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白い拷問

カテゴリー:中東

(霧山昴)
著者 ナルゲス・モハンマディ 、 出版 講談社
 自由のために闘うイラン女性の記録です。すさまじい弾圧の叙述に読んで圧倒されます。
 著者は2023年のノーベル平和賞を受賞しています。それだけ国際的な意義があるということです。
 巻頭言によると、著者は2021年11月に12回目の逮捕を経験し、人生で4回目の独房拘禁を言い渡された。今回の逮捕は、この本、『白い拷問』が原因で、この本はイランを世界中の前で汚したからだという。
 著者は、8年2カ月の禁固刑と74回の鞭(むち)打ち刑を科された。あとで禁固刑のほうは6年に短縮されたが、これまでの刑と全部あわせると30年もの禁固刑になる。うひゃあ、恐ろしいことです。
 著者は1972年4月の生まれですから現在52歳。イランの大学では物理学を専攻し、卒業後は検査技師としても働いていますが、一貫して人権擁護の活動を展開していきました。ノーベル平和賞の受賞は獄中にいたので、代わりに10代になった双子の子どもたちが代理で出席した。
 著者は28年ものあいだ、イラン国内の11のNGO団体の創設者ないしメンバーとして活動してきたそうです。
イランのイスラム体制は、法律や強硬手段を用いて、女性や民族的・宗教的マイノリティの移動の自由や、教育を受ける権利、就業の権利を制限する社会をつくり出した。政治結社をつくったり、国に反論したり、声を上げようとすれば鞭打ち刑になり、拘禁され、処刑される。
白い拷問は長い時間をかけて、囚人のすべての外部刺激を奪い去る。その手法は独房監禁と尋問で、主に思想犯や政治犯に対して使われる。
囚人は裁判なしで拘禁されているので、上訴できる裁判所はない。裁判を経ない拘禁は、イランでは拷問と抑圧の武器として使われてきた。
 囚人は独房の照明を操作されて昼夜の感覚を失い、睡眠パターンを妨げられる。
白い拷問は根本的に身体のあり方を狂わせ、健康をむしばむ。心の傷だけではなく、神経疾患、心臓発作までも引き起こす。
独房拘禁が長引くと、身体的、精神的ダメージは深刻。孤立は人の感覚を鈍らせ、心のバランスを狂わせる。先の見通しを立てることができなくなる。思考回路が支離滅裂で、途切れがちになる。
刑務所の生活は人間としてのすべての自然な欲求を全否定されることから始まる。
 人間の基礎は、社会生活。この大前提の上に成り立っている。それが独房で、すべて奪われる。なにしろ独房では、話すことも音を聞くこともない。
 イランの女性刑務所のなかに今も入っている人権活動家の手記、これまで同じように刑務所での生活を余儀なくされた人々の手記からなる告発の本です。思わず目をそむけたくなる内容ですが、真実から目はそらしてはいけないと思って、読み通しました。
(2024年4月刊。2200円+税)

ルポ・低賃金

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 東海林 智 、 出版 地平社
 私が弁護士になったころは、偽装請負は職安法違反で告発することができましたし、私も労基署に告発してやめさせたことがありました。でも、今はできません。派遣制度が合法化されたからです。
 私の周囲にも「ハケン」で働く人はゴロゴロいます。職場では「ハケンさん」と呼ばれ、名前では呼ばれない、職場の懇親会には参加できない。まさしく「モノ」と同じように使い捨ての存在でしかありません。その結果、どうなったか…。日本の企業の「モノづくり」の力は年々、衰えるばかりです。今では経営トップの報酬は1億円をこえるのも珍しいことではなくなりました。トヨタの会長は16億円、株の配当を加えると34億円の年収だそうです。日本もアメリカ並みの超格差社会になっています。一方、多くの労働者の賃金は正規も非正規も上がらないどころか、相対的には下がっています。
昔は、企業(会社)にも労働組合にも社会人として人を育てるという意識があったけれど、今はない。
百貨店のストライキが久しぶりにあって、ビックニュースになりました。そごう・西武労組は2023年8月に24時間ストライキを敢行しました。私を含め、大勢の人々がこのストライキに賛同し、支援しました。冷たかったのは、連合の芳野友子会長です。現場に足を運ぶこともせず、共闘をアピールすることもなく、見殺してしまいました。
 ストライキは「迷惑」なものという「神話」にとらわれているのは、大企業の労働組合と連合幹部(芳野会長)くらいのもの。本当に残念ながら、そのとおりです。
2008年の年末から2009年の年始にかけて東京の日比谷公園で年越派遣材が開設されたのは当時のビッグニュースでした。このとき、当時の連合会長だった高木剛は恐る恐るながら現場に行って状況を確認したとのこと。それなりの見識があったことを私は評価します。
 今の芳野・連合会長は自民党との連携に熱心、そして共産党を非難するばかりで、何ひとつ労働者を守るための労働組合らしい行動をしません。いったい恥ずかしさというのがあるのか、この人物が会長として君臨するのが労働組合の連合体だというのに、不思議でなりません。
 「子ども食堂」や「大人食堂」などのフードバンクに対する食料の寄付量は、アメリカは739万トン、フランス12万トンに対して、日本は2850トン、アメリカの0.4%だけ。しかも、アメリカやフランスのフードバンクが集める食料の3割は政府が提供したもの。日本政府は何もしない。恐るべき「貧困」なのです。
 2008~2009年の年越し派遣材のとき505人がやってきたが、そのうち女性はわずか5人のみ(1%)。コロナ禍の1年目(2020年末)は3日間に344人が来て、そのうち女性は62人(18%)、2021年末には418人のうち89人が女性(21%)。今や、女性がどこでも2割を占めている。
 労働者の平均年間賃金は、1991年を100として、2019年に、アメリカ141、イギリス148、ドイツとフランスは134に対して、日本105でしかない。つまり、30年たっても賃金はほとんど上がっていない。この間の物価上昇を考えたら、実質賃金は下がっているということ。
ところが、超大企業の現預金は48.8兆円から90.4兆円へ85%増加し、経常利益は91%増の37兆円に、また株主配当のほうは483%増の20.2兆円となっている。これに対して、人件費は、0.4%のマイナス。うひゃあ、恐ろしい現実です。いったい芳野・連合は何をしているのでしょうか…。
 経営者も御用組合(連合幹部)も、「人を大事にしなくなった」のですね。日本企業が目先の利益のみを追い求めるようになって、世界的な競争力をうしなってしまったのです。本当に残念です。今、多くの人に広く読まれるべき本です。ぜひ、あなたも読んでみてください。
(2024年6月刊。1800円+税)

宇宙と物質の起源

カテゴリー:宇宙

(霧山昴)
著者 素粒子原子核研究所 、 出版 講談社 ブルーバックス新書
 もう、いつのことだったか忘れてしまいましたが、恐らく長野県の山中にあるホテルに泊まったときのことです。大きな天体望遠鏡がありましたので、夜の空を眺めることができました。天の河というのが、本当に無数の星々で構成されていることを実感しました。また、土星でしたか木星でしたか、その周囲を廻っている小さな衛星を見ることも出来ました。
 どうして夜は空が暗いのか、無数に星があるのなら、空は一面の星で覆われていて、暗いどころか、明るく輝いているのではないのか…。そんな疑問をタイトルにした本(『夜空の星はなぜ見える』田中一)を読んで、びっくり驚天しました。もうずいぶん前のことです。まさしく夜空にまつわるパラドックスです。
宇宙に始まりがあるのか、宇宙に果てはあるのか、今なお私のぜひ知りたいことです。宇宙にビックバンがあったとしたら、その前は何があったのか、無から有が生じたというのか、果てがあるとして、その外には何があるのか…、疑問は果てしがありません。
 宇宙の年齢は138億歳だということになっています。
 天の川銀河の大きさは10万光年。このなかに太陽を含む1兆個の恒星がいます。天の川銀河を含めて50個から100個集まった銀河団は1000万光年の大きさ。
 この銀河団を含んだ超銀河団は「ラニアケア超銀河団」と呼ばれ、その直径は5億2千万光年。宇宙原理というのは、地球も太陽系も、銀河、銀河団そして超銀河団も、すべてが特別な場所ではなく、宇宙にありふれている場所であるというもの。
 そうでしたら、私たちの地球と同じように生命体、それも会話する、通信する生命体がどこかにいても不思議ではありませんよね…。
 宇宙の地平線問題とは…。宇宙の年齢は138億歳。宇宙の端と反対側の端から138億年かけて飛んできた光の温度は絶対温度3度の電波がやってきている。ええっ、そ、そんなことがどうやって分かるのかしらん…。
 私は宇宙と星の話が大好きです。ちまちました人間同士の争いに関わって日々の生活を営んでいる身ではありますが、たまにはでっかいスケールの話をして、ちまちましたトラブルをいっとき忘れ去りたいのです。そんな思いにもってこいの、新書でした。もっとも、この新書に書かれていることの大半は理解できませんでしたが…。
(2024年3月刊。1200円+税)

東大寺大仏になった銅、長登銅山跡

カテゴリー:日本史(奈良)

(霧山昴)
著者 池田義文 、 出版 新泉社
 1988年2月、奈良の東大寺の発掘調査の結果、大仏をつくった銅に、山口県美祢市にある長登(ながのぼり)銅山産の銅がわれていることが判明し、大きなニュースとなった。
 東大寺大仏をつくるのに使われた銅は500トン近い(496トン)。その銅は長登銅山の産だけではないだろう。
 しかし、大仏の近くの奈良時代の地層から発掘された銅のカタマリは、長登銅山、跡から出土したカラミ(製錬時に出るカス、鉱滓、金クソ)と比較し、砒素(ひそ)の含有率が高く、銀を多く含み、鉛同位対比の値が近いことから、同じ産地だと特定された。
この長登銅山には、古くから「奈良の大仏の銅を産出した」という伝説があった。しかし、他に確証はなく、単なる伝説とされてきた。長登銅山の古代の採鉱跡には露天堀跡がある。
 鍾乳洞の空間を利用した坑道では、照明のため、煙の少ないヒノキ材を束にして松明(たいまつ)としていた。
 銅鉱石は炉に入れて木炭とともに燃焼させて溶かし、金属としての銅を取り出した。
 製錬の過程で、大量の木炭を消費する。一般には「白炭」と「黒炭」があった。白炭は焼成途中で、木炭をかき出し、砂などをかけて消した硬い生焼けの炭。炭素の残存量がなく、持続力に優れている。黒炭のほうは、古代には「和炭」(ニコズミ)と呼ばれ、軟質で着火力に優れていた。
 長登銅山跡から831点の木簡が出土している。この出土した木簡から88人もの逃亡者がいたことが判明した。
 銅製練の現場には匠丁(しょうてい。工人、技術者)を中心として、役夫や仕丁、雑徭(ぞうよう)などの力仕事に動員された人々がグループで作業していた。銅を都まで運んだのは、駄馬10頭で、103キロの銅。
 山口県にある銅山の話です。やはり、こうやって、判明したことを活字にすると、みんながもう一歩深く認識できます。
(2024年2月刊。1700円+税)

イーグル・クロー作戦

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ジャスティン・ウィリアムソン 、 出版 鳥影社
 1979年11月、イスラム革命の真っ只中にいたイラン国民は、その怒りの矛先をテヘランのアメリカ大使館に向けた。
 アメリカは、それまで何十年もイランとは友好的な関係にあった。しかし、イスラム革命によって、パーレビ国王を追放したイラン革命は、ホメイニー師が帰国してクライマックスを迎えた。イランを脱出したパーレビ国王は、病気治療名目でアメリカに入国することができた。そのことでイラン国民のアメリカへの怒りは頂点に達した。
 1979年11月4日、アメリカ大使館がイラン人に古拠され、66人のアメリカ人が人質となった。アメリカは直ちに人質救出作戦を立案した。そして、アメリカの砂漠で救出訓練を開始した。1980年4月24日、アメリカ軍の救出部隊がイーグル・クロー作戦を開始した。
 しかし、ヘリコプターの1機が機械的不具合で不時着し、作戦から離脱。ハブーブ(砂嵐)のため、ヘリコプターの操縦士たちは空間識失調となった。そして、アメリカのヘリコプター同士が接触して炎上した。アメリカ軍将兵が現場から離脱するに際して、ヘリコプターを破壊する余裕はなかったので、すべての情報が置き去りにされた。ジミー・カーター大統領は4月25日の朝、国民に対して救出作戦の失敗を報告した。
 その結果、カーター大統領の支持率は60%から30%未満へと急落した。
 この救出作戦には沖縄を拠点とする第1特殊作戦飛行隊も参加していた。そのことを知って沖縄と日本でアメリカ軍基地への反対運動が強まった。
 アメリカ人の人質は1979年11月17日にまず13人が、そして1981年1月20日に残る52人が解放された。444日間も拘束されていた。
 失敗した救出作戦のとき、8人のアメリカ兵が死亡した。
 この作戦が失敗した要因の一つは、情報の漏洩を警戒しすぎたこと、敵を欺騙することを優先させたことから、ヘリコプターの安全確認が十分できず、友好国の特殊部隊からの支援を受けられず、結果として、全部隊をまとまりのある組織につくり上げることができなかったことにある。
 アメリカは、ベトナム戦争のときにもハノイにある捕虜収容所からの救出作戦にも失敗しています。それほど、救出作戦って、難しいのですね…。
(2024年2月刊。2200円)

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