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カンブリア爆発の謎

カテゴリー:生物

著者 宇佐見 義之、 出版 技術評論社
 5億4000万年前から始まるカンブリア紀に、生命は突如として爆発的な進化を起こした。うむむ、5億4000万年前と言われても、ちょっとピンときませんよね。宇宙の年齢が140億年と言われると、なんだか5億年前というのも少しは分かったような気にはなるのですが。
 カンブリア紀の前の時代にも多くの生物がいたことが分かっている。9億年前に遺伝子が大きく進化したことが判明した。つまり、生物は少しずつ進化していたのであって、急に、突然進化したわけではない。
 単細胞の生命が誕生したのは、今から30数億年前のこと。それから20億年以上、単細胞生物の時代が続いた。6億3000万年前から、5億4000万年前にわたるのがエディアカラ紀である。この紀に生物相は多様に進化していた。
 そしてカンブリア紀の初期になると、2メートルもの大きさのアノマロカリスがいた。アノマロカリスにも、いろんな種類のものがいる。
 アノマロカリスの化石の写真が紹介されていますが、実に珍妙な形をしています。頭部の下面にはリング状の口がついていて、尾部には垂直方向に尻尾状の構造があります。
 そして、人類の祖先ではないかというふれこみのピカイアなるものも紹介されています。脊椎動物に近いというのですが、ピカイアは脊索動物です。脊索動物は脊椎動物に近いというわけです。
 有名な三葉虫は、カンブリア紀にもっとも繁栄した生物です。デボン紀に絶滅しましたが、魚類に覇権を奪われたからではないかと、この本は見ています。
 生物の形造りの基本は、繰り返しの構造にある。繰り返しの構造の一部を変形させて、特殊な機関を作り出せば出すほど、進化的に後に位置する生物といえる。
 たくさんの図版があって、理解しやすいのですが、本当に奇妙きてれつな形の生物のオンパレードです。海岸に無数いて、もじょもじょしている、そんなフナムシ(船虫)が人類の祖先だなんて言われても、ちっとも実感がわきません。
 それにしても、9億年前とか5億年前とか、聞くだけでも気が遠くなりそうな時代の生物の化石と対面するのも楽しいものですよ。
 
(2008年4月刊。1580円+税)

最後の証人(下)

カテゴリー:朝鮮・韓国

著者 金 聖鐘、 出版 論創社
 2つの殺人事件の思わぬ真相が、覆っていた黒いベールをはぎとるようにして少しずつ明らかになっていきます。そこには韓国社会の闇を反映するものがあります。なにより、朝鮮戦争における朝鮮人同士の殺し合いに深い根があり、その後、長く続いた反共アカ狩りと、南侵スパイ政策がからまっていきます。いずれも、今日にまで続く韓国社会の奥底に今日もなおうごめく深い闇の部分です。
 それらの闇は、司法界にも当然のことながら及んでいます。弁護士だけでなく、裁判官も当の権力に牛耳られているのです。そして、マスコミも同罪です。
 1974年、「韓国日報」の懸賞公募に当選し、200万ウォンという多額の賞金を獲得した作品だということです。なるほど、なるほど、すごく読みごたえがあります。
 著者は1941年生まれで、韓国ではなんと2度も映画化されているとのこと。ぜひ私も見てみたいと思いました。日本語字幕付きのDVDが売られているそうです。
 現在、著者は韓国推理作家協会会長をつとめておられるとのことです。今後も活躍されることを大いに期待します。
 先日、北朝鮮がミサイルか人工衛星かよく分かりませんが打ち上げ、日本の政府・マスコミが大騒ぎしました。これも憲法改正への地ならしではないかと私などは大いに心配です。よくよく考えてみれば、日本にたくさんある原子力発電所をミサイルが狙ったら大惨事になるのは必至です。そんなことにならないよう未然に防止するしかないと思います。武力に頼ってはいけないのです。この点、例の田母神氏が次のように述べているのは紹介に値します。
「核ミサイルでない限り、ミサイルの脅威はたかが知れている。通常のミサイル一発が運んでくる弾薬量は、戦闘機1機に搭載できる弾薬量の10分の1以下である。1発がどの程度の破壊力を持つのかというと、航空自衛隊が毎年実施する爆弾破裂実験によれば、地面に激突したミサイルは直系10メートル余、深さ2~3メートルの穴を作るだけだ。だから、ミサイルが建物の外で爆発しても、鉄筋コンクリートの建物の中にいれば死ぬことはまずないと思ってよい。1991年の湾岸戦争のとき、イラクがイスラエルのテルアビブに対して41発のスカッドミサイルを発射したが、死亡したのはわずかに2名のみだった。北朝鮮が保有しているミサイルをすべて我が国にむけて発射しても、もろもろの条件を考慮すれば、日本人が命を落とす確率は、国内で殺人事件により命を落とす確率よりも低いと思う」
 北朝鮮は怖い国だ。攻めて来るかもしれない。だから憲法を改正して自衛軍を持とう。そんなイメージ・キャンペーンがはられています。でもでも、日本国憲法を変えてしまったら、それこそ日本は東南アジアの平和をかき乱す尖兵になってしまうでしょう。本当に北朝鮮は怖いのか、いったい日本の自衛隊というのは果たしてどれほどの戦闘能力をもっているのか、まずはもっともっと真実が語られるべきだと私は思います。
(2009年2月刊。1800円+税)

奇跡の脳

カテゴリー:人間

著者 ジル・ボルト・テイラー、 出版 新潮社
 37歳の若さで脳卒中に倒れた女性脳科学者が、8年後に見事カムバックしたという、奇跡そのものの実話です。本人が脳卒中に倒れた直後の状況を生々しく再現しているのも驚きです。実況中継しているかのようです。
 著者が脳卒中を起こして倒れたのは、1996年12月10日の朝7時のこと。
 眠たくて仕方がなかったとき、突然、左目の裏から脳を突き刺すような激しい痛みを感じた。のろのろと起き上ったものの、目の後ろのズキズキする痛みは鋭く、ちょうどカキ氷を食べたときにキーンとくる、あの感じだった。
 茫然自失のうちに、ズキンズキンとする激痛が脳のなかでエスカレートしていく。
 頭の中に、予想外の騒音が、鋭敏になって、痛む頭を直撃した。
 何が起きてるの? こう自問した。正常な認識能力は途切れがちで、無能力状態になっていたが、どうにか身体を動かしてみた。脳は酩酊状態のような感じ。からだは不安定で重く、動きも非常に緩慢だ。右腕は完全に麻痺して、からだの横に垂れ下がってしまった。
 これほど劇的に精神が無力になっていくのを味わっていても、左脳の自己中心的な心は、生命は不死身だという信念を尊大にも持ち続けていた。いずれ完全に回復できると楽観的に信じていた。
 まったく自覚のなかった先天性の脳動静脈奇形によって大量の血液が大脳の左半球にどっと吐き出された。左脳にある高度な思考中枢に血液が降り注いだため、認知能力の高い機能が失われていった。
 これまでの、からだの境界という感覚がなくなり、自分が宇宙の広大さと一体になった気がした。まぶたの内側では、稲光の嵐が荒れ狂い、頭では雷に打たれたかのような耐え難い痛みが脈動している。体の向きを変えようとしても、限界以上のエネルギーを必要とした。空気を吸うだけで、肋骨が痛む。目を通して入ってくる光が、火炎のように脳を焼く。しゃべることができないので、顔をシーツに埋め、明かりを暗くしてくれるように訴えた。
 著者は精神的には障害を抱えたものの、意識は失わなかった。人間の意識は、同時に進行する多数のプログラムによって作られている。
 外部の世界を知るための知覚は、左右の大脳半球のあいだの絶え間ない情報交換によって、見事に安定している。皮質の左右差によって、脳のそれぞれ半分は少しずつ違う機能に特化し、左右が一緒になったときに、脳は外部の世界の現実な知覚を精密に作ることが出来る。
 自我の中枢と、自分を他人とは違う存在とみる左脳の意識を失ったが、右脳の意義と、からだを作り上げている細胞の意識は保っていた。
 いつもは右脳より優勢なはずの左脳が動かないので、脳の他の部分が目覚めた。
 脳卒中は、現代社会でもっとも人を無力にする病気である。そして右脳より左脳の方で、4倍以上の確率で脳卒中が起きていて、言語障害の原因になっている。
 脳が治っていく過程で、一番力を発揮するのは脳である。そして、睡眠のもっている治癒作用に重きをおくことが大切だ。睡眠、そして学習と認知の訓練の間を縫って睡眠を取ることを大切にすべきだ。
 うまく回復するためには、できないことではなく、できることに注目するのが非常に大切。成功の秘訣の一つは、回復するあいだ、自分で自分の邪魔をしないよう意識的に心がけること。感謝する態度は、肉体面と感情面の治癒に大きな効果をもたらす。
 統合失調症と診断された人の多くが動く物体を見るときに、異常な眼の反応を示す。
 すごい本です。これほど脳卒中で倒れた現場からの、生々しい体験レポートというのはないのではないでしょうか。そして、脳の回復力にも圧倒されます。あきらめるのは早すぎるのです。
(2009年3月刊。1700円+税)

ロイヤー・メンタリング

カテゴリー:司法

著者 マラン・ダーショウィッツ、 出版 日本評論社
 ハーバード・ロースクールの現役の教授ですが、なんと28歳で終身的地位を持つ教授に就任したというのです。もちろん、これは同校始まって以来、最年少です。
 同時に、数々の著名人の弁護人としても活躍しています。誘拐されたあと自らもテロリストになったパトリシア・ハースト、ジャンク・ボンド王マイケル・ミルケン、キリスト教テレビ伝道者ジミー・バッカー、元ヘビー・ウェイト級ボクシング・チャンピオンのマイク・タイソン、元フットボール・スターのO・J・シンプソンなどです。
 弁護士活動の半分は、プロ・ボノ活動を実践しているそうですから、本当に大したものです。
 著者は、アンビュランス・チェイサー(救急車の追っかけ弁護士)は、決して悪いことはないとしています。私も、なるほど、そうなのかと、反省させられました。
 保険会社に有利な和解を成立させるために救急車を追いかけている保険会社の査定係と渡り合う一般の弁護士が嫌われる合理的な理由はない。むしろ、彼らは、一般市民が大企業と対等に戦うため、不公平な土俵を平にする役目を果たしている。
 そして、弁護士が広告を出して「訴訟を煽っている」と世間が非難するのもおかしいと批判します。
 訴訟が増えることは大企業にとってはよくないことかもしれないが、社会にとっては良いこと、とりわけ力のないものが力のあるものに対して訴訟するのは良いことだ。
 訴訟が多いことを非難するのは、金持ち、権力者、他人を搾取する者にとっては非難に値するものであっても、貧乏人や権力を持たないもの、被害者にとっては不利になる。
 このような非難は、訴訟が多くなることによって失うものが多い企業が組織したものである。
 ふむふむ、なるほど、なるほど、たしかにそう言えますよね。
 著者は、アメリカの裁判官に対しても大変きびしい見方をしています。アメリカでは、裁判官が今ある地位につけたのは、政党政治にうまく関わって来たからだ。
 ゴアとブッシュの選挙で、連邦最高裁の裁判官はゴアに勝たせたくないために、判例をねじまげた。
 古くは、ナチスによるユダヤ人虐殺の事実を告げられたユダヤ人のフランクフルター判事は、ルーズベルトにとても信用してもらえそうもない報告をして、自分の信用に傷がつくのを恐れて、真実を告げるのを拒んだ。うーん、そういうことがあったのですか……。
 アメリカの裁判官も、より高い地位に昇りたいと考えている。ほとんどの裁判官は、政党や政治家に忠誠をつくすことで裁判官になる。裁判官というのは、そもそも政治的な存在である。なーるほど、そうなんですね。
 弁護士についてのアドバイスも、とてもシビアです。
 誰にでも好かれるケーキのような弁護士になってはいけない。対峙主義の制度で働く弁護士であるにもかかわらず、もし誰からも好かれるというときには、その弁護士のしていることは、どこかが間違っている。
 弁護士は、仕事を愛しすぎてはいけないし、法律を愛してもいけない。法律は道具であり、仕組みであり、知識の集合体にすぎないからである。
 一流の法廷弁護士のほとんどが、一流のロースクールの卒業生ではない。事件は、準備段階で勝ち負けが決まる。一生懸命に働く以外にはないのだ。
 この本で、アメリカでは被告人に証言させないことが原則だという理由をはじめて理解できました。陪審員が、被告人の証言が信用できるかどうかばかりに気をとられて、他の証言の信用性の検討がおろそかになってしまうからだというわけです。これまた、なるほどと思いました。
 大変、実践的に勉強になる本でした。とりわけ若手弁護士の皆さんに一読することを強くお勧めします。
 
(2008年1月刊。1900円+税)

プレカリアートの憂鬱

カテゴリー:社会

著者 雨宮 処凛、 出版 講談社
 今の日本で「安心して働けている人」は上部のほんのひと握りで、ほとんどの人は正規雇用でも非正規雇用でも、浅瀬でおぼれるような不安定な日々を強いられている。そんな人々すべてがプレカリアートなのだ。
 生活保護に対するヒステリックなバッシングは、激しくなっているように思える。自己責任という言葉が浸透してから、この国の人々は明らかに残酷になっているのではないか。
 中東で自爆攻撃して死んだ人間より、日本で自殺した人の方がはるかに多い。そうです。年に3万人以上の人が自死を選んでいます。飛び込み自殺のため、東京の中央線はたびたびダイヤが乱れるので有名ですが、このところ西鉄でも相次いでいて不気味です。
 もちろん、自死を選ぶ理由にはさまざまなものがあるでしょうが、その少なくない部分を経済苦、つまり借金を抱えての悩み、が占めています。解決できない借金はない、と、私は声を大にして叫びたい気持ちです。
 大阪のあるシングルマザーは、夜の仕事に出かける前、小さな子どもに睡眠薬を飲ませるというのです。子どもが夜中に目が覚めて、母親を探し求めて泣いたら可哀想だという理由からです。
 この話を聞いて、なんてひどい母親だと責めるのではなく、なんてひどい冷たい社会なんだと考え直してほしいと若者は訴えています。なるほど、そうですよね。私の依頼者にも、昼も夜も仕事しているシングルマザーがいました。大変なんですよね。幼い子供をかかえて育てあげるというのは。少子化対策の充実というのなら、こんなシングルマザー(ファーザーも)への補助金の充実こそ必要ではないでしょうか。
 国際人権規約を締結した国のうちで、「高等教育の無償化」が進んでいないのは、日本とルワンダとマダガスカルだけ。日本は、国連から高等教育を無償にするよう迫られている。
 ええーっ、そ、そうなんですか。ちっとも知りませんでした。一刻も早く実現するべきですよ。人材育成に国はもっとお金をつぎこむべきです。
 司法修習生に対して給与を支給しなくなることになっていますが、本当に日本ってケチくさい国です。大きな橋や高速道路をつくる前に、人材育成・教育にこそお金をもっとつかうべきです。
この飽食時代の現代日本で餓死が起きるなんて信じがたいことだが、この11年で、なんと867人もの餓死者が出ている。
 むむむ、これって、許し難いことです。消費税率を上げることばかり考えている政府ですが、こんな現実を変えることこそ先決でしょう。
 格差をなくせ、というのではなく、格差の底辺にいる膨大な貧困層の生存権を問題にしている。
 まるで戦前のプロレタリア小説の表紙を思わせる表紙のついた本ですが、中身はまさに現代日本の貧困問題を真正面からとらえた真面目な本です。知らなかった日本の現実を大いに学ばされる本でもありました。
 
(2009年2月刊。1500円+税)

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