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カテゴリー: 人間

アンパンマンと日本人

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 柳瀬 博一 、 出版 新潮新書
 日本の幼児の一番好きなキャラクターは、なんといってもアンパンマンです。孫たちもアンパンマン大好きでした。小学生になったら卒業してしまいましたが…。
アンパンマンの絵本は、なんと8100万部を突破している。そして、2300をこえる豊富なキャラクターもいて、アンパンマン関連の市場規模は累計600億ドルに達する。全国に5ヶ所あるアンパンマンミュージアムの年間入場者は300万人以上。日本の乳幼児中心なのに、ビジネス規模は年間1500億円で、世界6位を誇っている。
やなせたかしは、1919年生まれで、アンパンマンを生み出したときは54歳、テレビアニメのときは69歳だった。
 アンパンマンは、冴(さ)えない中年男として登場した。はじめは大人のメルヘンとして描いたもの。アンパンマンは平成以降のヒーロー。なので、私の子どもたちのころにはいなかったのです。
今や、子育てを助けてくれる最高のヒーローになっている。1~3歳の支持率は圧倒的。アンパンマンは、子どもたちだけでなく、親からも信頼されているのが、最大の強み。
 アンパンマンに触れ始めるのは0歳から2歳のときで、卒業は4~6歳の幼稚園のころ。
アンパンマンの客は親子一体。親の決定に委ねられている。アンパンマン映画の映画館は明るいままで、暗くはならない。アンパンマンが登場すると、子どもたち全員がピタッと泣き止み、アンパンマンの一挙手一投足にクギづけになってしまう。アンパンマンが敵に反撃すると、「がんばれ」と声援を送る。5分に1回はアンパンマンの出番がある。映画館を出るとき、子どもも親もニコニコ満足の笑顔。
アンパンマンのキャラクターは、みな徹底してモダンなスタイルでデザインされている。そして、そのワールドは、山と川と海に囲まれた「田舎の村」。アンパンマンの世界は、シンプルな描線と影のないフラットで鮮やかな配色で構成されている。
やなせたかしは、東京高等工芸学校で商業美術つまり広告デザインを学んだ。そして兵隊にとられ、中国大陸に行っている。このとき食べるものがない。喰わないと死んでしまうという状況に置かれた。この体験がアンパンマンに生かされている。
死なずに帰国してからは、高知新聞社に入り、雑誌をつくり始めた。そして、そこで、妻になる小松暢と出会う。NHKの朝ドラの主人公です。妻の「いだてんおのぶ」は、ちょっと気が弱くて、自身のないやなせさんを励まし続けました。
 アンパンマンは常に淡々としている。増長しないし、メロメロにもならない。
3.11大震災のあと、ラジオから流れてきた「アンパンマーチ」を子どもたちが一斉に歌い出した。この話には感動しますよね。
 「何のために生まれて何をして生きるのか、答えられないなんて、そんなのはいやだ!」
 やなせたかし自身がアンパンマンだった。
 お腹をすかしている人に、自分の顔をちぎって与えるなんて、突拍子もないんですけど、子どもたちは何の苦もなく受け入れるのです。そして、パン工場でおじさんに顔を再生してもらうのです。
 いい本でした。アンパンマンを赤ちゃんが好きになる理由が、やなせたかしの人生を掘り下げるなかで納得できるのです。
(2025年3月刊。880円+税)

私と北アルプス

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 中野 直樹 、 出版 自費出版
 神奈川県の弁護士がこれまで登った山の紀行文と写真をまとめた冊子です。どうやら5冊目のようです。私はどれも登っていませんが、著者は北アルプスの山々を駆けめぐり、また女山魚などを釣っています。著者に会ったとき、山登りこそが本業で、弁護士のほうは副業程度じゃないのか…と冷やかしたことがあります。
 著者が若いころの山行きの仲間は、私からしても大先輩にあたる岡村親宜弁護士(労災・職業病の権威)と大森鋼三郎弁護士が一緒しています。30年近くも前(1996年8月)の山行きです。著者は、それこそまだ初々しい青年弁護士です。いかにも元気溌剌で、うらやましいです。
 岩魚(イワナ)釣りの旅でもありました。イワナは、毛バリで釣り上げています。釣りのエサになる川虫を見つけるのは大変だったようです。師匠の岡村弁護士は板前として、イワナ寿司、イワナのムニエル、イワナ刺身、イワナ塩焼き、イワナの燻製(くんせい)、骨酒をつくり、みんなで堪能したとのこと。いやあ、さぞかし美味だったことでしょう。
 山小屋は大混雑で夕食は入れ替え制。そして寝ようとすると大いびきに悩まされる。私も、山小屋ではありませんが、同宿者の大いびきで眠れない夜を過ごしたことが何回かあります(幸い、いつのまにか寝入っていました)。
 同行した人の登山靴が劣化して銅線を巻きつけて歩いていく情景が紹介されています。私も近くの小山を久しぶりに歩いたとき、登山靴が古くなっていて、底がパカッと開いてしまって困ったことがありました。たまに山を歩くと、こんなこともあるのですよね。
 それにしても山の雄大な写真が見事です。まさしく気宇壮大な眺めに、すっかり病みつきになっている著者の心情を理解したことでした。
 いつもすばらしい写真を送っていただいて、ありがとうございます。これからも無理なく山行き(山歩き)を楽しんでください。
(2025年5月刊。非売品)

睡眠の起源

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 金谷 啓之 、 出版 講談社現代新書
 私は眠りはいいほうです。年齢(とし)とともに寝るのが早くなりました。前は夜12時まで起きていましたが、ちょっと前に午後11時なり、今では午後10時半には布団に入るようにしています。眠ると、朝はすっきり目が覚めます。
 夜しっかり眠れないという依頼者が少なくありません。そして、借金返済のためにダブルワークして毎日4時間しか寝ていないという人がいて、心配です。また、三交代労働などで深夜労働の人も少なくありません。私はコンビニが全部24時間営業しているのも問題だと考えています。すぐに全廃できないというのなら、いくつか例外的に開けておけばいいと思うのです。
 脳のないヒドラも、ときに動きを止めて休む状態がある。眠っているような状態だ。ヒドラの睡眠をコントロールする遺伝子は、他の動物と共通している。ヒトが眠るのと同じように、脳のないヒドラも眠っている。
 ヒトの脳はとても軽く、豆腐のように軟らかい臓器で、体重の2%を占めているだけ。
 ヒトの体は40兆個もの細胞で出来ている。ヒトの脳には、1000億個以上の神経細胞が存在する。
 睡眠は、ノンレム睡眠の時間が圧倒的に長い。レム睡眠は、鮮明な夢をみることが多い睡眠だ。
 断眠は、脳のはたらきに大きく影響する。断眠させると、ラットは2~3週間で死んでしまう。断眠は脳にダメージを与えるだけでなく、全身に及ぶ。ひどい場合は死に至る。
 拷問の一手法が眠らせないというもので、効果的だといいます。
 睡眠は貯蓄ができない。
植物のオジギソウは、体内時計によって葉を開閉させている。
ショウジョウバエの2万個以上ある遺伝子のうち、時計遺伝子と呼ばれる一連の遺伝子は体内時計に関与している。
 ヒトの体のあらゆる組織に、時計遺伝子による体内時計のしくみが備わっている。脳のなかの思考叉(しこうさ)上核と呼ばれる領域が全身の体内時計の中枢だ。
 睡眠は、睡眠圧と体内時計という二つの成分によって調節されている。
 ヒドラは老化の兆候をほとんど示さない。1400年以上生き続けている個体がいる。ヒドラが眠るというのなら、睡眠に脳は必要なのかという疑問が生じる。
 海に浮かぶクラゲは昼寝をしている。
 ナルコレプシーの患者は、発作のように突然眠ってしまう。
吸入麻酔薬は100%、必ず効く薬だ。ところが、なぜ効くのか分からないまま、今日も服用されている。また、植物にも作用する。
 眠りって不思議ですよね。意識がある状態が一瞬で不思議な世界に入りこみ、朝になると、また体が動き出すのですからね…。大いに考えさせられる新書でした。
(2024年12月刊。990円)

井上ひさし外伝

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 植田 紗加栄 、 出版 河出書房新社
 井上ひさしは私のもっとも尊敬する作家の一人です。井上ひさしが映画をたくさん見ているというのは知っていましたが、教師から3つの条件を課されたというのは初耳でした。映画館で「婦人警官」から補導された。この時間に高校生が映画館にいるのはおかしい。これは不良に違いない。仙台南警察署まで連行された。そして警察官は学校に電話して問い合わせた。すると、担任の教師はこう言った。
 「あ、そいつは映画を毎日見ることになってます」
 信じられない展開です。担任の藤川武臣先生は、高校生の井上ひさしが午後から授業をサボって映画を観ることを許していたのです。ただし、条件を3つ課した。その1、映画の半券と詳しい筋書きをレポートとして提出する。その2、友だちのノートを借りるなどして単位取得に必要な試験を受ける。その3、東北大学に進むのはあきらめる。
 校長の許可も得ずに担任がこんな条件で生徒のサボりを公認するなんて…。大人しく目立たない性格のせいで、午後の教室に井上ひさしがいなくても級友の目は惹かなかったというのです。いやはや、信じられませんよね。
 井上ひさしは上智大学の仏文科に入っていますが、フランス語はカナダ人神父の直伝で、上手だったようです。翻訳もしているとのこと。そして、「キネマ旬報」や「映画の友」によく投稿し、しばしば掲載され、その報償金も映画代に充てたのでした。高校3年間に観た映画は、なんと、750本とか1000本というのですから、常人にとても真似できません。
遅筆堂として有名な井上ひさしの信条と勇気について、著者は次のように紹介しています。これまた、常人にはとても真似できないすごさです。
 いい物語をつくらないと観客に放り出される。初日の開幕に間に合わず、世間の非難を浴び、金銭的損失を出しても、いかにいい脚本にするか、それだけを目指して書く。それが脚本と向きあうときの井上ひさしの基本姿勢。いかに初日が迫ろうとも、それまで書いた原稿が良くないと判断すると、それを惜しみなく捨てることのできる意志と勇気を井上ひさしは身につけていた。
 この強い意思こそが、再演打率の非常に高い作品を生み出してきた。
 映画大好き人間の井上ひさしは、「ミーハー井上」でもあったというのもすごく身近に感じられる話です。井上ひさしは山田洋次監督の「寅さん映画」と同じように「美空ひばり映画」も好きだった。洋画ではターザン映画のような能天気な映画が好きだった。私も子どものころ、美空ひばりもターザン映画を観ています。深く考えさせるというのではなく、ハラハラドキドキの楽しい映画なのです。
 そして、気に入らない映画は、けなすことなく、触れないで無視してしまう。私も、このコーナーには面白くないと思ったら紹介しません。けなす文章なんか書きたくもありません。時間がもったいないのです。
井上ひさしが愛したのは映画と音楽。音楽はとにかくジャンルが幅広い。そしてタバコ。残念ながら井上ひさしは肺がんにかかっています。
 中学生の3年間で600本もの映画を観たという井上ひさしは、世界一の映画ファンだというコメントが最後に紹介されています。まったく異議ありません。
(2025年1月刊。3520円)

眼述記

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 髙倉 美恵 、 出版 忘羊社
 脳梗塞で倒れた「毒舌」の夫と文字盤でバトルしながら駆け抜けた10年の記録。
 これが本のオビのフレーズです。夫は全身マヒになったので、その意思表示はアイコンタクト。文字盤を目線で指し示し、それを読みとるのです。いったい、どうやって…。
 透明の塩ビ板(厚さ1ミリ、幅30センチ長さ45センチ)を挟んで、互いの目と目の間を60センチほど空けて見つめあい、視線がぶつかりあう真ん中の文字を読む。
 これって意外に難しそうですよね。でも、慣れたら、それなりのスピードで読みとれ、意思疎通が出来るそうです。
 目線が動くことで見えていること、脳がその限りでしっかりしていることが判明してからのことです。脳梗塞と脳出血で倒れてから4ヶ月たったときでした。そして、初めてのコトバが「されるな」だったのです。夫からすると、食事のあと、すぐにマッサージするのは止めてくれという意思表示でした。もちろん、あとで分かったことです。妻からすると、夫のために一生けん命マッサージしているのに、「されるなって、何やねん」という思いでした。戦争のため植物人間のようになった「ジョニーは戦場へ行った」という映画をつい思い出しました。
 新聞記者をしていた夫は、気がついたときには体が動かず、声も出せない。しかし、意識のほうは清明。それを妻や家族そして周囲の誰にも伝えることが出来ないという苦しみに陥っていたのです。作家の葉室麟の担当をしていたので、葉室麟がよく病室にも自宅にも見舞いに来たそうです。残念ながら葉室麟のほうが先に亡くなりました(2017年12月)。
 夫が病院を退院するときの担当者会議には、なんと22人もの参加者があったとのこと。驚きました。病院スタッフと自宅でのケアに加わる人たちなどです。このときの心境を夫は、「地面に落ちたあめ玉みたい」だったと号泣した。
 介護が辛いのは、家族の世話をすること自体ではなく、そのために介護以外のことをする時間がとれなくなること。なーるほど、それは辛いですよねゆっくり本を読んだり、テレビを見たり音楽を聞いたり、はたまたコンサートに出かけたりが、ほとんど無理になりますよね。
 そして、車イスで動けるようになってから、映画好きの夫の希望で車イス席のある映画館に出かけるようになります。博多駅の9階にあるTジョイにはよく行っているようです。
 訪問入浴は週2回、日額1万3千円。45分間のうちに洗いあげ、健康状態チェックまでしてくれる。
車イスでの外出介助は、担当に骨の折れる仕事だ。道路のデコボコや歩道の傾きに気をつけておかないと車イスごと転倒しかねない。街中は命に関わる危険に満ちている。
体が疲れるというより、神経がすり減ってしまう。深刻で大変だけど、笑える部分は大いに笑ってほしいと著者は書いています。私も遠慮なく、ところどころ大いに笑わせてもらいました。
 夫はずっと笑えなかったようです。それどころか、よく号泣しました。感情失禁という、脳出血にともなう後遺症なのです。感情のコントロールがしづらくなり、すぐに怒ったり泣いたりするのです。夫は、ちょっと心が動くと、勝手に嗚咽(おえつ)が出てしまうので、あまり気にしなくてよいと説明。そうなんですか…。
 まあ、本当に大変な介護生活ですが、すでに10年も続けているわけです。これからも、適当に息抜きしながら、やっていってくださいね。心温まる、いい本でした。
(2025年2月刊。1750円+税)
 日曜日、午後からジャガイモを掘り上げました。まず、試し掘りをしてみたら、大きいものが出てきましたので、これなら大丈夫だと、掘り上げていきました。月曜日は雨が降るというので、それなら全部を掘り上げようと思い、がんばりました。
 今年は大豊作でした。皮の紅い、サツマイモのようなジャガイモが半分です。これで、ポテトサラダそしてコロッケをつくってもらったら最高です。
 小さいのは、そのままオーブンで焼いて食べました。ホクホクして美味しい味でした。
 夕方、暗くなってから近くの小川にホタルを見に行きました。歩いて5分のところです。今年は、たくさんのホタルに出会えました。フワリフワリと飛んでいるホタルをそっと手の平に乗せてみます。すると、またフワリと飛んでいきます。ゆっくり、あわてず、そして一斉に明滅するホタルの姿を見ると、まるで夢幻の里にいるかのようです。

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