法律相談センター検索 弁護士検索
カテゴリー: 司法

法廷弁護士・3

カテゴリー:司法

著者  徙木 信 、 出版  日本評論社
法廷弁護士シリーズ、第3弾です。これまた大変勉強になりました。
 第一話は、労働審判申立に至った事件です。定年退職後、嘱託で勤めていたところ、退職金の請求権が5年で時効消滅したと会社が主張した。まさか、そんな主張を会社がするなんて・・・。と思っていると、なんと、それは顧問弁護士の入れ知恵だった。
ひどい弁護士がいるものですね。たしかに、自分の利益しか考えないような弁護士が実際にいるのは、残念ながら現実です。
 裁判で書く書面の宛先は裁判所だ。だから、裁判所が読んでも不快に感じないような書面でなければならない。不快な書面は誰しも読む気が失せてしまう。
 私は、交渉段階で出す書面も、あとで裁判所が読むものと思って起案するようにしています。
 書面は、依頼者の話をそのまま鵜呑みにしないで、必ず裏を取るべきだ。
これは、実際には難しいものです。事実をもっとも知るのは依頼者ですから・・・。
 第二話は万引き事件です。万引きは摂食障害の症状の一つとみなすことができる。
初めて知りました・・・。
 彼らは手のかからない良い子として育ってきた人が多く、その過剰反応の故にパーソナリティに分裂がみられる。独自の超自我が形成されており内的空虚感を埋めるため、統制感の喪失あるいは放棄として万引きがおこなわれる。そのため、治療においては、この万引きの背景にある内的空虚感や依存について患者自身が自己理解を深めることが必要であり、家族や治療社自身も、患者自身がこの内的空虚感を解消して自己統制感を回復し育てていける見守る態度が必要となる。
万引きのみに着目して犯罪者や非行少年として対処すれば、家族や治療者に支えられながら内的空虚感や依存についての自己理解を深める作業を行っている患者の治療過程が中断されてしまい、治療効果に重大な悪影響を及ぼすことになる。
 再養育療法とは、主として摂食障害の患者のために開発された治療法。母親が一生懸命にまるで赤ん坊を育てるように患者を大切にしているケースは治りが早く、かつきれいに治っている。
摂食障害の患者の7割が万引きする。一番万引きの危険が高いのは、体重が減っているとき。食べ物をとってしまう。
 摂食障害の患者の多くは慢性の低血糖状態にあるので、食べ物をどうしても発作的に盗ってしまう。
摂食障害は心の病気である。母親以上の治療者はいないというのが現実である。
 とても実務的に勉強になりました。ただ、同じ弁護士として気がかりなのは、答弁書を見せながら打ち合わせした(44頁)という点です。これは、私だったら事前に送付しておいて、そのうえで打合せをすすめます。私の読み違いかもしれませんが・・・。
 同じように、第2巻に初回の相談日を1週間以上先に指定するというのも、私はしていません。初回だったら、今日、明日、少なくとも3,4日内には無理してでも入れるようにしています。上得意の客(依頼者)になるかもしれない機会を逃さないためです。
 いずれにしても、この本の贈呈、ありがとうございました。引き続きのご健闘を祈念します。
(2012年11月刊。1300円+税)

無罪

カテゴリー:アメリカ / 司法

著者  スコット・トゥロー 、 出版  文芸春秋
うまいですね、読ませますね。こんな小説を私も一度は書いてみたいものです。
 『推定無罪』の続編の名に恥じないとオビ裏に書かれていますが、まさしく、そのとおりです。そのストーリー展開に圧倒され、無言のまますばやく頁をめくっていきます。次の展開がどうなるのか知りたくてたまりませんから・・・・。
 推理小説ですし、ネタバレしてしまうのは、これからの読み手の楽しみを奪いますので、内容(ストーリー)は書きません。
 一般的に言うと、被告人は証言するほうがいい。無罪判決の70%は被告人が証言席に着いて自分を弁護したときに出ている。
 アメリカの刑事裁判では、被告人の本人尋問の機会がとても少ないような印象を受けます。日本では、被告人本人の尋問をしないなんて、まず考えられないところです。
 この本では、アメリカの裁判官が国会議員と同じように選挙で選ばれること、そして、選挙民の評判を落とさないため、自分が離婚したことが知られないようにすることが前提になっています。
 主人公は、妻と離婚したどころか、「妻殺し」として起訴されてしまうのですが、時間的にズレがあって、州の最高裁判事には当選するのです。
 しかし、かねてから主人公を面白く思っていない検察官たちは、「妻殺し」を立証できる証拠集め、ついに起訴に持ち込むのでした。つまり、検察官が裁判官を殺人罪で起訴するのです。
 しかも、この裁判官は20年前にも殺人罪で起訴され、無罪となったのです(『推定無罪』)。ですから、検察官の汚名を挽回すべくなされたのが今回の起訴だったのです。
 話は裁判官の情況証拠がきわめて疑わしいところで推移していきます。
 この裁判官は、実は不倫していた。その相手は部下だった。そして。そのことを「殺された妻」も知っていたのでは・・・。とてもよく出来た推理小説でした。
(2012年9月刊。2200円+税)

未央の夢

カテゴリー:司法

著者  草野 耕一 、 出版  商事法務
日本を代表する国際弁護士による青春期とオビに書かれています。
私より少しばかり歳下だというのは、次の記述で分かります。
東大の安田講堂が学生らによって占拠されたのは中学2年生のときだった。
私は、大学2年生のときでしたから、それほど年齢が違うことになります。
この本には、著者の幼少のころからの思い出が事細かに書きつづられています。友人の少ない、とても良くできる生徒だったようです。人間的にふれあいの少ない環境に育ったため、弁護士に向いていないと指摘され、自分でもそう思ったということなのですが、今では立派な国際弁護士です。
 この本で紹介したいのは、そんな著者の語る交渉の心がまえの部分です。これは、とても大切だし、参考になると思いました。
 交渉とは不思議な営みだ。一方で、交渉は闘いの要素を常に秘めている。交渉は友好裡に、相手の気持ちを思いやりながら行うべきものである。そのため、交渉する人は出来るだけ物腰が柔らかく、人から好まれ、信頼される風情(「オーラ」と言ってもよい)を身につけていることが肝要であり、チャーミングでなければならない。一般的には、相手を威嚇したり、こちらの実力を誇示したりするのは交渉において有害無益である。しかし、相手が明らかにこちらを侮っているときには、自衛手段として、このような行為に及ばざるをえないことがある。そのため、それを自在に行える技を習慣することは交渉の初心者にとって重要である。
 そんなとき、たどたどしい英語で言い返すようなことではダメだ。短い言葉で、こちらの気概や叡知が伝わる「決め科白」(きめぜりふ)をいくつか覚えておいて、いつでも頭の引き出しから出せるようにしておくことが重要だ。
 「そんなに大声を出さなくても、ちゃんと聞こえていますよ」
 「もし間違っていたらご指摘願いたいのですが、私が思いますように・・・」
 このような手短に(10秒以内)語り、あわせて時節を堂々と述べることが大切である。
 これは交渉の主導権を奪う絶好のチャンスなのである。ちなみに、日本人のなかには「プリーズ」を連発する人がいるが、これはやめた方がいい。「プリーズ」を交渉の場面で、くり返すと妙に卑屈な印象を与えてしまう。
そして、差別的、また屈辱的な発言は許さない。そんな人を相手とした交渉を続けるつもりはないときっぱりと宣言する。とりあえず交渉を打ち切る覚悟が必要だ。本当に相手の言動に非があったのであれば、必ず先方に反省の気運が高まり、交渉は再開されるはずなのだ。
 交渉の見かけ上の勝敗は、必ずしも交渉にあたる人の能力や叡知で決まるものではない。より身勝手で、より理不尽なものがしばしば最大の受益者となるということは、残念ながら、交渉という世界の否定しがたい真理である。
 しかし、そのような交渉をする者は、必ずやその報いを受ける。なぜなら、国際企業社会で働くほとんどの者は自分の仕事に誇りを求めており、交渉の世界においても、相互に信頼し尊敬しあえる関係をつくり出すことを願っているはずだからだ。
 だから、交渉をする人が交渉の「勝ち負け」にこだわるのは愚かなこと。それよりも、誠実に交渉する人だったと関係に評価されることの方がはるかに大切なことだ。
相手の言うことを真摯に聞くこと、相手が思い違いをしているときには、損得勘定抜きに、直ちにその点をしてあげる。自分の主張が合理的であるか否かを批判的によく吟味し、相手の主張が合理的だと思えばそれを受け入れるべく依頼者を説得するよう努める。このような営みを十分できる者だけが一流の交渉する人と言える。
 誠実な交渉ができるようになったら、さらに一歩進めて、格調高い交渉を目ざすべきだ。格調高い交渉とは、歴史の形成に参画している意識を交渉の相手方と共有できるか否かということである。そのような話をするためには、事前の勉強が欠かせない。平素から歴史を英語で学び、故事をタイムリーに語れるように準備しておくことが大切である。
 著者は今でも毎朝NHKのラジオ講座を聴いているということです。その点は私と同じです。私も弁護士になって以来、フランス語講座をずっと聴き続けています。ちっともうまく話せませんが、それでも聴きとりはかなりできるようになりました。なにごとも継続は力なり、ですよね。
 日本で最大の法律事務所である西村あさひ法律事務所の代表パートナー弁護士です。さすがだと思いました。
 ちなみに、弁護修習の指導担当は私もよく知っている千葉の高橋勲弁護士です。温厚で博識なマルキストと評されています。世間は狭いものですね。
(2012年11月刊。1600円+税)

動かす力

カテゴリー:司法

著者   渡部 喬一 、 出版   KKベストブック 
 法曹の大先輩による味わい深い本です。
 物事をすべて肯定系で考えていくためには、まず自分という人間を好きになること。自分が好きになれば、生きていることも楽しくなってくる。
 法律三分、人間七分。つまり、事件の解決にあたっては法律だけではなく、人間性を重視することが大切だ。人間力を高めるためには、まず、自分自身の内面を高め、強くするよう心がけなければならない。そのためには肯定力を十分に生かして常に前向きに、肯定的に物事をみることが大事だ。
どんなに苦しい状況に陥っても、ピンチこそチャンスだと常に前向きに明るくとらえること。そのことによって、苦境にも力強く立ち向かっていける。何よりも内なる力の源たる気力を充実させること。そのために大事なのは、言葉の力だ。
 朝8時には事務所に出て仕事をはじめるというのは、あまりマネしたくありませんが、この本で何回も強調されている、法律三分、人間七分については、大いに共鳴したことでした。
 今後とも、ますますのご活躍を祈念します。
(2012年4月刊。1524円+税)

悪いやつを弁護する

カテゴリー:司法

著者   アレックス・マックブライド 、 出版   亜紀書房 
 イギリスの弁護士が書いた本です。イギリスの司法制度は日本とかなり違うのですが、日本とよく似ているところが多いのには驚かされます。
 イギリスの法曹資格には、バリスタ(法廷弁護士)とソリシタ(事務弁護士)の2種類がある。
 法廷でモーツァルトのようなかつらを被って弁護するのはバリスタで、ソリシタには弁論技はなく、バリスタの補佐役をつとめる。
 最近、この区別がなくなったように聞きましたが、この本では、厳然と区分されていることで話はすすみます。著者は刑事訴訟のバリスタです。
バリスタを目ざす者は、ロースクールを卒業したあと、面接や試験を経てチェンバー(バリスタの組合)の一つに見習いとして採用されなくてはならない。見習いとして薄給でこき使われる1年間の実務研修のあと、テナント(チェンバーに永久的に所属できる身分)になるには、大変な狭き門を通らなければならない。
法廷で当意即妙、丁々発止の弁論を行うバリスタの特質は政治家に求められる特質でもあるため、イギリスではバリスタ出身の政治家が多い。サッチャーとブレアは、ともにバリスタ出身である。
 バリスタが誰かを弁護するには、その人の言い分を受け入れなくてはならない。心でも頭でも受け入れるのだ。それは心理的な、そして倫理上のトリックである。彼らの立場になって、考え、信じる。たとえ、それがむかつくほどひどい話であっても。
バリスタの勝算は小さく、自分の技量だけを頼りに不安な確実性の中で生きている。だからこそ、勝算は自分を高めてくれる。勝利すると、抜群に気分がいい。そして、それなしでは生きられなくなる。勝利中毒になってしまうのだ。
 刑事訴訟のルールの絶対的な目的は「刑事事件が公正に扱われる」ことにある。この目的の重要な原則は、裁判のプロセスが、「罪なき者を無罪放免し、罪を犯した者を有罪にすること」である。罪なく者を無罪放免することと、罪を犯した者を有罪にすることのどちらかより重要だろうか。刑事司法制度は、この二つのうち、どちらかを選ばなくてはならない。
陪審員が有罪とするには、”おそらく”ではなく、確信する必要がある。
 陪審裁判には、派手で天文学的な報酬が得られる商法関連の事件(争議)にはない重要性や神秘性がある。陪審員なくして、真のドラマは生まれない。
 刑事裁判の法廷が面白いのは、さまざまな人間の姿こそが、そこでやりとりされる通貨だからだ。そこでは、半面の心理、悲劇、悲運、哀れな嘘、救いようのない愚かさ、底なしの強欲や、自己抑制の喪失が丹念に調べあげられる。
イギリスで刑事裁判が陪審裁判となるのは、過去200年のあいだに90%から今日の2%にまで低下した。有罪答弁すれば、陪審裁判ではなくなり、最大で量刑の3分の1が減らされる。
 著者が陪審裁判を好むのは、裁判官にはない独立性があるから。陪審員には、生活が陪審の仕事にかかっていないし、一生の仕事になる可能性もない。だから、批判や冷笑を受ける心配がなく判断できる。陪審員の頭はフレッシュで過去の経験にとらわれず、事実のみで判断できる。そして、何より法律家と異なり、法律の条文にとらわれていない。
 イギリスで刑務所人口が増え続けた過去10年間に、再犯率は下がるどころか、12%も上昇した。刑務所に入っている人間のほとんどが社会の割れ目から滑り落ちた最下層出身である。
 あまりにも日本と共通することに驚嘆するばかりです。
(2012年6月刊。2300円+税)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.