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ルポ生活保護

カテゴリー:社会

  著者  本田良一  、中公新書  出版 
 
いま日本は、生活保護の受給者数でみれば、1955年、56年と同じ状況にある。
1955年に192万人、1956年に177万人だった。それに対して、2010年は186万人とほぼ同じである。
保護費は国が4分の3を、残り4分の1を地元自治体が負担する。受給者を快く思っていない市民が少なくない。昼間から酒を飲んでいるとかパチンコ店に通っているという通報が福祉事務所へ寄せられる。しかし、地方自治体にとって、現実には生活保護は受給者の生活を支えるだけでなく、地域経済を下支えする「第四の基幹産業」になっている。
日本国憲法25条1項は次のように定めている。すべて国民は、健康で文化的な最低限の生活を営む権利を有する。忘れてはいけない大切な憲法の条項です。
 母子世帯のうち、生活保護を受けている割合は13.3%。つまり、日本ではひとり親の
2世帯に1世帯以上が貧困状態にあるが、生活保護を受けているのは、8世帯のうち1世帯程度にすぎない。
子どもの学力は家庭や塾に負うところが大きくなっている。ところが、いま日本の家庭は、教育費負担があまりに大きい。大学に進学すると、1年で最低で100万円、多いと240万円かかる。4年間では、少なくとも400万円、多ければ1000万円かかってしまう。なぜこうなっているかというと、家庭に代わって政府が負担する部分が少なくないから。その結果、家庭の経済力の違いによって、子どもの教育機会が不均等となり、子どもの将来格差を生み、世代をこえて貧困が再生産されていく。
いまの生活保護制度は、丸裸になった人に、全部、着物を着せてあげるものになっている。住宅やローン、生命保険、金融資産などの、すべての資産を使い尽くさないと保護を受けられないという制度では、再挑戦の機会も意欲も奪ってしまう。そうなんですよね。弁護士として相談を受けていて、大いなる矛盾を感じることが多々あります。
 貧困世帯の8割以上が生活保護を受けずに暮らしている。貧困を放置すると、社会が貧困者と、そうでない人に分裂して、破綻してしまう。絶望のあげく自殺が増え、また犯罪が増える。
 国が負担する保護費は2009年度、2兆円をこえた。そのうち半分の1兆4千億円が医療扶助となっている。いま生活保護受給者が増えているのは、ほかの制度の矛盾をすべて生活保護が受け止めているから。貧困対策を進めていくうえで、セーフティーネットの拡充は、社会を維持するために必要な投資なのだという社会の合意が不可欠である。
先に(12月7日)釧路市の生活保護についての先進的な取り組み『希望を持って生きる』を紹介しましたが、この本にも、そのことが紹介されています。
日本社会が安全・安心に生活できるものであり続けるためにも貧困対策は大きな意味をもっていることをお互いに確認したいものです。とても分かりやすい新書です。先の本とあわせて一読をおすすめします。
(2010年8月刊。780円+税)

「秀吉の御所参内、聚楽第行幸図屏風」

カテゴリー:日本史(戦国)

 著者 狩野 博幸、   青幻舎 出版 
 
 昨年(2009年)秋に、新潟県は上越市で初公開された屏風絵が秀吉や秀次そして聚楽第などを描いているというのです。とても珍しい屏風絵なのですが、著者はそれをこと細かく実証しつつ解説してくれます。眺めて楽しく、読んでうれしくなるような本です。
 京都の御所を出て進んでいく行列の中央に天皇しか乗ることの出来ない鳳輦(ほうれん)が描かれている。その輿の上には金銅製の鳳凰が飾られている。なるほど、白装束の者たちが鳳輦をかついで進んでいます。そして、反対側からは、多くの武士たちに守られて進む牛車が描かれている。その牛車には、桐の紋がはっきり見える。
後陽成天皇が聚楽第(じゅらくだい)に行幸したのは天正16年(1588年)4月14日のこと。秀吉が聚楽第をつくったのは京都における政庁を作るためだったが、天皇の行幸もその視野に入れていた。
 秀吉は、天皇の行幸のとき、室町将軍のときの先例を無視して、内裏に御迎(おむかえ)に参上した。そして秀吉は桐紋の牛車に乗って、天皇の乗る鳳輦と向かいあう形で進んでいった。このあたりは、この本に解説とともに屏風絵が拡大されていますので、よく分かります。
秀吉の参内、天皇の行幸は華やかさのなかにも、恐るべき緊張の下に進められた。厳重な警固が張られ、行幸にあたっては、内裏から聚楽第までわずか15町ほどのあいだに6千余人の武士が張りついて警備していた。屏風絵に描かれた武士たちは、いずれも脇差しさえも着していない。
 この屏風絵は、儀式は儀式として描き尽くしながらも、それとは無関係に当時の市中に生きる人々の姿をこと細かに描いている。当時の女性たちが夫の諒解を得ることなく、勝手に外出している様子も描かれている。外国からやって来た宣教師たちが驚いた光景である。宣教師たちは、女性の貞操観念の低さにも呆れている。女性は自由だったのである。日本の女性こそ、世界でもっとも自由な存在であったと知るべきなのだ。女性だけでなく、子どもたちも伸びのびと生きていました。うらやましい限りです。
このようにきらびやかな素晴らしい屏風絵が最近まで広く世に知られていなかったというのは惜しい限りです。一見、一読の価値ある本としておすすめします。
 
(2010年10月刊。2500円+税)

無縁社会

カテゴリー:社会

著者 NHK取材班 、 文芸春秋 出版 
 
現代日本社会って、いつのまにか寒々としたものになってしまったんだなあと、つくづく実感させられる本でした。効率とお金万能、持てる者の強者論理が大手を振ってまかり通っていて、弱者を平然と切り捨てても見て見ぬふりをしてしまう社会の冷たさです。私なんて、涙がでるくらい情けない世の中になってしまったものだと思うのですが・・・・。
日本航空が業績回復のために乗務員など170人の解雇を決めました。これを多くの国民が平然と受けとめていますが、実は大変なことなんですよね。ちょっと業績が悪化した企業だったら簡単に労働者を解雇できるという悪しき先例をつくることになります。これって判例の積み重ねを全否定するような暴挙です。ちょっと待ってよ・・・・。明日は我が身なのかもしれませんよ。ともかく、他人は他人と簡単に割り切っていいものでは決してありません。
NHKスペシャルで「無縁社会」を放映したら大反響があったそうです。私はテレビを見ませんので、残念ながらその映像は見ていませんが、この本を読むと現代日本の病弊が赤裸々に浮きぼりになってきます。
行旅病人および行旅死亡人取扱法という法律があることを初めて知りました。行旅死亡人とは、警察でも自治体でも身元のつかめなかった無縁死のこと。住所、居所、もしくは氏名が知れず、かつ遺体の引き取り者なき死亡人は、行旅死亡人とみなす(法第1条第2項)と定められている。
通夜も告別式もない。遺体を火葬するだけで弔う「直葬」が広がっている。儀礼は行わない。自宅や入院先の病院などから直接遺体を火葬場に運んで茶毘に付す弔いのスタイル。これで費用が10~20万円台。東京都内で行われている葬儀のうち30%を直葬が閉めている。
特殊清掃業者とは、自治体の依頼で、家族に代わって遺品を整理する専門業者のこと。数年前に誕生し、今では30社あまり。いずれもインターネット上に自社のホームページをもって、大都市に事務所をかまえている。この業者は故人の部屋に入るときには、異臭が激しく部屋も汚れているため、オゾンを放出する特殊な装置を持ち込む。オゾンには強力な酸化作用があり、殺菌や脱臭、有機物の除去に役立つ。
富山県高岡市のお寺が引き取り手のない遺骨を引き受けているというのにも驚きました。
 葛飾区にある都営団地には一人暮らしが団地の全世帯の3割になっている。うむむ、これって多いですよね。多すぎます。一人で生活したほうが気ままでいいと言っても、病気したらどうしますか・・・・。
一人暮らしの高齢者が高額な訪問販売の被害にあうことも多い。これは私も何回も事件として取り扱いました。どうやら、騙し易い人のリストがブラック業者に渡っているようです。
高齢者の単身化がすすみ、25年間に2倍になった。そして、50歳まで一度も結婚したことのない「生涯未婚」率も増えている。
結婚しない、できない大きな理由の一つが、非正規雇用が増えて、低賃金のうえに経済的に不安定なため不安から結婚できないということ。これって、まさに政治の責任で解決すべきものです。これを解決しなければ、少子化対策やっていますなんて言えませんよ。 
子どもたちの住む東京など大都会へ呼び寄せられた高齢者の問題も目立ってきた。都会の生活になじめず、孤独を感じながら生活している高齢者が増えている。私の住む団地でも高齢化がすすみ、子どものいる東京や横浜へ転出するお年寄りが続出しています。果たして、周囲に同年輩の知人が一人もいなくて大丈夫やっていけるんだろうかと、いつも心配しています。
 この番組を見た30代、40代の人々から大きな反響があったそうです。「俺も仕事がなくなったら無縁死だなあ」とつぶやく34歳の男性など、他人事とは思えないとういう人が圧倒的に多いのです。今ならまだ間にあうような気がします。もっと生活と仕事が安定するような社会環境を早急につくりあげるべきです。弱者、この場合は高齢者と若者にもっと光をあてて、真剣に打開策を考えるべきです。
読んでいくうちに身につまされ、背筋の凍る思いがする本ですが、それでも一読をおすすめします。
(2010年12月刊。1333円+税)

中世ヨーロッパ、武器・防具・戦術百科

カテゴリー:ヨーロッパ

 著者 マーティン・J・ドアティ、 原書房 出版 
 
 南フランスのカルカッソンヌにいった事があります。二重になった城壁がそっくり残っています。真夏でしたが、ちょうど雨が降り出し、膚寒さを感じるほどでした。やがて雨がやんで青空も見えてきて、いい写真が撮れました。場内のレストランで温かいカスレ(豆入りのシチューみたいなもの)を食べて身体を暖めました。もちろんワインも飲んで・・・・。この古城も、中世には騎士たちの攻防戦の舞台になったわけです。
シェイクスピアのヘンリー5世で有名なアジャンクールの戦いなど、ヨーロッパ中世の有名な戦場が図解されていて、大変分かりやすく、楽しめます。
 フランスは、勝てた戦闘を騎士たちの性急さで戦いをダメにした。一国一城の主から成る騎士たちを統率するのは王国といえども大変だった。
 その点、12世紀のイングランド王リチャード獅子心王は中世の指揮官としてはかなり異色の存在で、規律を重んじ、兵士たちに徹底させた。騎士たちは、近隣の領主より勇敢さに欠けると世間に思われるのは社会的破滅を意味していたから、彼らはみな恐ろしく向こう見ずだった。
 なーるほど、騎士が規律を守らなかったのには理由があるのですね。世間の目って、今も恐ろしいものです。
 馬はラクダの臭いや奇妙な姿におびえ、なかなか慣れることが出来なかった。ラクダに乗った兵士がいるのを見ただけで、騎兵部隊は逃げ出し、その戦闘力は落ちた。ラクダを馬が怖がったというのを初めて知りました。
戦場での戦いの推移が図示され、その当時の武器や武装が写真とともに図解されていますので、大変イメージが湧いてきます。
 騎士の多くは、自分たちが守るべきは貴族階級だけだと考えていたので、貴婦人に対しては親切で態度も丁寧だったが、農民に対しては、殴ったり、一般の女性を強姦しても、それが不適切だったという認識はなかった。
負けた敵に慈悲をかけるか。 その対象は貴族のみであり、それも思いやりというより、むしろ生け捕りして身代金目当てというのが多かった。
 モンゴルの弓騎兵は、中世を通してもっとも強力な戦闘部隊だった。替えのポニーを引き連れ、効率的に移動することができたので、かなりの距離を短時間でカバーすることができた。この戦略的な機動力のために神出鬼没の攻撃が可能だった。
真に有能な弓兵を養成するのは非常に難しく、その能力は高く評価された。弓兵は、ずっと希少価値のある存在だった。したがって報酬も良く、周囲から尊敬され、戦場でも指揮官から大切に扱われた。イングランドの弓兵は、だいたいヨーマン、つまり小規模な農場を所有する自由人だった。
 アジャンクールの戦いで、ヘンリー5世の弓兵隊は、持ち場の前に鋭い杭を打ち立てた。その杭を前へ移動させながら、軍をゆっくり進め、フランス軍に向かって攻撃を開始した。フランス軍の騎兵部隊は、イングランド投射兵部隊の前に、敗れ去った。フランス軍は100人の大貴族と諸候、1500人をこえるマン・アット・アームを失い、200人が捕虜にとられた。これに対して、イングランド側の死者は400人にすぎなかった。
 ヨーロッパ中世の戦闘の実情を知ることのできる便利な百科事典です。
(2010年7月刊。4200円+税)

広重・名所江戸百景

カテゴリー:日本史(江戸)

 著者 望月 義也コレクション、合同出版 
 
すばらしい本です。江戸百景が見事に描かれています。さすがは広重です。最後の解説は英文にもなっていますが、広重の海外での知名度の高さをあらわしています。
安藤広重は幕末のころの絵師である。定火消(じょうひけし)同心、安藤源右衛門の子として生まれた。定火消とは、江戸幕府の役職の一つで、江戸市中の防火と非常警備を担当した30俵二人扶持の下級武士の家柄。広重は、15歳のときに浮世絵師を志し、歌川豊広に入門した。文政6年(1823年)に絵師を専門の職業とし、家業の火消同心を辞した。
広重は風景画をよく描き、「東海道五十三次」「富士三十六景」などを立て続けに描いて名声を得た。
浮世絵は有田焼をヨーロッパに輸出するときの梱包用資材として用いられ、ヨーロッパに広く知られるようになった。とくにゴッホは浮世絵に魅せられ、自ら500点もの浮世絵をコレクションにした。ゴッホは油彩で3点を描写したり、背景画として取りいれてもいる。
広重は江戸後期にヨーロッパからもたらされたベロ藍(ベルリンブルー)を実にうまく使って、ニュアンスに富んだ水と空気の実感を、清涼感と透明感あふれる表現として定着させた。このため、ヨーロッパでは、広重ブルーという名称で賛美されている。
いやあいいですね。大胆な構図、そして鮮烈な色あいの絵を眺めていると、江戸時代の日本人が決して暗黒の世の中に生きていたわけではないことを、今さらながら実感することができます。合同出版の創立55周年記念出版だからでしょうか。こんなに立派な絵画集が1400円で手に入るなんて、夢のようです。 
(2010年8月刊。1400円+税)

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