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兼好さんの遺言

カテゴリー:日本史(鎌倉)

著者  清川 妙    、 出版  小学館
 いま90歳、現役の講師として活躍中の著者による、読んで元気の出る本です。
 たったひとり、灯火の下に書物をひろげて、自分が見たこともない、遠い昔の人を心の友とすることは、このうえもなく楽しくて、心が慰められることだよ。
 人、死を憎まば、生を愛すべし。
 存命の喜び、日々に楽しまざらんや。
 人の命は、雨の晴れ間をも待つものかは。
 明日をも予測できない生命。死は背後からそっとしのび寄り、無警戒の人をつき落とす。雨がやむまでも待っておれない。いま、この瞬間、一刹那が大事。
 以上、いずれも兼好の言葉です。いいですね。
 著者は40歳のときに物書きとなりました。
 緊張と集中と、強い意思を求められる日々。だけど、原稿を書き終えたあとの達成感と充実感は、何ものにも換えがたい。生きているという実感が心身にみなぎる。
 そうなんですよね。私も目下自分の体験をもとにした小説に挑戦中なんですが、これを書いて考えているときには、生きている、60数年を生きてきたという実感があります。
 カルチャーセンターで講義を受けるとき、講師とは一対一だと思うべし。他の人は意識から消し去ること。自分ひとりが講師と向きあう、個人レッスンだと思わないといけない。そして、頭に浮かんだことを、素直に言葉にして講師と対話すること。
 なーるほど、ですね。そうなんですか。今度、私も、フランス人の講師とそんなつもりで話してみましょう。
 生きている、そのこと自体が、魔法のように不思議なこと。
 死という、目には見えない、しかも動かぬ定めを、創造力という心の目でしかと見定め、覚悟をもとう。そして、この世にある間は、いのちを大切にして、ひたすら生をいとしみ、この世の日々を充実させて生きようではないか。
 花はさかりに、月はくまなきをのみ見るものかは・・・・。
 年を重ねてくると、その智恵は若いときよりまさる。それは、若いときには、その容貌が老人にくらべてまさっているのと同じことなのだ。
 むむむ、なるほど、まったくそのとおりです。これも私が年を取ったから同感できる言葉です。
 物事には、確かに潮時がある。しかし、本当にやりたいことがあるのなら、潮時なんて考えるな。やりたいと思ったときこそ、潮時なのだ。人生はたった一度しかないのだから・・・。
 「徒然草」の原文を読み返してみたくなりました。本当にいい本でした。90歳になっても、こんな本を書けるなんて、実に素晴らしいことです。心から拍手を送ります。
(2011年6月刊。1300円+税)

世界史をつくった海賊

カテゴリー:ヨーロッパ

著者  竹田 いさみ    、 出版   ちくま新書
 イギリス、昔の大英帝国は海賊と深いつながりがあったどころか、そのおかげで世界を支配してきたことがよく分かる本です。
世界経済を長く牛耳ってきたイギリスの金融街ザ・シティは、そもそも海賊出身者が金融を動かしてきたもので、海賊ビジネスの元祖である。
 フランシス・ドレークはイギリスを代表する超大物の海賊であり、スペインやポルトガルを相手に略奪の限りを尽くした略奪王にほかならない。このドレークは女王エリザベスⅠ世からないとの称号を与えられたが、それは略奪した財宝によってイギリスに多大の富をもたらしたことによる。
 スペイン支配下のカリブ海へ大量のアフリカ系黒人を密輸したのもイギリスの貿易商人だった。そのとき、エリザベス女王が権力者、黒幕、投資家として常に登場してくる。これらの出来事に深く関与し、先兵として働いていたのが海賊である。現在、保険会社として世界に君臨するロイズ、高級紅茶として知られるトワイニングも、かつては海賊と切っても切れない関係にあった。
 海賊はエリザベス女王時代の経済的基盤を支えただけでなく、いざ戦争となると特殊部隊として参加し、イギリスを戦争の勝利者へと導いた。海賊は国家権力と一体化していて、海賊の存在なくしてイギリスが世界史に残る偉業を遂げることはなかった。
 エリザベス女王にとって、海賊は利用価値の高い集金マシーンと認識されていた。エリザベス女王がドレークをひいきにした最大の理由は、ドレークが巨額の利益をもたらしたからである。少なくともイギリスに60万ポンドをもたらし、エリザベス女王は半分の30万ポンドを懐に入れた。当時の国家予算は20万ポンドだったから、実に3年分の国家予算に匹敵する海賊マネーをイギリスに持ち帰ったことになる。
ドレークは単なる探検家ではなく、海賊としての能力と実績がある。献上品の大半は盗品、主として、スペイン船から略奪した金と銀である。
 ドレーク海賊船団の生還率は高く、乗組員164人のうち100人が生還している。ドレークの略奪対象は、金と銀のコインや延べ棒が中心で、これに加えて大量の砂糖やワインを含んでいた。
 イギリスの海賊船団といえども、スペイン護送船団を襲うだけの力量はなく、護送船団の枠外で航行しているスペイン船を待ち伏せしてゲリラ的に襲撃していた。ドレークたちは、そのため綿密な情報収集を行っていた。イギリス側は、スペインのスパイが常駐していることを十分知り尽くしたうえで、策を講じていた。
 エリザベス女王が海賊に関与している証拠を残さないよう最新の注意が払われていた。ドレーク船団のなかでも、ドレークのみが航海の目的とルートを知っていて、情報管理に心がけていた。たとえ海賊シンジケートが失敗に終わっても、女王に責任が及ぶことのないよう、闇に葬られた。
 ドレーク海賊船団には、女王を筆頭に側近グループがこぞって出資しており、まさに国家を総動員した一大プロジェクトであった。
イギリスがスペインの無敵艦隊に勝利したのも、ゲリラ戦、スパイ戦、そして海賊作戦という三つの戦術をたくみに組み合わせることが出来たからである。ドレークたち海賊とイギリス王室海軍は一体化していた。
 西アフリカで調達した黒人奴隷をカリブ海のスペイン植民地にこっそりと、しかも組織的に密輸するルートを開発した主人公には大物海賊のジョン・ホーキンズだった。そして、ホーキンズの奴隷貿易計画を主導していたのは、ほかならぬエリザベス女王だった。イギリスが奴隷貿易に関与したのは1560年代であり、イギリス議会が奴隷貿易を廃止したのは1807年。奴隷の密輸は、そのあともしばらく続き、最終的に廃止したのは1833年だった。つまり、イギリスは16~19世紀、270年間にわたって奴隷労働を延々と行ってきた。この間、1000万人以上の黒人奴隷がカリブ海や南北アメリカ大陸に売却され、イギリス、ポルトガル、フランスなどは奴隷労働で潤った。貧しい二流国家であったイギリスが豊かな一流国家へと変貌する過程で奴隷貿易による利益が大きな役割を演じたことは疑いのないところだ。
 うひょう、イギリスって紳士の国というイメージがありましたが、実は海賊の国であり、奴隷商人の国だったのですね・・・・。
(2011年3月刊。760円+税)

アメリカの公共宗教

カテゴリー:アメリカ

著者    藤本 龍児  、 出版   NTT出版
 宗教の熱は、自由と知識の増大とともに否応なく消え去る。これは、19世紀フランスの社会哲学者トクヴィルが当時のアメリカを観察して導いた命題です。私は真理ではないかと思うのですが、現実は必ずしもそうとは言えません。
このトクヴィルの理論は、現在における事実に合致していない。アメリカでは、宗教右派が全人口の15~18%を占め、大統領選挙の帰趨を左右する勢力となっている。福音派は全人口の30~40%を占め、高学歴・高収入の人々の4分の1が自分は福音派だと答えている。
 オバマ大統領は就任演説において、神を信仰する人々だけではなく、信仰をもたない人々をもアメリカ国民としてかぞえあげた。就任演説という公共性のきわめて高い場で、アメリカ大統領が信仰をもたない人々にまで言及したのは異例のことである。
 現代のナルシズムは、屈折したかたちではあれ、他者を必要とする。ナルシストは、喝采を送ってくれる聞き手がなくては生きてゆけない。
 原理主義は、もともとはイスラムではなく、アメリカのプロテスタント神学の一潮流として生まれた。原理主義という思想や世界観は、1910年代から1920年代にかけてアメリカで生じてきた。世界中で原理主義がテロをあおり立てていて、とても危険な状況をつくり出しています。宗教者って、宗派を問わず、もっと他人に寛容であってほしいものです。
 イギリスにおける宗教改革は、ヘンリー8世の離婚問題という、主に世俗的な理由から始まった。分離派の一部の人々は、1608年弾圧を逃れてオランダへ渡り、次いで1620年にアメリカへ巡り来た。ピルグリム・ファーザーズである。しかし、その乗船者の半数以上はピューリタンではなかった。メイフラワー号には、経済的な余裕がなかったので、聖徒だけではなく、よそ者が乗船していた。
 分離派のピューリタンは貧しい農民や労働者だったのに対して、非分離派のピューリタンは富も地位も持っていた。この非分離派のピューリタンは、あくまで自分たちの信仰の自由を認めたのであって、信仰を異にする人々の信仰の自由までは認めず、それどころか迫害までした。
 ワシントンやジェファーソンなど、独立革命の指導者が持っていた思想は、ピューリタニズムではなく啓蒙主義だった。建国の父たちをはじめ、現在のオバマ大統領に至るまで、神に言及していない大統領は皆無であるが、同時にキリストの名に言及した大統領も皆無である。そうすることで、多様な人々が、多様な神のイメージをそこに読み込むことができるようにしている。
 アメリカで政教分離とは、あくまで国家と教会との分離のこと。アメリカにおける政教分離とは、政治と宗教の分離でもないし、国民と宗教の分離でもない。その理念は、あくまで国家が特定の宗教と深くかかわってはならないことを意味するだけで、政治的領域に宗教的次元があることを否定してはいない。
 リンカーンは、アメリカ史上もっとも宗教的な大統領であるとされるが、実際は、一生を通じて洗礼を受けたことはなかったし、どの宗派にも属していなかった。人民の、人民による、人民のための政治というリンカーンの言葉は、アメリカにおいては、神の後ろ盾なしには成り立たないものである。
こうなると、アメリカって日本人の私たちからすると、まるで変てこりんな国としか言いようがない気がします。こんなことを言うと怒られるのでしょうか?
(2009年11月刊。2800円+税)

TPPで暮らしと地域経済はどうなる

カテゴリー:社会

著者    にいがた自治体研究所  、 出版   自治体研究社
 3月11日までは日本政府はTPPに今にも参加する勢いでしたが、この点は幸いなことにも頓挫してしまいました。もちろん、いまでも日本の農業自給率の維持・向上なんて必要ない、食料はお金出して買えばいいという意見もマスコミの世界では大手を振ってまかり通っています。でも、本当にそうなんでしょうか・・・。この本はその点について十分に考える材料を提供してくれています。
 TPPは農業の問題と狭くとらえられがちだが、農業だけにとどまらず、最終的には消費者、国民あるいは地域経済をまるごと切り捨てていく、多国籍企業主導のグローバル資本主義の問題としてとらえることが大切だ。日本では、農産物以外の関税はほぼゼロなので、農産物以外の分野は、関税以外の、非関税障壁といわれる部分をいかに開放するかが論点になる。衣料品や工学製品、知的財産権そして通信、投資、労働なども対象に入ってくる。
 現在のコメ市場においては、家庭向けの主食用のコメは全体の半分を切っており、残りは加工用や業務用などなので、そこは完全な価格競争の世界だ。
給料を減らされると、その分だけ消費支出の減少につながる。消費が減ると、産業の産出額も減ってしまう。日本の輸出依存度は世界的にも低いほうで、GDPに占める輸出額は17%前後である。むしろ日本は83%の内需に支えられている。しっかりした内需のあることが日本の強みなのである。
 大資本系列の大型店は、本店がほとんど東京や大阪などの大都市にあり、利益は本店でカウントされるため、地域の自治体に納められる税金はほとんどない。
 いま、世界的には餓死人口が10億人にものぼる。その中で世界一の食料輸入大国である日本の責任は重大だ。本来自給の可能なコメにおいても、飼料用をふくめると穀物自給率は27%にすぎない。
 日本は「鎖国状態」にあるどころか、実は開かれすぎていて、瀕死の状況に追い詰められているのが現実である。むしろ、食料については、ヨーロッパのように食料主権を確立すべきである。持続可能な国民経済をつくる方向こそが、現代日本にとって重要な戦略的課題となっている。農山村の荒廃から国土を救い、農林業を振興することで食料とエネルギーの自給率を高め、食料安全保障やエネルギー主権を確立するだけでなく、国土保全効果を高め、世界最大の資源輸入国の汚名を返上して地球環境問題に貢献することにもつながる。
 全国各地にシャッター通りが見られ、休耕田ばかりが目立ち農業が疲弊している現状を、国民みんなの力で変えたいものです。ショッピングモールに行けば何でも「安く」買えるというのは、まったくの「幻想」なんですよね。足下の日本農業をもっと大切にしたいものです。わずか160頁足らずの薄いブックレットなので、ぜひ、ご一読ください。
(2011年3月刊。1429円+税)

エベレスト登頂請負い業

カテゴリー:アジア

著者    村口 徳行  、 出版   山と渓谷社
 高さ8848メートル、世界最高峰エベレスト。チベットの人々は昔からチョモランマと呼ぶ。母なる女神の意味だ。
 今やエベレストは大衆化に向かい、多くの人々が登頂できる時代になった。世界一という分かりやすい標高が多くの人々を惹きつけ、人生に目的を与え、なんとか努力することで叶う最高の目標としてエベレストがとらえられるようになった。そうなんですか、エベレストって大衆化してるんですか・・・。
 はるか遠い昔、エベレストは海の底だった。インド亜大陸とユーラシア大陸が北緯10度近くで衝突をはじめたのは始新世のことで、それ以降5000万年にわたって続いた衝突の結果、両大陸の地殻は水平距離で2500キロ以上も短縮し、対流圏上部に達するヒマラヤ山脈を誕生させた。かつて浅い海で大繁殖していたウミユリ、三葉虫の化石も発見された。つまり、チョモランマの頂上付近は、海の深い場所ではなく、波打ち際の浅い海、4億8000万年前の渚だった。
人間は5000メートルをこえては定住できない。子孫を残していけるぎりぎりの高さだ。チョモランマの麓、サロンプ村、もはや農作物もとれない4800メートルの高地に43世帯、
292人が暮らしている。ヤクからバターをもらい、その糞を燃料にして暖をとる。トイレすらない。
 悪い環境で長期間にわたって他人と生活をともにするときには、できる限りプライベートを守ってあげることに気をつける。なるべくストレスを翌日に抱えないためには、個人用のプライベート・テントが有効だ。自分だけの空間は、どんなに小さくても最高に居心地のよい住処となる。
 登頂を終えたら、さっさと下りるのがヒマラヤ登頂の鉄則だ。長い時間、滞在する場所ではない。体が冷えてくる。冷たい風が気になる。
 酸素がいかに重要かという問題を抜きにして、高所の登山は成りたたない。ベースキャンプは5300メートル。順応のできた体なら、そこで数日のんびり過ごすことで休養はとれるし、疲れた体を回復させることは可能だ。もう一歩ふみ込んで、さらに高度を下げることで回復力がもっと早まっていく。
高所での歩行速度は、その人の状態を簡単に見分けることのできるバロメーターとなる。
 風は体温を奪い、著しく、消耗させる。体の機能がもっとも大きなダメージを受けはじめる4000メートルへの順応が大切だ。健康な人間は、3000メートルから低酸素の影響を受け、個人差にもよるが、頭痛、微熱、食欲不振、嘔吐、下痢などの症状があらわれてくる。それを通過しないことには先へ進めない。それが高所登山の厄介なところだ。だから、なるべくうまく高山病にかかってあげることが大切だ。4000メートル前後から、2ヵ月にわたり高山病とのたたかいが始まる。6450メートルの高度では睡眠不足に陥る。この高度は横になっていればそれでいいと考えるべき。人間の体はよく出来ている。眠れないというのは、体が眠らせないように反応しているのだ。眠ることによって呼吸数が減り、酸素の取り入れ能力が落ちてくる。それを避けるために、眠らせないという形で信号を送り、まだ環境に慣れていないということを伝える役目を果たしている。要するに、高所に順応できているかどうかを示すわかりやすいバロメーターなのだ。
 高所登山には有酸素運動が必要だ。上半身の筋肉を必要以上につけず、下半身の強化を意識するのが基本トレーニング。2ヵ月間がエベレストを登るためのおおよその目安だ。エベレストは、もっとも酸素の少ないところにそびえる山なのだ。酸素がないことが普通で、意識は常に見えもしない透明のなかに向かっている。順応すると赤血球が増え、酸素の運搬能力が高まるが、同時に血管が詰まりやすくなるという悩ましい問題が発生する。私には8千メートルの高度を目ざす登山家の心理はよく理解できません。
(2011年4月刊。1600円+税)

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