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カテゴリー: ヨーロッパ

テロリストの誕生

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 国末 憲人 、 出版  草思社
フランスでイスラム過激派による大量殺人・テロ事件が起きたことは記憶にも新しいところです。朝日新聞ヨーロッパ総局長をつとめる著者がテロリストの詳細な実情を伝えてくれる貴重な本です。本文500頁の大部な本ですが、詳細かつ圧倒的迫力がありました。
テロリストたちはヨーロッパに生まれ育っていて、大部分が二世である。テロリストになるまで、ごくフツーのヨーロッパ市民だった。
クアシ兄弟が育ったところは暴力に覆われた場所だった。貧乏な人々を政府が放置した結果、彼らの怒りや恨みを増幅させた。兄が12歳、弟が10歳のとき、娼婦だった母親は大量の睡眠薬で自殺し、兄弟は孤児となった。
人は、もともとテロリストとして生まれるわけではなく、なにか唯一の衝撃的な啓示をもとに突然にテロリストに変貌するわけでもない。多くの人は、宗教とは無縁の世俗的な環境からイスラム主義者、ジハード主義者へと段階を踏みつつ、長い時間をかけて最終的にテロリストに行き着いている。
フランスの人口6000万人のうち、イスラム教徒は6~7%の300~500万人とみられている。ところが、フランスの刑務所のなかでは半分がイスラム教徒である。
著者が訪問したフルリ・メロジス刑務所は、3000人もの収容能力を有するヨーロッパ最大規模で、ここに働く1200人の看守の65%をインターン生が担っている。刑務所の内部にはケータイやビデオ、大麻が出回っていて、受刑者と訪問者が面会室で性交することもある。
刑務所の内部同士で、また外部との連絡をとるのは決して難しくはない。
フランスの刑務所では管理が杜撰なため、脱獄は意外に頻繁に起きている。
犯罪からテロへの移行の場所として大きな役割を果たしているのが刑務所だ。過激思想やジハード主義は、孤独と不安にさいなまれている受刑者に手っとり早い指針を与えてくれる。
テロリスト79人のうち57%は刑務所に入っていたことがあり、このうち31%は収監中に過激化した。
サラフィー主義者とジハード主義者は、しばしばカミーズ(ゆったりと身体を覆い尽くす白衣)をまとい、ひげをはやしている。
サラフィー主義は、一般的に暴力を認めない。これに対して、ジハード主義は、暴力行使も辞さない態度をとる。
いま、ヨーロッパのイスラム過激派は、犯罪集団か定職をもたない人々が支えている。アラブ系とユダヤ系とが共存してきた地区で育ちながら、「敵はユダヤ人」と思うようになっていった。
テロリストたちは、なぜユダヤ人にそれほどこだわるのか・・・。
イスラエルがいつも圧倒的な力を見せつけているパレスチナ紛争の影響から、フランスに暮らすイスラム教徒の相当数がユダヤ人に対して反感を抱いているのはたしかだ。
テロリストをとり巻く環境は、アルカイダ時代から大きく変化した。今ではユーチューブやツイッター、フェイスブック、ワッツアップなどという新技術を駆使して情報を交換しあっている。
ジハード主義の男たちが外で仕事をしたり、人と会ったりしているあいだに、女たちは家で本を読む。その結果、女たちのほうが宗教や理論に詳しくなり、しっかりとしたイデオロギーをi抱く。そして、妻が夫を「殉教」に送り出すと、「イスラム国」は素晴らしい住居も保障してくれる。「殉教者の妻」は、ジハード主義者のブルジョア的地位が約束され、天国にも行ける。つまり精神的利益だけでなく、物質的な利益も受けるのだ。ジハード主義の女性にとって、家族の命が奪われることは、悲しむべきことではなく、むしろ喜びである。
ええっ、本当にそう思っている女性がいるのでしょうか・・・、私には、とても信じられません。
パリで起きた大量殺人のテロ事件(2015年11月14日)では、テロリストは10人。そして、自爆、レストランやバーでの銃撃、劇場への立てこもりという複数の手法を組み合わせている。大勢が実行にかかわっていて、きわめて周到で組織てきな犯行だった。
テロリストになった若者の6割以上が移民2世。移民1世や3世は、ほとんどいない。また、キリスト教家庭からの改宗者が全体の25%というように多い。
「イスラム国」がふりまく英雄のイメージにひかれ、イスラム教社会の代表者であるかのように戦うことで英雄として殉教できる。生きることに関心をもたなくなり、死ぬことばかり考える。
大変考えさせられることの多い本でした。
(2019年10月刊。2900円+税)

戦場のコックたち

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 深緑 野分 、 出版  創元推理文庫
ノルマンディー上陸作戦に参加したアメリカ陸軍のパラシュート歩兵連隊を舞台とする戦争物語です。著者は、まだ若い(36歳)日本人なのに、ノルマンディー上陸作戦をめぐる作戦過程が実によく描写されています。たいしたものです。実は、前の『ベルリンは晴れているか』も同じように細部まで迫真の描写でしたが、私には、いささか違和感がありました。本書の方は、すっと感情移入できたのですが、この両者の違いがどこから来るのか、よく説明できません。
ノルマンディー上陸作戦といっても、主人公は海から攻める部隊ではなく、パラシュート部隊ですので、空からフランスに降下してドイツ軍と戦うのです。
そして、主人公は最前線で機関銃を構えるのではなく、後方で管理部の下で調理するコックなのです。配給品が消えてなくなる謎ときをしたり、失敗に終わったマーケットガーデン作戦に参加して惨々な目にあったりします。
その描写が実にうまいのです。まるで従軍していたかのように話が展開していきます。
そして、ドイツ軍の最後の反撃、アルデンヌの戦いに巻き込まれていくのでした。
さらに、ユダヤ人を強制収容していた絶滅収容所にも出くわすのです。
ノルマンディー上陸作戦に参加したアメリカの若い兵士の気分をよくつかんでいるなと思いながら、500頁をこす大部な文庫本に没頭したのでした。
(2019年8月刊。980円+税)

ドイツ軍事史、その虚像と実像

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 大木 毅 、 出版  作品社
『独ソ戦』の著者によるドイツ軍事史ですから、面白くないはずがありません。
従来の定説が次から次に覆されていく様子は小気味よく、痛快でもあります。
たとえば、日本軍による真珠湾攻撃について、ルーズベルト大統領はあらかじめ承知しておきながら、世界戦略に展開上、あえてこれをやらせたという陰謀論がある。同じように、スターリンもドイツ侵略を準備していたので、ヒトラーはそれに一歩先んじただけのこと・・・という古くて新しい主張がなされている。しかし、いずれも歴史的事実としては成り立たない。
1943年7月のプロホロフカの大戦車戦なるものの実体は・・・。
ドイツ側の装甲勢力は戦車、突撃砲、自走砲をあわせて204両だった。これに対してソ連側は850両の戦車と自走砲を保有していて、プロホロフカ戦区だけでも500両の戦車を投入してきた。しかし、結局のところ、ソ連軍の大戦車隊は大敗を喫した。
ソ連軍は、350両もの戦車と自走砲を破壊された。つまり、ソ連軍はプロホロフカで大敗北し、ドイツ軍は大勝利をおさめていた。
1944年冬、ドイツ本国にあった兵站部隊と後方勤務部隊は、保持していた小銃と拳銃の半分を前線部隊に引き渡していた。残りの半分は、1944年春、同じく手放すことになった。
ドイツの生産能力は、前線と後方の需要を同時にみたすことができる状態ではなかった。
1944年3月、ドイツの国内予備軍はなお1100両の戦車と突撃砲を有していたが、実にその半分が旧式化したⅢ号戦車、あるいは、その改造型だった。
1945年5月、アメリカ軍の捕虜となったドイツ軍10万人の将兵のうち、40%は何の武器ももっていなかった。
1944年以降、ドイツ軍は指揮官の未熟さによる失敗が目立った。というのもベテランの指揮官たちが倒れ、捕虜になっていくなかで、十分な訓練を受けていない経験不足の士官たちが占めた。
ヒトラーは、ベルリンでは虚勢を張り続けていた。そして、ヒトラーに自分の忠誠と勇猛ぶりを誇示する演技だった。
ドイツの敗戦後、アメリカ軍の捕虜となったドイツ兵たちの会話は、すべて録音されていた・・・。
1944年10月、宣伝大臣ゲッペルスは国民突撃隊創設に関するヒトラーの指令を公表した。このころ、600万人もの国民突撃隊を十分に武装させるのは不可能だった。ドイツ国防軍は既存部隊の維持で精一杯だったので、国民突撃隊は、猟銃やスポーツ用の鋭い旧式の小銃で武装するしかなかった。弾薬も不足していて、1人あたり5~10発の弾丸しか与えられない部隊すらあった。また、軍服も用意できなく、腕章をつけて軍服に代えた。
こうやって戦場に投入された国民突撃隊の末路は悲惨で、17万5000人が行方不明となった。
ドイツでは占領地で、パルチザン活動をすべく「人狼」部隊を創設しようとした。しかし、戦争に疲れ、犠牲につぐ犠牲を強いられたドイツ国民は、フランスやロシアとちがい、「侵略者」に抵抗する気運はなかった。抵抗運動としての「人狼」は、活動の基盤を失い、それを支えるはずだった親衛隊の「人狼」部隊は、消え去った。
現実には、ドイツ軍の大多数は、勝利の見込みなどかけらもないまま、奇跡なき戦場に投入され、非情な戦死のままに消滅していった。
ナチス・ドイツ支配下のドイツ国防軍の実態がよく分かる本です。よく調べてあるのには驚嘆するほかありません。
(2017年4月刊。2800円+税)

「賄賂」のある暮らし

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 岡 奈津子 、 出版  白水社
とても興味深い話のオンパレードです。
カザフスタンは元はソ連でした。国土は乾燥した草原と砂漠、そして山脈からなる。その国土面積は世界第9位で、日本の7倍をこえる。カスピ海に面した西部地域は世界有数の埋蔵量を誇る油田地帯。
宇宙基地として有名なバイコヌルはカザフスタンの南部。
核実験場だったセミパラチンスクは、カザフスタン北東部。
人口1800人のカザフスタンのうち、主要民族は日本人とよく似た風貌の人が多い。しかし、もともと遊牧民のカザフ人の開放的で大らかな民族性は日本人とはかなり異なる。
ソ連時代に比べて、格差が拡大している。
カザフスタンの人々は、カネとコネを駆使し、使い分け、あるいは組み合わせている。
この実態をインタビューなどによって、赤裸々に明らかにしていますので、最後まで興味深く読み通しました。著者のインタビューに応じたカザフスタンの人々の動機は、怒りだけでなく、当然のこと、公然の秘密だということ。自分たちが腐敗の一方的な被害者ではなく、参加者でもあることを自覚している。
今や、カザフスタンではカネを払わなければ人が動かない。
賄賂と贈り物とのあいだの境界線はあいまいで、両者をはっきり区別するのは困難だ。
賄賂で文句なしの第1位は交通警察。税関も警察と並んで悪名高い。司法の公平性の原則が、賄賂や縁故でゆがめられている。教育・保育も似ている。診療所と病院は生命・身体にかかわるので、国民の不満は大きい。
ソ連社会では、100ルーブルより100人の友をもてという金言があった。コネが生きる社会だということ。
賄賂の額を決めるとき、コミュニケーション能力も大きい。
「カザフ人には親戚が多い」
カザフ人は、民族意識とともに、父系出自にもとづく氏族への帰属意識をもっている。強いコネをもっている人ほど、カネを効果的に使うことができる。
カネで問題を解決できるのは、警察も裁判所も同じ。
「全体の9割の裁判官の目的はカネもうけ。ビジネスのように、訴訟でカネを稼ぐ。うまみのない裁判は適当にすませてしまう」
 ソ連時代には例外とされていた収賄が、いまはむしろルール化されている。多くの大学や学校では、成績や試験の点数、学位論文をカネやコネで手に入れる行為が横行している。
 いまの若者は、あらゆるものが売り買いされるのを見ながら育った。賄賂をあたりまえのこととして受け入れ、世の中はカネしだいだと思える。
 国民がもっとも強い怒りを表明したのは医療分野と腐敗だ。
 日本との違いは、カザフスタンでは、しばしば心付けの範囲をこえ、事実上のゆすりが行われている。
賄賂なしには何事も動かない。というのは想像の産物かと思うと、まさしく悲痛の叫びをあげざるをえません。
それにしても病院、そして裁判所までもがそうなっているというのですから、これはとても深刻な話ですよね・・・。よくぞ調べてくれました。感謝します。
(2019年11月刊。2200円+税)

グレタ、たったひとりのストライキ

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 マレーナ&ベアタ・エルンマンほか 、 出版  海と月社
今や全世界から注目されているスウェーデンの高校生、グレタさんの両親がグレタさん本人と妹と一緒に書きあげた本だと紹介されています。とても読みごたえがあります。
それにしても恥ずかしいのは安倍首相です。国連でスピーチを申し入れて、断られたそうです。きれいごとのスピーチではなく、具体的に日本が何をどうするかという話をしないのだったら意味がないという理由で断られたのでした。小泉環境大臣が、同じように国連で、「セクシーだ」とか、訳も分からず意味不明のことを言ってのけたのと同じです。今の安倍政権は言葉の遊びをするのは長(た)けています。中身はまったくないのですが・・・。
グレタさんの母親はプロのオペラ歌手で、父親は演劇役者。グレタさんがアスペルガー症候群だと分かってから、仕事を辞めたそうです。なにしろグレタさんは、朝食のバナナ3分の1を食べるのに1時間近くもかかるのです。親は辛抱強く見守るしかありません。
グレタさんは聡明で、映像記憶ができます。世界中の首都の名前をスラスラ言えます。スリランカの首都の名前を言い、そのつづりを逆さに読むこともできます。頭の中で、単語の終わりから読めるのです。いやはや、とても信じられません・・・。
妹のベアタさんも、ADHD女児です。姉妹は、二人とも思春期の始まりにあたる10歳から11歳にかけて、爆弾のスイッチが入って点で共通している。
グレタさんは主張します。危機の原因をつくったのは全員の人々ではなく、ごく一部の人たち。だから、地球を救うためには、彼らの会社、彼らのお金を相手にたたかって、責任をとらせなくてはいけない。私も、まったく同感です。みんなが悪いというと、本質的に問題をつくり出している人の責任を軽減し、見えにくくします。その結果、問題解決が先送りされてしまうのです。グレタさんは、それがガマンできません。
飛行機に乗るという行為は、個人が環境に支える影響のなかでも最悪中の最悪の出来事だ。なので、グレタさんはアメリカへ行くときも帰りも船に乗っていたのでした。私は、申し訳ありませんが、月に1回は飛行機に乗っています。
世界でもっとも裕福な10%の人が全温室効果ガスの半分を排出している。
グレタさんは、2018年8月20日(月)にたったひとりでストライキを始めた。翌日は、グレタさんは一人ではなく、1人ふえ、2人ふえ、さらに大学生まで加わった。そして、テレビのニュースになり、ネット社会で学校ストライキの様子が拡散していった。
グレタさんのインスタグラムのフォロワーは一気に1万人になった。
グレタさんは訴えます。
気候危機は世界中の問題。パリ協定の目標を達成できる可能性は5%だと言われている。地球温暖化を2度未満におさえなければ、私たちは悪夢のシナリオに直面してしまう。
いま私たちは、毎日、1億バレルの石油をつかっている。今のルールに従っていると、世界を救えないことになる。私たちは、今6度目の大量絶滅の真っただ中にいて、通常の1万倍もの速さで、日々、200もの種が絶滅している。私たちの家は焼け落ちつつある。
私は、基本的に自分が必要だと思うときにしか話をしない。今が、その必要なときだ。
私のような自閉症スペクトラムに属する者にとって、ほとんどすべてのことは白か黒かだ。ウソをつくのが上手ではないし、みんなが大好きなソーシャルゲームに参加することもあまり興味がない。多くの点で、自閉症児のほうがノーマルで、その他の人たちのほうがかなり変だと思っている。
グレタさんの言うとおりですね。危機が目前に迫っているのに、そこから目をそらして安免にふけった生活することは許されないのです。ユーチューブで彼女のスピーチを字幕つきで見ました。素晴らしい。堂々として落ち着いた話しぶりで、深い感銘を受けました。
(2019年12月刊。1600円+税)

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