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人間はどこから来たのか、どこへ行くのか

カテゴリー:人間

 著者 高間 大介、 角川文庫 出版 
 
 いま同じ日本に住んでいる、同じ日本人といっても、その先祖が日本にたどり着いた経路はさまざま。日本にホモ・サピエンスが到達したのは、3万年から4万年前のこと。主な3ルートのうち、北のサハリンルートから人が入ってきたのはもっとも遅く、2万年前以降のこと。日本にやってきたのと同じ祖先の別の一派がアメリカ大陸を南下して遠くペルーにまで到達した。
 DNA分析によると、たしかに人類は一つなのである。ホモ・サピエンスは、およそ15万年前にアフリカで誕生し、世界各地で進化した。彼ら以外のヒトを駆逐しながら、全世界に広がっていき、置き換わっていった。
 人類(ヒト)の出アフリカは、わずか1回ないし数回の出来事だった。その規模も、一番少ない見積もりで150人、大きくても2000人。それが全世界に広がっていった。うひゃあ、人間ってわずか2000人足らずだったのですか・・・・。いまは、68億人になっています。
人類がアフリカから出たのは、7万年前から5万年前のこと。5万年前には、オーストラリアにいた。アフリカを出たあと、海づたいに食べ物を探しながら歩いていった。ヒトがアメリカ大陸を縦断したのは、かなり早く、1万年もかかっていない。
 人類の旅の締めくくりは南太平洋の島々への移住。その始まりは台湾。6000年前台湾にいた人々が南下を始め、フィリピンの島々を経て、パプアニューギニアに到達した。3000年前にはフィジー諸島などのメラネシアへ。さらに1500年前にポリネシアのハワイ、そしてモアイ像で有名なイースター島にたどり着いた。この旅は周到に計算されていた。船は、常に風に逆らって進み、新しい島が見つからないときには引き返していった。これを証明できるものとして、タロイモやバナナ、ヤシの実などは、南の島の産物ではなく、台湾やフィリピンなどの、アジア原産の植物だということがある。
 ヒトは霊長類のなかで、唯一、性を秘匿し、食を公開した種である。
 ヒトは体毛の薄い裸のサルであり、直立するサルである。人間社会には、食は共同で確保するという大原則がある。狩猟採集民には、食料を配る役目は子どものことが多い。
 人間の育児能力は圧倒的に高い。その例証が双子である。野生のゴリラやチンパンジーでは双子が生まれても育ちにくい。
 ゴリラの出産間隔は4年、チンパンジーは5年、オランウータンは8年。ところが人間は、出産後40日すると妊娠可能になる。だから、年子の兄弟姉妹は珍しくない。ちなみに私も年子の弟です。
 類人猿の母親は、長いあいだ一頭の子どもに母乳を与え続ける。授乳期間中は発情ホルモンが抑制されるため、排卵しないので、新たに妊娠することはできない。
 ヒトの祖先は、隠れる場所が少なく、これといった武器を持たなかったから肉食獣にたびたび襲われた。とくに子どもが狙われた。そのため死亡率の高い人類は、それを補うため多産にならざるをえなかった・・・・。ヒトがアフリカから出ていった背景には、人口増加があったと考えられる。
 人間は他人に何かを尋ねられ、その答えを考えているときには、目を頻繁にそらす。質問した相手の顔をじっと見ていない。それは、自分はちゃんと考えていることを相手に知らせる社会的なシグナルなのだ。無人販売所に目を強調したポスターを貼っておくと、それだけでちゃんとお金を払う人が増える。ええーっ、そんなに人の目を気にするんですか・・・・。
 20歳前後の、これから繁殖を開始しようとする時期の男性が一番殺人が多い。
 人間も、言葉をしゃべる前は歌、オスがメスに求愛のための歌を歌ったり、歌と一緒にダンスしていた。それがどんどん複雑になっていった。そんな歴史があって言葉ができあがった。そうなんですか・・・・。
わずか300頁ほどの本なのですが、とても考えさせられる、刺激的な話がもり沢山でした。あなたもぜひ読んでみてください。
 
(2010年6月刊。590円+税)

倭人伝を読みなおす

カテゴリー:日本史(古代史)

 著者 森 浩一、 ちくま新書 出版 
 
 最近のことですが、奴(な)の国のあった春日市へ行ってきました。ずっと前からぜひ行きたかった須玖岡本遺跡を見てきたのです。
 奴国は1世紀の中ごろは、単独で後漢(中国)に使者を送るほどの大国だった。倭人伝に記されている奴国は、それより200年ほど後の姿である。人口は2万戸あって、北部九州の女王国を構成する国々のなかでは、抜きんでた大国だった。3世紀の奴国は、女王国に属しているとはいえ、卑弥呼が景初3年に魏に遣使したときの大使は難升米(なしめ)だった。難升米は奴国の王か王族とみられ、魏も難升米を丁重に扱い、銀印や官職を与えた。
江戸時代に志賀島で発見された金印については、偽物説もありましたが、いまでは本物と確定しているようです。
 春日市は、まさに、その奴国のあったところです。住宅地のなかに遺跡と資料館があるのですが、よくみると、実は、そこだけではなく春日市の内外はすべて遺跡なのです。かつての米軍基地が今は自衛隊の駐屯地になっていますが、そこも掘ったら遺跡が出てくるそうです。私は、自衛隊の基地なんか移転させて、きちんと発掘してそれなりに再現すれば、吉野ヶ里遺跡と同じほどに有意義な学術的展示場になり、観光客も集めて、一大産業、町おこしが出来ると思いました。自衛隊が住宅地のど真ん中にあるなんて、時代錯誤でしかありません。
壱岐島にある原(はる)の辻遺跡は私も行ったことがありますが、大集落というより小都市といってよいほどの規模です。かなりの広さがあり、中心部に資料館があって、往時を偲ぶことが出来ます。
この原の辻は、壱岐国(一大国。一支国)の国色(首都)であった。伊都国は、今の糸島市にあった。ここには、古墳時代前期の前方後円墳が数多く築造されている。
 卑弥呼の「以死」について、著者は卑弥呼が魏から見放されて自死したと解しています。
 正始8年(247年)に女王国と狗奴国との戦いが始まった。その知らせを受けた魏は、帯方郡から張政を派遣した。魏は倭国に励ましではなく、厳しい言葉を送って倭の人たちに卑弥呼の政治的失敗を周知させた。つまり、魏の政府は、卑弥呼を見限り、卑弥呼の大夫(部下)だった難升米を引き上げて女王国の代表として扱った。卑弥呼も事態を認識して、従容として死を選んだ。このように、卑弥呼の死は自然死ではなく、倭国を分裂させた責任をとらされての自死とみられる。うひゃあ、そ、そうだったんですか・・・・。「以死」にそんなに深い意味が隠されていたとは・・・・。さすが学者ですね、かないません。
 筑後の山門郡は邪馬台国九州説の古くからの候補地である。門脇禎二氏(故人)も著者も、長らく邪馬台国ヤマト(奈良県)説だったが、大和説と決別して、今や九州説に転換した。うれしいですね。やっぱり九州それも山門郡(今のみやま市)に邪馬台国はあったというんですから・・・・。女山(ぞやま)あたりにそれらしき確たるものが発見されないか、待たれてなりません。
 邪馬台国はヤマト、つまり今の大和(奈良県)にあったというのではないのです。ぜひこの本を読んで、あなたも確信を持ってくださいな。
(2010年8月刊。740円+税)

反貧困、韓国の現場から

カテゴリー:朝鮮・韓国

 東海生活保護利用支援ネットワーク 自費 出版 
 
 韓国に日本のサラ金が進出して、被害を及ぼしているそうです。韓国は日本より金利規制がゆるく、しかも破産すると公務員は失職したり、しかも、まだまだかつての日本と同じように多重債務者となった被害者への風当たりは強いようです。
 この小冊子は、韓国のホームレス支援、生活保護支援の状況を東海地方の弁護士や学者そしてケースワーカーなどの有志が訪問視察したときの報告書です。
 韓国の貧困層は、2007年に320万人、全国の6.7%であり、絶対的貧困層が1%ほどいる。相対的貧困率は13%であり、OECD加盟国の中では、日本が4位(15.7%)で、韓国は6位となっている。高齢者世帯の貧困率も日本と同じように増えている。ただ、女性の貧困率はいくらか減っている。
 韓国の中産層は、1996年に568.6%だったのが、2006年には54.7%へ減少している。これも日本と同じで、格差が拡大している。
 継続的貧困層のなかでは、65歳以上の人が48.4%、女性が34.1%を占めている。
 視察団はソウル市内の6階建ての古びたチョクパン(ドヤ)を見学した。なかは薄暗く、廊下も狭い。家賃は月1万5千円。階段の踊り場に洗濯物が干されている。共同トイレは水洗ではなく、清潔とは言いがたい。風呂はなく、4000ウォンの銭湯に行く。部屋は3畳ほどで、最小限の家財道具を置くと、寝れるだけの広さしかない。
公的機関のチョクパン相談所があるが、洗濯機無料利用、シャワー利用、盆と正月に寄付されたものを配布する程度であり、相談機能は果たしていない。
 韓国の失業者も増加し、2010年1月に失業者121万人。これは昨年に比べて36万人も増えている。国民基礎生活保障法による給付を全国民の3%、150万世帯が受けている。
いま、韓国のホームレスの人は全額無料で医療を受けられる。全国に35ヶ所のシェルターと5つの保護センターがある。地方には30ヶ所のホームレス施設がある。当初の150ヶ所から70ヶ所に下減っている。しかし、ホームレスが半減したわけではない。ソウル市内はホームレスが3000人いると発表している。うち2000人がシェルターに、500人が保護センター、そして残る500人がチョクパン(ドヤ)にいるという。
しかし、民間団体によると、ホームレスは全国に2万人とも10万人とも推測している。
韓国がこの分野でも日本と同じような問題を抱えていること、行政がそれなりの手を打っていることなどを少し知ることが出来ました。 
(2010年8月刊。500円+税)

スウェーデンはなぜ強いのか

カテゴリー:ヨーロッパ

 著者 北岡 孝義、 PHP新書 出版 
 
 スウェーデンは不思議な国である。国民の幸福感は、日本よりはるかに高い。税金の高い国なのに、国民からの反発は小さい。スウェーデンの国民は勤勉であり、労働生産性も日本より高い。福祉が行き届いた国なら、国民はやる気を起こさないはずなのにそうはなっていない。
 国民の政治への参加意識は高く、4年に一度の国政選挙の投票率は、常に8割を超えている。実にうらやましいですね。日本は良くて6割、下手すると半分以下の4割の投票率という低迷ぶりです。これでは日本は良くなりませんよね。あきらめていたら、いつまでたっても政治はいい方へは変わりません。ところが、今の日本は議員を減らせの大合唱ばかりです。マスコミも大きく唱道しています。国会も地方議会も、どんどん議員を減らせというのです。少数異(意)見の尊重どころじゃありません。そして、公務員の人数を減らせ、その給料が高すぎるというばかりです。いやになってしまいます。大企業の経営者が何億円というべらぼうな報酬をもらっていても、まったく問題にはしないのです。おかしな話です。
オンブズマン制度は、スウェーデンでは国営である。これまた驚きですよね。
 教育や医療サービスの分野で、スウェーデンは市場の機能は使われない。原則として、学校や病院は公立か国立であり、政府が運営している。スウェーデンでは、ながく社会主義政権が政権をにぎってきた。しかし、同時に国王をいただいてもきた。しかも、その国王の先祖はフランス人なのだ。ナポレオン配下のフランス人ベルナドッテ将軍が、時のスウェーデン政府に頼まれ、カール14世としてスウェーデン王国として即位した。いやはや、なんと・・・・。
 スウェーデンは、1995年にEUに加盟したが、ユーロは導入していない。
 スウェーデンの消費税は25%。医療費は、20歳以下なら原則として無料。20歳をこえても年間の医療費は上限で1万2000円。これはタダ同然ですね。教育費も原則として大学はもちろん、大学院まで無料。そのうえ、月額1万3000円の児童手当、託児所の無料化がある。
 スウェーデンの福祉は、育児、教育、医療、老人介護は、原則として個人の負担ではなく、国の負担であるという理念にもとづいている。スウェーデンでは女性が働くことが奨励されている。そのため、ソフトとハードの両面の政策が実行された。ソフト面では、女性が社会で働くことはいいことだという徹底した意識改革をすすめた。ハード面では、女性の就業を支援するための経済支援、環境整備である。なーるほど、そうなんです。日本でも少子化対策が必要だというのですから、この二つが欠かせません。
 現在のスウェーデン社会では、離婚は普通のことであり、男女の同棲、母子家庭、父子家庭、片親の異なる兄弟・姉妹はまったく一般的な現象である。スウェーデンの子どもは、このような家庭環境で育つ。だから、個性が強く、精神的に自立心の強い大人に育つのは、しごく当然のことである。うむうむ、そういうことなんですか、なるほどですね。
 スウェーデンという国を知ることによって、日本社会の変革の方向、目指すべき道も明らかになると思いました。
 
(2010年8月刊。0円+税)

ギリシャ危機の真実

カテゴリー:ヨーロッパ

 著者 藤原 章生、 毎日新聞社 出版 
 
 ギリシャには行ったことがありません。パンテノン神殿とか、一度は行ってみたいと思ってはいるのですが、少しは言葉の分かるフランスにどうしても魅かれてしまいます。
 それでも、先の選挙のとき日本がギリシャのようになってはいけないというキャンペーンが自民党や財界筋から出てきましたので、ギリシャの国の実情を知りたいと思って読んだのでした。この本を読んでギリシャの国の一端が少し分かった気になりました。ギリシャって、日本とはかなり異なった国家と国民性がある。つくづくそう思ったことです。
 まず第一に、ギリシャの公務員の総数を政府も把握しきれていないというのです。これには驚きというより、呆れてしまいました。
 公務員は選挙のたびに増え、2009年は2000年に比べて3割増の114万人になった。これは労働人口の21%、雇用者の3分の1に及ぶ。ところが、これは推計であって、実数は政府もつかめていない。
 新たな政権ができると、閣僚の顧問や局長職は総入れ替えになり、閣僚や次官などの政治化が好きなように身内や友人などをそのポストに就ける。このときに臨時雇用だったはずが、いつのまにか正規雇用になっていて、政権が交代しても解雇されない。
官僚の給料は安いので、副業にいそしむ人は多い。これは民間企業でも同じこと。無税で働く非公式のお金、闇経済の社会がギリシャにはある。
 そして、ギリシャの総計はまったく信用できない。実に怪しい数字をもとに算出されたマクロ経済の総計だけでこの国の実態は語れない。
ギリシャでは、政治すなわち公職を得る手段だと思われてきた。特権層に集中していた悪習を、パパンドレウ父首相は、左派の庶民にまで広げてしまった。ギリシャでは縁故主義が根強い。
ギリシャ共産党の得票数は1割でしかなく、議会政治のなかでは、決して主流になれない。しかし、ギリシャでは共産党員は孤立しておらず、庶民の中にふかく浸透している。
 ギリシャ共産党は、庶民の目から見れば、訳の分からないこと、実現しそうもない理想をうたう人々である。しかし、困ったときに、また自分が国の犠牲になったときには親身に相談に乗ってくれる相手である。
 共産党の古臭いスタイルのデモに、ごく一般の穏健な人々から極左まで参加している。そこには、レジスタンスを率いながら、戦後いい目にあえなかった被害者としての歴史がからんでいる。ギリシャ共産党は、主流のプレーヤーにはなれないが、庶民を動かし、世界に国のイメージを植えつける社会の一つのツールとしては機能している。
ギリシャ人は現状にすぐ慣れる。そして変化には強い。今回の危機など、長い歴史の中でみると大したことはない。周りが騒ぎ過ぎているだけ。
 何を言われようと、どれだけ困ろうと、頑固にギリシャ人は生活スタイルを変えようとしない。ギリシャ人は、したたかで図太い。ギリシャ人は、ドイツ人のようなあくせくした生活を嫌っているようです。でも、決して怠けを好んでいるのではありません。だって、2つも3つも副業して働いているのですからね・・・・。世界はなかなか広いですよね。
 
(2010年8月刊。952円+税)

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