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カテゴリー: 生物

立てないキリンの赤ちゃんをすくえ

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 佐藤 真澄 、 出版 静山社
 広島市にある安佐(あさ)動物公園に赤ちゃんが生まれました。ところが、この赤ちゃん、生まれてから一晩たつのに立った様子がない。よく見ると、うしろ足の格好が変だ…。足先が本来なら曲がらない方向に曲がっているから、立てないのだ。診断名は、重度の屈腱(くっけん)弛緩(しかん)。屈腱がダランと伸びきっている。
 キリンが立てないと、母・キリンのおっぱいを飲めない。母キリンのおっぱいは地面から高さ2メートル。立ったままで授乳する。赤ちゃんキリンは立たなければ、お母さんキリンのおっぱいに吸いつくことができない。
 キリンでは、先天的にしろ、後天的にしろ、立てない状態では、最終的には衰弱して死を迎える。人工ミルクを与えても、胃腸の働きが悪くなって、消化不良となって、衰弱してしまう。
 母キリンは赤ちゃんキリンを足で蹴ったりする。これは、いじめではなく、早く立ち上がりなさいという合図。でも赤ちゃんキリンは自力で立ち上がることができない。そこで、飼育員たちは後ろ足にギブスをはめることにした。
 ところが、赤ちゃんキリンがどんどん大きくなっていくので、ギブスの装着は頻繁に変える必要がある。そのため、大勢の飼育員がキリンを取り囲む。それに平気なキリンになってもらわないといけない。
 大きくなると、麻酔するしかない。でも、キリンは4つの胃をもっているので、横になったら胃が圧迫されたりして、誤嚥性肺炎になったりする。
 でもでも、麻酔注射も無理になってきた。しかたなく麻酔銃を使う。赤ちゃんキリンは、銃を見ると警戒するようになった。そして、銃を撃つ人はキリンに嫌われる。すると、その人だけ嫌われ者になってもらい、他の飼育員は「いい人」を演じる必要がある。なーるほど、微妙なんですね、キリン心も…。
 麻酔したときも、キリンの首はある程度は起こしておかないといけない。首の保定(ほてい)も大変。
 赤ちゃんキリンが大きくなって、ついにギブスでも限界がきた。さあ、どうする…。
 広島国際大学には、義肢装具学専攻を含むリハビリ学科があることをHPで発見し、そこにSOSを送り、受け入れてもらえた。大学で赤ちゃんキリンの義肢を何度もつくってもらうのです。なにしろキリンって、体重が1年で200キロも増える。赤ちゃんキリンは、生まれたとき体重57キロだったのが、3ヶ月で120キロ、倍以上になった。
義肢装具士は、厚労省が認定する国家資格。知りませんでした。
 装具バージョン4のあと、ついに、キリンは、装具をはずして歩けるようになった。す、すごーい。
キリンの食事は、1日に枝つき木の葉を10キロ(可食部は3~5キロ)。これに、乾燥させたマメ科の牧草5キロ、固形飼料(ペレット)5キロ。このほか、リンゴや小松菜などの青菜を0.5キロをおやつとして与える。
 2歳(2022年4月現在)のキリン「はぐみ」は、身長350センチ、体重350キロ。いやはや、なんと大きいことでしょうか…。育ち盛り、わんぱく盛り。生まれたときから人間に慣らされているため、飼育員の帽子をかじったり、メガネをとろうとしたり、ちょっかいを出してくる。これは大変ですね…。でも、なんだかホンワカ心が温まりますよね…。
 世界中のキリンは、キタキリン、ミナミキリン、アミメキリン、マサイキリンの4種。日本にはアミメキリンとマサイキリンがいる。広島の安佐動物公園のキリンは、全部、アミメキリン。
 アミメキリンは、東アフリカのサバンナに生息する。1頭のオスと2~3頭のメス、その子どもを加えた10頭ほどの群れで生活している。
 アミメキリンは、生息数が1万頭以下。過去30年間に15万頭以上が10万頭以下にまで減ってしまった。日本の動物園には、58園・館で190頭のアミメキリンが飼育されている。動物園の飼育員って、安月給にもかかわらず、好きで好きで仕方がないのでしょうね…。とても面白くて、一気読みしました。
(2022年7月刊。税込1540円)
 暗くなるのが早くなりました。薄暗くなると、台所の窓にヤモリがへばり着きます。2匹出てくることもあり、少し離れたところでじっと静止しています。夜12時前には姿を消します。
 自然が近いせいか、家の中はあちこちに大小のクモが徘徊しています。庭にはモグラがいて、たまに地上でモグラの死骸をみます。そして困るのがヘビです。突然出くわさないように心がけています。
 今はピンクのフヨウが咲いています。リコリス(ヒガンバナの一種)が庭のあちこちに咲きはじめました。燃えるような赤、やさしいクリーム色、そして純白の花が秋到来を告げます。
 朝はまだ朝顔がたくさん咲いて迎えてくれています。いかにも元気なので、おはようと声をかけます。

「ネコひねり問題」を超一流の科学者たちが全力で考えてみた

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 グレゴリー・J・グバー 、 出版 ダイヤモンド社
 猫は高いところから落ちると、最初にどんな姿勢であっても、必ず、足から着地するという驚きの能力をもっている。
 この本は、超一流の物理学者たちが、この「ネコひねり問題」を理論的に解明し、説明しようとした苦闘の歴史を解説しています。
 なので、その理論のところは、とても難しくて、正直言って私にはよく分かりませんでした。
 それでも、長い尾がなくても、目隠しされていても、そして宇宙(無重力)空間でも無事に着地できるという猫の能力には、改めて驚くばかりです。
 しかも、猫は高層ビルから落下したときにも、意外や意外、ほとんどケガせずに着地するというのです。それも9階より高いほうが猫はケガしないという、私たちの常識に反する事実があるのです。
 信じられません。その理由の一つは、猫の体重が人間よりはるかに軽いからです。
 猫は高いところから落下するとき、完全に無重量状態にある。なので、「加速」を感じることはない。しかし、終端速度に達すると、通常の重さを感じて、衝突に備える。
 32階の高さからコンクリートの地面に落ちた猫は、軽度の気胸と歯が1本欠けただけですんだ。いやあ、まったく信じられません…。
 イスラムの世界では、猫が西洋よりも、はるかに敬意をもって扱われている。それは預言者モハメッド(ムハンマド)が猫を愛したことにもとづく。
 いずれにせよ、猫の身体が想像以上に柔軟であることに関連していることは確実です。
 世の中には、本当に不思議なことが山ほど、次から次に出てくるものなんですね…。だからこそ、この世は果てしなく面白いのですが…。
(2022年5月刊。税込1980円)

進化の謎をとく発生学

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 田村 宏冶 、  出版 岩波ジュニア新書
 エンハンサーという聞いたことのないコトバが登場してきます。
 進化しているのは形づくりの仕組みだ。
 動物の特徴は、エサをとること。それは、細胞がエサを必要としているから。
 タンパク質は、ヒト(人間)の体の組成成分としては、水(17%)に次いで多く、全体重の16%を占めている。ヒトの体はタンパク質でできているどころか、タンパク質によって作られる。
 エンハンサーは、ある遺伝子が脳で発現したり、心臓で発現したり、あるいは筋肉で発現するのに使われる配列。
 ゲノムは数万個以上になるだろうエンハンサー配列がちりばめられていて、その組み合わせで2万5千種類の遺伝子がどの細胞で、いつ、どれくらい機能するかが決められている。
 ヒトでは、200種類に分化した細胞が、さまざまな機能をもつことによって、ひとつの生命体として統合された運動をしている。遺伝子は2万5千種類しかないので、200種類、37兆個から成るヒト1個体分をつくり出すためには、遺伝子をあちこちで使いまわす必要がある。遺伝子の時空間特異的な発現を可能にするのがエンハンサーだ。
 エンハンサーの働きによって、遺伝子は、いつ、どこで発現して、どれくらいタンパク質をつくのか、制御される。 すなわち、受精卵からゲノム情報をもとに発生する。
 鳥の先祖は恐竜。そして、現生の動物で恐竜に一番近いのは、ワニ。恐竜のゲノムは不明。 化石のなかにDNAや塩基はほとんど残っていない。「ほとんど」というのは、少しは残っているということなのでしょうか…。
 魚のカレイはヒラメに近い仲間。ヒラメは成魚になる過程で右眼が左に移動し、左半身にだけ色がついて、左を上に向けて泳ぐ。カレイは逆に、すべて右に動き、右を上にして生活する。 例外もあるが、ひだりヒラメにみぎカレイと覚える。
 世の中、ホント、知らないことだらけですね…。この本は、とてもジュニア向けだとは思えません。
(2022年3月刊。税込902円)

沖縄美ら海水族館はなぜ役に立たない研究をするのか?

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 佐藤 圭一 ・ 冨田 武照 ・ 松本 瑠偉 、 出版 産業編集センター
 前に、このコーナーで紹介しました『寝てもサメても。深層サメ学』の続編です。むずかしい記述もありますが、そんなところは読み飛ばして、とても面白い、ハラハラドキドキの研究が紹介されているのに目が強く惹かれます。
 なにしろ、ガラパゴス諸島に出かけて、その近海で1週間も潜水調査するのです。お目あては、かの巨大なジンベイザメ。巨大ザメに取りつき、注射針を刺して採血し、また水中エコー機で腹部をスキャンするのです。いやあ、すさまじい、涙ぐましい努力ですよね。興奮のあまり録画ボタンを押し忘れるなどの失敗もしながら、見事に血液サンプルを確保し、腹部エコー画像もとったのでした。しかも、それをしたのは日本人研究者の男女です。もちろん、現地の人たちがサポートします。なにしろ水深30メートルほどもあり、水中でエア切れになったりするのですから、サポートなしでやれるものではありません。
 本職が看護師の村雲さんは、採血するにあたって、胸ビレには針が刺さらないので、背ビレの付け根に針を刺して成功した。このとき、ジンベイザメのヒレにつかまっているので、そのまま海の向こうに連れていかれないよう、サポーターが見守っている。いやはや、怖いこと。
 美ら海水族館で独自に開発した健康管理の技術がガラパゴス諸島の周囲に生息する野生ジンベイザメの生態研究に貢献したというのです。すごいことです。
 水族館は、博物館などと比較して、運営コストが群を抜いて高い。というのも、水中にすむ動植物を多数飼育しているから、その飼育水を維持するには、ライフサポートシステムを24時間、絶えることなく稼働させる必要がある。沖縄美ら海水族館は、年間1000万キロワットの電力を消費している。これは一般家庭2800世帯の年間消費量に相当する。そのほか、エサ代そして人件費が必要となる。
 水族館のスタッフは研究する必要がないのか、研究成果の発表なんて不要なのか、という問いかけがなされています。いやあ、必要ですよね。見物客に向けたショーをやっているだけでいいなんてことはありません。
 でも、その研究って、いったい、何の役に立つのか…、と声を低めてしまいます。
 でもでも、目先の役に立てるものばかりが人類に真の意味で役に立つのかどうかは別ですよね。生物の多様性、多様な生物の形態を保持・維持することは人類の生存の保持にもつながるものです。
 沖縄美ら海水族館には、私も2回だけ行きました。年間入場者200万人を記録したとのことですが、コロナ禍の下では、入場者も激減したのでしょうね。だけど、沖縄に行ったら、ぜひ行ってみたいところです。ただ、那覇から遠くて、バスかタクシー、レンタカーしかないのが難点です。早く地下鉄を延伸してくれませんかね…。
 この水族館では、サメの人工子宮をつくっています。人為的にサメの子宮内環境を再現した装置で胎内の胚発生を観察し、サメを産み出すのです。そのため、人工子宮の中を満たした水「人工羊水」を開発しました。サメの体液生成に似せた液体を人工的につくって、本物の羊水の代わりを果たさせるのです。そして、サメ人工出産に成功したのでした。いやあ、すごいことです。
 そして、著者(の一人)は、こう書いています。
 私には、自分の研究の重要性を他人に認めてもらいたい一方で、自分の研究の重要性が他人に分かってたまるかという気持ちがある。お前は、いつから「人に役に立つ研究」なんぞするような研究者に成り下がったのか…。研究者とは、かくも我がままで、矛盾に満ちた生き物なのだ。
 いやあ、面白い本です。挑発的なタイトルもいいですね。こんな問いかけをする研究者がいるからこそ、世の中は発展するわけで、それを阻害する政府の日本学術会議の任命拒否は、ますます許せないという気持ちが強まりました。一読を強くおすすめします。
(2022年6月刊。税込1980円)

寝ても覚めてもアザラシ救助隊

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 岡崎 雅子 、 出版 実業之日本社
 北海道は紋別(もんべつ)市に日本で唯一のアザラシ保護施設「オホーツクとっかりセンター」があり、そこでアザラシの保護活動に従事している著者によるワクワクドキドキのレポートです。
 アザラシって、ほんと可愛いですよね。著者は小学3年生のときにアザラシに魅せられ獣医となって、その保護のために日々たわむれながら働いているのです。幼いころの夢を実現しているって、素晴らしいですね・・・。
 アザラシは人間と同じ哺乳類。アザラシには18種いる。
アザラシはアシカに比べて前肢が小さく、主として後肢を使って泳ぐ。デコボコの少ない流線形の体形は、水の抵抗を減らし速く泳ぐし、体熱の放散を最小限に抑えるのに適している。
 アザラシの個体識別、つまり全頭を見分けるのは、とても大切なこと。
 紋別のとっかりセンターでは、27頭のアザラシを飼育している。保護されるアザラシは漁網に迷いこんでつかまったり、ケガした個体がほとんど。
 アザラシは乾いても大丈夫で、かえって、水をかけると体温を奪われ、衰弱させてしまうことがある。うひゃあ・・・、そうなんですね。
 アザラシは、一般にはとても臆病な生き物。どころが、例外はあり、人間を怖がらないアザラシもいる。
 保護の必要なアザラシは、いったん海へ逃げても、陸上にとどまるような個体だ。保護したアザラシの生存率は、この10年間で、70%。残り30%は助からない。その死因に、寄生虫感染も多い。
 アザラシは個体によって、好みが異なる。イカが好きなアザラシは多い。ホッケ(魚)は頭、胴、尾のそれぞれについて好みが分かれる。なので、飼育員は、アザラシの好みに応じてエサを与える。いやぁ、これは大変ですね・・・。
 アザラシは頭が良い。飼育員にある名前を覚えている。本名だけでなく、ニックネームも分かっている。そして、他のアザラシの名前も分かっているので、その名前が呼ばれると、その周囲に近づいて、エサを横どりしようとするものもいる。
 アザラシの寿命は30年。保護したアザラシはなるべく海に戻してやる。健康なアザラシは、1週間くらい食べなくても、なんともない。
 ゴマフアザラシは、メスがオスを選ぶ。相性が悪いと、メスはオスをまったく寄せつけない。
 ワモンアザラシのメスは、気が強くて、怒りっぽい。オスはメスの尻に敷かれて、うまくいく。
 ゼニガタアザラシは、一夫多妻制。それでも激しい闘争は見られない。幼いころから顔見知りなので、順位関係ははっきりしているからのようだ。
 アザラシは、飼育員を見分けるのに、声を重要視している。
 アザラシが死亡して解剖しているのを見たアザラシは、そこにいた飼育員を敬遠するようになる。アザラシは賢いだけでなく、仲間の死をいたむ気持ちがゾウのように強いようです。
 たくさんのアザラシの写真があって、とても楽しい飼育日記になっていました。
(2022年7月刊。税込1650円) 

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