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カテゴリー: 司法

浅井さん、まだマンガ描いてる?

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 浅井俊雄さん追悼集編集委員会 、 出版 左同
 心優しき異彩の弁護士・浅井俊雄氏の追悼集です。2021年7月に亡くなった札幌弁護士会の浅井俊雄弁護士(修習37期)に対する心温まる追文がたくさん寄せられています。なにより浅井弁護士のホンワカタッチのマンガが秀逸です。弁護士会主宰の集会の告知など、たくさんのポスターに、内容ピッタシのマンガが描かれています。国家秘密法の制定に弁護士会が反対したときの「おぢいちゃんと国家秘密法」という4頁ものストーリーマンガは、本当によく出来ていて驚嘆します。
 中央大学で漫画研究会に所属し、浅井さんは研鑚を積んだようです。ところが、小・中・高以来、マンガを描いていたのかと思うと、さにあらず。大学まで一度もマンガを描いたことがないから、必要な道具は分からないし、道具の使い方も知らなかったというのです。ところが、描き方を教わると、なんとなんと、1ヶ月後に50頁ものマンガを描いて持参したというのです。これはすごーい。どうしても描いておきたい物語(ストーリー)があると浅井さんは言ったとのこと。果たして、どんなストーリーだったのでしょうか・・・。
 浅井さんは漫画研究会でマンガを描きつつ、司法試験の勉強にも集中して取り組み、卒業した翌年に、合格しています。そして、さらにすごいのは、合格したあと、「週刊少年チャンピオン」新人まんが賞に応募して、最終選考に残ったというのです。審査員の一人は、かの天才マンガ家の手塚治虫でした。プロのマンガ家になれなかった浅井さんは、その後はおとなしく弁護士の道に入ります。イソ弁もして、独立しますが、じん肺訴訟弁護団に誘われて活動します。弁護団の議論がとても性にあったようです。
 浅井さんと同期の2人とあわせた3人は「奴隷階級」と言われて、全般的にこきつかわれたそうです。でも、楽しげに浅井さんは仕事をこなしました。浅井さん本人が描いた「ある日の弁護団会議」というマンガがあります。浅井さんたち3人の弁護士は、とびきり優秀なので、どんな仕事も安心して任せられたのです。
 浅井さんは、大量で複雑な情報や理屈をとてもシンプルにとらえ、他人(ひと)にわかりやすく伝えるという能力にすぐれていました。それはマンガに如実にあらわれていると思います。実際に起きた長距離トラック運転手の過労死事件をドラマ化して市民集会で上映したとき、浅井さんは脚本と監督を担当しました。すごい、すごい・・・。
 浅井さんは映画も好きで、「僕の好きな映画2本」として、「ローマの休日」と「七人の侍」をあげています。私とまったく同じ好みなのに驚きました。
 最後に、浅井さんは、夕張炭鉱にもぐった経験があり、それを詳しくレポートしています。三池炭鉱が閉山する前に、私も有明海の地底深くに一度だけもぐったことがあります。浅井さんたちは「じん肺訴訟」の検証として裁判官たちと一緒に坑内にもぐったのです。このときの炭鉱の職員とのやりとりはとても興味深いです。
浅井さんは60歳で難病(病名は書かれていません)のために、やむなく弁護士の仕事をやめ、63歳で亡くなりました。私は面識はまったくありませんが、この追悼集を読んで本当に惜しい人を亡くしたと思ったことでした。
 同期(26期)の岩本勝彦弁護士から贈呈してもらいました。いい本を、どうもありがとうございます。
(2022年12月刊。非売品)

平成司法改革の研究

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 須網 隆夫ほか 、 出版 岩波書店
 375頁、5000円という大作なので、いったいどれほどの弁護士が読むのか、いささか疑問があります。しかも、司法改革は失敗したと言いつつ、司法試験合格者を2000人に戻せとか(私は反対しません)、裁判員裁判を被告人の選択制にせよとか(私は疑問です)、民事審判委員会を新設せよとか(これも疑問です)、予備試験を廃止せよとか(私は賛成です)、とかく話題というか議論を呼びそうな提起がいくつもされています。
 この本で指摘されていることで、私自身にもっとも身近なことで言えば、東京・大阪以外の地方、とりわけ地裁しかない単位会では、20年以上前の2000年ころの人数にまで弁護士が減少していること、今後も増える見込みはなく、やがて、その地域での「法の支配」は確実に減少するということ(250頁)。これは、九州各県でも、まさしく現時点で現実化しつつあります。
 弁護士、とくに若手弁護士は窮乏化している、それは合格者を2000人にしたからだ、合格者は1000人以下にしろという主張を声高に言いつのる人は、昔も今もいます(最近では、さすがに少なくなってきました)が、私は現実を直視しない議論だと昔も今も考えています。若手弁護士の窮乏化は合格者2000人が原因ではなく、「弁護士急増」が原因でもないと私は思います。合格者を2000人にしても1500人にしても、また1000人以下にしても、7割以上の人が東京・大阪そして高裁本庁の大都市に登録を希望するのは必至です。だったら、少しでも合格者の多様性を確保すべく2000人にしたほうがいいと思うのです。
 いったい、「若手弁護士の窮乏化」は本当なのか…。この本(138頁以下)は、「弁護士全体のニーズは減っておらず、弁護士市場は飽和している、パイはこれ以上大きくならないという主張には根拠がないとしています(141頁)が、私の実感にもあいます。
 たしかに、以前に比べると私自身の法律事務所の経営状況は楽ではありません。それは事実なのですが、それは以前ほどガムシャラに事件活動をしなくなり、顧客の新規開拓にも意欲的ではないことにもよります(所員の高齢化が主たる原因です)。それにしても、若手弁護士の初任給が600万円、700万円いや1000万円だという話には驚いてしまいます。東京の大手事務所そしてカタカナ事務所の実情はどうなっているのでしょうか。
 弁護士の受任事件の今後を議論するときに欠かせないのは、法テラスをどうみるのか、LAC関係の受任予測はどうか、だと思います。この本では、その点が十分でなく、不足しているように思います。法テラスの報酬は「生き甲斐搾取」でないかと私も思いますが、それでも、かつての低額そのものだった国選弁護報酬とか法律扶助に比べたら相当改善されたことも事実です。
 若手弁護士は法テラスに頼らなくなっているとか、報酬への不満から登録しなかったり、登録を取り消しているという主張を聞きます。本当でしょうか…。
 私の法律事務所では、法テラス関与が弁護士によって4割から8割ほどにもなっていて、貧困・低所得者層が大量に存在する現実を前にして、法テラスに登録しないでやっていける若手弁護士がいたら、それは貧困・低所得層は相手にしないでやっていける(やっている)ということだと私は思います。法テラスに登録せず、国選弁護事件はやらないと公言している若手弁護士がいるのは残念でなりません。
 司法試験制度を考えたとき、予備試験の受験生が急増していることが本書には見あたりません。早道なのは、初めから分かっていたことです。せっかくロースクールを設置するのなら、こんなバイパスはきわめて限定的な例外的なものにすべきだったと思います。今の現実は、まったく例外でもなんでもなく、むしろ「王道」かのように見えてしまいます。なので、ロースクールに一本化することに私は賛成せざるをえません。
 行政訴訟が極端に減っているのは、どうせ裁判しても勝てないというあきらめ感の反映でもあると思います。苦労ばかりさせられたあげく勝訴できないのでは、「絵に描いた餅」の典型です。私も住民訴訟を何回もやりましたが、ついに一回も勝訴判決を得ることはできませんでした。行政のやっていることには問題があるが、違法とまでは言えない。そんな裁判所の姿勢では行政事件を起こそうという気にならないのも当然です。たまには勝たないと、勝訴の可能性が少しでもなければ、重たい行政訴訟をやる気にはなりません。だって、基本的に行政事件は途中での和解というのが考えられず、被告席には5人ほど並んでいますから、プレッシャーは強烈なのです。
 もっともっと議論していいし、議論する一つの材料が提供されている本だと思いました。
(2022年9月刊。税込4950円)

人質司法

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 高野 隆 、 出版 角川新書
 カルロス・ゴーンの弁護人として、その保釈をかちとりました。保釈中に被告人が逃亡して裁判が中断してしまったのはご承知のとおりです。
 著者は2人目の弁護人になったとき、必ず保釈をかちとると決意していました。
 保釈をかちとるための秘策を本書で改めて知りました。私の想像を絶します。
 著者はアメリカ留学の経験もあり、英語は堪能です。
 拘置所での初回面会のとき、「あなたを保釈で釈放させることを約束します」と断言しました。すごい自信です。著者には、前に、こんな条件で保釈を裁判所に認めさせた経験があるとのこと。
 2週間で13人の証人尋問を行うという連日公判のとき、被告人と同じホテルの隣室に宿泊することを条件として、公判前に保釈を認めてもらった(百日裁判が適用される公職選挙法違反事件)。
 被告人を法律事務所の事務職員として雇い入れ、弁護人の貸与するパソコンとケータイ以外は使用しないこと。
 いやあ、すごいです。もちろん、どちらも否認事件でした。著者も、これらは「最後の切り札」であり「禁じ手」であるとしています。危険と隣あわせの手法です。カルロス・ゴーンについても、これを使って成功し、107日ぶりに釈放をかちとりました。
 そのときの保釈請求書は、添付資料をあわせて180頁という大部なものです。
 裁判官と何度も交渉し、説明し、ついに保釈保証金10億円で保釈が認められた。いやあ、すごいですね。初回面接のときの約束を果たしたのですから…。
 日本で、こんな厳しい条件を課さなければ保釈が認められないという司法の現状について、著者は鋭く批判しています。しごく当然です。まさしく、これは人質司法のカリカチュア(戯画)でしかありません。
 アメリカの司法だったら、工学の保証金を積んでさっさと身柄は外に出て自由の身となり、弁護人と思うように折合せができているはずなのです。
 著者は、「禁じ手」であることを認めたうえ、「非常手段」として選択したと強調しています。よく分かります。
 カルロス・ゴーンは、その後、再び逮捕されましたが、著者ら弁護人のすすめでほとんど完全黙秘を貫いたようです。
 著者は、黙秘権について「沈黙する権利」ではないと強調しています。ええっ、ど、どういうこと…。黙秘権は、単に「沈黙する権利」ではなく、強制的な専制手続、取調べ受忍義務を課したうえでの尋問を根絶するための制度だというのです。なーるほど、ですね。さすが、です。
 「ミランダの会」以来の実践活動に裏打ちされている指摘ですので、重みが違います。
 著者は人質司法を改善するためには、取調べ受忍義務を即刻廃止すべきだとしています。
 日本では、罪を争う被告人が第1回公判前に釈放(保釈)させる可能性は1割しかない。これに対してアメリカでは、重罪で逮捕された容疑者の62%は公判開始前に釈放される。保釈が拒否されるのは6%にすぎない。
 欧米でされている取調べは、ほとんど1時間以内で、通常は20~30分ほど。これくらいの時間なら、弁護人は取調べに立会して、捜査官が無理な自白を強要することを防止できる。つまり、取調べの弁護人立会を「権利」として確立するためには、取調べ受忍義務を否定する必要がある。
 著者は、むしろ自白した被告人の保釈を認めないようにしたらどうかと提起しています。自白しているから証拠隠滅の動機や危険性がない、という。その論理は、自白していない被告人には罪証隠蔽の動機や危険性があるという発想につながるので、よろしくないと言うのです。また、逃亡した被告人に対する欠席裁判は可能にすべきだと主張しています。
 カルロス・ゴーンの逃亡によって、日本の人質司法の問題は鮮明になったというのです。さすが、さすがです。大変勉強になりました。
(2021年6月刊。税込990円)

労働弁護士50年、高木輝雄のしごと

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 名古屋共同法律事務所 、 出版 かもがわ出版
 名古屋に生まれ、名古屋で育ち、弁護士としても一貫して名古屋で活動してきた高木輝雄弁護士が後輩の弁護士からインタビューされて労働弁護士としての50年を語っていて、とても興味深い内容になっています。150頁ほどの小冊子ですが、内容は、ずっしりという重みを感じさせます。
 著者は戦前(1942年)に名古屋熱田地区に生まれ、名古屋大学法学部では行政法の室井力教授、憲法の長谷川正安教授、民法の森嶌昭夫教授に教えられました。
 司法修習は20期で、青法協の活動に熱心に参加した。横路孝弘とか江田五月も同期。
 弁護士になったころは、公害事件と労働事件、そして大須事件のような刑事弾圧事件で忙しかった。
 私が著者を知ったのは著者が四日市公害訴訟の弁護団員として活躍していたからです。
 四日市公害訴訟は1967(昭和42)年の控訴なので、著者はまだ司法修習生のころ。翌年に弁護士になってすぐ弁護団に加えてもらった。四日市公害訴訟の判決は、コンビナート企業会社の共同不法行為を認めた。この判決の意義を私は司法修習生のとき、青法協活動の一つとして当時、横浜地裁にいた江田五月裁判官にレクチャーしてもらいました。
 そして、著者は名古屋新幹線公害訴訟裁判に取り組んだのでした。新幹線の騒音・振動という公害問題です。著者は弁護団の事務局長でした。この裁判では、一審で、裁判官は3回も屋内で検証したというのです。すごいですね、今では、とても考えられませんよね…。また、沿線の旅館に弁護団で合宿したとき、その振動のあまりのひどさに、内河恵一弁護士が枕を持って逃げ出したとのこと…。実感したのですね。
 受忍限度論が問題になっていました。住宅密集地だけ減速したらいいじゃないか、名古屋7キロ区間のスピードを半分に落としても、せいぜい3分遅れるだけではないかと原告側が主張すると、他の地域でもやらなければいけなくなるという国鉄側は情報的な反論をしたのです。
 そして、実際、国労は裁判所が検証しているとき、減速運転してくれた。懲戒処分を覚悟したうえでの減速だった。すごいですね、今なら考えられませんよね、残念ながら。
 弁護団事務局長として、あまりの激務のために、他の仕事はほとんど出来なかった。
 いやあ、これは大変でしたね…。著者は午前2時まで作業して、2時間ほど寝るだけで、寸暇を惜しんで裁判の維持に全力をあげた。
 そして、著者は名古屋南部大気汚染公害訴訟にも取り組んだのでした。
 著者はながく弁護士として裁判に関わるなかで、司法の限界をいろんな場面で感じた。
 また、著者は労働事件にも取り組んでいます。裁判所や労働委員会は、運動全体のなかでは一つの手段にすぎない。重要ではあるけれど、それで終わりだと、本当の解決につながらないことも多い。裁判も一つの手段だから、ちゃんとした位置づけが必要だ。
 裁判や労働委員会といった法律的な場面だけではなく、社会的な問題に積極的に関与するのが労働弁護士の日常活動だった。ビラも配ったし、署名を集めたり、一緒にデモをしたり、ストライキのしたこともある。
 ところが、労働組合の姿勢がすっかり変わってしまった。連合が発足したあと、労働組合が大きく右傾化してしまって、労働組合が経営側と積極的にたたかうというのが例外的になってしまった…。残念ですね、ぜひ本来果たすべき役割に戻ってほしいと思います。
 労働組合は、もっと力をつけなければいけないし、もっと政治的、社会的な課題に目を向けるべき。労働者の組合加入率が低すぎるのも、本当に残念なことです。
 弁護士は事件の現場で鍛えられる。
 著者は、「ケンカ太郎」とか、「瞬間湯沸かし器」と言われながら、この50年を一貫して、まっすぐに歩んでこられたわけです。すごいことです。読んで勇気づけられる本でした。ご一読をおすすめします。
(2019年1月刊。税込1760円)

DHCスラップ訴訟

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 澤藤 統一郎 、 出版 日本評論社
 DHCという会社の製品を私自身は利用したことがありませんが、サプリメントや化粧品の製造販売業者として、日本最大手の売上高のようです。派手に広告していて、天神地下街にも店舗をかまえています。そのDHCのオーナーの吉田嘉明会長は、とんでもない差別主義者で、デマやヘイトを散々吹聴してきました。
 そして、その吉田会長が自ら週刊誌(「週刊新潮」)に「みんなの党」の渡辺喜美党首に規制緩和のための「裏金」8億円を提供していたことを告白したのです。その意図は何だったのでしょうか。恐らく渡辺喜美が8億円に見合うだけの仕事をしなかったという怒りからなのでしょう。
 著者は、そのことを自分のブログで取りあげて鋭く批判しました。当然のことです。8億円もの「裏金」で国会議員を「買収」して国の政策をねじ曲げようとするなんて、言語道断です。それを知ったら批判しないほうが不思議です。ところが、DHC側は著者に対して名誉毀損だとして2千万円の賠償を求める裁判を東京地裁に起こしたのでした。こんな裁判をスラップ訴訟といいます。
 スラップ訴訟とは耳慣れないコトバです。セクハラ、パワハラは、今ではすっかり日本語として定着していますが、そのうち定着するコトバなのでしょうか…。
 「スラップ」というのは、アメリカの教授の「造語」。確定した定義はなく、日本語の訳も定着していない。スラップとは、誰かを脅し、その誰かの言動を萎縮させようという意図をもってする民事訴訟のこと。「萎縮」というのは、「びびらせる」というコトバがピンと来る。
 DHCは、著者のブログでの批判について、2000万円の損害賠償と記事の削除、そして屈辱的な謝罪文の掲載を求めた。
 著者がブログで批判したのは、2014年3月31日から4月8日(その後も…)。これに対してDHCは何の前触れもなく、いきなり4月16日に東京地裁に訴状を提出した(DHCの代理人は今村憲弁護士)。
 そこで、著者は弁護団を確保した。常任弁護団8人、136人の弁護団という構成であり、学者の協力も得た。
 著者がその後もブログでDHC批判を続けていると、DHC代理人の今村弁護士から警告書が送られてきて、2千万円の請求が6千万円に拡張された。
 そして、著者が弁護士会照会をかけたところ、DHCは同種のスラップ訴訟をほかにも10件起こしていたことが判明した。そして、DHCは名ばかりの和解金(たとえば30万円)を被告雑誌社側に支払わせて和解で裁判を終了させていた。
 一審判決は、当然のことながら、DHC側の請求を棄却するという勝訴判決。ところが、DHCは控訴した。東京高裁(柴田寛之裁判長)でも、もちろん控訴棄却となり、著者側が勝訴した。
 名誉毀損訴訟では、「事実の稿示」と「意見ないし論評」の2つに区分して判断されていることを初めて知りました。裁判所は、「事実の稿示」のほうでは見る目が厳しく、「意見ないし論評」のほうは、とても寛容なんだそうです。「意見・論評」は、極端な人格攻撃を伴わないかぎり、論評は自由。
 DHCの名誉毀損訴訟が請求棄却になったあと、著者はDHCに対する反撃訴訟を提起しました(正確には、DHC側からの債務不存在確認訴訟が先)。なぜ、前訴で反訴提起しなかったのか、また賠償請求額をいくらにするか、弁護団で議論があったようです。
 6千万円を請求されたことを考えると、その弁護団費用だけでも1千万円をこえても不思議ではないけれど、600万円を請求したのでした。
 この裁判の判決は、またもや著者らの請求を認容する勝訴判決。ただし、認容された賠償額は一審110万円、二審165万円。ちょっと少ないですよね。
 DHCの訴訟提起は、客観的に請求の根拠を欠くだけでなく、DHC・吉田は、請求の根拠を欠けていることを知っていたか、通常人であれば、容易にそのことを知りえたにもかかわらず訴えを提起したのは、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く場合にあたり、提訴自体が違法行為になる、としたのでした。
 そこで、著者はいくつか問題提起をしています。その一つがDHC代理人の今村憲弁護士への責任追求が必要だったのではないか…、ということです。たしかに、法律専門家としての弁護士の責任は看過できませんよね。
 最後に二つだけ。その一は、被告で訴えられたときの不安な気持ちです。私は交通事故訴訟の原告になり(一審で不本意な判決をもらい、控訴して和解しましたが、不本意な判決が保険会社に有利な判例として判例集に登載されたので、親しい弁護士からおこられました)、また、別にも勝つべき事件で敗訴したとして訴えられて被告になりました(こちらは被告として、弁護士賠償保険に連絡ととりつつ本人訴訟で追行しました)。たしかに被告事件になると、気持ちのいいものではありません。
 その二は、著者の長男も弁護士になったので、著者への本人尋問は、息子さんが担当したとのこと。息子の発問に、父親が答えるというのは、あまり例のない法廷風景だろう。そう書かれていますが、きっとそうでしょうね。
 240頁の本ですので購入した翌日に一気読みしました。面白かったです。でも、スラップ訴訟って、まだまだ多くの人(弁護士ふくむ)には、ピンとこないでしょうね…。
(2022年7月刊。税込1870円)

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