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公平・無料・国営を貫く英国の医療改革

カテゴリー:ヨーロッパ

著者 武内 和久・竹之下 泰志、 出版 集英社新書
 イギリスといえば、ゆりかごから墓場まで、福祉を大切にする国と学校で教わったことを思い出します。それでも、鉄の女サッチャーが福祉をメチャクチャにしたというイメージが強くありますし、なにしろ、いつもアメリカに追随して海外派兵する国だと思っていましたので、映画『シッコ』(マイケル・ムーア監督)を見たときは大変おどろきました。
 ええっ、イギリスって医療費がタダなの……?この本は、イギリスにおける公平・無料・国営の医療制度の現状を知らせ、その動向を分析しています。
 日本は、低医療費国家である。先進国のなかで、日本は30カ国のうち21位、G7のうちで最下位。
 無料で公平な医療を全国民に、これがイギリスの医療制度の理想だ。ただ、発足して60年がたち、非効率、悪平等、画一的という欠点も目立つ。
 イギリスの医療制度は、社会保険によらず、税方式で運営されている。治療には患者負担がなく、無料でサービスが受けられる。イギリスでは、出産も無料である。いざというとき、病院に無料でかかれるというのは何より安心だ。国民の絶大な支持がある。
国民はまず、地元からの診療所で、かかりつけ医(GP)の診察を受けなければならない。GPは、住民1500人~2000人に対して1人の割合で、全国的にほぼ平均に配置されている。医療費全体の3分の1がGPで使われる。
 イギリス医療システム(NHS)は、150万人を傘下に収める世界最大級の雇用主だ。サービスや医師の水準は、他の先進国と遜色ないと評価されている。
 イギリスも社会階層間の平均寿命の格差が拡大し続けている。1971年時点で、死亡率は最大2倍の差があり、1998年時点では、さらに3倍に拡大していた。
 医師は完全な公務員ではなく、意欲的な医師は自分で収入を増やす選択肢が残されている。NHSで働く医師は、ある程度の生活と労働環境は保障されているが、大きな収入を得る可能性は低い。そして、イギリスの医師には国家試験がない。
イギリスの医療制度に日本は学ぶべきところが大きいと思いました。オバマさんが苦労しているアメリカなんか、手本にしてはいけません。
 雲仙で久しぶりに地獄を見て廻りました。朝早かったのでまだ誰もいませんでした。空漠として白いゴツゴツした岩肌がむき出しです。硫黄臭い白煙があちこちから噴き出しています。白い濃霧に包まれて一寸先も見えなくなることがあり、しっかり地獄を体験しました。
 可愛いキビタキを見かけたのが救いでした。地獄に仏のような、救われた気がしました。
(2009年7月刊。680円+税)

自民党幹事長室の30年

カテゴリー:社会

著者 奥島 貞雄、 出版 中央公論新社
 自民党本部の奥深いところで30年もの間働いていた人による本です。やや物足りない感もあります。つまり、もっと赤裸々にしてほしかったということです。それでも、それなりに有力政治家たちの実情が紹介されています。
 なかでも、いま再び政権党の幹事長として君臨している小沢一郎に対して、容赦ない酷評が加えられています。まずは、そこから紹介しましょう。
 ワーストワンの幹事長には、ためらうことなく小沢一郎の名前をあげる。ベストは、田中角栄である。小沢一郎が自民党の幹事長になったのは、47歳のとき。田中角栄と同じ年齢だった。
 小沢一郎はもともとしゃべるのが得意ではなかった。せいぜい、雑誌という媒体が似合っていた。ゲラの段階で手直しできるからだ。
 小沢一郎は、自民党幹事長でありながら、どうにも我慢ならない行動が目についた。昼時になると、決まって自派の若手代議士を5~6人ほどと一緒に幹事長室の奥の個室で食事をとりながら懇談していた。幹事長室に議員を引きずりこんで、自分のシンパ拡大工作に励んだ政治家はほかにいない。
 小沢は通産省の官僚を接待した二日酔いのため、年に一度の自民党全国幹事長会議をすっぽかしてしまった。それでも、夕方からの総理との会議には出席していた。このように小沢一郎のウラオモテの極端な落差の大きさは、許容限度を超えるものがあった。
 世の中を、なめるんじゃないぞ。
これは、そのときの著者の小沢一郎への怒りの言葉です。
 小沢一郎は、東京都知事選で自民党から候補を立てながらも、自身は告示のあと外遊に出かけていた。うむむ、なんということ……。
 小沢一郎は、苦労らしきものをしていない。
 田中を見限った小沢は、やがて金丸信や竹下も裏切る。
 小沢一郎は、自民党の幹事長としては不適任な人材だった。
 いやあ、ここまで悪口かかれるかと思うほどです。小沢一郎に、いかに人徳がないかを示しているのでしょうね。
 自民党内のお金の流れなど、もっともっと知りたいことはあり、もどかしくなってしまうのですが、自民党政治家の正体を知る手掛かりにはなる本だと思いました。
 島原半島の雲仙に行ってきました。帰りに少し足をのばして、原城跡へまわってみました。初めてです。国道からせまい道を入っていくのですが、くねくねと曲った道でした。だんだん高くなっていきますが、西側は畑になっています。奥まった高台が本丸跡ということです。海に面した絶壁です。海からの上陸は難しかったことでしょう。遠くに天草の島々が見えました。ここに3万人もの人々が立てこもり、80日ほどの籠城戦をもちこたえ、ついに全員虐殺されたかと思うと感無量でした。
 赤い可愛いコスモスの花が、本丸跡への道路脇に咲いていました。
 
(2002年12月刊。2200円+税)

先生、子リスたちがイタチを攻撃しています!

カテゴリー:生物

著者 小林 朋道、 出版 築地書館
 大好評の先生シリーズです。毎回、私も楽しく読ませていただいています。
 私も、動物を飼育してみたいという気持ちはあるのですが、あちこち旅行もしたいし、両立できませんので、あきらめています。本当は犬を飼って、毎日散歩したいのです。
 といっても、我が家の庭にはモグラがいますし、ヘビもいます。そして、夜になるとヤモリが窓に貼りつきます。小鳥はキジバトそしてヒヨドリは常連です。もちろん、スズメ軍団もいます。春にはメジロ、そしてウグイス、さらにはカワラヒラなどもやって来ます。山のふもとの近くに住んでいますから、それなりに豊かな自然に恵まれています。ただし、モグラは生きた姿では見たことがありません。見るのは、地上の死骸となっているときです。庭のあちこちに土が盛り上がりますので、何頭ものモグラがいることは間違いありません。
 ヘビの姿の方は、幸いにして最近は見かけません。ただし、庭に出るときには、思わぬ遭遇ということにならないように用心しています。
 先生シリーズは、鳥取環境大学で動物行動学と人間比較行動学を専門にする小林先生の日常生活が愉快なタッチで紹介されています。微笑みながら、動物と人間の行動科学が学べるという勝れものの本です。
 イタチ科の動物であるフェレットを飼育したときの顛末は面白いのですが、その顔写真がなんとも可愛らしいのです。いやあ、これはぜひ飼ってみたいと思いました。実際に飼うと大変なんでしょうね……。
 シマリスの子どもたちがカタカタカタという音を一斉に立てて、イタチ(フェレット)を撃退するのは実証する実験は面白いものです。やはり、学者になるには、少し奇抜な発想のできることが必要なんですね。ということは、やっぱり学者は変人に限る、ということでしょうか…(おっと、失礼しました)。
 ヤモリは家守り。イモリは井守り。ヤモリは爬虫類、イモリは両生類。ヤモリの尿は、白色のねっとりとした半固体状、イモリの尿は液体。
 アカハライモリの生態を探求するためには川岸のアシを夜中に鎌で刈りつくす作業が必要となる。その作業のため、小林先生は、ついに腱鞘炎となり、両手首にサポーターを巻かざるをえなくなりました。学者って、それほど大変な職業なんですね。いやはや、学者なんてならなくて良かったと私は思ったことです。本を読むだけなら、私も出来ますから…。
 モグラはミミズだけでなく、セミも食べる。私は、初めて知りました。そういえば、うちの庭にも、もちろんセミの幼虫はいます。7年ほども地中にいて、地上ではわずか1週間の生命というはかなさです。
 面白いシリーズの本です。どうか、引き続き、がんばって面白い本を書いてくださいね。
(2009年8月刊。1600円+税)

ハッブル望遠鏡で見る宇宙の驚異

カテゴリー:宇宙

著者 ビバマンボ・小野夏子、 出版 講談社ブルーバックス新書
 毎年、夏の終わりには、寝る前、2階のベランダに出て望遠鏡で月面を観察することにしています。ところが、今年は例年になく、月面を観察することができませんでした。
 天候不順だったとしか言いようがありません。それでも、望遠鏡から覗く月世界は、いつものように「平和の海」をゆくりなく、さらけ出して見せてくれました。寝る前に心の落ち着くひとときです。
 ハッブル望遠鏡で宇宙をのぞいたら、どんな世界が見えるのか楽しみですよね。この本は、見事なカラー写真で、宇宙の果てまでの素晴らしさを味わわせてくれます。
 ハッブル望遠鏡は地上にはない。それは、スペースシャトル・ディスカバリー号で宇宙に打ち上げられた、口径2.4メートルの望遠鏡である。
 地上から天体観測すると、大気の揺らぎの影響が避けられない。それは、川底から空を眺めるようなもの。ところが宇宙へ飛び出したハッブル宇宙望遠鏡は、大気の揺らぎから解放された、初めての望遠鏡である。
 ともかく素晴らしいのです。カラー写真で、この宇宙のさまざまな銀河、星団そして大小さまざまな星がとらえられています。ちっぽけな自分という存在を、しばし忘れさせてくれるのがこの宇宙の星々です。すごいですよね。だって、120~130億光年のかなたの光をとらえたとか言うんです。これって、宇宙の創世記のころの話です。
宇宙に始まりはあるのか、また、終末はあるのか……。考えさせられます。無から有が生じたのか。それとも、ふくらんだりしぼんだりして際限のない世界のなかで生命は翻弄されているのか。いやあ、知りたいものです。
 人間の一生はせいぜい100年。ところが、万年単位ではなく、億年単位で物事を考えようとする人がいるのです。いやはや、無限の宇宙には脱帽です。
 
(2009年7月刊。1429円+税)

縞模様のパジャマの少年

カテゴリー:ヨーロッパ

著者 ジョン・ボイン、 出版 岩波書店
 映画を見損なったので、せめて本を読もうと思ったのでした。ナチスがつくったユダヤ人の強制収容所には、いくつかの種類があったようです。選別して殺すだけの絶滅収容所。働かせられる労働者を選別して働かせていた強制労働所です。
 この本は、恐らく絶滅収容所を舞台にしているのでしょうか、実際にはあり得ない、収容所内外の子どもの交流を描いています。収容所の責任者として家族連れで着任してきたナチス親衛隊の高官には、9歳の息子と12歳の娘がいたのです。その9歳の男の子が、友達ほしさに収容所周辺をうろうろしているうちに、縞(しま)模様のパジャマを着た少年と仲良くなってしまうのです。
 実際、収容所の周辺にいた人々との交流が皆無ではなかったようです。でも、子どもが1対1で話し込む状況というのは、いくらなんでもありえなかったのではないでしょうか……。
 しかし、あり得ないことを本の中では可能として、それを通じていろんなことを考えさせるのが作家の腕前です。この本を書いた著者は、なんと1971年にイギリスで生まれています。やはり、想像力が豊かなのです。
 ありえないことを、ありえることとして、ナチス高官の息子が収容所に入れられて死を待つユダヤ人の子どもと交流したらどういう展開になるのか、それを考えさせてくれるのです。やはり、映画そのものを見たかったものだと思ったことでした。
 
(2009年5月刊。1800円+税)

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