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カテゴリー: ヨーロッパ

これが人間か

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 プリーモ・レーヴィ 誠二 、 出版  朝日新聞出版
 「アウシュヴィッツは終わらない」の改正完全版です。前にも読んでいますし、このコーナーで書評を紹介したと思いますが、ポーランドのワルシャワ動物園でユダヤ人救出を実行していた実話が映画になったのをみたばかりでしたので、改めて読んでみました。その動物園では、園長宅の地下室を中継地点としてユダヤ人をゲットーから救い出して逃亡させていたのでした。命がけで、そんなことをしていた人々がいたのですね。そんな勇気と知恵には頭が下がります。
著者は1943年12月に24歳のとき、捕えられました。まだ若かったので、生きのびることができたのですね、きっと、、、。
 貸車に詰め込まれて運ばれます。著者と一括の貸車にいた45人のうち、家に戻れたのはわずか4人のみ。
 収容所に着いたとき、96人の男と29人の女だけが助かり、残りの500人は2日と生きていなかった。その選別はあまりに手早く簡単なものだった。ナチス第三帝国に有益な労働ができるかどうかが選別の基準だった。
 ラーゲル(強制収容所)では、死は靴からやって来る。囚人は自分にあわない木靴をはかされる。足はふくれあがり、歩くのに困難となる。しかし、この判断で病院に入ると死が待っている。
起床時間になると、多くの者が時間の節約のため、獣のように走りながら小便をする。というのも、5分後にパンの配給があるからだ。パンは、収容所ではただ一つの貨幣でもあった。
 よごれ放題の洗面所の汚れで毎日体を洗っても、健康をたもてるほど体がきれいになるわけではない。しかし、活力がどれだけ残っているかを知る手がかりとしては重要だし、生きのびるための精神的手段としては不可欠なのだ。
 収容所(ラーゲル)とは、人間を動物に変える巨大な機械だ。だからこそ、我々は動物になってはいけない。ここでも生きのびることはできる。だから生きのびる意思をもたねばならない。証拠をもち帰り、残すためだ。そして、生きのびるためには、少なくとも文明の形式、枠組、残骸だけでも残すことが大切だ。我々は奴隷で、いかなる権限も奪われ、意のままに危害を加えられ、確実な死にさらされている。だが、それでも一つだけ能力が残っている。だから、全力を尽くしてそれを守らねばならない。なぜなら、それは最後のものだから。それは、つまり同意を拒否する能力のことだ。そこで、我々は石けんがなく、水が汚れていても、顔を洗い、上着でぬぐわなければならない。人間固有の特質と尊厳を守るために、靴に墨を塗らなければならない。体をまっすぐに伸ばして歩かなければならない。生き続けるため、死の意思に屈しないために、だ。
 収容所にいる人々にとって、月日は、未来から過去へ、いつも遅すぎるほどだらだらと流れるものにすぎなかった。なるべく早く捨て去りたい、価値のない、余裕なものだった。未来は、月の前によけ壊しがたい防壁のように起状もなく圧色に横たわっていた。歴史などなかった。
 冬が何を意味するか、それは、10月から4月までに、10人のうち7人が死ぬことを意味する。
 人を殺すのは人間だし、不正を行い、それに屈するのも人間だ。
 ドイツの軍事産業は収容所体制の上に築かれていた。収容所体制こそがファシズムにおおわれたヨーロッパを支えた基本制度だった。
 アウシュヴィッツ収容所の内外における人間行動を直視し、究明することは、私たちとは何が、何をなすべきかを考えさせてくれます。
(2017年10月刊。1500円+税)

オクトーバー、物語ロシア革命

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者  チャイナ・ミエヴィル 、 出版  筑摩書房
 1917年10月に起きたロシア革命が刻明に再現されています。まさしく情勢は混沌としていて、決してレーニン率いるボルシェヴィキが情勢を切り拓き、リードしていったという単純なものではないことがよく分かりました。
 レーニンは始まったときにはロシア国内にいませんでした。始まったあとでドイツを封印列車で通過してロシアに帰還します。でも、それは大歓迎されることを予測してのものではありませんでした。レーニンはペトログラードに4月3日、到着する前、逮捕の危険があるのかと尋ねたほど。しかし、駅には数千人が歓迎に出迎え、花束を手渡し、敬礼した。そして、革命の遂行過程では、フィンランドへ身を隠すしかなかったのです。それほどレーニンの支持勢力は弱小だったということです。ところが、後半になって、情勢が一気に逆転していくのです。はじめて兵士と労働者が急進化して、一気に武力で権力中枢を支配するのでした。ロシア革命は決して一直線で進行していったのではなく、大変な紆余曲折があって進行します。いわば難産だったのです。
 レーニンには、並みはずれた意思力があり、それを誰もが認めた。レーニンには血や骨の髄まで、政治以外には何もない。レーニンに会った人は誰もが魅了される。レーニンが特に傑出しているのは、政治的な時期を見きわめるセンスだ。
当時のロシア皇帝・ニコライ二世を定義するのは、欠如だ。表情の欠如、想像力、知性、洞察、衝動、決断力、覇気の欠如。妻は、夫に輪をかけて人気がない。
皇帝ニコライ二世は、日本人を「猿」と呼び、劣等民族とみなしていた。ところが、楽に勝てるはずの日露戦争で、次々に日本軍に敗退する。
ロシア帝国の当時の人口は1億2600万人。人口の5分の4が土地にしばられた農民、農奴。
3月9日、臨時政府を初めて承認し、祝福したのは、アメリカだった。その次に、イギリス、フランス、イタリアが続いた。
スターリンは、古くからのボリシェヴィキの活動家。才気煥発とは言えずとも、有能な組織者だった。よく言えば、まずまず。インテリ。悪く言えば、面倒な人物、党内の左派でも右派でもない。風見鶏的存在。
7月には、レーニンはスパイだ、ドイツの手先だ、裏切り者だという噂が広まった。ボリシェヴィキは身の安全を求め、上層部の多くは、進んで身を隠した。
10月、軍事革命委員会は銀行を占拠した。そして、レーニンは権力を握ったとする声明書を発表した。そこに書かれた内容は事実ではなく、願望だった。しかし、10月26日午前5時、レーニンの声明書は圧倒的多数で可決された。
レーニンは、1924年1月、病気のため死亡。そのあと、レーニンが危惧していたとおり、スターリンの暴政が始まります。しかし、そのことにレーニンも責任を負うべきではないかという指摘があります。
それはともかくとして、ロシア革命の複雑な過程を400頁あまりの本によって、一見することができました。大晦日(12月31日)に、事務所内に一人こもって読了した本です。2017年に読んだ単行本は580冊になりました。
(2017年10月刊。2700円+税)

いくさの底

カテゴリー:ヨーロッパ / 日本史(戦後)

(霧山昴)
著者 古処 誠二 、 出版  角川書店
 福岡県に生まれ、自衛隊にもいた若手の作家です。前に『中尉』という本を書いていて、私はその描写の迫力に圧倒されました。それなりに戦記物を読んでいる私ですが、存在感あふれる細やかな描写のなかに、忍び寄ってくる不気味さに心が震えてしまったのでした。
 『中尉』の紹介文は、こう書かれています。「敗戦間近のビルマ戦線にペスト囲い込みのため派遣された軍医・伊与田中尉。護衛の任に就いたわたしは、風采のあからぬ怠惰な軍医に苛立ちを隠せずにいた。しかし、駐屯する部落では若者の脱走と中尉の誘拐事件が起こるに及んで事情は一変する。誰かスパイと通じていたのか。あの男は、いったい何者だったのか・・・」
 今度の部隊も、ビルマルートを東へ外れた山の中。中国・重慶軍の侵入が見られる一帯というのですから、日本軍は中共軍ではなく、国民党軍と戦っていたわけです。そして、山の中の小さな村に駐屯します。村長が出てきて、それなりに愛想よく応対しますが、村人は冷淡です。そして、日本軍の隊長がある晩に殺されます。現地の人が使う刀によって、音もなく死んだのでした。犯人は分かりません。日本兵かもしれません。
 そして、次の殺人事件の被害者は、なんと村長。同じ手口です。
 戦場ミステリーとしても、本当によく出来ていると感嘆しながら一気に読みあげました。だって、結末を知らないでは、安心して眠ることなんか出来ませんからね・・・。
(2017年11月刊。1600円+税)

フリッツ・バウアー

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者  ローネン・シュタインケ 、 出版  アルファ・ベータ・ブックス
 アイヒマンを追いつめた検事長というのが本のサブタイトルです。映画にもなりましたので、私もみました。ドイツの未来のため、ナチの戦争犯罪の追及に生涯を捧げた検事長。ところが、順風満帆で追及できたわけではなかったのです。
 ドイツ人の多くは、ナチスのイデオロギーの下で実行した恐ろしい犯罪を戦後になって忘れることを望んだ。フリッツ・バウアーは、1950年から60年代にかけて、それを語るよう強く求め、それを議論すべきテーマとして取り上げた。それは、戦後のドイツ社会で激しい討論を巻き起こした。それまで語られなかったことを、白日の下にさらしたため、フリッツ・バウアーは多くの敵をつくった。
 ナチ政府においてナチスに追随していた者のほとんどが1950年代には司法および行政の機関に完全に舞い戻っていた。連邦刑事警察庁の指導的な47人の官僚のうち33人が元ナチスの親衛隊(S’S)の隊員だった。
 フリッツ・バウアーは、ユダヤ人であり、社会主義者だった。フリッツ・バウアーは1933年に強制収容所に収容されたが、生涯そのことを語らなかった。
ナチスの犯罪者を処罰できない裁判官は、最終的には犯罪者の仲間になる。裁判官が再び殺人集団の加担者になろうとしているのを黙認してはいけない。
 法律は法律なり。悪法であろうとも、法律である以上、それもまた法律なり。しかし、この理屈でナチス法を実行していた法律家を免罪してはならない。私も、そう思います。同じことは日本の戦前の司法官僚にも言えるわけですが、日本ではほとんどの司法官僚が戦後もそのまま温存されました。やがて青法協などの活動が盛んになって時代を大きく動かしていくのですが、それも1970年ころを境に弾圧されていきます。
 ドイツでナチス時代の犯罪行為を正面から取り上げたフリッツ・バウアーの不屈の勇気に日本人の私たちも大いに学ぶ必要があると思いました。
(2017年8月刊。2500円+税)

チャヴ

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 オーウェン・ジョーンズ 、 出版  海と月社
チャヴとは、イギリスの労働者階級を侮辱することば。この差別用語は、ロマ族のことばで「子ども」を指す「チャヴィ」から来ている。いまや、インターネットでは、チャヴを笑い物にする悪意が満ちている。ロンドンの中流階級は下の階級に不安や嫌悪感をもっていて、それがうまく利用されている。なぜ、労働者階級への嫌悪感がこれほど社会に広がってしまったのか・・・。
チャヴということばには、労働者階級に関連した暴力、怠惰、十代での妊娠、人種差別、アルコール依存など、あらゆるネガティブな特徴が含まれている。
「プロール」とは、プロレタリアートを短縮した軽蔑語で、貧しいから無価値という意味を伝えている。
これには驚きました。マルクス『資本論』発祥の地でプロレタリアートが馬鹿にされているなんて、信じられません・・・。
最下層の人々を劣等視するのは、いつの時代でも、不平等社会を正当化する便利な手段だった。
労働党の議員には、かつては工場や鉱山の現場からスタートした人が多かった。今では、肉体労働していた議員は下院に20人に1人もいない。国会議員のうち、私立校出身者は国民平均の4倍以上。保守党議員は5人のうち3人が私立校の出身者だ。
イギリスのエリートには、中から上にかけての中流階級出身者があふれている。貧困者が犯罪を起こせば、似たような出身の全員が非難はされる。これに対して、中流階級の人間の犯罪はそうはならない。
公営住宅に住んでいるのは貧困層だけ。公営住宅の半数近くは、下から5分の1までの貧しい地区に存在する。30年前は、上から10分の1にあたる富裕層の20%が公営住宅に住んでいた。そのときと現在はまったく様変わりしている。
公営住宅にはイギリスの最貧層が住んでいるので、その地域はチャヴに結びつけられる。公営住宅は、社会の掃きだめのようになってきている。
イギリスの保守党は、裕福な権力者たちの政治執行部門だ。保守党の存在意義は、トップに君臨する人たちのために闘うこと、ここにある。それは、まさに階級闘争だ。ところが保守党は、多くの巧妙な手段で労働者階級の「個人」の機嫌をとって選挙に勝っている。
炭鉱労働者のストライキが敗北したとき、炭鉱労働者はイギリス国内でもっとも強力な労働組合をもっていたのに大敗してしまった。それでは、ほかの者にどんな希望があるというのか・・・。炭鉱労働者を叩きのめせるなら、ほかの誰でも叩きのめせるということ。残ったのは、長年の失望と敗北主義だった。この現実はイギリス映画『ブラス』とか『パレードにようこそ』によく反映されていると思います。
サッチャーたちの攻撃が始まったとき、イギリスの労働者の半数は組合員だった。それが1995年には、3分の1まで後退していた。
イギリスの貧困者は、1979年に500万人だったのに、1992年には1400万人になった。しかし、サッチャー哲学は、「貧困」は現実には存在しないとする。貧しい人々は、自分で失敗しただけのこと。貧困らしきものはあるかもしれない。しかし、それは個人のごく基本的な性格の欠陥だけのこと、こう考える。
いやはや、「自己責任」の論理で「貧困」をないものとするのですね。今の日本とまったく同じですよね、これって・・・。
サッチャーの得票率は最高でも44%。有権者全体の3分の1以上の支持は得ていなかった。それでも、サッチャーが勝ち続けたのは、サッチャーを支持しない熟練と半熟練労働者の60%がどうしようもなく分裂したからだ。
サッカーは、長く労働者階級のアイデンティティの中心にあったスポーツだ。ところが今では、億万長者のよそ者が支配する中流階級の消耗品になってしまった。労働階級のファンは、愚かな暴力に熱中する攻撃的なフーリガンと見なされ、排除されている。
イギリスは、今では階級のない社会という幻想がすっかり定着してしまっている。しかし現実には、これまで以上に階級化されている。
貧困層をマスコミが攻撃し、民間労働者に公務員への敵意をあおる。これって、まるで、現代日本でやられていることですよね。日本の近未来が、こうあってはならないと思わせるに十分なイギリス社会の矛盾を鋭く分析した本です。
(2017年9月刊。2400円+税)

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