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カテゴリー: 警察

琉球警察

カテゴリー:社会 / 警察

(霧山昴)
著者 伊東 潤 、 出版 角川春樹事務所
沖縄の政治家として有名な瀬長亀次郎が主人公のような警察小説です。本のオビに、こう書かれています。
すべてを奪われた戦後の沖縄。それでも、米軍の横暴の前に立ちはだかった一人の男がいた。その名は瀬長亀次郎――。
最近、カメジローの映画が出来ていますが、残念ながら、まだみていません。もちろん、シネコンではみれません。スガ首相を描いた『パンケーキ』の映画と同じく、日本人みな必見の映画だと思うのですが…。
カメジローが那覇市長に当選したあと、アメリカ民政府は徹底して嫌がらせをした。たとえば、銀行預金を口座凍結したため、那覇市は通常の予算が組めなくなった。そして、水道水の供給まで止めた。怒った市民は、すすんで那覇市に税金を治めにやってきて、納税率は97%にまで上がり、公共工事も再開できた。
しかし、警察が次々と罪なき市民を逮捕し、市民が人民党と手を切ると約束すると、不起訴になった。いやはや、アメリカ軍政下とはいえ、あまりに露骨な弾圧ですね。
那覇市議会はアメリカべったりの保守派が多数を占めていて、カメジロー不信任案を24対6で可決した。カメジローは、それに対して議会を解散した。選挙後の市議会では反カメジロー派は過半数は占めたものの、3分の2以上ではなくなった。そこで、アメリカ民政府は過半数でも不信任を可決できるようにして、ついにカメジローは那覇市長の座を追われた。いつの世にも、正義と道理ではなく、アメリカの言いなりになる「保守派」がいるものなんですよね。残念ですが、今の自民党と同じです。3.11があっても原発は推進する、日本学術会議の任命拒否は撤回しない、モリ・カケ事件は再調査しない、質問にまともに答えることはしない。こんな自民党に日本の将来をまかせるわけにはいきません。なのに、なんとなく「野党は頼りない」と思い込まされて、ズルズルと自民党に投票してしまうか、投票所に足を運ばずに棄権してしまう日本人が、なんと多いことでしょう…。本当に残念です。
この本には、カメジローの有名な演説が紹介されています。
それを知るだけでも、この本を読む価値があります。
カメジローは、奇妙としか言えない容貌の持ち主だ。背丈は沖縄人の平均よりやや低いが、顔は骨張っている上に長い。額は広く、髪の毛は後退しはじめている。とくに異様に高い頬骨と長い顎(あご)は、個性的な顔の多い沖縄人のなかでも珍しい。
「この瀬長ひとりが叫べば、50メートル先までは聞こえます。しかし、ここに集まった全員が声をそろえて叫べば、沖縄全島にまで響きわたります。沖縄県民80万が叫んだら、どうでしょう。太平洋の荒波を越えて、ワシントンにまで届きます」
玉城ジェニー知事の前の翁長雄志知事も、カメジローの演説を聞いて心を震わせたことがあったようです。
この本のメイン・ストーリーは、カメジローの率いる人民党にスパイ(作業員)を送り込み、情報を入手し、また人民党を操作しようとする公安警察官の葛藤です。
佐々木譲の『警官の血』には赤軍派の大菩薩峠における大量逮捕にあたって、赤軍派内部に送り込んだスパイとどうやって連絡をとるかという工夫と苦労が詳しく紹介されていました。
アメリカのブラックパンサー党の内部にもFBIのスパイがごろごろいたという本も読んだことがあります。
戦後の奄美、復帰後の沖縄。そして、僕たちの知らない警察がここにあった。これも本のオビにある文章ですが、まったくそのとおりです。
430頁ある小説を早朝から一心不乱に読み、すっかり沖縄モードの気分に浸った一日を過ごしました。ぜひ、あなたもご一読ください。
(2021年7月刊。税込2090円)

桃源

カテゴリー:警察

(霧山昴)
著者 黒川 博行 、 出版 集英社
久しぶりに警察小説を読みました。もちろん殺人事件が起きます。それを警察官というより刑事2人が、デコボコ・コンビのようにして追いかけます。舞台は大阪から沖縄にまで飛んでいきます。
話のはじめは逃亡です。頼母子講の座元が集まった講金を持ち逃げしたというのです。
私が弁護士になって数年目のことでした。頼母子講って、古臭い名前から江戸時代の話と思い込んでいたのです。ところが、今も沖縄をはじめ全国でやられているようですね。無尽(むじん)といったり、模合(もあい)といったりもします。
筑後地方では講の世話人が、どこまで責任をもつべきか裁判で何件も争われました。盛主(座元)が初めから破綻させるつもりで始めたら詐欺か横領になりますが、相互銀行法違反で警察に検挙され、実刑になった女性が何人もいました。
座元が講で集まったお金を持って逃亡したとき、横領罪が成立するのは当然ですが、この本でも被害者の代理人弁護士の作成した告訴状では詐欺罪もあげています。要するに金策に困っていて講を始めたのは、当初から講金をだましとるつもりだったとしているのです。この点の立証は簡単そうでいて、実は案外むずかしいと私は考えています。
2人の刑事のうち、1人は大食漢で、脚本家を目ざしていたほどの映画マニアでもあります。刑事としての犯罪訴捜査より沖縄観光を優先させようとしつつ、実は捜査のほうも口でいうほど手抜きはしない愛すべきキャラクターとして設定されています。そんなわけで、大阪や沖縄のおいしい料理が次から次に紹介されるのも読ませる工夫になっています。
そして、もう1人の刑事は独身で女子大生と交際中。肉体関係はあっても、泊まりはなしという決まりがある。ということで、夜の世界の話もチラホラ出てくるのにも惹かれるのです。
沖縄を舞台とする話のほうは、偽りのM資金に似た話です。沈船ビジネス。沈没船を発見したらなんと550億円もの大金が入るので、投資した人への見返りもすごい、なんていう夢のような話で素人だましをするのです。
もうかる話のネタは、尽きないものです。それと知って参入してくる連中は根っからの詐欺師と知能犯のヤクザ。もちろん、失敗したら生命をとられる危険があります。
てなわけで、556頁もある大部な本をコロナ禍の休日に電車と喫茶店で読了しました。
まあ、悪は栄える、というのではないのが最後の救いでした。
(2019年11月刊。2000円+税)

KID キッド

カテゴリー:警察

(霧山昴)
著者 相場 英雄 、 出版  幻冬舎
この本を警察小説と言ってよいか、やや疑問はあります。というのは、警察庁の高級幹部を相手としてたたかうのは元自衛隊員だからです。それでも警察内部の公安と刑事の派閥抗争、そして首相官邸のなかに喰い込んでいる警察官僚と三つどもえの内部抗争のすさまじさがよく描かれているので、警察小説のジャンルに入れてみました。
自衛隊には、日本にゲリラやテロリストが潜入したときに即時対応できるよう訓練された特殊部隊「特殊作戦群」がある。この部隊については、防衛大臣、官邸の幹部、そして自衛隊のなかでも統合幕官僚長や陸自の幹部が詳細を知るだけ。
高速道路や幹線道路には、警察庁のNシステムが稼働している。あらゆる車両のナンバーと運転手、助手席に乗る人間を鮮明な写真データで保有する仕組みだ。
ドラッグネットは、アメリカの国防総省傘下の諜報機関、国家安全保障局(NSA)が構築したプリズムというシステムをもとにつくられた。
アメリカは9.11のあと、愛国者法を制定し、国民ひとり一人のもつ膨大な量の個人情報の収集を始めた。大規模収集という手法で、通信会社の協力を得て、国民の通話やメール履歴をすべて監視している。
アメリカ政府は、ネットのプロバイダーだけでなく、通販大手やSNS大手のサーバーも監視の網を広げ、個人の発するありとあらゆる情報を吸い上げている。
日本はこの仕組みを導入し、その際、独自にシステムを整備・改造して構築したのが底引き網という名のドラッグネットだ。
狙いをつけたメディアに対しては、固定電話、主要な取材スタッフの携帯電話、社用メール、個人のSNSもほとんど公安が盗聴し、モニターしている。公的権力の監視網は徹底的だ。
個人を特定する顔認証システムも半年間で5回もバージョンアップしている。
もちろん、当然のことながら小説ですからフィクションです。それでもアベシンゾー首相のような視野狭い人物が首相になっていて、狡猾・陰険なスガ官房長官のような人がいて、フィクションと言いながらも現代日本の政治状況をほうふつとさせる場面展開があり、手に汗握るアクションの連続です。政治の舞台裏はかくにありなむと思わせ、私たち国民も手をこまねいていたり、冷笑するだけではすまないと思うばかりです。
アベ・スガ批判の本では決してありませんが、狂人のような集団に政権を握らせると怖いという実感をひしひしと感じさせてくれる本でもあります。そんなストーリーなのに、産経新聞に連載していたというのに少し驚きました。
(2019年3月刊。1600円+税)

キンモクセイ

カテゴリー:警察

(霧山昴)
著者 今野 敏 、 出版  朝日新聞出版
日米関係の闇に挑む、著者初の警察インテリジェンス小説。
これがオビのキャッチコピーです。ネタバラシをするつもりはありませんが、この本で重要なポイントになっているのは、アメリカ軍基地を出入りしたら、日本の入管手続なしで済ませますので、誰がいつ日本に来て、いつ日本から出ていったのか、まったく分からない闇の世界があるということです。アメリカの大統領が成田や羽田空港ではなく、横田基地に入ったときも、もちろん同じです。日本は大統領もその随行者もまったくチェックできません。いわば治外法権です。まともな独立国ではありえないことでしょう。本当に日本は独立国なのか、疑ってしまいます。もちろん、安倍政権はアメリカべったりなので、このことを問題にする気はさらさらありません。
米軍関係者は米軍基地を経由すると、日本を自由に出入りできる、米軍関係者は出入国管理を通らないで、日本に出入国できる。
公安警察から尾行されないためにはケータイを利用しないこと。ケータイは、電源を切っていても微弱電波を察知されて位置情報が分かると言われているが、それは正確ではない。電源が入っていたときに送った微弱電波の記録が基地局に残るので、電源を切っても、その残った情報から位置を割り出されることがあるということ。
逃亡するときのケータイは、家電量販店で、プリペイドSIMカードと、型落ちの安価なSIMフリーのスマートフォンを購入してつかう。
盗聴しようと思えば、ケータイからも固定電話からも同じく可能だ。しかし、端末から電波を飛ばしているケータイのほうが傍受される危険は桁違いに高い。
スイカを使って地下鉄やJRに乗るのも要注意だ。電子マネーから居場所をつかまれる恐れがある。クレジットカードほど分かりやすくはないが、痕跡をたどれなくはない。交通系電子マネーから瞬時に居場所を割り出すのは難しい。
逃亡するときには現金に限る。
アメリカのCIAに相当するインテリジェンスの実働部隊は、警察庁警備企画課が統括する日本全国の公安警察だ。その中心は、警視庁の公安部である。
CIAやSIS(イギリス)に相当するのは内閣情報調査室で、シギント(電子的諜報活動)は、ほぼ防衛省が担っている。ヒューミント(人的諜報活動、スパイ活動ですね・・・)は、公安警察が担当している。
この本は、私立大学出身でキャリア官僚になった同期生が定期的に集まっているという設定でスタートします。外務省に警察庁に防衛省に経産省、そして厚労省です。お互いに、マル秘の話をふくめて情報交換しあうのです。私も東大法学部出身のキャリア官僚から直接そんな話を聞いたことがあります。相互に面識を深めていくのが身の処し方を語らない一番の対策なのです。
キンモクセイとは、我が家の庭にもある植物のことではなく、禁止の禁、沈黙の黙そして制圧。つまり禁黙制なのでした。ここから先は紹介できません。よく情報を握るものが権力を握るというのは真理なのでしょうね・・・。
(2018年12月刊。1600円+税)

不当逮捕。築地警察交通取締りの罠

カテゴリー:警察

著者  林 克明 、 出版  同時代社
 築地市場に仕入に来た寿司店の夫婦が交通取り締まりの女性警官に目を付けられ、言い合いになったところ、やってもいない暴行(公務執行妨害)で逮捕され、不起訴にはなったものの、それまで19日間も拘束されてしまった。
 納得できない夫婦は都と国を被告として損害賠償請求訴訟を提起し、事件発生から9年あまりたって240万円の賠償を認める判決を得た。その苦難の日々がドキュメントとして生々しく再現されていく貴重な本です。
事件が発生したのは2007年10月11日の朝8時ころ。逮捕されたときの被疑事実は、巡査(女性)の胸を7~8回突くなどの暴行をし、巡査の右手にドアを強くぶつけるなどして、全治10日間を要する右手関節打撲の傷害を負わせたというもの。しかし、付近にいた目撃者は口をそろえて暴行なんてなかったという。
 「被害」者である女性巡査のいう暴行の態様は、なんと6通りもある。少しずつ変化していっている。
 逮捕された男性の妻によると、女性巡査は、この妻から無視されたことに立腹したらしい。「この一帯を取り締まる権限をもつ自分たちが無視され」て気分を害したようだ。
 ええっ、これってまるでヤクザのセリフみたいなものではありませんか...。
 夫婦は巡査を被告とする損害賠償請求訴訟を代理人弁護士をつけないで提訴し、追行したが、あえなく敗訴(請求棄却)。
 そこで都と国を相手に国家賠償請求訴訟を提起する。このとき国民救援会の紹介で小部正治・今泉義竜の両弁護士に委任した。裁判が始まっても、警察も検察庁も一件記録の所在が不明だとして、提出を拒んだ。しかたなく文書提出命令の申立を6回もした。
 国賠訴訟で勝てた原因として、目撃者を4人も確保できたことは大きい。そして、目撃者を証人として調べないなど、不公平な審議をしていた裁判官を忌避していたことは効果があった。そして、さらに傍聴席を毎回満杯にできたことも大きかった。最後に、原告本人の強い意思、こんな理不尽なことをそのままにしてはいけないという信念の持ち主だったこと。それにしても警察官が事件をデッチ上げるなんて許せませんよね。
 担当した女性検事(五島真希)は現在、東京地裁判事になっているとのことです。そんなことで本当にいいんでしょうかね...。いい本です。とりわけ検察志望の司法修習生にぜひ読んでほしいと思いました。
(2017年12月刊。1800円+税)

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