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カテゴリー: 社会

彼女たちの戦争

カテゴリー:社会

(霧山昴)

著者 小林 エリカ 、 出版 筑摩書房

 いま、私の生きているこの世界で、戦争が起きている。著者は本書の冒頭で、このように書いています。戦後生まれで、平和になってからのベビーブーム時代に生まれた団魂の世代である私にとって、戦争は体験したことのない、遠い世界の、過去、つまり歴史として学ぶべきものでした。

 ところが、今まさに世界各地で戦争が起きていて、いつ止むのか分からないまま、ずるずると続いていて、すでに6万人以上(ガザ地区)、50万人(ロシアのウクライナ侵略戦争)もの戦死者が出ています。つい先日のアメリカ軍によるベネズエラ大統領夫妻の拉致事件も戦争のあらわれでしょう。

 そして、日本は今や「戦争に備える」と称して大々的に軍備を拡張しています。高市首相は、中国の脅威を声高にあげつらうばかりで、国際法違反が明らかなトランプの暴挙を批判することもなく、ひたすら戦争必至と煽り立てるばかりです。怖い、とんでもない首相です。戦争のない平和な社会を守るのが政治家の第一の使命だということをすっかり忘れ去っています。そして、それに拍手する国民が少なくないのも残念な現実です。

 戦争を始めたのは、本書に登場してくる女性ではない。しかし、彼女たちは、戦争の中で、戦争と関わりをもちながら生きていた。一番最初に登場するのは、ユダヤ人姉妹です。

マルゴー・フランクとアンネ・フランク姉妹。19歳と15歳のとき、ナチスのユダヤ人絶滅作戦のなかで生命を絶たれました。姉はパレスチナで助産婦になることを夢見ていて、妹は作家がジャーナリストになるつもりでした。妹は、「私の望みは、死んでからもなお生き続けること」と日記に書き、それは生かされました。

 今、妹が生きていたら97歳です。100歳以上の日本人は今1万人以上いると思います。アンネ・フランクは決して遠い歴史上の人物ではありません。

 次は、伊藤野枝。福岡出身でしたよね。1923年に起きた関東大震災のとき、28歳にして甘粕正彦の率いる憲兵隊に虐殺され、同じく殺された大杉栄そして、6歳の甥とともに井戸に投げ込まれました。政府に逆らう主義者は殺せという憲兵隊の妄念によるものです。

 今、参政党はスパイ防止法の制定を声高に叫んでいます。政府に盾つくものは、みんな「スパイ」として処罰しようとする、あまりにも物騒な考えに身が震えます。

 そのあと、私の知らない、聞いたこともない女性が続きます。23人目の女性は81歳で亡くなった高井としをです。細井和喜蔵の『女工哀史』の執筆を手伝い、戦後もたくましく生き抜いた女性。このコーナーでも少し前に紹介しました。

世の中には知らないことがあまりにも多いこと、しかし、知るべきこともまた多いことを改めて思い知らせてくれる、120頁ほどの薄い本です。かと言って、手にもつとズシリとした重さを感じます。

(2024年2月刊。870円)

 いま、外国人を排斥し、規制しろとか声高に主張している政党がいます。

 アメリカではトランプ大統領が移民取締のためのICEという組織が市民2人を射殺して、大問題になっています。1日3千人の逮捕を目標として掲げているそうです。ひどい話です。

 でも、外国人労働者を増やし、外国人観光客を4000万人に増やそうというのは自民党政府がやってきたことです。

 外国人労働者が増えたから、日本人労働者の賃金が下がったのではありません。大企業は大儲けしているのに、賃金は上げず、内部留保をためこんでいます。工場も店も、介護施設でも、人手不足で困っています。建築現場も農業も人手が足りません。コンビニに外国人店員が多いのは、日本政府が呼び寄せたからです。

 オーバーツーリズム(観光公害)といっていますが、「迷惑だ、迷惑だ」と言うだけでは観光地に人が来なくなります。

 外国人も日本人も人権を守って労働条件を良くしていくしかありません。

 観光地だって、地元で生活している人との共生ができるように工夫すればいいのです。

 外国人による刑法犯罪が増えているという事実はありません。また、若い外国人が多いのですから、税金で「不法外国人」を養っていることもありません。むしろ外国人は働いて税金を負担しているのに、選挙権はないのです。

 足元の現実をしっかり見つめてほしいです。

星の教室

カテゴリー:社会

(霧山昴)

著者 髙田 郁 、 出版 角川春樹事務所

 著者の『あきない世傳金と銀』は何冊か読んだくらいですが、とても面白い時代小説でした。著者は、なんと中央大学法学部を卒業しています。法律の固い文章とは縁遠い、豊かなイメージの湧き出る文書に、読んでいていつかほっこりしてきます。

この本は時代小説ではなく、現代社会の片隅にひっそりと活動している夜間中学を舞台としています。ずい分前に、山田洋次監督の夜間中学を舞台とする映画がありましたよね。まさしく、その世界が見事に再現されています。

ルポルタージュ風の小説だよなと思って読み終わって、「あとがき」を読むと、本当に大阪の天王寺夜間中学に長期取材したと書かれています。

著者には漫画原作者の時代があったのですね。集英社のマンガ雑誌『YOU』誌上に2001年に連載していたのだそうです。

いま、全国に夜間中学が53校あるとのこと。決して多いとは思いませんが、それでもこれだけの夜間中学で勉強したい人に、その機会が与えられているのは立派だと思います。

元文科省の事務次官だった前川喜平氏も、退官したあと、どこかの夜間中学で教えていたことがありましたよね、確か……。

夜間中学に行こうという人は、さまざまな経歴と境遇にあります。

この本の主人公は、中学校のときいじめにあって、「シネ」とまで書かれて怖くなって不登校になったのでした。初めは、夜間中学の授業を遠くから眺めているだけだったのが、つい誘われて入ってみると、とても居心地のいい空間だったというのです。

学ぶというのは、自分の正解が広がることなんです。知れば知るほど楽しくなり、もっと知りたくなります。著者の筆力に押されて、正月休みの夜に一気読みした本です。

(2025年2月刊。1760円)

声を上げれば政治は動く

カテゴリー:社会

(霧山昴)

著者 かばさわ 洋平 、 出版 Galaxy Books

 タイトルに惹かれて読みました。千葉市の44歳の市会議員の奮闘記です。

 この本はプリント・オン・デマンドです。つまり、客が注文してから印刷、出荷します。私のように大量の在庫をかかえて、事務所の底が抜けてしまいそうだという皮肉を言われることがありません。楽天ブックスで扱っているようです。

 でも、あくまで本屋にこだわる私としては、やはり本は本屋か図書館で手にとって、はしがき(まえがき)とあとがき、そしてもちろん目次を見たいのです。それで読むに値するかどうかを見きわめたいです。

 さて、声を上げたら何が変わるのか……。

 正月早々、トランプが軍事力にまかせてベネズエラに特殊部隊を送り込んで多くの護衛隊員殺害し、大統領夫妻を拉致してアメリカに連行しました。これに対して日本の高市首相はまったくトランプを批判しません。明らかに国際法を踏みにじっているではありませんか。なんで、きっぱり批判しないのでしょうか。信じられません。トランプの横で飛んだりはねたり、みっともないことをするより、腹をすえてトランプを批判すべきです。

 もちろん、市会議員の主な役目は、国際政治ではありません。小中学校にエアコンを設置してほしいという声を上げたのです。これに対して自民党の議員が「強い精神を身につける必要がある」からなどと言ってエアコン不要を唱えたそうです。まさしく戦前の帝国陸軍と同じで、まったく合理性のない暴論です。

 反対にめげず、くじけず声を上げていったら、ついに市長を動かし、2020年5月、すべての小中学校の教室にエアコンが設置されました。

 20年以上も前と思いますが、生活保護を受けている世帯にはエアコンの設置が認められませんでした。でも、粘り強い運動によって、今ではエアコンが設置されるようになっています。最近の異常な炎暑の夏を、エアコンなしでは乗り切れません。まさしく、「健康で文化的な最低限度の生活」を送るためには、エアコンは必須です。「お金がない」というのが、当初の反対の根拠でした。

日本の大学の学資は高すぎます。50年も昔、私の大学生のころは、授業料は月1000円、年に1万2千円でした。寮費も月1000円です。それでいいのです。北欧では大学の学費はタダどころか、学生には生活費まで支給されるのです。なので、アルバイトせずに勉強に専念できます。

 日本に「お金がない」なんて言えません。言えるはずがありません。だって、ついこのあいだまで、軍事費が5兆円になったと騒いていたら、今や9兆円なのです。しかも、その財源の手当てがありません。

 学費を無料にして、大学生に生活費を支給するのに1兆円もかかりません。「お金がない」のではなく、お金の使い方が間違っているのです。人を大切に育てる教育や福祉にもっとお金を使うべきです。アメリカの欠陥ヘリコプター(オスプレイ)を買うのをやめ、アメリカ兵を過保護にしている思いやり予算を削減したら簡単にできることです。

 著者は頭髪のツーブロックを禁止する校則の見直しを求めています。大賛成です。もっと伸びのび子どもたちが学校で安心して学べる環境をつくり上げましょう。それが私たち大人の責任です。

 著者は「かばっち君」イラストをふんだんに使ってSNSや動画を大いに活用しています。今やそんな社会なのですよね。街頭で著者が演説すると、小学生がわらわらと寄ってくるそうです。エアコン取り付けに取り込んだことが知られているのです。サインをせがまれることもありました。

 著書は、子どもたちが将来なりたい職業に政治家と思ってもらえるように努力しているそうです。そうなんです。日本の将来は、子どもたちの目の輝きにかかっているのです。今どきの若者を大いに見直すことのできる本でした。「かばっち君」は3期目の共産党の市会議員です。引き続き大いにがんばってほしいものです。

(2024年9月刊。1000円+税)

ニッポン華僑100万人時代

カテゴリー:社会

日経新聞社取材班(KADOKAWA)

今や日本にいる中国人は100万人になろうとしてます(2024年、現在87万人)。これは、在日朝鮮・韓国人の43万人よりも多いのです。

そして、中国の富裕層だけでなく、中流層も日本に流入しているとのこと。その思いは、さまざまのようです。たとえば、最近久しく行っていませんが、アメ横もアキハバラも中国人の街と化しているとのこと。驚きました。アメ横といえば、シャケやイクラなど海産物を師走に売っていますよね。ところが、それは年末だけで、あとは中国系の飲食店ばかりになっているそうです。観光客が生魚を買うはずはありません。

そして、アキバも、かつてのような電気製品の部品を売るような店はほとんどなくなっているとのこと。私は50年以上前の司法試験受験生のころ、友人と一緒にアキバに出かけ、オーディオ製品を安く買いそろえてもらったことがあります。

 世の中は、ものすごい勢いで変化しつつあるのですね…。

 韓国でも尹元大統領を支持する若者たちが嫌中デモをしているそうですが、日本でも同じようなヘイトデモが横行しているのが残念でなりません。自分が大切にされていないことへの不満がヘイト・スピーチでうっぷん晴らしにつながっていると見られています。

この本を読むと、日本は、今や中国人を含めて外国人がいないとまわらない環境にあることがよく分かります。熱海などの温泉地のホテルも中国資本から次々に買収されているそうです。日本人経営者が逃げ出したようなホテルなので、中国資本が買収して、ホテルとして再建してくれるのだったら、何も文句が言えません。

 山梨県の石和(いさわ)温泉のホテル40軒のうち、4分の1の10軒が中国資本になっています。

 北海道のニセコは海外資本が大挙出動していますが、富良野(ふらの)も同じように中国資本の投資が目立っています。京都の民泊の3割800軒が外国人によって経営されているとのこと。その主力は中国人です。

 この本を読んで驚いたのは、東京23区の火葬場と葬儀場まで中国資本が担っているということ。東京博善は中国資本で、7割のシェアを誇っています。

 中国人留学生がどんどん増えていて、東大の学生の1割、大学院生の4分の1が中国人になっている。うひゃあ、こ、これにも驚きました。

中国人の留学生は平均して毎月15万円の仕送りを受けているそうです。それでも、日本は欧米に留学するより安いので、人気があるそうです。いやあ、中国と日本って、こんなに深い関係があるのですね…。本当に仲良く共生していきたいものです。

025年10月刊。1980円)

高速取引

カテゴリー:社会

(霧山昴)

著者 水田 孝信 、 出版 星海社新書

 1秒間に5000回もの注文を可能とするコンピュータによる自動取引を高速取引という。

 東京証券取引所(東証)の全注文のうち、なんと8割前後が高速取引。高速取引業者は速さを競っている。もっとも速い業者だけが利益を総取りできる。そのため高速取引業者は、取引所のシステムを扱うコンピュータになるべく近いところに、発注するコンピューターを置きたがる。

 うわっ、なんか笑い話みたいです。超高速なので、遠い近いなんて関係ないかと思ったら、近い方が有利だというのです。信じられません。

 シカゴの取引所からニューヨークの取引所までの地下に直線の専用線を引くために地権を置いあさったり、専用の電波塔を建てて返信したりする。アメリカと日本を高速取引専用の海底ケーブルで結ぶという計画まであった(実現していないようです)。

 人間対AIではなく、人間がAI同士を戦わせている。

 東証のシステムの注文応答時間は200マイクロ秒。これは1万分の2秒ということ。人間がまばたきする間に500回もの取引が行われている。

 高速取引は人間には見えない。高速取引にとって、1日で1億回の取引ができ、人間でいうと830年に相当する長さ。

 高速取引は市場が荒れていると儲けにくくなる。損をするくらいなら、取引しないほうがマシだと考える。高速取引が一番儲けやすいのは、毎日同じことが繰り返されているとき。

 高速取引の全盛期は2000年代の後半。2010年代後半から過当競争になっている。

 高速取引は装置に多額の資金を要する、装置産業。2024年10月現在、日本で金融庁に登録している専業の高速取引業者は53社。そのうちダルマ・キャピタル以外は、すべて海外の業者。

 今では高速取引業者は、それほど儲からない業界になっている。

 フェイクニュースの本当の恐怖は、事実を伝えるニュースが嘘だと認知されてしまうこと。

 生成AIは、相場操縦を行う強力な道具だ。

 高速取引は、実は見せ玉に異常なまでに弱い。取引するつもりのない、高速取引を騙すためだけの大量の指値注文を繰り返し出し、ナブ(詐欺師)は利益を得ていた。生成AIを使えば、他人に成りすまして本人確認を突破される危険がある。

 生成AIとか、本当に怖いものが登場していますよね。AIを使って高速取引によって設けるなど、昔はまったく考えられませんでした。世の中は、恐ろしい勢いで変化しています。

(2025年9月刊。1250円+税)

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