇、出版社:河出書房新社
 私と同世代、つまり団塊世代の社長が自分の実践にもとづいて書いたビジネス書です。なかなか説得力があります。
 お客様アンケートには、普通を除き、大変よい、悪い、大変悪いにする。普通があると多くのお客がこれにマルをつける。それではアンケートをとる意味がない。なーるほど、ですね。アンケート項目は少ないほうがいいわけですので、これから私も普通はなくします。
 やりたいことを決めるより、やらないことを決めると、うまくいく。やらないことを先に決める。仕事でも遊びでも同じ。
 なーるほど、ですね。実は、私も同じです。カラオケしない、ゴルフしない、テレビは見ない、二次会に行かない。こうやって自分の時間を確保しています。
 接待は、するのもされるのも基本は新宿で、かつ自分の行きつけの店とする。支払いは先方もちでも。店に喜ばれるのは自分。社員がお客様を接待するときには先方の行きつけの店で、ボトルの2本でもお客様の名前で入れるようにする。そうすると喜ばれる。お客様の喜ぶところにお金をつかうのが接待の基本。
 ふむふむ、なるほど、そういうことなんですかー・・・。
 経理担当者と社長の違いは何か。経理は正確でなければいけないが、社長はアバウトでいい。その代わり早く知ることが大切だ。そうだったんですか。そう言われたら、そうですよね。
 支払手形は発行しない。受取手形もダメ。手形ほど怖いものはない。会社にとって、手形は麻薬以外の何者でもない。
 この本を読んで大変勉強になったのは、銀行とのつきあいの点です。私も長いあいだ銀行と取引しているのですが、地元の信用金庫などは私の事務所に対して一応の敬意を払ってくれますが、都市銀行となると、ハナにもひっかけられません。いつも悔しい思いをしています。
 銀行から融資を受け、毎月きちんと返済する実績をつくることは、経営の安定をはかるうえで、とくに大切なこと。昨年、複数の銀行から融資を受けた。どうしてもお金が必要だったというのではない。借入金額のキャパシティを広げるためのこと。金利が下がったので、月々の返済金利額を固定して、借入額を増やした。
 銀行は常に過去の実績に対して融資する。支店長が会社にやってくるのは、挨拶に名を借りた融資のための基礎情報の収集のため。社内の雰囲気が明るいか、社員は元気そうか、などを見ている。たとえば、赤字企業の社員は一般に来客に挨拶しないものだ。
 こちらから、毎月、銀行に出かけていって支店長に挨拶する。毎月の定期訪問で注意深く観察を積み重ねると、次第に銀行の状況も察しがつくようになる。
 銀行訪問は、午前中がいい。午後2時以降は、銀行は忙しい。また、月末や月初め、そして5日、10日は外す。一行につき1回20分まで。銀行に内情を話すときは、悪いことを先に話し、よいことは後に話す。人間は最後に聞いたことが印象に残るから。
 銀行からお金を借りるときには、根抵当権ではなく、抵当権で借りるほうがよい。担保は金融機関がもうけるための仕組み。ただでさえ、借り主は不利な構造だ。
 銀行は晴れの日には傘を貸す。しかし、雨の日になったら傘を返せと言い出す。銀行を自社のチェック機関にする仕組みをつくりあげる。銀行に判断を仰ぎ、自分のチェック機関にする。なにしろ銀行は同業他社をたくさん見ている。その事業が伸びるかどうか、融資しても大丈夫かどうかを常に考えている。冷静かつ客観的に判断するという点では銀行に勝るところはない。
 この会社の定着率の高さは驚異的です。2004年から2006年まで、3年間で28人の新卒社員が入社し、辞めたのはたった1人だけというのです。信じられません。
 こちらの指示に対して、即座に行動できない人はダメ。どんなに成績が優秀でも採用しない。社長と同じ価値観を共有でき、素直な人材、こんな人を採用する。優秀な人間は、とかく他人の話を聞かないもの。
 ふむふむ、なーるほど、なーるほど、いろいろ弁護士としても教えられること大でした。

自分を護る力を育てる

カテゴリー:社会

著者:宇都宮英人、出版社:海鳥社
 著者は熊本出身で、いまは福岡で弁護士をしています。高校時代から空手を始め、京都大学空手部の副監督。そして子供たちに空手を教える日の里空手スクール代表として、長く大活躍中です。英語・中国語など語学も堪能な、異才の弁護士です。
 この本は2冊目。著者より贈呈を受け、早速よみました。長く空手道にいそしんできた著者による実践的な護身術の心構えの本です。被害者だけでなく加害者にならないようにという複眼的な思考法が説かれている点がユニークです。
 身を護るとは、生命、身体、自由を侵害しようとするなど、人の尊厳を脅かす行為に対して、被害者にも加害者にもならないようにすること。他人の尊厳を脅かす行為を自らしないことが、自分の尊厳を脅かす行為を防ぐことになるだけでなく、自分の尊厳を脅かす行為を防ぐことが、他人の尊厳を脅かす行為をしないことにも結びつく側面がある。
 人の尊厳とは、生命、身体、自由など、人としてかけがえのないものであり、また、代わりのきかないもの。侵すことも、侵されることもできないもの。人としての価値を構成するのが人の尊厳。人としての尊厳は個人にしかなく、会社などの法人にはない。
 他人を脅かさないだけでなく、自分をも脅かさない。護身には、自分から自分を護るという側面がある。
 護身に必要な力は、人の尊厳に対する認識力、想像力、判断力、行動力、勇気、集中力、自己制御力、コミュニケーション力という言葉が連なる。
 このような力を生み出す源泉として、からだ、ことば、心という三つの要素が重要だ。
 現実の危険に対する回避行動は、どんな危険が生じているかを瞬時に把握し、その危険に対応する必要がある。護身において求められる身体技術は、瞬時に劇的な行為をとること。なるほど、そのために日頃から訓練しておくわけですね。
 相手からの身体拘束を弱めるには、息を吐き、リラックスした状態になることが必要。それで自分の身体がいくらか小さくなり、相手の身体との間に隙間が生まれ、拘束が弱まる。この小さな空間が生まれることで、技を仕掛けやすくなる。
 自分がリラックスすることで、相手方の力が弱められる。こちらが力を入れれば相手方に力が入るし、こちらが力を抜くと相手方の力も抜けるという相関関係にある。
 相手方の身体的・精神的なバランスを崩すのは、静的な力ではなく、力の落差である。
 空手の技法をことばで表現すると、次のようになる。短い時間と距離で、身体の力を抜いた状態と力に満ちた状態との転換を可能にし、その落差によって顕在化される身体のエネルギーを相手方の特定部位に伝えて相手方を崩したり、相手方に打撃を与える技術。そして、その時間と距離とを限りなくゼロに近づけていくのが技術の目標。
 空手の本質は、護身にある。
 さすが、空手道に40年以上も精進し、長く子どもたちに接しているだけのことはあるとつくづく感服しました。

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