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脳研究の最前線

カテゴリー:人間

著者:理化学研究所、出版社:講談社ブルーバックス
 脳科学総合研究センター編で上下巻あります。個人論文の寄せ集めですが、興味深い内容です。人間って、いったい何者なんだろう、と考えたとき、脳の作用を抜きに語ることはできません。ですから、私は、高校生のころに大脳生理学の研究をしたいなどと大胆不敵なことを妄想したこともあって、脳科学にはいつも関心をもってきました。このブログでも、何回も脳に関する本を紹介しています。ところで、高校3年に進級する直前、私は自分をふり返りました。能力と適性を考えたとき、数学的思考力がまったく乏しいことを自覚せざるをえません。幸いにして文章のほうだけは少々の自信がありましたので、それなら文系を目ざすしかない。そう決断したのでした。その決断は間違っていなかったと、40年以上たった今でも確信をもって断言できます。それでも、高校3年までは、一応、理系進学クラスにいて、数?まで履修しましたし、今でも、物理や化学そして生物系統の本は大好きです。ところが、数学については、からっきし苦手です。こればかりはどうしようもありません。久留米に、毎年の大学受験問題を解くのが趣味だという弁護士がいますが、すごいですね。私なんか問題文を新聞紙上で見るだけで尻ごみしてしまいます。
 アルツハイマー病は、全世界に2000万人の患者がいる。一番多いのはアメリカで 500万人。患者の増加速度が大きいのは、中国とインド。
 アルツハイマー病を発症すると、記銘力をふくむ認知能力が進行的に低下し、さらに、せん妄(意識混濁、幻覚、錯覚)などの精神症状を呈することがある。認知能力の低下は、通常、エピソード記憶(最近、自ら行ったことや見聞きしたことに対する記憶)の異常から始まり、言語能力や判断力が失われ、自分の居場所や家族の顔がわからなくなるほどに進行する。一般に、運動失調は少ないので、徘徊などの問題行動の原因になる。精神症状としては、性格の変化、うつ症状、異常な攻撃性、根拠なき嫉妬、妄想などが典型である。
 ほとんどの人間が、長生きしたらアルツハイマー病を発症する宿命にあることが判明した。65歳以上で1割、85歳以上で5割、100歳以上で9割が認知症を患っている。
 アルツハイマー病は、早期発症型と晩期発症型に分類される。早期発症型は、20代後半から60歳ころまでに発症する。60歳以降の発症は、晩期発症型。
 これを読んで、私の叔母もアルツハイマー病だったんだと思い至りました。同居していた甥が物を盗ったとか、あらぬことを口走るようになっていたのですが、単なる被害妄想とばかり思っていました。
 家族性アルツハイマー病患者は、正常に成長し、成人に達したあと、30歳ころから 60代にかけて発症する。生まれる前から原因遺伝子変異を有するのだから、潜伏期間が30年以上あるということになる。
 明確な遺伝性のないものを、孤発性アルツハイマー病と呼び、晩期発症型の大半が、これに相当する。
 アルツハイマー病が特徴的なのは、高齢者の罹患率の高さ。人類は、文明の進歩によって、予想もしなかった難問に直面した。孤発性アルツハイマー病の原因は、加齢にともなう脳内ネプリライシンの活性低下である可能性が強い。
 現在、アルツハイマー病治療のために世界でもっともつかわれている医薬品はドネベジル(製品名はアリセプト)。これはエーザイの杉本八郎博士が開発した、世界に誇る日本の成果。年商1000億円。
 脳を効率よく動かすには、「活性化」するだけではダメ。脳は、それぞれ異なる機能をもつ、たくさんの脳領域が協調して形づくっているシステム。だから、もし一部の脳機能だけを突出させることができたとしても、システムとしての全体のバランスを壊してしまい、脳機能は低下するだけになってしまう。脳というシステムをうまくつかうのに一番大事なのは、まずバランスを取ること。
 今の日本で、働けなくなってしまう病気というのは、トップ5のうち4つまでが精神疾患。うつ病、アルコール依存症、統合失調症、躁うつ病。精神科病院の入院患者の平均年齢は60歳。ということは、新たに入院する人は多くないことを意味している。
 統合失調症は、いわゆる遺伝病ではない。しかし、その発症に遺伝子が関係していることは間違いない。統合失調症は、その発症前から、ひきこもり、友人と遊べない、新しい環境に慣れにくい、動作がぎこちないといった行動特徴が認められる。
 統合失調症は、思春期以後に発症する疾患である。
 私のクライアントにも、これらの病名をもつ人が何人もいます。それから、最近はパニック障害だという人も少なくありません。どうして、こんなに増えたのでしょうか。
 揺れる電車の中で本が読めるのはなぜか。電車が揺れると頭が動き、それにつれて目もずれるから、見つめている活字がずれてしまう。しかし、頭が動くと、耳の奥にある三半規管が動きを感じて信号を脳に送る。この信号が小脳に伝わり、ここのニューロンの指令で、目の筋肉を反対方向に動かす。頭が動くと、ちょうどその分だけ目を反対側に動かして補正する。これが素速くできるので、揺れる電車の中でも、目は活字からずれない。これは、フィードフォワード制御で、正常の機械でなされるフィードバック制御とは違う。先回り制御というフィードフォワード制御である。  
 私は大学生のとき以来、電車のなかで本を読んでいますが、不思議なことに、目は悪くなりません。今でも近視のままですし、メガネをはずさないと本は読めません。
 人間の記憶は、コンピューターの記憶とは、まったく違う。コンピューターでは、記憶すべき事項は、そのまま記号の形で書かれ、記憶装置に蓄えられる。脳の記憶も、ある程度は局在していて、場所場所にちりばめられている。
 海馬は、大脳皮質と連携を保ちながら記憶を整理し、時間をかけて大脳皮質に長期記憶をつくり出す。大脳皮質では、情報を処理する場所に、それに関連する記憶が蓄えられ、記憶を用いた情報の処理が行われる。処理と記憶は一体となっている。
 人の記憶の特徴は、連想性にある。組みあわさった事項は、その一部から全体を思いさせる。一つの記憶事項から、芋づる式に、関連した事項を次から次へと思い出す。連想は、いろいろな飛躍をともなうことがある。創造性は、この飛躍から生まれる。
 脳の不思議さ、人体の神秘を考えると、この精妙なる存在である人間をもっと大切にしたいなと思います。
(2007年10月刊。1140円+税)

臥竜の天

カテゴリー:日本史(戦国)

著者:火坂雅志、出版社:祥伝社
 伊達政宗の生涯を描く、スケールの大きな時代小説です。
 東北地方、出羽米沢城で生まれた伊達政宗は、生みの母から愛されなかった。母は次男を溺愛し、あばた面で独眼の政宗を遠ざけた。天然痘にかかって、右眼を失明したのである。政宗を支えたのは、父の輝宗。その輝宗が畠山勢に拉致されていこうとしたとき、政宗は、畠山勢に向かって鉄砲を打ちかけた。そして、輝宗はあえなく最期を遂げた。
 のちに、母の意志に逆らって行動しようとした政宗は母の招待宴で毒を盛られた。そこで、政宗は母はそのままにして、弟を自らの手で殺した。家中の政争の種を根絶したのである。ひやあ、すごい時代ですね。何も罪のない弟を刺し殺したというのです・・・。
 伊達家は、最上と争い、佐竹と争い、一進一退。そこへ秀吉が登場する。秀吉になびくのかどうか。政宗は秀吉に簡単になびく気はなく、遠ざかっていた。
 しかし、ついに北条討伐にやって来た秀吉のもとへ参上することにした政宗は、決死の白い陣羽織姿でのぞんだ。いやあ、たいした度胸です。恐れを知らない若者だからこそ出来たことでしょうね。
 もう一度は、蒲生氏郷に秀吉支配に反抗する一揆をあおった証拠を握られ、秀吉に申し開きができない状況に追いこまれたとき、再び白装束になった。こうやっても何とか生きのびいった政宗の運の強さはすごいものです。
 まだ20歳台の青年武将という気迫が秀吉に気に入られたようです。中央政界に面従腹背を続けた気骨の士だったことがよく分かる本でした。
(2007年11月刊。1900円+税)

フクロウ

カテゴリー:生物

著者:石川 勉ほか、出版社:文一総合出版
 フクロウの生態を紹介する素敵な写真集です。
 フクロウは、メンフクロウとフクロウの2科からなる。
 最小のフクロウは、中南米にすむコスズメフクロウで、前身12センチ、重さ40グラム以下。最大のフクロウは、ワシミミズクなどで前身70センチ、体重も4キロをこえ、翼を広げると2メートル近い。
 フクロウの耳は、左右の穴の高さと向きが非対称のため、音源から左右の耳までの距離に差が生じ、両耳に達する音の時間差と音圧の差から音源を立体的に突き止めることができる。
 フクロウは森の忍者と言われるほど、音もなく飛ぶことができる。それは、身軽な体重であるうえ、幅広く丸みのある翼と体の羽毛には表面に細かく柔らかい毛が生えており、初列風切の外側がギザギザと鋸歯状に発達していて、飛行中に音がしないことによる。新幹線のパンタグラフや風力発電は、この構造をヒントに開発されていて、すぐれた消音効果を発揮している。
 フクロウの平均寿命は8年で、3〜4年目に初めて繁殖し、その後5年くらい繁殖を続ける。しかし、20年以上も生きる個体もいる。
 フクロウは、通常は一夫一婦で、つがいが分かれる割合は低く、どちらか死なない限り生涯、つれ添う。
 実は動物園でしかフクロウを見た覚えはありません。フクロウって、あまり身近な動物ではありませんが、なんとなくユーモラスな顔つきに魅かれてしまいます。
(2007年11月刊。1600円+税)

貸し込み

カテゴリー:社会

著者:黒木 亮、出版社:角川書店
 オビには、モラルなき銀行の実体を暴く超一級の経済ミステリ、と書かれています。脳梗塞患者への過剰融資、書類偽造、元上司の偽証・・・。濡れ衣を着せられた元行員が、組織悪に敢然と立ち向かう。
 いやあ、銀行マンって、ホント、大変な職業なんですね。バンカー、とも呼ばれますが、この本を読むと、なんだか気の毒になるほどダーティー・ワークをさせられるようですね。とりわけ、アンダーワールド(要するに暴力団、ヤクザ)とのつきあいは、大変だろうと思います。
 岩淵頭取は、周囲との調和を図るあまり、実行力に欠けた。個々の案件の問題点を指摘されると、妙に物わかりが良くなって、引き下がってしまうことが多かった。しかし、多少の波風を立ててでもリーダーシップを発揮してほしかった。頭取として成功しなかった理由の一つは、そこにあった。
 アメリカにはディスカバリー(証拠開示)という制度があり、訴訟を提起したら、原告は被告側の文書を広範囲に閲覧し、被告側の役員や従業員に対して質問する権利が認められている。ディスカバリーの対象は、企業の文書にとどまらず、従業員が別に保管している文書、Eメールや会議の非公式メモなど関連するすべての文書に及ぶ。
 しかし、日本には、このような制度はない。そのうえ、裁判官が、文書提出命令の適否が争われるのを避けようとして、提出命令をなかなか出さない。
 銀行がまともに対応してこないため、主人公は週刊誌や月刊誌にとりあげてもらって銀行の非を社会的に明らかにしようと決意します。しかし、銀行側も、お金の力もふまえて機敏に対応し、編集部に圧力をかけます。
 果たして、このあとどうなるのか、ハラハラドキドキの展開です。さすがプロですよね。読ませる本です。
 貸し込め。あらゆる理由を見つけて、貸し込むんだ。
 これは、実際にバブル前までの日本の銀行のモットーだったのでしょうね。恐ろしいことです。
(2007年9月刊。1400円+税)

ネットカフェ難民と貧困ニッポン

カテゴリー:社会

著者:水島宏明、出版社:日テレノンフィクション
 現代日本の青年を取り巻く状況を一語であらわす言葉、それがネットカフェ難民です。フリーターとかハケンとか言っているうちはまだ良かったのです。ネットカフェも、単なる流行語でしかありませんでした。ホームレスも中高年の話だと思っていました。ところが、青年たちがネットカフェで寝泊まりしている。社会のなかに定着できない青年が大量に存在する。そのことを、たったひとつの言葉であらわしたのです。衝撃的な言葉でした。私は、福岡・天神にあるネットカフェを、恐る恐るのぞいてみました。いえ、もちろん暴力団事務所をのぞくような怖さがあったわけではありません。夜10時ころでしたが、たしかに、若い男性も女性も次々に入ってきます。背広姿のサラリーマンもやって来るのです。ええーっ、まさか、帰るところがないはずはないだろうに、なんで、こんな夜遅くに、ネットカフェなんかにやって来るのだろう、不思議に思いました。なんとか全身を伸ばせるようなブースがいくつもあります。でも、こんなところで寝ても、安眠できないでしょうし、身体の節々がきっと痛くなることでしょう・・・。
 著者は、このネットカフェ難民という言葉をつくったジャーナリストです。テレビの世界で報道ドキュメンタリーの制作と、ロンドンとベルリンに9年あまり海外特派員をしていました。日本の東京で、1晩1000円で過ごせるネットカフェで暮らす人たちがじわじわと増えている現象は、なんだかおかしいぞという問題意識をもったのです。なーるほど、ですね。私も、日テレの特集番組はビデオでみましたので、この本に紹介されている写真は記憶があります。
 ネットカフェは、韓国に3万店ある。日本には、まだ4000店ほどしかない。東京・蒲田にある格安ネットカフェは、1時間100円。安くしたところ、店の回転率は上がり、客の入りは倍近くになった。200席ある店内の一日の延べ利用客は300人。ネットカフェを利用する人の食費は、1日1000円。チェーン店の牛丼380円。格安外食レストランのハンバーグ定食380円。ハンバーガー1個100円。赤飯弁当180円。弁当屋の豚汁120円。これを一度でなく、2回に分けて食べる。
 ネットカフェ生活は、アパート暮らしよりも効率が悪い。外食代、コインロッカー代、コインランドリー代、シャワー代など、アパート生活ではかからない費用がかさむ。
 さらに、新品の下着を使い捨てにしたり、意外に高くつくのがネットカフェ生活だ。ほとんど、その日暮らしの自転車操業状態になっている。
 徹底して、自尊感情がない。必死さがなく、無気力で、可愛げがない。できれば放っておきたいタイプ。怠情けとも目に映る。自分はダメな奴・・・、と思っている。
 いま、日本に起きているのは、一般社会の寄せ場化である。かつての山谷などで見られた光景が、いまや日本全国津々浦々に広がっている。それも、日雇い派遣という形をつかって、合法的に。しかも、ケータイ、メールをつかって現代的に・・・。
 専門的なスキルのないハケンが急増している。派遣の対象業種が拡大し、単純労働にまで派遣が恒常化している。日雇い派遣のように細切れで低賃金の労働では、何年やってもスキルの向上や経験の蓄積につながらない。
 1985年に労働者派遣法ができて、派遣は解禁された。1999年の労働者派遣法の改正によって、派遣は原則自由化された。2003年には、製造業への派遣も解禁された。
 そして、日本の大企業は空前の利益を得ている。4年連続で過去最高となった。景気回復にともなう企業業績は好調だ。人材派遣業は、2006年度は4兆351億円で、前年比41%増。01年度の2倍だ。
 働く者が、部品みたいに兵器で使い捨てされる社会。正社員も安心できないし、非正規だともっと人間扱いされない。一度落ちると、トコトン落ちてしまって、はいあがれない。ネットカフェ難民は、そんな社会の象徴だ。とくに若い人たちがボロボロにされている。こんな状態に無関心でいてよいわけはない。社会全体が意識して取りくんでいくべきだ。
 私もまったく同感です。お互い、できるところから、やっていきましょうよ。それにしても、日テレも、たまには、いい番組をつくるものですね。心から拍手を送ります。
 とりたての竹の子が届きました。シャキシャキとした歯ざわりで、美味しくいただきました。食べながら春を実感したことです。
 隣の家のハクモクレンの白い花が咲いています。朝、庭に出ると、ウグイスがあちこちで澄んだ声でホーホケキョと鳴くのが聞こえます。メジロの姿は見えますが、ウグイスのほうは、声はすれど姿は見えず、です。
 鼻づまり解消のため、鼻うがいを始めました。塩を入れると、そんなに苦しくはないのですね。昼間のポカポカ陽気はいいのですが、花粉症には悩まされます。
(2007年12月刊。952円+税)

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