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カテゴリー: 司法

決断

カテゴリー:司法

著者 大胡田 誠 ・大石 亜矢子 出版  中央公倫社
全盲のふたりが、家族をつくるとき。全盲の弁護士と同じく全盲のピアニストが出会い結ばれて二人の子どもをもうけ、家庭を築きあげていく過程が語られています。
実際には毎日、大変な苦労があったことと思いますが、読み手の心を重くするどころか、ああ、人生って、こんなに素敵な出会いがあるんだねと、何かしら明るい希望をもたせてくれる爽やかなワールドへ誘ってくれます。
ちょうど花粉症の症状が出はじめていた私は、電車のなかで読みながら、目と鼻から涙なのか汁なのか分からず水様性のものがポタポタ垂れてきて、周囲に変なオジさんと思われないようにするのに必至でした。
妻は、出生したとき1200グラムの未熟児度。そのため、保育器に入れられ高濃度の酸素を与えられて網膜が損傷して失明した。光を認知できないので昼と夜が逆転してしまうことがある。昼も夜もない世界に住んでいるので、深夜を昼間と勘違いして深夜の3時ころ、靴音の違いを知ろうと遊んでいたころがある。
夫は、新生児の3万人に1人にあらわれる遺伝性の先天性緑内障のため小学6年生に完全に失明した。父親は、失明する前も失明したあとも、子どもたちを山のぼりに連れでいった。弟も同じ病気で失明している。FMラジオの音を頼りに、前へ、前へと進むうちに、見えないにもかかわらず、つまずいたり、転んだりしながら、前にある障害物や危険な穴などを察知する能力を体得すること、これを父親は求めた。すごい父親ですね、すばらしいです。勇気もありますね。
夫は中学生とき、学校の図書館で、竹下義樹弁護士(京都)の『ぶつかって、ぶつかって』という本に出会います。そして、そうだ、ぼくも竹下さんのような弁護士になろうと思ったのです。竹下さんの本はこのコーナーでも紹介したと思いますが、あらゆる苦難を乗りこえる力強い呼びかけに満ちています。そして、その呼びかけに中学生がこたえたのです。夫は、5回目の司法試験で合格しました。全盲の受験生は、4日間で36時間30分の試験時間ですから、朝から夜まで試験を受けている感じ。一般の受験生は22時間30分ですから14時間も余計に長いのです。これは大変ですね・・・。29歳で合格し、今は弁護士として立派に活動中です。前の本『全盲の僕が弁護士になった理由』はテレビドラマ化させたそうですね。
耳が慣れているので、パソコンでの読み上げ速度は普通の2倍に設定している。おかげで目で文字を追うのと遜色ない早さで文章を耳で読むとことができる。たいしたものです。
読むとモリモリと元気の湧いてくる本です。負けてはおれないなと気にさせてくれます。人間の能力のすごさ、無限の可能性を実感させてくれる本でもあります。決してあきらめてはいけないということです。
これからも、お二人には無限なくがんばっていただくことを心より願います。
(2017年11月刊。1500円+税)

憲法的刑事弁護

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  木谷 明 、 出版  日本評論社
 今や日本の刑事弁護人の最高峰の一人として名高い高野隆弁護士の実践が語られ、刑事弁護人とはいかなる存在でなければならないかが明らかにされている本です。
 この本が高野弁護士の還暦を記念するものであることに少々驚かせられました。というのも、古稀を迎えようとしている私より10歳も年下になることを知って愕然としたのでした。
 編集代表の木谷明弁護士は浦和地裁で裁判長として刑事法廷で高野弁護人と何回となく対峙した経緯を有しています。
 高野弁護人の法延における弁論は、いずれも事件の本質を突くもので、容易に排斥することができない。主張・立証の仕方も実に巧みであった。そして、高野弁護人は裁判員裁判において、天馬空を行くがごとく、次々に無罪判決を獲得していった。
 いったい高野弁護士は、他の一般の弁護士と、どこが違うのでしょうか、、、。
 「一貫して本当のことを言えば、真実は必ず解明される」
 これは弁護人、検察官そして裁判官に共有されている観念です。しかし、この本はそんなものは、まったくの神話にすぎず、偽計だとします。高野弁護士は見事に喝破したのです。
 この本に、木下昌彦准教授が接見禁止が例外的な制度ではないとする小論を載せています。それによると、1994年までは接見禁止のついた裁判は2万件程度で、増えていなかった。ところが、1995年から増加に転じて、2003年には5万件を突破した。その後、2010年に3万6千件に減少したものの、2015年には再び4万件をこえている。
 そして、接見禁止率は1995年に25,7%だったのが、2015年には37,8%となっている。接見禁止は例外的な制度ではないと言わざるをえない。かつてのような暴力団事件や公安事件だけではない。そして、第1回公判期日まで、というのも公判前整理手続に長期間かかると、接見禁止期間も長くなる傾向にある。
 この本では、座談会がとりわけ読んで面白い内容になっています。高野弁護士は弁護士になって4年目にアメリカに留学し、2年間、憲法、証拠法、刑事手続法を猛勉強した。そして、アメリカで弁護士の仕事は、憲法価値によって依頼者の人間性を守る最後の砦となることだと学んだ。
 わが国の刑事被告人は、裁判官による裁判を本当に受けているのか、という問いが投げかけられる世の中に、高野弁護士は日本で弁護士として再スタートした。そして、弁護士には絶望する権利はない。なぜなら依頼者にとっては弁護士しかいないからだと高野弁護士は喝破する。
「赤ん坊殺し」とされた被告人の供述調書に、出産経緯のない警察官が勝手な想像で、現実にはありえない現状を刻明に記述しているというものがあったとき、やはり出産経緯のある女性弁護士の追及は力になります。男にはまったく分からない世界ですね、、、。まあしかし、現実には、それなりにつじつまのあう供述調書を裁判官はそのまま鵜のみにすることが残念ながらほとんどです。
裁判官が公正な第三者としての立証を捨てて、検察官の後見人になってしまっている。そんな法廷を、この40年以上のあいだ、私も何度も体験しました。
 高野弁護士は、法廷で次のように弁論する。
「裁判長。刑事裁判というのは、イメージや推測で行われてはなりません。刑事裁判は、証拠にもとづいて行われなければなりません。証拠を検証し、常識にしたがって判断して、被告人が訴因について有罪であることは間違いない、そういう確証がなければ、被告人は無罪でなければなりません。証拠を検証し、常識にしたがって判断して、被告人が有罪であることに一つでも疑問があったら、無罪の判断をしなければなりません。これは刑事裁判の鉄則であり、絶対に守られなければならないルールです。このルールが守られることによって、我々の自由な社会が維持されているのです」
 法廷で、この真理をゆっくりした口調で、しかも明快に目の前で説かれたら、聞いている人は皆、金しばりにあったようになること間違いありません。それだけ、高野弁護士の言葉には重みというか力があります。
 375貢と大部で、4200円もする本ですが、弁護士にとって一読の価値は大いにある本です。
(2017年7月刊。4200円+税)

裁判官、当職そこが知りたかったのです

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  岡口基一、中村真 、 出版  学陽書房
 弁護士のつっこみに裁判官がボケることなく、まともに応答していますので、なるほど、そうなのか…と、つい思うところが多々ありました。若手にかぎらず、ベテラン弁護士が読んでも面白く、役に立つ内容になっています。少なくとも買って読んで損をすることはありません。
 裁判官は忙しいので、訴状を読んでとりあえずの心証をとってしまう。裁判官は訴状の第一印象に、少なくともしばらくは拘束される。
たいした内容でもないのに、準備書面がやたら長いと、もうそれだけでダメ・・・。
 証拠説明書は重要。裁判官は、まず証拠説明書を読んでから証拠を見る。
当事者の陳述書は証拠価値はない。それは単なる尋問のためのツールでしかない。
証人尋問の前の練習しすぎもよくない、これは言わされているなと裁判官が思ってしまう。
 代理人に信頼されていない裁判官は、和解もなかなかできない。代理人とケンカしたら和解は無理。判決は書くのが大変なので、裁判官はできたら判決を書きたくない。和解のほうがいいのは裁判官の共通認識。
 昔は(15年前までは)裁判所内に飲みニケーション文化があり、ほとんど毎日のように飲み会があっていた。いまは、裁判官は孤独になっている。
上でひっくり返されないように意識するというのは裁判官全員の共通認識。
岡口判事は大分出身で行橋支部長もしていました。父親は牧師です。その「要件事実マニュアル」を私が利用するようになったのは、この数年のことです。それまでは若手弁護士が身近にいましたので、利用しなくてすみましたが、今はいませんので、必携です。そしてFB仲間として、その情報発信の恩恵を受けています。
(2018年1月刊。2600円+税)

社会の中の新たな弁護士・弁護士会の在り方

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  司法改革研究会 、 出版  商事法務
 司法改革について、失敗だったと単純に決めつける声が強くなっているようですが、それに関わった当事者の一人として、何事にもプラスとマイナスの面があるのですから、「政治改革」と称する最悪の改革に比べたら、司法改革はよほどましだと私は考えています。
「政治改革」って、結局のところ小選挙区制にしただけではありませんか。そして、この小選挙区制こそ、「アベ一強」という、まったく民意を反映しない、適正手続無視の狂暴政治をもたらした根源です。
その次の「郵政改革」だって、ひどいものでした。郵便局を民営化して、アメリカの資本が日本に入ってきて、身近な郵便局がなくなり、働く人はへとへとになるまで酷使されている現実があります。なんでも民営化すればいいっていうものではありません。国鉄民営化だって、もうけ本位でローカル線の切り捨てが進むばかりです。新幹線のホームに駅員が不在だなんて、恐ろしいばかりです。これでテロ対策を声高に言いつのるのですから、矛盾を感じます。
本題に戻ります。弁護士とは何か・・・。独立性、有用性、学識の3つが属性。他人のための奉仕を目ざし、金銭的報酬の多寡がその成功を測定する尺度とならない職業である。
弁護士の前身が代言人であることは周知のことですが、それは、江戸時代の公事師(くじし)の流れを引き継いでいること、江戸時代も明治初期も、今からすると想像を絶するほど裁判が多く、庶民にとって裁判は身近なものであり、公事師も代言人も、そのニーズにこたえていたこと、明治の代言人は自由民権運動において大活躍していたこと(この点は6頁で少し触れられていますが…)も紹介してほしかったと私は思いました。
弁護士法1条の制定をめぐって、三ヶ月章が根拠なき非難をしている(9頁)ことを知り、残念に思いました(23頁)。私は司法試験を受験するとき、民事訴訟法の基本書は三ヶ月章としていたからです(講義を受けたのは新堂幸司)。
弁護士の特質として在野精神というものがあげられます(33頁)が、では任期付公務員になったとき、また企業内弁護士にとっては、同じように通用するものでしょうか・・・。任期付公務員は、まだ200人ほどの弁護士しかいないようですが、私は、もっと多く10倍以上になってほしいと思います。少し前に国税不服審判所の担当官として弁護士が出てきて話が早くすすんで助かったことがありました。また、企業内弁護士のほうは既に1700人を突破しています。これまた、この2倍、3倍になっていいと思います。ただし、弁護士としての経験をせずにはいるのと、法廷にたったり、依頼者との打合せ・面談の苦労をせずに企業に入るのとでは、質が違うのではないかな・・・と心配はしています。その点、企業内弁護士がジレンマを抱えながら毎日仕事をしている(360頁)というのは、よく分かります。
中尾正信論文のなかに、戦前の弁護士のなかに「不良弁護士」「不正弁護士」「背任弁護士」として叩かれていたとありましたが、これは初めて知りました。弁護士が急増して弁護士の経済状況が一気に悪化し、事件屋と提携する弁護士が増えていたことまでは知っていましたが・・・。戦前には、警察官から弁護士なんかやめて正業につけと説諭されていたという涙の出るような話もありました。
私は明賀英樹論文にまったく同感です。つまり、中小企業の激減という社会構造の変化です。個人商店が立ちゆかず、商店街がシャッター通りになってしまい、小売・製造業が半減してしまったという現実は、中小企業に依拠してきた多くの弁護士の経済状態を悪化させてしまったのです。私の住む町にも、町の中心部と郊外に二つの大きなショッピングモールがあり、あとはコンビニ、ドラッグストアー、そしてコインランドリーだけになりつつあります。そうなると、家庭内の問題をめぐって法テラスを活用し、交通事故は物損をふくめてLAC(弁護士保険)を利用していくことになります。
現在、私のLAC案件は20件です。係争額は20万円からスタートします。過失割合が7対3か95対5かということで裁判にもち込むことが不思議ではありません。
法律事務所の大規模化は私も避けられない現象だと考えています。2009年に51人以上の法律事務所にいた弁護士が290人だったのが2015年には601人となり、101人以上だと1709人が2603人になったのは自然の成り行きだと思います。ただ、これが4万人になる弁護士総数に占める比率にかかわらず、弁護士会の役員に占める比重が多過ぎると、弁護士会の運営がギクシャクしてくるようになるのではないかと心配します。
各論のなかで取りあげてほしかったのは、弁護士報酬の問題です。タイムチャージをふくめて、独禁法違反と指摘されて弁護士会の報酬規準が撤廃されたあと、どのように運用されているのか、そこで何が問題になっているのか、大量のテレビ宣伝・チラシ広告の是非とあわせて究明すべき問題点があると思います。
いずれにせよ、400頁で研究成果をぎっしり詰め込んだ濃密な書物となっています。惜しむらくは、定価7000円とは、あまりに高額なので、手にとって読む弁護士はほとんどいないと思われるところです。その点だけが残念でした。
(2018年1月刊。7000円+税)

新・税金裁判ものがたり

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  関戸一考・関戸京子 、 出版  メディアランド
私は税務署と長くたたかってきましたが、実は税務訴訟を担当したのは残念ながらそれほど多くありません。本当は、たくさんの納税者が無理・無法な課税処分に泣かされていると思います。しかし、税務署とたたかうには、本人に強烈な怒りを持続させることが必要ですし、取引先に恵まれないといけません。
税務署は反面調査と称して取引先に嫌がらせをしますし、本人への報復措置を平気でとってきます。これらを乗りこえるだけの怒りとそれを支える体制が必要なのです。この本の著者も本人に十分な怒りがあることを第一にあげていますが、まったく同感です。
著者は30数年間にわたって税金裁判を専門としてやってきました。かつては労働弁護士だったのが、今では税金弁護士へ変身したのです。その豊富な税金裁判の経験をふまえていますので、とても実践的な手引書です。
税金裁判で対峙することになる税務署(国)側の代理人は、実は裁判官が出向してきている人が多い。そして、彼らは全国的な検討会を定期的に開いている。だから、税務署とたたかって勝つためには、納税者の側も集団的議論をして検討・対応しなければいけない。税理士と共同し、学者や裁判官出身の弁護士と共同戦線を組むということが必要なのです。
とても信じられないことですが、税務署は関係書類を閲覧させても謄写は許さないという時代がごく最近までありました。法律の根拠がないというのが、その口実でした。自らは納税者の書類をさっさとコピーしたりするのに、自分はコピーを拒否してきたのです。つい最近、ようやくコピーをとるのか法改正で認められました。
また、審査請求のとき、課税庁に直接質問できるようにもなりました。私のときには一方的に主張するだけでした。税務署のなかには「納税者の権利」だなんて…と、せせら笑う人たちがいます。その典型で世間に顔を出さない佐川・国税庁長官です。
税務訴訟に至るまでの手続の流れが具体的に解説してあり、とてもイメージをつかみやすいと思います。そして、単に手続きの流れだけでなく、扱った事件でどんな苦労をしたのか、どんな成果をあげたのかも要領よく紹介されています。
たとえば、認知症の母から贈与契約について税務署が課税してきたのに対して、その無効を主張して、支払った贈与税を取り戻したというのです。すごいですね、この発想は・・・。物納許可がなかなかおりないうちに不動産の価額が上昇し、10年以上もたったあいだの未払金(延滞金をふくむ)の処理をどうしたらよいのかを争った件は、私の想定をこえる話でした。
推計課税の争い方にしても、税務署が他の人の青色申告書をなかなか開示しないのを開示させた例も紹介されていて、本当に明日からの実践に役立つことの多い本です。税金訴訟に関心のある人には必読文献です。
シャモニーなどの登山・トレッキング・ロッククライミングの写真が巻末にあるので、これには癒されます。やはり多忙のなかにも休息は必要です。
(2017年2月刊。3500円+税)

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