法律相談センター検索 弁護士検索
カテゴリー: 朝鮮・韓国

あの夏のソウル

カテゴリー:朝鮮・韓国

(霧山昴)
著者 イ ヒョン 、 出版 影書房
 1950年6月25日、朝鮮戦争が始まった。
 私も大学生のころは、なんとなくアメリカが先に北朝鮮に仕掛けた、あるいは故意に隙(スキ)を見せて北朝鮮軍を引き寄せて始まった戦争ではないかと疑っていました。でも、今では金日成が毛沢東の反対を押し切り、スターリンから同意を取り付け、その援助を受けて「赤化統一」の名のもとに南侵して始めた戦争だというのが歴史的事実として動かない事実となっています。だから、当初、北朝鮮軍はたちまち南下して、釜山あたりだけを残して韓国の大半を占拠した(できた)のです。
 朝鮮戦争で残念なのは、双方とも民間人を相当に虐殺しているということです。刑務所に収容されている人を虐殺したり、避難中の人々を殺害したり、どちらの陣営もしているということです。この本(小説)にも、その事実が反映されています。悲しい現実です。武器を持った内戦というのは、なかなか歯止めがきかないものなのでしょうね…。
 北の人民共和国は、地主と親日派の人々を厳しく断罪した。
 南のほうも、アカは裁判なしで処刑し、道にさらして当然…。
 北朝鮮軍が侵攻してくるとまもなく、首都ソウルは陥落寸前となった。李承晩大統領は、ラジオでは首都ソウルを死守すると言いながらも、いち早くソウルを抜け出した。いつの世も、いつの支配者も、国民を置きざりにして、我が身の安全が最優先なのですよね…。
 ソウルには、「われらの偉大なる指導者、金日成将軍万歳。朝鮮民族の親愛なる友、スターリン大元帥万歳」というスローガンが大書された。
 ところが、まもなくアメリカ軍に制空権を奪われ、ソウルもいたるところにアメリカ軍の爆撃機が爆弾を落としてまわっている。
 そしてアメリカ軍が仁川に上陸したあと、戦局は急転回し、北朝鮮軍は、ほうほうの体で後退していった。
 去年の夏に避難しないでソウルに残っていた人たちは、国家反逆罪の嫌疑がかけられた。「日常生活を送ってください」という韓国政府のことばを信じてソウルにとどまったというのに、それ自体で疑われる理由になった。
 生きるために人民軍に協力したのであれ、信念をもって参加したのであれ、人民共和国の世で明るい太陽を見て息をしていたという理由だけで、アカという疑いをかけられた。アカだと目をつけられたら、それだけで、その場で命を失った。裁判を経て処刑される人たちは、それでも死を準備する時間くらいは持てるのだから、まだましと思えるほどだった。
 朝鮮半島に生きる人々にとって、戦争は歴史ではなく、日常である。この言葉は重たいです。朝鮮戦争のなかで翻弄される学生たちの悲惨な状況がよく描かれていて、他人事(ひとごと)とは思えませんでした。
(2019年3月刊。税込2420円)

韓国軍はベトナムで何をしたか

カテゴリー:朝鮮・韓国

(霧山昴)
著者 村山 康文 、 出版 小学館新書
 アメリカのベトナム侵略戦争は私の大学生のころのことです。アメリカ兵の5万5千人もの戦死者の多くは私と同世代でした。もちろん、ベトナムの若者たちも多く殺されました。ベトナムの若い女医さんの従軍日記『トゥイーの日記』は涙なくしては読めません。
 そして、アメリカ政府の要請にこたえて韓国軍もベトナムに出兵したのです。アメリカ軍以上に韓国軍は凶暴だとベトナム人から恐れられ、嫌われていたようです。
 なぜアメリカの要請に韓国政府がこたえたのか。それは、その見返りにアメリカから多大な経済援助を受けたことにあります。そのおかげで韓国経済は急速に立ち直り、目ざましい経済発展につながったのでした。これは、日本が朝鮮戦争で大きく復興したのと同じことです。
 今、ロシアの無法なウクライナへの侵略戦争が続いていますが、ウクライナへの強力な軍事援助のおかげでアメリカの軍需産業は大変な好景気にあるようです。戦争は多くの市民にとって、最大の人権侵害ですが、一部の戦争商人にとっては、絶好の金もうけになるというわけです。いやですね、そんなこと…。
 韓国軍は、「きれいに殺して、きれいに燃やし、きれに破壊する」というスローガンのもと、「ベトコン」の捜索・掃討作戦を展開していった。
 ベトナムには「ライダイハン」と呼ばれる、ベトナム人と韓国人とのあいだに生まれた人々がいる。韓国兵というより韓国人労働者とベトナム人女性とのあいだで多くは生まれたようだ。
 2011年10月に韓国の亀尾市体育館で開催された「ベトナム参戦47周年記念」式典には、ベトナム戦争に従事した元兵士ら1万4千人が参加した。そこでは、我々は京釜高速道路やソウル地下鉄はもちろん、韓国人の生活水準の向上に貢献したことが強調された。なるほど、それは事実なのでしょう…。
 韓国軍がベトナムで何をしたのかについて、アメリカ軍と違って従軍記者がいなかったので、証拠となる写真などの記録がほとんどないのが特徴。ベトナムで韓国軍の残虐な民間人殺害を現場まで出向いて調査した「ハンギョレ」新聞の記者に対して、ベトナムに参戦した元軍人らが「虚偽、捏造(ねつぞう)」として名誉毀損罪で告訴した。これに対して、記者たちについて「民主社会のための弁護士会」(民弁)所属の弁護士たちが弁護したとのこと。
 日本でも、「南京事件」について「大虐殺なんて、なかった」という右翼たちの攻撃があった(ある)ことを思い出します。「30万人」が虐殺されたかどうかはともかく、大量の民間人を日本軍が虐殺したことは日本の皇族も認めている歴史的な事実なのです…。どこの国にも自国の負の歴史を認めたがらない人々が少なからずいるというわけです。
 でも、歴史の真実に目をそむけてはいけないと思います。子どもたちに語り継げないような悪いことを繰り返してはいけないからです。
(2022年8月刊。税込990円)

搾取都市・ソウル

カテゴリー:朝鮮・韓国

(霧山昴)
著者 イ・ヘミ 、 出版 筑摩書房
いやあ驚きました。文在寅前大統領は平和問題でがんばったと思っているのですが、「住宅政策のまずさ」から、現在の尹大統領が誕生したと聞いています。その韓国の貧しい住宅事情の一端が暴露されている本です。2019年5月、そして10~11月に「韓国日報」に連載された記事をもとにしています。
「ホームレスと住居の境界線」と言われるほど劣悪な環境にあるチョッパン街に蔓延する建物オーナーによる略奪的な賃貸業を暴露する。また、若さと未来と担保に若者を住宅貧困状態へと追いやるオーナーたちの集団的利己主義を検証している。
「考試院」とい言葉が真っ先に登場します。司法考試(司法試験)を受験する学生が泊まり込みで勉強する場所だったが、今は、保証金なしで入居して暮らせる最低ランクの住宅を意味している。
考試院の中にも階級があり、その目印は「窓」の有無。チョッパンでは、家賃に水も電気代も全部が入っている。でも、大家は電気をバンバン使わせてくれるわけじゃない。ストーブは、電気代がかかるので使わせてくれない。
チョッパンとは、部屋をいつくかに小さく分けて、1人または2人が入れるように作った部屋のこと。フツー、3平方メートルほどの小さな部屋。一般に保証金は不要で、月決めの家賃を支払う。ソウル市だけでも3万3千人ほどがチョッパンに暮らしている。
チョッパンには、法律で定めた最低住居基準は無力だ。というのも、チョッパンは、家でない非住宅に分類されている。法的にも政策的にも、きちんとした定義がない。チョッパンは各種法制度の盲点となっている。
非住宅に居住する世帯数は、2005年に5万7千世帯だった。10年後の2015年には39万3千世帯と、7倍へ急増した。このうち82%がチョッパンと考試院で暮らす人々だと想定される。貧しい者がソウル暮らしをやめないのは、それなりの理由がある。
チョッパンは炊事が難しいので、インスタント食品ですます人は多い。
チョッパンの住民の4分の1は、この1年のうちに自殺を真剣に考えたことがある。
チョッパン街は女性にとって暮らしにくい環境。女性のホームレスは、大部分がホームレス施設に入ることを選び、チョッパンに入るのを選ぶことは、ほとんどない。
トイレも台所もないチョッパンの家賃は1坪あたり25万ウォンになる。坪あたりで考えると、普通のマンションの5倍。
家賃は現金で支払われるので、オーナーは税金を支払っていない。チョッパンの大半は、「無許可」なので、税金を納めることもない。オーナーたちは、家賃を突きに400~500万ウォンも受けとっているので、むしろ再開発を望まない人が多い。
家賃は月に20~30万ウォンで、この中から撞き10~15万ウォンを実際の所有者(オーナー)に送金する。残りは中間管理人の利益となる。
チョッパンの坪あたりの平均賃料は18万2550ウォン。ソウル全体のマンションの平均賃料3万9400ウォンの4倍をこえる。
0. 5~2坪ほどの狭い部屋には、キッチンもシャワーもトイレもついていない。
多くのチョッパン住民は路上に放り出されないように、ひっそりと暮らしている。
国民の血税によって貧困層に提供された福祉が、結局は家主の懐に流れていってしまう。これは大きな問題だ。
オーナーにとって、チョッパンから入ってくる賃料は毎月の現金収入になる。チョッパン経営は、多くのオーナーにとって、「脱税手段」として利用されている。毎月の収入が100万ウォンになるオーナーがいる。
ソウルで1人暮らしの若者の住居貧困率は、2005年に34%なのが、2015年には37%に上昇している。いまや、学生街がチョッパン街になっている。「ミニワンルーム」、「超ミニワンルーム」という宣伝文句は要注意ということ。
日韓の若者の「住まい」をめぐる状況には、驚くほど共通点が多い。日本の若者たちも窓のない部屋に押しこめられている。それが国全体にとって、どれだけ損失になっていることか…。住宅問題の日韓の相違点と共通点をあげて確認し、鋭く問題提起している好著です。ぜひ、ご一読ください。
(2022年3月刊。税込1870円)

韓国カルチャー

カテゴリー:朝鮮・韓国

(霧山昴)
著者 伊東 順子 、 出版 集英社新書
お隣の韓国を知るということは、実は、日本をよく知ることでもあるということを実感させられる本(新書)です。
韓国には、小学校から大学までのエスカレーター校はない。日本の慶応大学には、小学校(幼稚舎)があり、内部進学のルートがある。早稲田大学も同じ。韓国には、この内部進学という制度がない。日本の早慶とたとえられる高麗大学と延世大学にはエスカレーター式の附属高校はない。
日本の都会にみられる熾烈(しれつ)な中学受験はないし、東大にごっそり入る中高一貫の男子校もない。医学部も韓国では、他の学部と大きな差はないので高学費を理由として、私大医学部をあきらめる必要はない。逆に、日本以上に倍率が高いので、韓国では医者の子どもも医者にはなれない。日本によくある親子二代続きの病院も韓国にはない。韓国の大学入試は、機会的等、フェアな競争が大前提。
日本の東大の入学者の8割は男子学生だが、韓国のソウル大学では4割強が女子学生。
韓国で「 S K Y 」の意味は特別。ソウル大学(S)、高麗大学(K)、延世大学(Y)のこと。韓国では、この3大学の地位が突出して高く、雲の上の存在。
日本人が考える何倍も、韓国社会においては「学歴」の価値は重い。
韓国の財閥は伝統貴族ではない。彼らは経済活動に成功した人々であり、さらに重要なのは、その経済活動が現在進行形であること。この躍動感こそが韓国の財閥の魅力。国民に夢を与え続けている。
財閥ファミリーがすることを一般富裕層が追いかけ、さらに普通の人々もそれに刺激される。財閥は企業体として韓国経済を牽引するが、それ以外の面でも韓国社会に与える影響力はすさまじく大きい。
韓国の財閥ファミリーは、過去の身分制とはつながっておらず、創業者の多くは自らの力で成功した起業家。韓国では、財閥ファミリーは「公人」扱いされている。
韓国人には徹底した水平思考があり、財閥ファミリーは「別世界」などと分けてしまうことはない。
韓国の人口は5,000万人(北朝鮮は2,500万人)。海外同胞は700万人。ピーク時は毎年3~4万人がアメリカの永住権を取得していた。その結果、1970年当時は8万人だった韓国系移民が1990年代には100万人をこえていた。
首都のど真ん中に、かつては広大なアメリカ軍基地があった。今は、国立中央博物館や龍山家族公園になっている。
今では、アメリカ軍基地の中に、韓国人が憧れるようなものは何もない。
韓国人にとって、ベトナム戦争は非常に重い記憶である。日本は憲法9条のおかげで自衛隊の海外派兵は当時できませんでした。盛んだったベトナム反戦運動がそれを与えていたと思います。しかし、韓国軍はベトナムに派遣され、大勢の韓国人が戦死し、負傷して帰国してきたのです。ところが韓国経済は、それで立ち直ったと言われています。朝鮮戦争が日本経済に好景気をもたらしたのと同じですね。
私の孫たちも韓国に住んでいますが、学歴競争に巻きこまれず、のびのびと育ってほしいと願うばかりです。
(2022年1月刊。税込946円)

人生を変えた韓国ドラマ

カテゴリー:朝鮮・韓国

(霧山昴)
著者 藤脇 邦夫 、 出版 光文社新書
私は韓流ドラマはまったくみていませんので、この本で紹介されているドラマもみたものはありません。でも、今や韓流ドラマは日本だけでなく、インターネットを通じて全世界に流れて流行しているというので、その謎を知りたくて読みました。
「冬のソナタ」が日本で大人気になったのは20年ほど前の2003年ころ。第一次の韓国ドラマブームが起きた。第二次は、2011~2015年。2016年から第三次ブームが起きて、アメリカドラマに匹敵するようになった。そして、第四次は、2019~2021年、「愛の不時着」、「梨秦院(イテウォン)クラス」、「賢い医師生活」が登場した。
韓国ドラマは日本のドラマよりずいぶん先を歩いていて、21世紀中に日本が韓国に追いつくのは、もはや不可能な状況にある。
韓国ドラマとアメリカドラマは、視聴ソフト・コンテンツとしては、ほぼ同一線上にある。
韓国ドラマのすべてが傑作ではないが、その打率は6割強に達している。これは、驚異的なクオリティの高さ。
「冬のソナタ」は女性に受けたが、「チャングムの誓い」は男性にも受けた。また、50代中心から、40代~60代にまで幅が広がった。
日本のドラマが停滞しているのは、制作のスタッフ、演出、脚本、俳優が劣っているからではない。広告スポンサーのつくドラマの企画が20代、30代の若い女性向けしか求められていないから。企画がこのように硬直しているからだ。
そして、韓国ドラマは、2億人の視聴者を保有するネット配信による全世界同時公開だ。
アメリカドラマは、シナリオライター集団からのアイデアで全体のコンセプトを決定していく。
これに対して韓国ドラマは、一人の脚本家が単独で書く傾向が強い。
韓国ドラマには、メロドラマの通俗性をさらに強固にするため「復讐」の要素が付加されるという特有の傾向がある。
韓国ドラマほど、日本人(とくに女性)のメンタリティに自然に浸透した映像文化は他にない。なんといっても企画の斬新さと脚本が大切。
韓国ドラマの日本リメイクは、可もなく不可もなくというのがほとんど。ところが、日本ドラマの韓国リメイクは、みんな成功している。韓国俳優が演じて、演技に深みが出ている。
日本では、不倫と復讐ドラマは、一般的な支持が得られない。
年齢・性別を問わず、韓国は世界有数の俳優大国。生活力旺盛で、感情表現の豊かな俳優が多く、たとえば患者を演じる俳優たちの感情過多で、過剰なほどの喜怒哀楽の振り幅は、ドラマに不可欠。日本の視聴者にとって韓国ドラマが新鮮だったのは、ドラマ内の人間の喜怒哀楽の感情表現が素直で、しかも生(なま)で、ストレートだから。
人物造形も善悪の二項対立が分かりやすく、基本的な筋立ても理解しやすいので、親近感が自然と湧いてくる。これに音楽効果もあり、全身で感じる「何か」があって、「心に沁(し)みる」のだ。
韓国ドラマはまるでみていませんが、韓国映画はかなりみています。本当にいい映画が多いと思います。人間社会の現実を見て、改めて考えさせられるようなもの、政府にタテついて堂々とモノを言うようなものが少なくありません。みなさん、ぜひ映画もみてください。
(2021年11月刊。税込1320円)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.