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カテゴリー: 司法

ワンランク上の説得スキル

カテゴリー:司法

著者   小山 斎 、 出版   文芸社  
 著者には申し訳ありませんが、読む前はまったく期待していませんでした。ですから、得意とする飛ばし読みでもしようかと思って読みはじめたのです。ところが案に相違して、これがすこぶる面白く、かつ、実務的にも役立ち、また、反省させられもする本でした。
 著者は大学に入るため肺結核と診断されます。そのとき19歳、母や弟たちを捨てて、大学に向かった。すぐサナトリウムに入らないと死ぬと医者から言われていたのに、なんと長生きしたのでした。
 この本には、説得の見本ないし材料としていろんな本が紹介されています。「走れメロス」もその一つです。教科書に出ていましたよね。さらに、芥川龍之介の「羅生門」が登場します。黒澤明監督の有名な映画にもなった話です。いろんなストーリー展開が矛盾する形で展開します。まさに真相は「薮の中」です。次に、シェイクスピアの「ジュリアス・シーザー」です。これは、私はまったく知らない話でした。続いて登場するのは、森鴎外の「高瀬舟」。ここでは、弟を殺してしまったのか、自殺の手助けをしただけなのかが問われています。難しい問いかけです。
 人が相手から受けとる情報は、外見やボディランゲージが55%、声の調子が38%。言葉はわずか7%にすぎない。顔の表情が一番であり、やはり目がものを言う。
 コミュニケーションは、人を動かす力である。相手に共感、納得してもらったうえで、相手に自ら動いてもらう力なのだ。
 聴き方には次の4原則がある。1つ、目を見る。2つ、ほほえむ。3つ、うなずく。4つ、相槌をうつ。聴き方には、3つの方法がある。1つ、受け身で聴く。2つ、答えつつ聴く。3つ、積極的に聴く。 
 人間の脳が一番喜ぶのは、他人とのコミュニケーションである。そのなかでも、目と目が合うことが一番うれしいこと。脳が喜ぶとは、脳の中でドーパミンが放出されること。
 説得するときの6つのマジック。その1、会ってすぐに相手の名前を呼ぶ。その2、聴くとき、話すとき、体を少し乗り出す。その3、ほほ笑む。その4、相手に対して相手に対して気づかいを示す。その5、楽観的に、前向きであること。その6、相手を尊敬する。
 依頼者との打合せが終わるころ、雑談に入って、話の主導権を依頼者に渡す。すると、それまでと反対になって、二人の関係は対等になる。すると、依頼者は笑顔で帰っていく。
説得したい相手が怒っているときは、どうしたらよいか?冷静にふるまい、おどろきの表情も見せない。その怒りの原因がこちらにあるときは、心から、すぐに謝罪する。理不尽な挑発のときには、反発も反撃もせず、冷静さを保つ。そして、相手の立場を知り、相手の視点で、ともに考えて問題を解決したいという姿勢を示す。相手の挑発は、いずれ収まる。コーヒーブレイクをとる。場所を変える。
勉強になりました。著者の若いときのご苦労がしっかり生かされ、教訓化されているところは、さすがだと感嘆しました。
(2012年1月刊。1100円+税)

ある心臓外科医の裁判

カテゴリー:司法

著者   大川 真郎 、 出版   日本評論社  
 ある心臓外科医が手術ミスをした。執刀医の教授を部下の医師が内部告発して、そのことが明らかになった。当然のことながら遺族は怒り、損害賠償を請求するとともに刑事告訴した。さらに、週刊誌が取りあげ、テレビや新聞も大々的に取りあげるに至った。
 無能な執刀医はそれまでにも幾多の医療ミスをしていたし、手術の前にすべき患者の診察もせずに執刀し、患者の死後、遺族への説明もせずに逃げまわった。
 このような報道はよくあるパターンです。ところが、これがまったく事実無根だったら、どうでしょうか・・・。
 この本は、8年がかりで執刀医にミスはなかった、かえって内部告発した医師のほうが無能であって、まかされた術後管理が悪かったために患者を死なせたのであり、しかも、その医師は別の病院でも医療過誤で訴えらたことがあって、裁判で訴えられて責任を認められていたということまで明らかにしています。
とても大変な裁判だったと思いますが、著者は同じ事務所の坂本団弁護士とともに、その困難な課題をやり遂げたのです。さすがです。
 週刊誌に対する名誉毀損の損害賠償請求にも教授は勝訴します。慰謝料500万円のほか、謝罪文を命じる判決でした。出版社側が控訴し、高裁で和解が成立しました。和解は慰謝料400万円のほか、謝罪広告を週刊誌にのせろという内容です。金額は相応のものと思いますが、問題は謝罪広告です。
 教授の名誉を侵害する記事が3頁にわたって大きく取り上げられていたのに対して、謝罪広告のほうは5年後に最終1頁5段の最下段に小さく載っただけ。これでは、誰も気がつかないようなものでしかありません。やられ損ですよね・・・。
そして、「内部告発」した医師を教授は訴え、勝訴しました。610万円を支払えという判決ですので、すごいと思います。
 ところが、その後、教授が医学専門誌に実名で部下の医師を批判した部分については行き過ぎだと最高裁が判断し、その部分の170万円が差し引かれることになってしまいました。
 さらに教授は、遺族側の弁護士について弁護士へ懲戒請求します。弁護士は代理人であるとしても、遺族の虚偽告訴という違法行為は抑止すべき義務があるというものです。
この点、なるほど代理人弁護士に問題がなかったわけではないと私も思いますが、懲戒相当と言えるかまでは疑問です。結局、弁護士会も懲戒不相当としました。
そして、最高裁は、教授がチーム医療の総責任者であるから患者・家族に対して直接説明すべき義務があるかどうかについて、教授に逆転勝訴の判決を下したのでした。
要するに、説明義務があるといっても、それは総責任者たる教授が自らするまでのことではなく、主治医が十分に説明していれば足りるというものです。これは至極あたりまえの判断だと思いました。
いずれにしても、部下の医師が自らの失敗を上司になすりつけようとして「内部告発」したということです。悪徳、無能医師というレッテルをマスコミによって貼られたとき。それを間違いだと証明することの大変さがよくよく伝わってくる本です。
 そして、それに8年近くもかかったことのもつ重味をしみじみと感じたことでした。
 著者は、日弁連事務総長もつとめた有能かつ識実あふれる人柄の弁護士です。本書を読んで、ますます畏敬の念を深めました。ますますのご活躍、そして後進へのご指導を引き続きよろしくお願いします。
(2012年9月刊。1700円+税)

子どもの連れ去り問題

カテゴリー:司法

著者    コリン・P・ジョーンズ 、 出版    平凡新書 
 日本は、子どもの拉致大国である。のっけから衝撃的に断定されていて、ええっ、そんな・・・、まさか・・・と、つい思ってしまいます。
 本来は子どもを守るはずの裁判所が、そのつもりはないかもしれないが、離婚事件等における裁判運用で、子どもの連れ去り、親子の引き離しを助長し、場合によっては肯定までする。一種の「拉致司法」が形成されているのではないか。海外では既に、日本は「子どもの連れ去り大国、拉致大国」であるという評価が定着している。
 自分の子どもでも、連れ去ることが犯罪になることがある。保育園の近くで2歳の長男を別居中の妻から奪おうとして逮捕された日本人の父親に対して、未成年略取及び誘拐罪の適用が肯定された(最高裁2005年12月6日決定)。
 2009年度、全国の家裁に6349件の面接交渉を求める申立があった。また、同じく1224件の子どもの引き渡しを求める申立があった。
 日本には、子どもの引き渡しの強制執行について具体的に規定している法律はない。実務では、民事執行法169条(動産の引き渡しの強制執行)の類推適応で対応している。要するに、子どもを椦券や絵画のようなモノに準じて強制執行手続を行う。
自分の意思能力がはっきりしている、ある程度の年齢以上の子どもについては直接強制ができない。だから、子どもが何歳までであれば実力でモノのように直接強制ができるのかと議論されている。そのとき、幼児であれば問題ないというのが大方の見解である。
 したがって、最終的に実力行使をするかどうかの判断をするのは執行官であり、執行官が直接強制をあきらめてしまえば、それで終わりだ。地裁に申立された合計25件の子どもの引き渡し直接請求事件のうち、6件が執行不能で終わった。
 日本には、人身保護法という素晴らしい法律がある。
私も20年以上も前になりますが、この人身保護法にもとづいて別れた夫に拉致された子どもを取り戻したことがあります。でも、その後、あまりこの法律は使われなくなったと聞いていました。ところが、この人身保護法が最近になって見直されているようなのです。
 ところで、今話題のハーグ条約です。ハーグ条約によると、子どもの連れ去りが不当であるときには、子どもを速やかに常居所国への返還を命じなければならない。
 日本は、まだハーグ条約を締結(加盟)していないが、もし締結したとしても、その履行の確保は依然として大きな問題である。
 アメリカ人の弁護士で、今は同志社大学教授である著者からの鋭い指摘には考えさせるところが多々ありました。
(2011年3月刊。820円+税)
東京の孫に初めて会ってきました。初めは誰だろう、この人は・・・と不思議そうな顔をして私を眺めていましたが、やっぱり知らない人だと、泣き顔になり、泣き出してしまいました。でも、私が気になるようで、じっと見ています。そのうち、慣れてきて、ついには私の膝の上に抱かれても泣かなくなりました。
 まだ声が出ません。もう少しすると笑い声を上げるようになるのでしょう。そしたら、もっと可愛くなります。
 まだ上手にハイハイは出来ませんが、床の上を動いていきます。そして、自分の両足の親指を口に入れてしゃぶります。本当に関節が柔らかいのに驚きます。腕が身体と反対の方向になっても折れもせず、平気です。
 やがて、2時間もすると、眠たくなってきたのでしょう。気嫌が少し悪くなってきました。それでも母親に抱かれると安心して泣くわけでもありません。
 こうやって生命が続いていくのかと思うと、本当に愛おしい思いです。平和で安全・安心な社会を、この孫のためにも残したいと思ったことでした。

集団訴訟・実務マニュアル

カテゴリー:司法

著者   古賀 克重 、 出版   日本評論社  
 日本のこれまでの大型訴訟をざっと概観し、弁護団事務局長をつとめた経験から集団訴訟をすすめていくときの実務マニュアルを大公開した本です。とても役に立つ本だと思いました。
 集団訴訟は被害に始まり、被害に終わると言われる。そして、弁護士は、集団訴訟においては、一般には好ましくないとされている、原告の掘り起こしをすすんですることになる。
 集団訴訟においては、被害者がいかに声をあげるか、そして一つに結束できるかが勝敗を分ける。多数の被害者が割れていては国を追い込むことは困難を伴う。1割にも満たない原告数では、裁判所の理解はおろか、社会の支持が得られない。一定の地域で被害が多発しているときには、その多発地区に入り込み、弁護団が訴訟説明会を重ねる。
 しかし、掘り起こしは困難をきわめることが多い。なぜなら、プライバシーが守られにくく、提訴したことが知られると非難されたりするからである。
被害の回復は、弁護団から勝ちとるものではなく、被害を受けた原告自らが主体となって勝ちとるもの。弁護士、弁護団は、原告に寄り添い、原告一人ひとりが被害を回復させる道を自らの足で歩み出すことに手をさしのべることが役割だ。
 被害者運動の主体性と統一性を追求する。主人公は原告、弁護団はサポーターとの基本認識をもちながら、専門家としての役割を果たすことが必要だ。
原告がインターネットで情報を発信するときには、弁護団としてもプライバシー保護を入念にチェックする必要がある。また、発信する情報は戦略的に選択すべきである。情報は被告の国や企業も見る可能性があることを念頭においてコントロールしておく。
プライバシー確保の必要性の高い訴訟では、匿名(原告番号制)ですすめる。裁判所と十分に協議しておくし、閲覧制限の申立もしておく。事件が終結したときにも、閲覧制限の申立をする。
訴訟救助の申立をして、訴状の貼用印紙を貼らないですますことがある。裁判所に対して、訴状送達を先行させる扱いを申し入れる。
集団訴訟であっても3年以内に解決までいった実績がある。そのためには、原告側が常に訴訟をリードしていく必要がある。原告側の立証計画を早目に立てて、裁判所にそれを採用させて訴訟を進行させていく。
 弁護団として裁判を勝ち抜くには、1回1回の法廷のすべての場面で被告側を圧倒し、常に原告が優位に立つように努力する。これは、口で言うのは優しくても、現実には大変なことですよね。
 準備書面は長いものより短ければ短いほどいいというのが原則である。たしかにそうなんですけれど、実際には長大論文になっているのが多いですよね。
 原告本人尋問のときには、原告の心の奥底から自然と噴き出る感情の発露としての言葉が求められる。
集団訴訟において、判決を求めるのが、和解による最終判決をめざすのかは、一番重たい選択と言える。これは一般事件においても共通する難問です。
先行した集団訴訟についてもよく調べてあることに感嘆しながら読みすすめていきました。今後ますますの著者の活躍を心より期待します。
(2009年8月刊。2300円+税)

ルポ・出所者の現実

カテゴリー:司法

著者    斉藤 充功 、 出版    平凡社新書 
 悪いことした奴は刑務所に入れておけ。
 これが多くの人の素朴な思いでしょう。では、どんな人が「悪いこと」をしているのか、その「悪いこと」って何なのか、入れておかれる刑務所ってどんなところなのか、世間の人はあまりにも知らなすぎるように思います。
 もちろん、私だって刑務所生活を十分に知っているとは言えません。それでも、刑務所も拘置所も何回となくなかに入って見学しましたし、収容された体験者から話を聞き、さらに体験談をいくつも読んでいますので、少しばかりは分かっているつもりなのです(つもりだけではありますが・・・)。
 統計によれば、再犯率は1999年以降、30%台で推移していたが、2008年には40%をこえた。とりわけ窃盗と覚醒剤の再犯率は50%をこえている。窃盗がもっとも再犯率が高く、その動機は「生活の困窮が」7割を占めている。
栃木県大田原市にある黒羽(くろばね)刑務所は関東圏最大級の初犯刑務所。
 黒羽刑務所は独居房が1000を超える。日本で一番独居の多い刑務所。独居房でテレビを見られるのは2時間のみ。雑居房だと、8時間も見られる。そして、雑居房では本や雑誌のまわし読みもできる。
 刑務所の収容者一人にかかる費用は年46万円。全国に7万人の受刑者がいるので年間経費は321億円になる。
刑務所の世界では、服役することを「アカ落ち」という。刑務所に垢を落としにいく」という意味のようだ。
収容者同士のトラブルの原因になるのは「ペラ」。ペラとは、しゃべり屋のこと。つまり、口の軽い人間のこと。また、「空気屋」と呼ばれる仕掛人もいる。悪口を言って、ケンカするように仕向ける人のこと。
オヤジのズケをよくする。オヤジとは担当職員、ズケとは面倒みのこと。
 高松刑務所では700人の受刑者で年間3億1000万円の売り上げがある。全国の刑務所で、受刑者の生活費として180億円がかかっている。そして、受刑者が稼ぎ出したのは157億円。つまり、受刑者は、生活費の8割以上を自前で稼ぎ出している。決してムダメシを食べているのではない。作業報奨金は、月に1人平均4200円ほどでしかない。
 1989年には1万人いなかった65歳以上の検挙数が2008年には、その5倍強の4万9000人近くにまで増えた。高齢受刑者の犯罪の特徴は窃盗が50.6%と多いが、そのほとんどが無銭飲食や万引きなどの軽微な犯罪である。老人受刑者は全受刑者の3%(2092人)となった。そこで、広島、高松、大分の刑務所には高齢受刑者専用棟がある。老人介護専門職が必要とされているのも当然ですね。
2008年の外国人検挙数は23,202人で、とりわけ凶悪化した侵入盗が増えている。外国人の受刑者は1,502人(2009年)。受刑者の出身地は、中国、ブラジル、イラン、韓国、朝鮮、ベトナム、フィリピン、台湾となっている。
 美称社会復帰促進センターは刑務所だが、国の職員123人に対して、民間職員が220人いて、男子500人、女子500人のスーパー受刑者をみている。
 刑務所の体験者は次のように語る。刑務所は犯罪学校と言われるが、まさしくそのとおり。初犯刑務所も、戦果のオンパレード。話は成功談ばかりで、失敗の話を聞くことがない。
 出所してきた人が、社会で自立するのは決して容易なことではない。本人の自覚や攻勢意欲だけでは解決できない問題点があまりに多い。仮出所者がやる気を出して本気で更生する。その気持ちに火をつけてやるのが地域社会の人々だ。しかし、現実は、なかなか、それがうまくいかない。
 この現実は、弁護士だけでなく多くの人が知っておくべきものだと思います。
(2010年11月刊。740円+税)

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