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宝の海を取り戻せ

カテゴリー:社会

著者:松橋隆司、出版社:新日本出版社
 有明海には特産物がたくさんあります。もっとも有名なのは海苔でしょうか。いえ、ムツゴロウかもしれません。魚でいうと、クツゾコと呼ばれるシタビラメ。そうです。あのフランス料理でムニエルとして出てくるものです。そして貝。タイラギの太い貝柱は、ホタテの貝柱に匹敵します。珍しいものでいうと、シャミセンガイです。細い緑色の透きとおった貝です。あっ、そうそう。珍味というと、忘れていけないのに、ワケがあります。イソギンチャクを食べるのです。ミソ漬けにします。コリコリした食感は美味しいですよ。味噌汁にも入れます。このように、まことに有明海は豊かな自然の恵みの宝庫です。
 有明海は、干満差が最大で6メートルにもなる。海面が1日2回上下することになる。これによって海がかき混ぜられ、酸素が隅々まで供給する。
 有明海の漁業生産高が日本一だったのは1980年前後のこと。アサリなどの二枚貝が多いことも理由の一つだった。タイラギ漁師は、年間2000万円も稼いでいた。
 国と長崎県が諫早湾の干拓を始めた。その事業目的は、収益性の高い優良農地を実現することにあるとされた。しかし、干拓地の営農は、秋田県の八郎潟でも岡山県の児島湾でも、どこも困難になっているのが現実である。
 私も、秋田県の八郎潟を見てきたことがあります。タクシーで半日近く見てまわったのですが、ともかく広大な農地ができていました。干拓地ですから、平坦です。大型機械を入れたら、理論上は、大変な高収益の農業ができそうです。でも、そこがうまくいっていないのです。ですから、今さら諫早で干拓地をつくっても、うまくいくはずがありません。
 「しめこき」という言葉が出てきます。初めて聞く言葉です。砂と泥の割合がうまく混じりあってアサリなどがよく育つ状態を言うそうです。
 有明海沿岸4県の覆砂事業費は、1997年から2002年までの6年間で118億円にものぼる。そして、受注した企業が自民党へ政治献金したのが1億7600万円。
 1985年から2000年の16年間で企業が自民党へ献金した総額は10億円にもなる。いやあ、これでは政治家は干拓事業なんて絶対にやめられませんよね。
 1995年からの7年間で、自民党の古賀誠、山崎拓両氏など国会議員9人と自民党熊本県連に10億2000万円が献金された。1人で1億3700万円をもらった議員すらいる。干拓って、一部の人間には金のなる木なのですね。
 国(正確には文科省の外郭団体である科学技術振興機構)がまとめた「失敗百選」に、国営諫早湾干拓事業が選ばれている。そ、そうなんですか。国も失敗を認めているのですね。それにもかかわらず、国の事業は相変わらず続いています。
 長崎県は、県が全額出資する長崎県農業振興公社に干拓農地全部を51億円で買いとらせ、入植希望者にリース配分した。2500億円もの巨費をかけて、入植できるのは、たった45軒の農家と企業のみ。そして、公社が負担する51億円の財源は、県からの貸付金で98年かけて償還するという。
 ひゃあ、100年近くもかけて返していくんですって・・・。そんなこと本当に可能なんでしょうか・・・。干拓地をつくって農地をつくり出す前に、むやみな減反押し付けを日本政府はすぐにもやめるべきです。
 これは、日本の食糧自給率が3割以下という厳しい現実を直視したら、今すぐ直ちに実施すべきことと思います。いかがでしょうか?
 福田さんも舛添さんもあてにならない政治家だと私は思います。
 ところが、全世界的な食糧危機に日本も直面しているのに、自民党の現幹事長が減反政策の見直しを提起すると、元幹事長がすぐにかみつきました。それほどアメリカが怖いんでしょうか。自民党って、骨のずいまでアメリカべったり。アメリカにたてついてまで食糧自給率を上げようなんて発想は、まったくないのですね。あまりにも情けない日本の政権党です。まったく・・・。
(2008年4月刊。1600円+税)

活憲の時代

カテゴリー:社会

著者:伊藤千尋、出版社:シネ・フロント社
 私とほとんど同世代の朝日新聞記者です。いやあ、よくがんばっていますね。『反米大陸』(集英社新書)、『太陽の汗、月の涙』(すずさわ書店)など、たくさんの著書があります。私も何冊か読みましたが、著者の鋭い感性と言葉の豊かさには、いつも感嘆し、魅きつけられます。
 この本は、著者の講演を活字にしたものですので、とても読みやすい内容となっています。著者は今なお現役の新聞記者です。記者生活30年のうち、20年間を国際報道に従事していました。ですから、世界の事情をよく知っています。なにしろ世界65ヶ国を取材したというのです。すごいですね。うらやましい限りです。
 アフリカ沖にあるカナリア諸島に日本国憲法9条の碑があるなんて、信じられない事実を知りました。1996年にあった除幕式のとき、みんなでベートーベンの第九「歓喜の歌」を合唱したというのです。9条の素晴らしさを実感できます。
 南米チリでは9.11というと、1973年のこと。当時のアジェンデ大統領に対して軍部がクーデターを起こした日のことをさす。そして、夜9時になって外出禁止時刻になると、主婦の「ナベたたき」が始まる。デモや集会に行くだけが反政府行動ではない。逮捕されるのが怖いなら、自分にできる方法でやればいい。大切なことは、心の中だけで思っているのではなく、一人一人が行動で示すこと。うむむ、なーるほど、そうなんですよね。
 著者はベネズエラで女性から「憲法を知らずに、どうやって生きていくのか」と教え、さとされたそうです。うひゃあ、そ、そうなんですか、まいりました。憲法って、私たちの生活を底辺から支えるものなんですね。
 アメリカでは、9.11のあと、反テロ愛国法なるものが制定されました。テロリスト探しの名目で、警察(FBI)が勝手気ままに電話やインターネットの盗聴を始めました。そのとき、それを拒否した警察署長もいたというのです。カリフォルニア州のパロアルトという町のことです。
 今、アメリカ社会は変わった。9.11のあと、ブッシュに団結しようというスローガンに乗った。しかし、あれはおかしかった。もう、あんなのはイヤだとアメリカ国民の多くが思っている。そうなんですね。だからこそ、オバマが有力なアメリカ大統領候補になっているのだと思います。
 中米のコスタリカでは、小学校に入って最初に習う言葉は、人はだれも愛される権利をがある、ということ。いやあ、これってすごいことですよ。うんうん、実にいい言葉です。ホント、そうなんです。誰だって、自分がされたのと同じことを他人にもしたくなるのです。ということは、自分にされたイヤなことはしたくもなるっていうことです。やっぱり、子どものときから他人(ヒト)を大切にするのが大切なんです。
 コスタリカでは、軍事費をそっくりそのまま教育費にまわした。兵士の数だけ教師をつくった。トラクターは戦車より役に立つ。兵舎はすべて博物館に変える。大賛成です。コスタリカの識字率は今や100%に近い。国民の10人に1人が教員の免状をもっている。す、すごーい。子どもたちが政治に関わるような仕組みになっているのもいいことですよ。
 コスタリカのアリアス大統領は1987年度のノーベル平和賞をもらった。日本の佐藤栄作とちがって、本当に世界平和に貢献したからだ。平和憲法をもっている国の義務は、周囲の国も平和にすること。コスタリカは平和の輸出を始めた。パチパチパチ。心から、拍手を送ります。
 南アメリカでは、1998年以来、10回の大統領選挙があった。反米左派が9勝、親米右派が1勝。反米左派が圧勝した。もうアメリカには追随したくないということ。
 1998年のベネズエラが皮切りとなった。2002年のブラジル、2003年のアルゼンチン、2005年のウルグアイ、2006年のチリ、ペルー、ボリビア、エクアドルと、反米左派政権になった。コロンビアだけがアメリカべったりの大統領だ。ただ、この国ではソ連派ゲリラがいて、アメリカ派だけで選挙したから、そうなっただけだ。
 読んでいると、なんだか思わず元気の出てくる本です。団塊世代も捨てたもんじゃありませんよ、まったく。
(2008年5月刊。999円+税)

肩書きだけの管理職

カテゴリー:社会

著者:安田浩一、出版社:旬報社
 企業側に立って労働事件を手がけることの多い、私の親しい弁護士が、先日、今のサラ金・過払金バブルのあとには、無償残業の不払い賃金請求事件が激増するだろうという予測を語っていました。なるほど、そうかもしれません。
 この本は「名ばかり管理職」の非情な労働実態を鋭く告発しています。ひゃあ、そんなにひどいのかと私も少なからず驚きました。本当に衝撃を受けるほどでした。これでは、まるで現代にも奴隷労働があるじゃないかと思ったほどです。一家団らんなんて、夢のまた夢。それどころか、過労死が迫っているのです。今や、カローシ、としてカラオケ並に世界的に有名になってしまった、日本を代表する嫌な言葉です。
 高野氏は1987年にマック社に入社した。マック社は、今、日本全国に3800もの店舗を展開している。マックは、基本的につくり置きせず、しかも1分以内に商品を出す。そこにあるのは、安かろう悪かろうだ。
 私は、この30年間、一度もマックを食べたことのないのを誇りに思っています。化学薬品みたいなものを食べられるものか、という気持ちです。マックにはどれだけの食品添加物が入っているのでしょうか。そして、牛肉。どこで生産されている牛なのでしょうか。アマゾンの原生林を焼き払って牧場に変え、牛を生産しているという事態は変わったのでしょうか。人工飼料による安上がりの牛肉生産方式は、今も続いているのではありませんか・・・。
 マック社は1994年から、アメリカ本社主導で経営改革をすすめた。すべての商品を値下げした。殺伐とした社内の雰囲気。そして、異常な長時間労働。
 日本マックの創業者(藤田田)が2004年に死んでも、マック社は何もしなかった。マック社にはアメリカ流のドライな経営手法が導入された。成果主義は店長の給与ダウンをもたらした。厳しい売上目標とノルマを社員に課した。高野店長は、時間外労働が月100時間をこえ、1ヶ月に3日休めるかどうか。
 管理職と管理監督者とは、まったく異なる存在である。管理職とは、
 ? 職務内容や職務遂行上、経営者と一体的な地位にあるほどの権限を有し、これにともなう責任を負担している。
 ? 本人の裁量で、勤務時間を自由に調整できる権利を有している。出退勤は自由。
 ? その地位にふさわしい処遇を受けている。
 というもの。ところが、高野店長は、このどれにもあてはまらない。まさに、「名ばかり管理職」だ。マック社は、全世界で労働組合への敵視政策をとっている。
 中島氏がすかいらーくに入社したのは1979年。すかいらーくは、「小僧寿し」「ジョナサン」「バーミヤン」「ガスト」などを経営している。
 店長の中島氏は、毎日の拘束時間が最長17時間40分、最短12時間30分。休日は1日のみ。毎月の平均残業時間が150時間。す、すごーいですね。いえ、ひどいです。非人間的な長時間労働です。
 「セブン・イレブン」は日本全国に1万5000店舗をかまえている。労組はなかった。店長の年収は平均400万円。実際、店長の裁量が及ぶ余地などない。防犯用の監視カメラで、休憩時間中に漫画雑誌を読んでいるのを「発見」されて、店長からヒラ社員に降格された。「店長としてふさわしくない」というのが表向きの理由だ。これまた、ひどいです。
 紳士服の『コナカ』では全社員1000人のうち、店長は400人もいる。店長こそ一番早く出勤しなければいけない。開店時間の1時間半前、午前8時30分、店長は店舗のカギを開ける。ノルマを達成するため、社員が自腹で購入する。それは年に30万円ほどになる。これも、ひどいですね。
 店長は税込み月収35万円。ボーナスは年2回、50〜70万円。最低でも1日に13時間は拘束される。労基署が立ち入り調査した。その結果、一般社員720人に対して、未払い残業代として9億円が支給された。店長など管理職400人に対して、特別賞与として4億7000万円が支給された。
 あまりにもひどい労働実態が描かれています。まさに搾取です。これでは現代日本で『蟹工船』が飛ぶように売れ、マルクスが見直され、日本共産党が脚光を浴びるのも当然です。
 庭にグラジオラスの花が咲いています。淡いピンクの花はほのかな色気を感じさせます。ヒマワリに囲まれて、ひっそりと黒紫色に近い濃紺のグラジオラスもあります。
 カンナの花が咲きはじめました。黄色い花に赤の斑(ふ)が入っています。私のお気に入りの色です。本格的な夏到来を示す情熱の花です。
 夏の庭は大変な勢いで雑草がはびこるので、日曜日にあちこち整理して、少しスッキリ感を出しました。
 夜、ホタルを見に歩いて出かけました。2週間前とちがって、チラホラ飛んでいるだけでした。九州北部は、まだ梅雨入りしていないようです。
(2007年12月刊。1300円+税)

暴力はどこからきたか

カテゴリー:生物

著者:山極寿一、出版社:NHKブックス
 ゴリラは弱いもの、小さいものを決していじめない。けんかがあれば第三者が割って入り、先に攻撃したほうをいさめ、攻撃されたほうをかばう。そして、相手を攻撃しても、徹底的に追い詰めたりはしない。ましてや、相手を抹殺しようとするほど激しい敵意を見せることはない。敵意を示すのは自分が不当に扱われたときであり、自己主張をした結果、それが相手に伝われば、それですむ。ここには明らかに人間とは違う敵意の表現がある。
 うひゃあ、これでは、ゴリラのほうが人間よりずっとずっと賢いということですね。
 古代の狩猟民は攻撃的だったという考えが間違いだということは証拠によって明らかとなっている。アウストラロピテクスは、仲間によって殺されたのではなく、ヒョウに捕食されていた。狩猟民たちは、戦いを好まない平和な暮らしを営んでいた。
 ゴリラのオスが立ち上がって胸を勇壮に叩くのは、自己主張のための行動であって、戦いの宣言というよりは、むしろ戦いをせずに引き分けることを意図したものだった。
 霊長類は食虫類から分化した。最初の霊長類は樹上で昆虫を食していたと思われる。つまり、霊長類は、被子植物に群がってくる昆虫を主食としていた。人間の体がサルたちより大きいのは、もともと弱い消化能力を補うという、類人猿と同じ理由による。
 樹上での生活は立体的に世界をながめる視覚を発達させた。三次元空間で食物、仲間、外敵の位置を正確につかむためには立体視が欠かせない。この能力を高めるため、目の位置が顔の側面から前方へと移動し、鼻づらが後退して両目の視野が大幅に重複するようになった。すなわち、樹上生活は人間の視覚のもっとも基本的な能力を築き上げた。
 ニホンザルもゴリラも、メスには単独で暮らす時期はない。ニホンザルのメスは生まれ育った群れを離れることはないし、ゴリラのメスは元の群れを離脱すると、すぐに他の群れに移籍する。他の真猿類の社会でも、メスは単独では暮らさない。それは、メスが他の個体と群がろうという強い傾向をもつためだ。真猿類は昼行性であり、果実などの植物の部位を食物としたことに関係がある。メスは、長い妊娠と授乳の期間中、自分だけでなく、子どもの栄養条件も上げる実用があるから。
 ニホンザルでは、年齢の若い妹のほうが姉よりも順位が高いなる。それは、年の若い娘を母親が庇護するから。ところが、チンパンジーやゴリラでは、メスが生まれ育った群れを出て、他の群れに移ってしまうので、メス間に血縁にもとづく強い結束は生まれない。
 ヒトの男の睾丸はゴリラより大きく、チンパンジーより小さい。精子の密度もちょうど中間である。
 ヒヒもチンパンジーも、メスは毎周期に2週間ほど性皮を腫脹させる。これは、メスが一頭のオスと独占的な交尾関係を結ばず、多くのオスと交尾することによって子どもの父性をあいまいにしようという戦略だと考えられる。オス同士がはりあってメスと交尾する権利を独占しようとするのに対し、メスは性皮を腫脹させて多くのオスを誘い、長期間にわたって交尾することで、どのオスにも繁殖成功の可能性を示している。
 ゴリラのメス同士の関係は実にあっさりしていて、互いにあまり深く関わらないようにしているようだ。メスたちが血縁関係にこだわらずに付きあっているからこそ、ゴリラのメスは親元を離れて見知らぬ仲間のもとへ移籍してもうまくやっていくことができる。
 ゴリラの若いメスの移籍は、恋人選びの旅の始まりである。ゴリラのオスは離乳期から思春期に至るまで熱心に子育てする。
 ゴリラのメスは、発情を迎えたとき、父親以外に成熟したオスがいなければ、群れの外に交尾の相手を求めて群れを離れていく。つまり、オスの子育てによる娘との交尾回避は、娘の分散を促進する効果をもっている。
 ニホンザルのオスにとって、群れとは生涯、身を預けるほど魅力のあるものではない。居心地が悪くなれば群れを出ればよいし、群れ生活が苦手なら、単独で暮らせばよい。
 チンパンジーは、仲直りにとても積極的である。攻撃を仕掛けたほうも、攻撃されたほうも、どちらからともなく近寄ってキスをし、手を握り、抱きあい、毛づくろいする。生涯にわたって自分の生まれた群れで暮らすオスたちは、他のオスの協力をいかに得て、自分の地位をつくるかが最優先の課題となる。
 ゴリラの仲直りは、対面して、じっと顔をつき合わせる行動である。ゴリラは体の接触が起こらない。ただじっと顔を寄せてのぞき込むだけ。接して触れあわずというのがゴリラの付きあい方なのだ。また、ゴリラに特徴的なのは、けんかを第三者が仲裁すること。
 ヒトもチンパンジーもゴリラも、和解するとき、相手とじっと見つめあう。まるで相手の意図を推し量るように相手の顔を見つめ、それから親和的な行動を示す。ボノボも同じような見つめあいをする。
 ゴリラたちは、顔を向けあい、視線を交わしながら、食事する。
 ヒトもサルもチンパンジーもゴリラも、みんな同じで、少しずつ違っているということがよく分かります。ヒトって、やっぱりサルの一種なんですね。
(2007年12月刊。970円+税)

戦争

カテゴリー:アメリカ

著者:Q.サカマキ、出版社:小学館
 パレスチナ、ハイチ、スリランカ、コソボ、アフガニスタン、リベリア、イラクの戦場を生々しく伝える写真集です。よくぞ、こんな写真がとれたものだと感心します。目をそむけてしまいたい写真ばかりです。でも、現実から目をそらすわけにはいきません。そして、その大多数にアメリカが関わっています。まさに「世界の憲兵」としてのアメリカです。いえ、むしろ、アメリカ帝国主義の世界制覇の野望の実証的写真と言ったほうがいいのでしょう。アメリカは、イラクのように、自国に有利な利権があると思えばいち早く石油省だけはなんとしても確保します。自国にとって当面の利権がなければ、現地でどんな虐殺が起きようとも、「そんなのカンケーねえ」と無視してしまいます。
 パレスチナのガザでは、ユダヤ人入植者の子どもたちは、イスラエル政府が提供した装甲車で通勤通学していた。ひゃあ、毎日の生活の始まりが、装甲車だなんて、とんでもないことですよね。
 ハイチでは、クーデターが33回もあったというのです。すごいことです。これでは、国民は、ずっと政争の犠牲になってきた、というのは、まさにそのとおりですよね。
 2004年2月29日、アリスティード大統領が2度目の亡命を余儀なくされた。どうして、こんなに小さく、貧しい国で、何度も何度も凄惨な殺しあいが起きるのでしょうか。アメリカは、イラクとは違って、小国ハイチに利権が乏しいことからでしょうか、まったく無策のままです。
 スリランカもコソボも、アメリカの注目をひかないためか、戦争が続いたままです。
 アフリカのリベリアでは、ドラッグとアルコールでハイとなった少年兵が、耳元を弾丸がつんざいているにもかかわらず、激しい戦闘を楽しんでいるかのようにゆっくり闊歩し、マシンガンを撃ち続ける。「今まで何人殺したかなんて覚えていないし、気にもかけていない」とうそぶく。こんな狂気が、14年間に25万人の生命を奪い、わずか300万人のリベリアの人口の3分の2を難民にしてしまった。
 リベリアには、アメリカを招き入れるほどの利益がないから、アメリカは介入しない。
 最後はイラク。2003年4月のバグダッドの病院の写真があります。フセイン政変崩壊による混乱のなかで、我が身と患者を守るために医師たちが銃をもつ状況です。
 戦争が日常生活のレベルにきたときの悲惨さがよくとらえられている写真集です。こんな写真を見て今夜はよく眠れるかどうか、つい心配してしまいました。といっても、お互い現実から逃げ出すわけにはいきません。
 われらは、全世界の国民がひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
 いい言葉です。日本国憲法の前文にあります。自民党は、これを削除しようとしています。先日の名古屋高裁判決は平和的生存権は具体的権利として、その侵害をやめさせることができるものだ。このように高らかにうたいあげました。世界に戦火の絶えない今こそ、憲法9条2項を世界中に広げたいものです。
(2007年10月刊。3000円+税)

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