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カテゴリー: 生物

幻のユキヒョウ

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 木下 こづえ・さとみ 、 出版 扶桑社
 ユキヒョウはネコ科のヒョウ属。ロシアや中央・南アジアの高地に生息する。推定8000頭未満、絶滅の危機に瀕している。
 ユキヒョウは雪山に適応して毛が長く、足裏までぎっしり生えている。子育て期間は22ヶ月ほどで、長い。大牟田の動物園にもいる。
 長い尻尾でバランスをとりながら、急な崖も軽快に移動する。ユキヒョウは声帯が小さく、骨の構造が異なるため、大型ネコ科動物のなかで唯一、咆哮(ほうこう)ができない。
 ユキヒョウは頭からお尻までの体長が1メートル、尾の長さも体長と同じ1メートル。どんな体勢であっても、しっぽが地面に擦れてしまうなんてことはなく、その先端はいつもカッコ良くヒュッと上がっている。
 寒さの厳しい山々に生息するユキヒョウは、行動範囲が広く、また警戒心がとても強いため、人間の足で直接観察によって探すことはほとんど不可能。そこで、ユキヒョウがいそうな場所に赤外線カメラを仕掛ける。雪のうえなら足跡が見つかる可能性がある。そして、ひたすら下を向いてユキヒョウの糞を探す。糞は、きわめて貴重な手がかりで、研究者にとっては宝石みたいに価値がある。ユキヒョウは排泄前に後肢で地面を掻き、掻き集まった土の上に排尿し、見せつけるようにその上の糞を出す。
 モンゴルのゲルに泊まると、なかは広々としたワンルーム。トイレも風呂も着換えする個室もない。トイレは青空。夜はゲルから外に出ると、見渡すかぎりすべてが星。トイレの場所は決まっておらず、草原のどこでもOK。なので、窪みや岩の影を探し求める。
 遊牧生活の燃料は家畜の糞。糞を乾燥して使う。モンゴルの草原では、木材は貴重品。
 ユキヒョウは好奇心旺盛な動物でもある。
 次は、インドの3256メートルもある高地に行ってユキヒョウを探します。いきなり富士山の山頂付近に降り立ったようなもの。高山病対策として、寝たらダメ。寝たら呼吸が浅くなって危ない。ひたすら紅茶でも飲んでしゃべっていること。眠ると呼吸が浅くなって酸欠になりやすく、高山病が悪化する。うひゃあ、なんとなんと、眠ったらダメなんですか…。
 ユキヒョウは、大型ネコ科のなかでは気が弱いせいか、人間を襲って殺したという事例は過去に報告されていない。
双子に生まれた姉妹によるユキヒョウ探検記が写真とともに紹介されています。双子のひとりは研究者で、もうひとりはコピーライターです。二人がうまく息をあわせて面白い本になっています。
(2023年4月刊。1760円+税)

魚と人の知恵比べ

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 マーク・カーランスキー 、 出版 築地書館
 魚釣り、とりわけフライフィッシングの世界を奥底までのぞき込んでいる本です。
 フライフィッシングといえば、すぐにアメリカ映画『リバー・ランズ・スルーイット』を思い出します。見事な竿さばきが展開するシーン(情景)は今も鮮明な記憶として脳裏に残っています。
 フライフィッシングには、破ってはならないルールが2つだけある。その一つは、水中で転んではいけない。その二は、フライをできるだけ長く水中に保たなければならないこと。
 川に棲むマスは、水温が20度をこえると、エサをとることも繁殖することもなく、死んでしまう。温度の高い水には含まれる酸素が足りないからだ。
 フライフィッシングは、もともとサケ科の魚を釣るために考え出された。サケ科は頭が良くて狡猾で、強く、運動能力が高く、頑固な生き物だ。人間は簡単には釣れない。
海水魚は昆虫を食べない。マス用と海用のフライには、小魚やエビに似せられていることが多い。
竿は弓なりにたわみ、生まれて初めて、至上の喜びともいえる魚の「引き」を感じる。釣り人の素質がある者なら、引きの喜びを一度味わったら、決して忘れられない。それは、筋肉に刻み込まれ、繰り返し繰り返し、感じたくなる。
 釣り人の目的は、魚が疲れきるまで遊ばせること。そうして初めて魚を取り込むことができる。そのような状態にある魚は、血中の乳酸濃度が高まる。濃度が高まりすぎると、魚は死ぬ。
 魚釣りの楽しさを、私は父から教わりました。父の運転するオートバイのうしろに乗って父にしがみついて、弁当をもって菊池川の上流に足をのばしました。それほど釣れたという記憶はありませんが、清流に向かっていい気分でした。私自身は大川あたりの筑後平野のクリークでの鮒(フナ)づりです。浮きがすーっと沈んでいくのに当たると心が踊りましたね…。
 フライフィッシングは残念なことにしたことがありません。それにしても、フライフィッシングだけで290頁もの紹介本です。これもすごい世の中ですよね。
(2023年5月刊。2700円+税)

モンシロチョウの結婚ゲーム

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 小原 嘉明 、 出版 蒼樹書房
 庭でのキャベツ栽培に私も挑戦したことがあります。春になると、それはそれは大変でした。毎朝、庭に出て青虫を割りバシでつまんで足で踏みつぶさないといけません。青虫がチョウになるのを喜んで待っているわけにはいかないのです。放置していたら、とんでもない虫くいキャベツになってしまいます。ところが、とってもとっても青虫は、それこそ湧くように出てきます。これではキャベツの生産者が農薬を使うのも当然だと実感しました。
 モンシロチョウは、キャベツづくりをやめた今でも、春になると庭をヒラヒラと飛びかっています。著者によると、モンシロチョウの飛び方は、オスとメスとで違うそうです。なにやらジグザグに飛びまわっているのはオス。メスは葉にしがみついてせっせと産卵にはげんでいる。なので、飛び方だけでオスかメスかを言いあてることができる。
 では、オスはなんで、そんなにジグザグに飛びまわっているのか…。もちろん、結婚相手のメス、それも未婚のメスを求めて飛んでいるのです。
メスはオスが近づいてくると、3つのタイプの反応を示す。まず第1に、翅(ハネ)を開いて腹部を押し立てる、逆立ち反応。これはメスのオスへの拒否反応。第2は、メスが小刻みに翅をバタバタ開閉する、はばたき反応。オスはすぐに飛び去っていく。第3は、翅を閉じたまま、ぐっと静止の姿勢を続ける。オスはただちに交尾行動に入り、すぐに交尾が成立する。
それでは、なぜオスはメスをすぐに見分けることができるのか…。オスとメスは形や大きさに違いはなく、大変似ている。しかし、どこかが違うはず。何が違うのか…。
その答えは、紫外線です。紫外線写真をとると、メスは白く、オスは黒くうつるのです。メスの翅は強く紫外線を反射している。つまりメスの翅は紫外色を含んでいる。オスの翅には紫外色はまったくない。なので、オスはひたすら真っ白のメスを探しているというわけです。
ところが、この本では、なんとモンシロチョウの眼にメガネ(黒いサングラス)をかけたらどうなるのか、という実験までしています。まずは、その方法です。透明のビニールに小さなガラス棒をつき立て、出っぱったところをはさみで切り取る。メガネをかけるときは、チョウを冷蔵庫に入れて冷温麻酔しておく。そして、チョウの眼にカプセルをかぶせ、後ろのところを蜜ろうで固定する。そのうえで、メガネに黒ラッカーを塗る。すると、チョウの眼を痛めることはない。この状態のメスは、オスが近寄ってきても逆立ち反応をまったくしない。つまり、逆立ち反応はあくまで視覚的なものであることが裏づけられた。これは、ホルモンの分泌を促すことと関係があるのではないか…。
 いやあ、学者って、モンシロチョウの眼に黒いサングラスをかけてみたらどうなるのか、なんてことまで実験してみるのですね…。驚きます。
実は、この本を読んだのは30年近くも前のことなんです。そのとき受けたショックはとても大きくて、本棚の目立つところにずっと鎮座していました。久しぶりに読んで、ぜひ皆さんにお知らせしたいと思ったのでした。
(1994年5月刊。2300円+税)

チョウの翅はなぜ美しいか

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 今福 道夫 、 出版 化学同人
 チョウのはね(翅)は翅(し)と読みます。キラキラと輝いていますよね、美の極致です。
 いま、我が家の庭の一隅にはフジバカマを植えています。日本列島を縦断するというアサギマダラを待ち構えるためです。昨年の秋は来てくれませんでしたから、フジバカマの種類も増やしました。今年は、ぜひ来てほしいです。
 この本を読んで驚嘆するのは、チョウのオスがどんなメスを好むのか、逆もしかりで、メスの好むオスの色を探るため、たとえばチョウに糸を付けてオトリをつくるという実験をしていることです。それだけではなく、チョウがあちこちふらふらするように円盤をモーターで動かす工夫もしています。すごく細かい工夫です。
アサギマダラには、チョウの個体識別のために、チョウの体にカラーマーカーで文字を書き込むとのことです(それでもアサギマダラは十分な飛しょう能力を損ないません)。
緑の翅をもつ種の多くは紫外線も反射する。だから、人間には緑に見えても、チョウには違った色に見えているはず。
チョウの翅の色には2通りある。その一は色素により、その二は構造色。鱗粉の微細構造による。このときは、見る角度によって異なる色が見える。構造色では、外からの光を薄い膜や細かい溝のような構造で位相の異なる光に変え、それらが強めあったり、弱めあったりする干渉作用によって、特定の波長の光を作り出している。
ミツバチには色覚がある。というのも、実験すると96%のミツバチが黄色に集まったから。
昆虫には赤が見えない。赤と黒を同じものと見ている。
昆虫は紫外線にもっとも敏感。なので、「誘蛾灯」は紫外線を強く発散するように出来ている。
チョウにも色覚がある。チョウはオスだけでなく、メスも意外と積極的にオスにアタックする。メスは「誘い飛行」する。メスは、よく動くオスに強く惹かれる。
チョウを対象として、フィールドワークという野外実験するときの苦労が少しばかり伝わってきました。同じところに何時間もとどまってチョウを観察するという苦労も分かりました。学者って、本当に大変な仕事ですね。
(2023年3月刊。1870円)

昆虫学者、奇跡の図鑑を作る

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 丸山 宗利 、 出版 幻冬舎新書
 図鑑の何が好きかと問われたら、まだ見ぬ世界そのものがあること。
 図鑑で憧れた昆虫を追い求め、世界中を旅行している著者たちが、あらゆる憧れの生き物を見るには、人生は短すぎる。
 私にとっては、図鑑ではなく写真集です。世界中のさまざまな情景を切り取った写真集や動植物のいろんな生き様を鋭く暴いた写真集などです。私が実際に現地に行って見ることは、それこそ人生は短すぎるので、無理なのですが、写真集は古今東西、ありとあらゆるものを眼前に見せてくれます。
 著者たちが挑戦したのは、すべての昆虫を生きた姿の写真で掲載すること。それは、昆虫の多様性と進化が分かるものでもある。そのためには、白い背景で昆虫を撮影する。目標を立てたら、それに必要な仲間を見つける必要がある。
 さらなる難問は、撮影期間が1年しかないということ。うひゃあ、こ、これは大変ですよね…。たとえば、チョウの白バック写真は非常に難しい。というのは、チョウの多くは翅(はね)を閉じてとまるので、室内の白い背景で翅をうまく開いてくれる保証はない。
 そして、撮影した人が図鑑の解説の執筆者を兼ねる。こんな人をまず10人確保した。でも、とても足りない。そこでSNSなどで求めた。結局、30人以上の人が加わってくれた。
 白バックの背景で写真をとろうとしても、昆虫の多くはじっとしていたくない。また、立体感と存在感を出すため、適切な影をつけることも大事なこと。うひゃうひゃ、これはいかにも大変そう…。
 白バック撮影で生き虫の動きを止めるため、二酸化炭素を容器に流し込んで動きを止める。そして、しばらくして昆虫が目を覚まして動き出した瞬間を撮影する。いやはや、口に言う以上の大変さがあるでしょうね…。
 結局、7000種の昆虫の3万5000枚もの写真がとれた。そのうちの2800種を図鑑に掲載した。
 ストロボを使って昆虫を撮影するとき、白いプラスチックの板や紙をはさむ。それによって光が拡散する。ところが、光が拡散しすぎると、光沢が消えてしまうので、その加減が難しい。
 トンボは死ぬと身体の色が変わってしまう。トンボは、すぐに弱ってしまう。元気なトンボで困ったと思っていると、その直後に死んでしまう昆虫なのだ。
 九州は関東ほど昆虫は多くない。しかも、明らかに昆虫が減少している。日本だけでなく、世界各地で昆虫の減少が報告されている。
 たとえば、シジュウカラ(鳥)は、1羽あたり、1年に12万匹の昆虫を食べる。
 昆虫図鑑づくりの大変さが、たくさんの写真とともに、よくよく実感できる本でした。
(2022年9月刊。1200円+税)

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