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カテゴリー: 人間

ウィルスの世紀

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 山内 一也 、 出版 みすず書房
ウィルスと細菌を区別するのは難しい。細菌は、もっとも原始的な細胞であり、独立した生物。ウィルスは、細胞に寄生しなければ増殖できない。
細菌は二分裂で増殖する。ウィルスの増殖方法は細菌とはまったく異なる。ウィルスは、まず粒子の表面にあるウィルスのタンパク質(鍵)を細胞の受容体(鍵穴)に結合して、細胞の中に侵入する。細胞は、いわばウィルスの生産工場。
ウィルスは、工場の機能をハイジャックして、ウィルスの設計図(核酸)の情報にしたがってウィルスの部品(タンパク質)を生産させる。そして、細胞の中でそれらを組み立ててウィルス粒子をつくりあげ、細胞外に放出する。このように、部品を大量生産する方式で、二分裂と比べて非常に高い高率で子孫粒子を生産する。
ポリオウィルスは、試験管内で、1日で1個のウィルスから数万ないし数十万のウィルスが産生される。
ウィルスは、ほかの生物に依存すれば、生物界にしか見られない仕事ができる有機体である。したがって、ウィルスは生物でもなければ無生物でもないとみるほかない。
天然痘ウィルスや麻疹ウィルスは、人間集団の中でしか生存していけない。
ヒトのウィルスの多くは、困ったことにマウスでは増えない。
人類は気づかないまま、ながいあいだウィルスと共生してきた。
コウモリのだ液、尿、糞便、交尾によって、コウモリのあいだでウィルスは受け継がれている。フィリピンのニパウィルスは、感染源のオオコウモリから、ウマを介してヒトに移り、ヒト―ヒト感染が起きた。コウモリは、いわばウィルスの貯蔵庫になっている。ある調査では、コウモリから137種ものウィルスが見つかった。そのうち61種はヒトに感染できる。コウモリの平均寿命は20年ほど。
中国では、伝統的に野生動物を食べると健康に良いと信じられている。とくに外国産の動物は高価で、接待につかって自分のステータスを示す。また、漢方薬の原料としても、野生動物の需要は増加している。
ウィルスには抗生物質は効果がない。ウィルスは細胞の機能を乗っとって増殖するため、ウィルス治療薬は細胞に影響を与えずにウィルスの増殖を阻止するものでなければならない。
新型コロナウィルスのワクチンが簡単にできるとは思えません。トランプ大統領は、風邪みたいなものだと言って、軽視しましたが、とんでもない暴言です。アメリカでは1日に10万人もの感染者が出て、死者も多数でていますが、それは、国民皆保険ではないからだと思います。
日本もGO、TO、トラベルで人々が全国を駆けめぐっていますが、それによって感染者が爆発的に増えないか本当に心配です。ウィルスとは何かを知るうえで、とてもタイムリーな本だと思いました。
(2020年8月刊。2700円+税)

蓼食う人々

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 遠藤 ケイ 、 出版 山と渓谷社
蓼(たで)食う虫も好き好き、とはよく言ったものです。
カラスを食べていたというには驚きました。フクロウを囮(おとり)にしてカラスを捕り、肉団子にして食べたというのです。カラスは赤肉で、歯応えがあって味わい深いそうです。カラスって不気味な真っ黒ですから、私なんかとても食べたいとは思いません…。
サンショウウオは、皮膚から分泌する液が山椒(さんしょう)の香りがするとのこと。知りませんでした。
野兎(のうさぎ)は、各家庭でつぶした。肉だけでなく、内臓から骨、毛皮まで無駄なく利用できる。野兎は、「兎の一匹食い」と言われるほど、捨てるところなく食べられる。なので、野兎のつぶしは、山国の人間の必須技術だった。野兎は鍋に入れる。味は味噌仕立て。白菜・大根・ネギに、スギヒラタケやマイタケを入れる。そして、別に野兎の骨団子をつくって、子どものおやつにした。肉が鶏肉に似ていて、昔からキジやヤマドリの肉に匹敵するほど美味なので、日本では野兎を一羽、二羽と数える。
岩茸(イワタケ)は、標高800メートルほどの非石英岩層の岩壁に付く。山奥の比類なき珍味だ。ただし、岩茸は、素人には見つけるのが難しい。1年に数ミリしか成長しない苔(こけ)の一種で、キロ1万円以上もする。
鮎(アユ)は、苦味のあるハラワタを一緒に食べるのが常道。なので、腹はさかない。頭から一匹丸ごといただくのが、せめてもの鮎に対する供養になる。
オオサンショウウオは、200年以上も生きると言われてきた。実際には野生だと80年、飼育下でも50年は生きる。
ヒグマは、もともと北方系で、寒冷な環境や草原を好み、森林化には適応できなかった。
敗戦直前の1944年に新潟県に生まれ育った著者は、子どものころ、野生の原っぱで、ポケットに肥後守(ヒゴノカミ。小刀)をしのばせて、カエルやヘビ、スズメや野バトを捕まえて解剖して食った。そうして、人間は何でも食ってきた雑食性の生き物だということを痛感した。
よくぞ腹と健康をこわさなかったものだと驚嘆してしまいました。
(2020年5月刊。1500円+税)

世界の起源

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 ルイス・ダートネル 、 出版 河出書房新社
知らないことは世の中にたくさんありますが、この本を読みながら、地球と人間(生命)の関係が深いことに今さらながら大いに驚かされました。
我らが地球は、絶え間なく活動し続ける場所であり、常にその顔立ちを変えている。地球が変化する猛烈な活動すべての原動力となるエンジンがプレートテクトニクスであり、それは人類の進化の背後にある究極の原因となっている。
過去5000万年ほどの時代は、地球の気候の寒冷化を特徴としてきた。長期にわたる地球寒冷化の傾向は、主としてインドがユーラシア大陸と衝突して、ヒマラヤ山脈を造山させたことによって動かされてきた。
東アフリカが長期にわたって乾燥化し、森の生息環境を減らして細切れにし、サバンナに取って代わらせたことが樹上生活をする霊長類からホミニンを分岐させた。
歴史上で最初期の文明の大半は、地殻を形成するプレートの境界のすぐ近くに位置している。現在、我々は間氷期に生きている。地球は存在してきた歳月の8割から9割は、今日より大幅に高温の状態にあった。南・北極に氷冠がある時代は、実際にはかなり珍しい。
地球がまっすぐに自転していたら、季節はなかっただろう。ミランコヴィッチ・サイクルは、北半球と南半球で太陽からの熱の配分を変えるので、季節の変化の度合いが変わる。
75億人もいる人間(ヒト)のあいだの遺伝的多様性は驚くほど乏しい。アフリカから6万年前に脱出したヒトは、恐らく数千人だっただろう。そして、アフリカを出てから5万年内に人類は南極大陸をのぞくすべての大陸に住み着いた。
地球が温暖化するなかで、1万1000年前ころに、ヒトは農業と定住に踏み出した。
恐竜は草がまったくない大地をうろついていた。ヒトは草を食べて生きのびた。草を熱と火をつかって栄養素を吸収できるようにした。
地球だけでなく、ヒトの体の分子までも、星屑(ほしくず)からできている。
金(キン)は、地球がその鉄の中心部と珪素のマントルに分離したのちに、小惑星の衝突によって地表にもたらされたもの。
地球の外核にある溶けた鉄の激しい流れが、ちょうど発電機のように磁場を生み出す。地球上の複雑な生命体の存在は、それ自体が鉄の中心部に依存している。ヒトの血に流れる鉄は、それを生み出した太古の星の核融合の鍛冶場(かじば)に結びつけるだけでなく、地球の生命を守って世界に張りめぐらされている磁場にもつながっている。
地球の生涯の前半において、世界には大気中にも海洋にも酸素の気体は存在しなかった。初期のシアノバクテリアが地球に酸素を送り出した。
地球の歴史の9割には、地上に火は存在しなかった。火山は噴火したが、大気には燃焼しつづけるだけの酸素がなかった。酸素の増加は、複雑な生命体を進化させただけでなく、人類に道具としての火を与えた。
地球は生きていて、変化し続ける存在であること、ヒトをふくむ生命はその変化に対応して存在しているということが、実に明快に説明されていて、声も出ないほど圧倒されてしまいました。大いに一読に値する本です。
(2019年11月刊。2400円+税)

森繁久彌コレクション

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 森繁 久彌 、 出版 藤原書店
森繁久彌の映画なら、いくつかみていますし、テレビでもみています(映画だったかな…)。残念ながら、生の舞台をみたことはありません。というか、本格的な劇というのは司法修習生のとき『秦山木の木の下で』という劇を東京でみたくらいです。もっとも、子ども劇場のほうは、子どもたちと一緒に何回かみましたが…。
全5巻あるうちの第1回配本というのですが、なんと、600頁をこす部厚さです。役者としてだけでなく、モノカキとしてもすごいんですね。すっかり見直しました。
そして、著者は戦前の満州に行って、そこで放送局のアナウンサーとして活動しています。大杉栄を虐殺したことで悪名高い甘粕正彦とも親しかったようで、「甘粕さん」と呼んで敬意を払っています。
満州ではノモンハン事件のとき、現地取材に出かける寸前だったのでしたが、日本軍がソ連軍に敗退して、行かずじまい。そして、ソ連軍が進駐してくると、軍人ではないのでシベリア送りは免れるものの、食うや食わず、夫が戦死した日本人女性を「性奉仕」に送り出して、安全を確保するという役割も果たしたのでした。それでも、日本に帰国するとき、7歳、5歳、3歳と3人の子どもと奥さん、そして母親ともども一家全員が無事だったというのは、奇跡のようなことです。
著者は、子どものころからクラスの人気者で、歌も活弁も詩の朗読もうまかったようです。これが、一貫して役に立ち、生きのびることにつながったのでした。
もともと、役者根性ほど小心でいまわしく、しかもひがみっぽいものはない。だから普通の神経ではとても太刀打ちはできない。よほど図太く装うか、さもなければ最後までツッパネて高飛車に出るか、あるいは節を曲げて幇間よろしぺこぺこと頭を下げ、「先生、先輩」と相手をたてまつるか、そのどれかに徹しないかぎり、何もせぬうちにハジき出されてしまうこと必定なのだ。
著者は、満州7年の生活と、いくども死線をこえてきた辛酸は無駄ではなかったと思うのでした。著者が世に出るまでの苦労話も面白いものがあります。
30を過ぎ、さして美男でもなく、唄がうまいかというと、明治か大正のかびの生えたような唄を、艶歌師もどきに口ずさむ程だ…。
そこで、著者は作戦を考えた。毎日、二流とか三流の映画館をのぞき、画面のなかの役者について、考現学的に統計をとった。そして館内の人間を分類大別し、年齢、嗜好、そして、どこで泣き、どこで笑い、どこで手を叩くかをノートに詳しく書きとめた。
おおっ、これは偉い、すごいですよね、これって…。さすが、です。
すぐに結果の見える演技ほど、つまらないものはない。次にどう出るか分からないという、未来を予測できない演技が、観客をそこにとどまらせ、アバンチュールをかきたてるのだ。
著者は満州でNHKのアナウンサーとして取材にまわったとき、蒙古語で挨拶し、歌もうたったとのこと。これまた、すごいことですね。これが出来たから、すっと現地に溶け込めたのでした。
著者が満州にいたとき、一番にがにがしく、日本民族の悲しい性(さが)を見たのが、集団のときの日本人の劣悪さ。軍服を着せて日本軍という大集団のなかにおいておく、この善良なる国民は、酒乱になった虎みたいに豹変し、横暴無礼。列車のなかに満人が座を占めていると、足で蹴って立たせたり、ツバをひっかけたりする。見ていて寒気がする。ところが、その一人ひとりを野山において野良着でも着せたら、なんと親切な良識のある村の青年にかえってしまう…。
著者の父親は、関西実業界の大立者だった菅沼達吉で、子どものころは、ずいぶん裕福な生活を送っていたようです。そして、著者の長兄(馬詰弘)は、高校生のころに左傾化して「プチブル共産党」の見本だったとのこと。著者自身も、早稲田に在学中のとき、周囲に共産党の影響が強かったようです。いやはや、本当に苦労していたことがよく分かった本でした。
著者は、2009年11月に死去、89歳でした。
(2019年11月刊。2800円+税)

分子レベルで見た薬の働き

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 平山 令明 、 出版 講談社ブルーバックス新書
私は、なるべく薬を飲まないように心がけています。いえ、かゆいと皮膚科でもらった軟膏はすぐ塗りますし、花粉症で目がかゆいと目薬はさします。
幸い、高血圧でも糖尿病でもないため、毎日、薬を飲まないといけないということはありません。なので、椎間板ヘルニアになったとき、痛み止めの薬をのんだら、すぐに効果がありました。ありがたいことです。
この本は、カラー図版で、人間の細胞がどうなっているのか、薬が分子レベルでどのように作用しているのか図解していますので、門外漢の私も分かった気にさせてくれます。
ペニシリンは、バクテリアの生産する毒性物質であり、ペニシリンを生産するバクテリアが他のバクテリアに打ち勝って生存していくための、自己防衛手段の一つである。
徳川家康は、秀吉と戦って勝った小牧・長久手の戦いのとき、背中に大きな腫れ物ができて、非常に危険な状態になった。このとき、摂津の国の笠森稲荷の土団子に生えた青カビをその腫れ物に塗ったところ、腫れ物は完治し、九死に一生を得た。この話が本当だとすると、家康もペニシリンによって命を救われたことになる。そんなことがあったなんて知りませんでした。いったい、どんな本にこんなことが書いてあるのでしょうか…。
院内感染で話題のMRSAは、バクテリア自体は弱く、健康な人はまったく問題ない。ところが、高齢者や病気の人、外科手術をした直後で免疫力が低くなっている人が感染すると、抗菌薬が動きにくいため、深刻な結果を招くことになる。
耐性菌による死亡者は世界で年に70万人であり、これからますます増えると予測されている。
オプジーボは、薬価3800万円だったのが、今では年に1090万円まで低下した。
ウィルスは、バクテリアよりさらに簡単な構造なので、生物なのか無生物なのか難しい問題だ。ウィルスは、自身が分裂して増殖することはできない。
ウィルスが、その遺伝情報を宿主の染色体の中にまぎれこませる。ウィルス本体は、情報そのものと言える。情報処理中枢に入り込んだ情報の削除はきわめて難しい。
いったんウィルスが染色体に感染すると、それを取り除くのは困難だ。
人間の身体の免疫反応はすばらしい。本来、このように臨機応変で、確実に問題を解決する方法が身についているはずなのだ。
人類は、インフルエンザ・ウィルスに決して勝利したのではなく、むしろインフルエンザ・ウィルスとの本格的な闘いは、やっと始まったところなのだ。
一般に、科学者とは、実験して、その結果を論理的にまとめている人のように思われているが、実際には、実験で分かるのは、たいてい求めるべきもののごく一部でしかない。あとは、想像力、空想力の世界なのだ。
ということは、何ものにもしばられない自由な飛翔する豊かな発想が大切だということなんですよね…。日本の押しつけ教育は、根本的に改められる必要があります。国定教科書なんて、おさらばですよ…。
自己免疫力をパワーアップする薬も紹介されていますが、免疫力をアップさせるためには、規則正しい生活、ほどほどのストレスのある生活、よく食べよく出し、ぐっすり眠って、やりたいことがある毎日を過ごすことではないでしょうか…。
私と同世代の著者によるカラー図版満載の、分かった気にさせてくれる薬と人体の相互作用を解説してくれる新書でした。
(2020年2月刊。1700円+税)

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