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カテゴリー: 人間

ねないこは わたし

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 せな けいこ 、 出版  文芸春秋
絵本。私は絵本が大好きです。ごく最近のものだと、『あらしのよるに』ですね。福岡で舞台劇になるといいます。ぜひ、みたいものなんですが・・・。古くは滝平二郎の『八郎』とか、かこさとしの『どろぼう学校』も良かったですね。子どもたちに一生けん命に読んでやりました。繰り返して読みましたので、すっかり暗記できるほどでしたが、それでも子どもたちは「読んで、読んで」とせがむのですよね。心地いい、ひとときでした。
そんな絵本のひとつが、この著者のものです。『ねないこ だれだ』、『いやだ いやだ』、『あーん あん』・・・。素朴な絵に心が惹きつけられました。
「おばけになって 飛んでいけ・・・」と言われたら、子どものなかには、「いいよ、飛んでいくよ」と答える子もいるとのこと。ええっ、おばけって怖くないのかしらん。一人じゃなくて、親と一緒なら、おばけなんか子どもは怖くないんです。
著者は「貼り絵」が得意です。なんだか身近な新聞紙などを無造作にちぎって並べて貼りつけているように見えますが、どうしてどうして、簡単なものではありません。この本を読むと、やはり基本はデッサン力だと痛感します。
『いやだ いやだ』の絵本。子どもはみんな、やがてこの時期に突入します。なんでも『いや』と言って、抵抗し、親を泣かせ、怒らせます。それでも子どもは「いやだ」と言って、したばたするのです。まさしく親の忍耐力が試されています。若い私はガマン力に欠けていましたので、ずいぶんと乱暴に対応してしまい、今では深く反省しています(時おそしなのですが・・・)。
楽しい絵本づくりの本でした。本当にありがとうございました。大変お世話になりました。これからもどうぞお元気に絵本を描いて世の中に送り出してください。孫に読んでやりますので・・・。
(2016年7月刊。1450円+税)

悪童(ワルガキ)

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 山田 洋次 、 出版  講談社
「悪童日記」というと、アゴタ・クリストフを思い出します。フランスのベストセラー小説です。フランス語を勉強していて出会いましたが、すさまじい悪口雑言のオンパレードでした。
こちらは、いたってつつましやかなワルガキの話です。我らが寅さんが少年時代を振り返って語ったという趣向です。
先日、法廷のあいまに立会書記官に映画「男はつらいよ」を観ましたかと尋ねたところ、二人とも「ノン」という答えが返ってきました。いえ、テレビでは観たことはあるけれど、映画館で観たことはないということです。
寅さん映画のはじまりは、私がまだ東京にいて大学生のころです。その後、弁護士になってから、お盆と正月には子どもたちと一緒に欠かさず観ていました。全部とは言えませんが、ほとんど映画館で観ました。大笑いしながらも、ほろっとさせるシーンが各所にあって、さすがに落語に詳しい山田監督のつくった映画だといつも感嘆していました。司法試験の受験中にも最大の息抜きとして寅さん映画を新宿まで出かけて観ていました。
寅さんは、実母ではなく、育ての母親を深く愛していました。父親は飲んだくれで、寅さんをちっとも可愛がってはくれません。そんなことから勉強せず、イタズラばかりの日々・・・。それでも妹さくらのことは人一倍気にしていたのです。
戦中・戦後の情景がよく描かれています。山田監督が体験した事実ではありませんので、取材の成果だと思います。満州(中国東北部)で育った山田監督の原体験と共通するところもあったのでしょうか・・・。
来年、再び新作の寅さん映画に出会えるとのこと、胸がワクワクします。今から楽しみです。山田監督の初の小説とのことです。あなたもぜひ、ご一読ください。
(2018年10月刊。1300円+税)

ソウルフード探訪

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者  中川明紀 、 出版  平凡社
 東京では、諸外国のソウルフード(魂食)が食べられるんですね。
現在、日本には255万人もの在留外国人がいる。これからもっともっと増えることでしょう。安倍首相のように「美しい国・日本」とか「日本古来の伝統を守れ」なんて言っていると、それはヘイト・スピーチにつながり、嫌韓・嫌中そして排外主義に結びつきます。テニスの大坂なおみさんの活躍は目を見張るものがありましたが、それまで少なくない日本人がハーフだとか言って、日本人だとは認めてこなかったようにも思いますが、いかがでしょうか・・・。でも、日本に住む人は昔から決して単一民族ではなかったのですから、認識を改めるべきなのです。
最新の新聞(2018年9月25日の日経)によると、東京に住む外国人は54万人近くで、この5年間に4割も増えた。一番多い新宿区には4万2千人もの外国人がいる。大久保1丁目の住民の半分は外国人。東京都下で外国人の住民がいないのは、八丈島の隣の青ヶ島村だけ。江戸川区の西葛西あたりにはインド人が4千人近く居住しているし、新宿区の高田馬場あたりにはミャンマー人が2千人をこえる。北区の東十条にはバングラデシュ人が1千人をこえ、横田基地のある福生市にはベトナム人が9百人近く住んでいる。葛飾区にはエチオピア人が70人以上いる。
となると、東京都内にそれぞれのお国自慢の料理があって、何も不思議ではありません。著者は、その一つ一つを食べ歩きます。楽しいソウルフード探訪記です。
それにしても、南米原産の唐辛子が、はるか遠いブータンの人々の料理に欠かせないものだなんて、驚かされます。唐辛子は韓国料理とばかり思っていました。ピラフはフランス語だそうです。そして、そのルーツはトルコ料理のピラウにあるとか。
今、日本には2300人ものヴズベキスタン人がいるそうです。ロシア料理の定番のボルシチは、実はウクライナ料理。ウクライナ語でボルシチは草を意味し、転じて薬草の煮汁を表しているとのこと。
著者が東京で食べた異国のソウルフードは60ヶ国にのぼるそうです。胃腸が相当丈夫でないとやっていけませんね、きっと・・・。
(2018年5月刊。1600円+税)

佐藤ママの子育てバイブル

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(霧山昴)
著者 佐藤 亮子 、 出版  朝日新聞出版
学びの黄金ルール42。これがこの本のサブ・タイトルです。
佐藤ママの本は、その配偶者よりいつも贈呈されて読ませていただいていますが、さすが子育てのプロだと、いつも感嘆・驚嘆しています。
この本の「はじめに」を読んで、私は思わず、のけぞりそうになりました。いえ、これは単なるたとえではなくて、本当に机の前から腰を浮かして、うしろにそりくり返ったのです。そこに、いったい何が書いてあったのか・・・。これを知るだけでも、この本を読む価値があるというものです。
長男が生まれるとき、わが子が生きていく社会を具体的に把握するため、小学1年生から6年生までの、体育、家庭科、美術まで、すべての学科の教科書を購入し、その教科書をじっくり読み、わが子がこれから生きていく学校教育の世界を理解することが出来た。
いやはや、これって、並の人間の発想ではありませんよね・・・。小学6年間の全教科の教科書を母親が買って読んだ、そんなこと聞いたことはありませんし、考えられもしません。
著者は高校の英語教員だったのを止めて育児に専念する主婦になることを選択したとのこと。ものすごい決断です。
子育てのスタートは、童謡と絵本。IT化がすすみ、SNSが発達するなかで、人間らしさはますます大切になるという発想もすばらしいです。
子どもは、すぐには賢くならない。人間の脳力を開花させるのは積み重ねなのだ。絵本を読み聞かせるときには、読み手も心から楽しんでいること、親が読み聞かせる。機会にまかせてはいけない。
佐藤ママの配偶者は、私もよく知る弁護士です。結婚当初の若々しい青年弁護士の写真も載っていますが、日本共産党の国会議員候補になったこともあります。映画『男はつらいよ』の主題歌もよく歌います。
父親が朝早く、駅頭で街頭宣伝している前を通学途中の息子たちが手を振って行ったという光景もあったそうです。
なかなか、そこまではとてもやれないと思えますが、大変参考になる、ヒント満載の本です。買って読んで損をすることは絶対にないと思います。それより何より、元気が出ますよ。ぜひ、手にとってみてください。
(2018年7月刊。1500円+税)

分かちあう心の進化

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(霧山昴)
著者 松沢 哲郎 、 出版  岩波書店
有名なチンパンジーのアイをパートナーとして40年以上も研究をしている学者の本ですから、面白くないはずがありません。しかも、NHKのラジオ放送をもとにしていますので、分かりやすく語りかけていて、最初から最後まで知的好奇心をすっかり満足させてくれました。2017年10月から12月にかけて、13回にわたって、毎回40分間、1万字ほどの原稿をもとに話したのです。それにさらに手を加えていますので、充実した内容は文句なしです。
研究の狙いは、人間とそれ以外の動物の心を操ることで、「人間とは何か?」という問いを自らに投げかけて考察することにある。
人間とチンパンジーのゲノムは98,8%が共通していて、違いはわずか12%。
チンパンジーには人間とりも優れた記憶能力がある。一瞬に数字を記憶することができる。
チンパンジーには石器を使う文化がある。
チンパンジーは、目の前にない物に思いをはせることは苦手。ことばの学習もむずかしい。
チンパンジーは、人間と同じように色が見えている。視力は両眼で1,5。
逆さま顔写真の認識は、人間は苦手だが、チンパンジーには簡単。
チンパンジーは、人間と目と目を合わせるし、物のやりとりができる。
霊長類学は日本が世界のなかで常に先頭を走ってきた。今も先頭集団にいて、その拠点が京都大学。山極寿一・京都大学総長もゴリラ研究の権威者である。
チンパンジーにも利き手があり、3人に2人(チンパンジーは1頭とは言いません)は右利き。
チンパンジーは、石器をつかうほか、アリを木の枝で釣って食べる。
アフリカの村では、チンパンジーは祖先とあがめる信仰の対象であり、恐ろしい生き物だ。チンパンジーは村のパパイヤの木にのぼって、パパイヤの実をもぎとる。2個を両手にして持ち去ると、うちの1個は必ず女性(チンパンジー)にあげる。相手は母親か、お尻がピンク色に腫れた魅力的な女性(チンパンジー)。
チンパンジーの平均寿命は50年。女性の初潮は8歳で、子どもを産みはじめるのは13歳前後。出産間隔は5年。
野生のチンパンジーは、女性全員が無事に赤ん坊を産んで母親になる。野生だと、日々の暮らしのなかで、出産や子育てを見たり、参加したりしている。
チンパンジーは、235日で赤ん坊が生まれる。そして、赤ん坊が母親にしがみつくので、母親は赤ん坊を抱き、母性が発動する。
チンパンジーには、おばあさんはいない。女性は生涯、現役で子どもを産み続ける。
チンパンジーの赤ん坊は、決して夜泣きをしない。する必要がない。なぜなら、母親はいつもそばにいるから。
サルは真似をしない。「サル真似」というコトバは事実と違う。サルは教え込まれた動作しかしない。
チンパンジーは、鏡にうつった像が自分だと分かる。人間がする動作を見ただけで真似ることも、ある程度はできる。でも、何でもできるというのではない。
チンパンジーでは、互恵的な利他性が成立するのは難しい。つまり、お互いに相手のために働くのは難しい。
チンパンジーは、子どもに教えることはしない。教えない教育、見習う学習がある。
チンパンジーは、うなずくこともしない。子どもをほめることもしない。
チンパンジーも笑う。しかし、身体的な接触がないと、笑い声をたてることはない。
チンパンジーは薬草を利用している。下痢をしたときだけに食べる葉(ボンレー)がある。
チンパンジーになく、人間にあるのが想像するちから、そして希望をもつこと。その想像するちからによって、人間は心に愛を育んできた。
200頁あまりの本ですが、人間にとって大切なことがぎっしり詰まっていると思いました。ご一読を強くおすすめします。
(2018年8月刊。1800円+税)

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