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ヴェルサイユ宮殿に暮らす

カテゴリー:ヨーロッパ

著者:ウィリアム・リッチー・ニュートン、出版社:白水社
 ヴェルサイユ宮殿には私も2度ほど出かけたことがあります。まさしく豪華絢爛たる玉の宮殿です。しかし、実際にそこに住む人々にとっては、とても快適とは言いがたいところだったようです。
 太陽王と言われたルイ14世の公式な食事はいかにも豪華である。ポタージュ8種、アントレ10種、ロティ4種、アルトルメ8種、サラダ2種、果物4種、コンポート6種。うむむ、なんという種類の多さでしょう。いかにルイ14世が大食漢といえども、この全部を食べきれるはずはありません。食卓の残りは、官僚から下っ端の雇われ人にまで順々に回されていった。
 ルイ13世の狩猟用の館を、国王と宮廷の宮殿へと変貌させるには、7000万リーヴルがかかった。そのうち3900万リーヴルは城館と庭、そして、ヴェルサイユの町への水利のために費やされた。
 入浴は、衛生のためというより官能的な行為と思われており、ルイ14世が「国家の広間」の下に豪華な湯殿をつくらせたのも、寵愛する女性たちとの生活のためだった。
 お風呂はあまりなかったようです。
 ルイ14世時代のヴェルサイユには274個の椅子型便器があった。問題は排泄物の処理だった。「母なる自然の汚物」を処分する場所は、ほとんどなかった。トイレの数は、そもそも宮廷に出仕している者とその召使いたちを含め、城館の人数に見あったものとはほど遠かった。
 1780年には、城館の区域に29の汲み取り槽があり、その悪臭はひどいものがあった。年に一度の大掃除が、城館からネズミを一掃するチャンスだった。
 ルイ15世の時代になって、国王の私的な居室の中に水洗式のトイレが設置された。
 照明は、ろうそくの明かりによる。ろうそくには2種類あった。白ろうそくは、食卓や寝室用で、黄ろうそくは、質の劣るろうで出来ていた。黄ろうそくは、牛脂や羊脂の燭台のような臭いや煙は出さなかったが、白ろうそくよりも早く燃え尽き、溶け崩れも多かった。1739年に開かれた大舞踏会で使われたろうそくは、2万4千本以上だった。
 マリー・アントワネットの居室の照明予算は、冬が1日あたり200リーヴル、夏が1日あたり150リーヴルだった。年額では20万リーヴルをこえる。そして、その大部分は王妃付きの2人の女官頭が懐に入れていた。
 宮殿では、使用人が何でも窓から捨てていた。それは、不潔さとひどい臭気のもとになっていて、あまりの悪臭に我慢ならず、住居を出ようとする公爵夫人たちがいた。
 王族たちも、宮殿の不潔さに不満を口にしていた。
 うへーっ、なんということでしょうか・・・。
 ヴェルサイユ宮殿には226の居室があり、そこに1000人以上もの人々が詰め込まれていた。なんということでしょう。広大な庭に比して、宮殿のほうには1000人もの人々が生活できるとは、とても思えません・・・。
 ヴェルサイユ宮殿を生活の視点から眺めてみると、こうなります。
(2010年7月刊。2400円+税)

マダガスカルがこわれる

カテゴリー:ヨーロッパ

著者:藤原幸一、出版社:ポプラ社
 アイアイのいる島、マダガスカルの原生林が消滅寸前だというのです。もちろん、犯人は人間です。現地の人々が生きていくために、森を切り開いています。その結果、野性の動物も植物も生息地を奪われてしまいます。そうなんです。あのバオバブの木も次々に立ち枯れていき、また、種子が発芽して子孫を増やしていくことが出来ません。
 マダガスカルの豊富な自然な写真によくうつっているだけに、その深刻さも、ひしひしと伝わってきます。
 バオバブが本来生息する乾燥した生態系に水が引かれたことから根腐れが起きて、バオバブの木が立ち枯れている。
 マダガスカルの主食は日本と同じ米。ここにも棚田がたくさんある。しかし、森林破壊によって水田の維持が難しくなっている。マダガスカルはずっと米と輸出国だったのに、1970年以降は米の輸入国である。
 マダガスカルの人口は1999年に1572万人だったのが、2009年には、2075万人にまで激増した。10年間で人口が1.3倍に増えた。世界最貧国の一つであり、国民の60%が1日1ドル以下の生活費で暮らしている。
 こんなマダガスカルの貴重な自然をぜひとも保存・維持してほしいと思わせる本です。
(2010年5月刊。1800円+税)

三国志逍遥

カテゴリー:中国

著者:中村 愿・安野光雅、出版社:山川出版社
 「三国志」は、私も学生のころ愛読しました。「水滸伝」と並んで、中国大陸の広大さと、そこに生きる人々の活力に圧倒され、躍動する心を抑え切れないほどでした。
 その「三国志」の現地へ出かけています。そして、絵を安野光雅が描いています。それがまた実に味わい深く、つい現物を見てきたかのように活写されているのです。
 曹操は悪者ではなかった。曹操は、周公の立場で26歳も年下の皇帝を誠心誠意、補佐した。董卓や袁術や袁紹などのように、おのれの権力欲を満たし、栄華を夢見て皇帝の座を手に入れようと目論んだ軍閥・輩とは異なるのだ。
 曹操は、自らが皇帝となるのを願わなかった。漢の遺臣であり、周公の立場に徹するという信念があった。
 曹操は66歳のときに病死しました(220年)が、その墓が発見されたと中国政府が発表しました。本当だとしたら、大変なビッグ・ニュースです。
 曹操の頭蓋骨まで残っているということです。ぜひとも確認してほしいところです。
 それはともかくとして、中国の「三国志」の世界にイメージたっぷり浸ることのできる楽しい本です。
(2010年3月刊。1900円+税)

戦国鬼譚・惨

カテゴリー:日本史(戦国)

 著者 伊東 潤、 講談社 出版 
 
 うまいですね、すごいです。やっぱり本職、プロの作家は読ませます。日本IBMに長く勤めたあと、外資系の日本企業で事業責任者をやっていた人が執筆業に転じたというのです。異色の経歴ですが、きっと金もうけなんかよりも自分の好きなことをしたいと思って転身したのでしょうね。見事な変身です。賛嘆します。私も見習いたいのですが・・・・。
 武田信玄以後の武田家に仕えていた武将たちの、それぞれの生き方が短編の連作として描かれています。どれもこれも、さもありなんという迫真の出来ばえです。
 戦国時代の末端の武士の頭領たちに迫られた決断の数々が、豊かな情景描写とともに再現されていますので、読んでいるうちに、たとえば木曽谷に、また伊奈谷に潜んでいる武将にでもなったかのような緊迫感があり、身体が自然と震えてくるのです。まさに武者震いです。
 武田信玄が追放した父親の信虎が登場し、また、信玄が死んだあとの勝頼も登場します。しかし、この本の主人公は、武田家を昨日まで支えてきて、主君勝頼を見限って裏切っていく武将たちです。そして、それはやむをえない苦渋の選択だったということを理解することができるのです。戦国時代の武将の心理を考えるとき、なるほどそういうこともありうるかなあ・・・・と、参考にできる小説だと思いました。
 ただ、読み終わったときちょっと重たい気分になってしまうのが難点と言えば難点です。でも、戦国武将の気分にどっぷり浸ってみたいという人には強くおすすしますよ。 
(2010年5月刊。1600円+税)

ビジネスで一番、大切なこと

カテゴリー:社会

著者:ヤンミ・ムン、出版社:ダイヤモンド社
 ビジネスの成功の要は、競争力にある。競争力とは、競合他社といかに差別化できるかである。ところが、その差が細かくなりすぎて、多くの消費者がいぶかしく思う段階に達すると、ある日突然、差別化は無意味になる。
 無意味な差別化が進めば進むほど、嘲笑指数は上がっていく。
 現代社会において、差別化は何を意味するのか考えさせられます。ともかく、同じような中味なのに、店にはいろんな形と色の容器がたくさん並んでいますよね。
 ビジネスの世界では、いかなる戦略であれ、永遠を期待することはできない。
 激動の中に放り込まれると、人間は安定を求める。生活が単調であふれていると、鈍感になる。慣れすぎると、何も見えなくなる。印象の欠落は、知覚の欠落につながる。
 相反する二つのものが結びつくには、バランスがすべてだ。類似性は静止状態であり、違いは活動状態。両者が均衡状態をとりながら存在すれば、すべてはうまくいく。そのとき、人は安定を感じると同時に、刺激も感じる。何の混乱もない毎日が続きすぎると、無関心がひたひたと忍び寄ってくる。ひとは停滞を感じ、不安になる。そして、珍しい果物を渇望している自分に気がつく。
 私たちが類似性に圧倒されているとき、判断力に再び火を灯すのは、小さな差ではなく、歴然とした大きな違いである。
 差別化は手段ではない。考え方だ。姿勢であり、傾聴や観察、吸収、尊重から生まれる。
 かなり難しい表現ではありますが、すごく大切なことが語られている本だと思いました。
(2010年10月刊。1500円+税)

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