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将軍様の錬金術

カテゴリー:朝鮮・韓国

著者 金 賛汀、 出版 新潮新書
 大学生のころ、朝鮮大学校の学生との交流会に参加したことがありました。彼らの発言がとても自覚的というか、目的意識が鮮明であったことに衝撃を覚えました。その知的レベルの高さにも圧倒されてしまいました。
 この本の著者も、世代は少し上ですが、朝鮮大学校の卒業生です。朝鮮総連の活動家でもあったようです。私も弁護士になってから、総連の地域活動家の方々とは接触する機会がありました。民団の役員さんよりは多かったように思います。いつも、すごいなあと感心してしまいました。今では、民団の人とも接触はありませんが、総連だと名乗る人と会うことは久しくありません。まったく様変わりしてしまいました。この本を読んで、それもなるほどだと思いました。
 朝銀のなかに、学習組(がくしゅうそ)という秘密組織がつくられ、朝銀を朝鮮総連に服従させるうえで大きな役割を果たしてきた。これは、建て前は、朝鮮労働党の政策学習会であるが、実態は朝鮮労働党の日本分局として機能していた。
 この学習組は、1980年ころまでに、総連活動家に対して金日成に忠誠を誓わせ、北朝鮮の政策に従わせる重要な役割をもった秘密組織としてつくられた。
 朝銀破たんの最大の要因は、総連が「学習組」を朝銀支配の道具としてつかい、人事権を振り回し、イエスマンを理事長に就任させ、融資を引き出す放漫経営と、その一部を北朝鮮に献金するという、歪んだ状況がもたらしたものである。
 そして、朝銀破たんの遠因の一つは、北朝鮮経済の破たんにあった。
 朝鮮総連中央は、北朝鮮の求めに応じて献金するため、直営のパチンコ店をはじめた。「財政委員会」直属の「インターナショナル企画」という商社がパチンコ店の運営にあたった。都心の、既に同胞のパチンコ店があるところに、45億円もかけた豪華なパチンコ店を1993年春、オープンさせた。ところが、パチンコ店はバブル崩壊とともに経営に行きづまった。
 もう一つ、地上げにも朝鮮総連中央は手を染めた。必要な資金を朝銀に出させようという地上げ屋と、地上げ屋を使って利益をあげ、北朝鮮に献金するお金を調達しようとする総連中央の思惑が一致し、地上げ屋が朝鮮総連の周辺で暗躍する状況を生み出した。
 名古屋では200億円の資金をつぎ込んで20億円の利益をあげ、大阪では60億円の投資で40億円の利益をあげた。しかし、北九州では完全な失敗に終わった。
 さらにゴルフ場開発計画でも100億円つぎ込んで失敗した。
 1997年に起きた朝銀大阪の破たんは、日本社会でそれほど大きな話題にはならなかった。その時点では、数年後に1兆数千億円もの公的資金投入の始まりになるとは誰も予測しなかったからだ。ところが、朝銀大阪が経営破たんしたとき、抱えていた不良債権は500億円を超えていた。このときには、朝銀再生に必要なものとして、公金3100億円が投入された。
 ところが1999年5月、13の朝銀が経営破たんした。朝銀東京は、総連中央に直結する不正融資の温床である。2002年4月、認可された4信組の理事長会員が総連の中核組織である学習組の組員であることが発覚した。そこで、総連中央は学習組の解散を通達した。ところが、いまでは「学習組」は名前を変えて復活し、総連組織の指導部に君臨している。
 朝銀に一兆4000億円もの公的資金が投入されて一番の被害者は、一般の在日朝鮮人であり、朝鮮総連と北朝鮮である。そして、もっとも利益を得たのは日本政府だ。朝鮮総連の力が大きく減退し、その脅威なるものは、ほとんど消滅した。日本政府は、このことで大いなる利益を得ている。というのも、朝銀を丸々買い取ったようなものだから。なーるほど、ですね。
 在日朝鮮人の大変な苦労が正当に報われていないことが大変気になる本でした。
ホタルが飛び交い始めました。昨日(19日)、我が家から歩いて5分のところにあるホタルの里に出かけました。竹林のそばに小さな川が流れていて、毎年ホタルが出てきます。
 5月連休が終わると、やがてホタルが飛び交うようになります。まだ数は多くないのですが、フワリフワリとホタルが明滅しながら飛んでいました。足もとの草むらにもホタルが光っていましたので、そっと手を差し伸べると、手のひらに2匹のってくれました。不思議なほどまったく重さを感じません。しばらく手のひらで明滅するホタルを眺めたあと、そっと息を吹きかけて飛ばしました。フワリフンワリと飛んでいきました。
 ホタルは初夏の風物詩として欠かせません。
 
(2009年3月刊。720円+税)

古典への招待(下巻)

カテゴリー:社会

著者 不破 哲三、 出版 新日本出版社
 大学生のころ、必死になってマルクスやレーニンの書いた本を読んでいました。もちろん、私ひとりではなく、周囲の学生もかなり読んでいて、読まない学生のほうが肩身の狭い思いをしていました。マルクスの哲学の本はかなり難解で、何回読んでもよく分からないところがありましたが、それでも物事を表面的に眺めるのではなくて、その本質をつかんで考える上では、とても勉強になりました。
 この本は、そんな気持ちを取り戻したくて、久しぶりに読んだというわけです。今回もまた、なるほど、そういうことだったのか、と何度も目を開かされる思いをしました。良く分からないところも多かったのですが、著者が今日的視点からの解説をしてくれていますので、分かるところも多々ありました。
 ヘーゲルは、現実的なものはすべて合理的であり、合理的なものはすべて現実的である、と言った。これは、あわてて読むと、今存在しているものがすべて理性にかなったもので、現存している体制のすべてを賛美する哲学のように聞こえる。
 しかし、ヘーゲル哲学は、そんな単純なものではない。「現実性」というのは、ただ現に存在しているというだけでは足りない。どんな事物も、それが合理的であるときに、はじめて必然的な現実となる。いま存在しているものでも、現実の諸条件に合わず、合理性を失ったときには、非現実に転化する。そのときには、現状維持ではなく、現状を変革する革命が現実的なものになる。ここにヘーゲルの命題の真意がある。つまり、現実的なものはすべて合理的であるという命題は、すべて現存しているものは滅亡するにあたいするという命題に解消する。
 うむむ、なんという逆転解釈でしょうか……。
 世界は、出来上がっている諸事物の複合体としてではなく、諸過程の複合体としてとらえられねばならず、そこでは見かけのうえで固定的な諸事物も、われわれの頭脳にあるそれら諸事物の思想上の映像、つまり概念におとらず、生成と消滅のたえまない変化のうちにあり、この変化のうちで、見かけのうえでは偶然的なすべてのものごとにあっても、また、あらゆる一時的な後退が生じても、結局は、一つの前進的発展が貫かれているという偉大な根本思想がある。
 自分が社会によって生み出されながら、経済的基礎との関連を忘れ去り、独立した力としてふるまうこと、エンゲルスはこの見かけ上の独立性を、上部構造に属する社会的意識形態の共通の特徴としてとらえ、これをイデオロギーと呼んだ。国家は上部構造の全体のなかでも、経済的基礎にもっとも接近した位置にある存在である。
 国家の見かけ上の独立性、そのイデオロギー的性格は、国家の機能の一部を専門的に担う職業的政治家や法律家の登場とともに、いよいよ強固なものとなる。これらの人々のところでは、政治や法律と支配階級の要求など、経済的事実との関係は、意識的に断ち切られる。
 上部構造は、国家などの社会組織やさまざまな社会的意識形体からなるが、これらは全体として、究極的には、経済的関係によって規定される。しかし、経済関係に規定されているという関係は、目に見える形で表面に表れているものではなく、その思想や観念の領域が物質的過程から離れるほど、あいだにいくつもの中間項が介在し、よりこみいった関連性は隠れてしまう。
 イデオロギーと経済的関係との関連は、イデオロギーの諸形態の当事者たちには意識されず、忘れ去られる。自分が独立した歴史と論理を持つ、独立した思想領域だと思い込むからこそ、イデオロギーはイデオロギーとして、社会的機能を果たす。
 今の日本をよくよくとらえ直して見るときの思考にも大変役に立つ本だと思いました。
 
(2009年4月刊。1700円+税)

蝶の道

カテゴリー:生物

著者 海野 和男、 出版 東京農工大学出版会
 いのちあふれ、きらきらと輝く蝶の写真にただただ圧倒されます。魚眼レンズですから、蝶が目の前をヒラヒラ飛んでいるようです。
 蝶は水たまりから水を飲む習性がある。土から溶け出したミネラル分を摂取するためだ。ただ、不思議なことに、集まるのは全部オスの蝶だ。
 なんと、蝶が勢いよくオシッコしている写真まであるのです。すごい、ですよ。水をたくさん飲んでは、しょっちゅう排出するのです。
 蝶にも飛んでいく蝶道がある。沢沿いに、開けた林道に沿って蝶道があり、そこでカメラを構えて待ち続ける。魚眼レンズを使っても、蝶までわずか1センチというところまで近づくため、逃げらることも多い。
 蝶は、同じ種類同士で集まる習性がある。一匹が水を飲みに地面に降りると、まわりを飛んでいた同種の蝶も次々に舞い降りて、集団をつくる。繁盛しているレストランに、さらに人が集まるのに似ている。
 蝶は、子孫を残すために交尾をする。オスの仕事はメスを探すこと。オスがとどまらずに草むらをとんでいたら、メスを探していると思っていい。それに対して、メスの仕事は卵を産むこと。メスが飛んでいるのは、産卵に適した植物を探しているのだ。
 蝶は交尾しながら飛ぶこともある。たいていは、交尾直後に安全な場所に移動しようとするからだ。オスとメスのどちらが飛ぶかは、種によって決まっている。モンシロチョウの場合は、オスがメスをぶら下げて飛ぶ。
 モンキチョウのメスは、オスに誘われると交尾する気がなくても後をついて飛ぶという面白い習性がある。
 モンシロチョウは、農薬を使わない家庭菜園に多い。モンシロチョウが食べているキャベツなら、人間も安心して食べられる。
 いやあ、そうなんですか。実際にキャベツを栽培してみたことがあります。そのとき、その大変さが身にしみて分かりました。毎日毎日、青虫取りに追われるのです。割りバシを使って青虫をつまんで踏みつぶす作業を続けましたが、とても追いつかず、まさしく虫食いだらけのキャベツとなり、人間はあえなくモンシロチョウに敗退してしまいました。2年ほどキャベツづくりに挑戦しましたが、ついに断念してしまいました。ということは、いま、店頭に並んでいる見事なキャベツには相当の農薬がふりかけてあるはずです。
 表紙にある蝶の道の写真は、アマゾン(ペルー)の林道だということです。色とりどりのおびただしい蝶が舞う道です。こんな道が12キロも続いているというのですから、地球は広いですね。心の軽くなる、豪華絢爛たる蝶の写真集です。
 
(2009年2月刊。3600円+税)

手ごわい頭脳

カテゴリー:アメリカ

著者 コリン・P・A・ジョーンズ、 出版 新潮新書
 アメリカのロースクールは3年制で、1年目が一番重要である。残りの2年間は、ほとんど自分の興味のある分野を勉強して、卒業に必要な単位を揃えればいい。しかし、1年目は必須の基礎科目を勉強しなければならない。ロースクールで教えられるのは、主としてそれぞれの分野の一般原則だ。
 ロースクールの学生たちが身につけるもの、それは「弁護士の思考法」だ。
 アメリカの陪審員制度は、日本の裁判員制度とは根本的に違う。たとえば、アメリカの陪審員は、裁判員がクロと思い、世論の9割もそう思っていても、被告を「シロ」にできる、すごい権限を持っている。それは、アメリカの法律制度は、政府に対する深い不信を大前提にしているからだ。
 アメリカの陪審は、法律を無視することができる。明確な法律違反があっても、被告に有利な評決を下すことが出来る。そして、検察は無罪判決に対して上訴することが出来ない。うむむ、このように断言できるというのでは、たしかに日本とはまったく違います。
 弁護士は、クライアント(依頼者)の目的を達成するために全力をつくさなければならず、弁護士本人の良心やモラルをその過程に挿入する場面は原則として存在しない。
 アメリカの弁護士は、ロースクールでサイコパス(精神病質者)としてのトレーニングを受けていると主張する心理学者がいるが、そのとおりだ。自分がまったく信じていない主張を、強く信じているかのように平然と主張できることは、通常の人なら精神病にかかっている証(あかし)となる。しかし、そのように主張することこそが、弁護士の仕事なのだ。
 弁護士が、自らクライアントの主張を信じていないような事件、自分の両親が引き受けるのを許さないような事件を引受けて、一生けん命に依頼者のために努力出来ないのであれば、社会的に嫌われている人たちや不合理な偏見に苦しんでいる弱者の権利は誰が守れるのか。そうなんです。なぜ悪い者の弁護士をするのかと問われることがあります。でも、それこそ弁護士としての仕事なのですと答えますが、なかなか分かってもらえません。
 弁護士の役割は、各市民がそれぞれ「正しい」と思っていることを、自ら法律制度を利用して追求するための手助けをすることに過ぎない。アメリカの弁護士の思考の根底はここにある。
 著者はニューヨークで10年のあいだアメリカの弁護士としてキャリアを積んだあと、2005年4月から日本のロースクールの教員として現在まで活躍している人です。アメリカの日本の弁護士の思考方法の違いと共通項がよく分かり、とても興味深い本でした。
 
(2008年10月刊。680円+税)

絶対貧困

カテゴリー:アジア

著者 石井 光太、 出版 光文社
 アジアからアフリカまで、スラム街などの貧困地帯に体当たり取材をした著者による総集編というべき本です。改めて、問題の所在を認識させられました。
 世界リアル貧困学講義として全14回に分けて展開されます。そして内容は、スラム編、路上生活編、売春編と、三つに分かれています。いずれも、なるほど、そういうことなのか、と思わされる内容ばかりです。
 スラムの住人は、不潔なところに住むため、感染症にかかり、バタバタと死んでいる。スラムの中では免疫力のある人だけが生き残るという自然淘汰がなされている。
 5歳児未満の死亡率(1000人あたり)は、日本で4人、アメリカで8人であるのに対して、アフガニスタンでは257人、シエラレオネでは270人となっている。これって、とてもすごい、悲惨なことですね。
 大麻は、人々が公園で堂々と楽しんでいる。ヘロイン中毒者たちは物陰に隠れて吸っている。売り手はあまりもうからず、その裏にいる密売組織だけがもうかる。
 銃の価値はアフリカが一番安い。カラシニコフ(AK47)は、もとは1万円したが、今では3000円とか、ついには1000円にまで落ち込んでいる。
 しかし、スラムは決して恐ろしいところではない。スラムに暮らす9割の人が表の仕事をし、正義感を持ち、立派に生きている。スポーツだって、勉強だってしている。もし、本当に危険なところなら、著者がちょこっと行って、写真までとって帰ってこれるわけがない。なーるほど、そうなんでしょうね。でも、それにしても、著者って勇気ありますよね。
 スラムは、全体としては明るい地区ではあるが、一部の人は隠れたところで、犯罪に手を染めている。そうなんでしょうね。ただ、そこから脱出するのは大変なことでしょう。
 日本に来ているフィリピンの女性たちは、親族全員の生活を背負って出稼ぎに来ているのだから、取れるところからは徹底的に取る。本国に送金しても、その恩恵に多くの人があずかろうとして寄ってたかって吸い上げるため、これだけ稼いだら十分ということはない。だから、10年間も働き続けて、1000万円以上も送金してきたのに、本国に帰ってみたら、実家はいっそう貧しくなっていたなんてこともざらにある。うひゃあ、そ、それはたまりませんね。
 出稼ぎ労働者の多くは、背水の陣で海外に出ており、夢破れたからといっておいそれと帰れるような状況ではないので、そうした人々が外国人路上生活者として年に居着くようになる。
 ストリートチルドレンの多くは、幼いうちに死亡する。薬物による中毒死、酩酊状態のときに事故に巻き込まれる、感染症による死、栄養失調など。そして、ストリートチルドレンには、トラウマがつきまとう。
マフィアのような犯罪組織が手がける、レンタルチャイルド・ビジネスとは、赤子を誘拐して数年間は貸し出し用として使う。その子が6歳になったら、一人で物乞いさせ、儲けの全部を奪う。インドの犯罪組織は、誘拐してきた子どもに障害を負わせて、大金を稼がせようとする。障害児となった子どもたちは、共存していくために、マフィアへの恐怖や恨みをすべて忘れ去り、自分が悪かったから目をつぶされたのだと自らを納得させようとする。
 なんということでしょうか……。おー、マイガッ、です。なんてひどい話でしょう。
 アフリカでは地域によって、売春婦の9割以上がHIVに感染している。途上国では、なんとか一日2~3食を食べていくために売春するという意味合いが強い。
 貧困の現実を知るきっかけとなる本でした。目をそむけてはいけないと現実があるのだと思いました。
(2009年3月刊。1500円+税)

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