法律相談センター検索 弁護士検索
カテゴリー: アラブ

人は愛するに足り、真心は信ずるに足る

カテゴリー:アラブ

著者 中村 哲・澤地 久枝、 出版 岩波書店
 実にタイムリーな、いい本です。たくさんの日本人に読まれることを私からも望みます。私からも、と書いたのは、この本の聞き手である澤地久枝さんが、はじめにのところで、アフガニスタンで一人がんばっている中村哲医師のために何か役に立ちたいと考えて、中村哲医師の本をつくり、その本がよく売れるようにつとめ、その印税によって若干なりとも助けたいと思ったからだと書いていることによります。
 そう言えば、私は最近とんとペシャワール会へのカンパをしていないなと反省させられたことでした。
 この本を読んで、初めて知ったことが3つありました。
 その一は、中村医師は最近、流れ弾に当たって負傷したということです。幸い足のけがですんだそうです。しかも、自分で足のケガを2針縫ったというのです。アメリカ軍の「誤爆」という危険もありますよね。中村医師の無事を改めて祈りたいと思います。
 その二は、有名な作家である火野葦平との関係です。中村医師は火野葦平の甥にあたるのでした。中村医師の母は、火野葦平の妹なのです。
 中村医師の父親は戦前の社会主義者で、刑務所にも入れられたことのある人です。そのことは、前に、この欄で紹介したことがあります。
 火野葦平も一時期はマルクス主義に傾倒していたようです。その後、「転向」して戦記作家として有名になりましたが、戦後、そのことを気に病んで、53歳のとき自決したようです。
 その三は、中村医師のプライバシーにかかわることなので伏せておきます。別に変なことではありません。私生活を世間にさらしたくないというご本人の意向を私も尊重したいと思います。
 日本人は、自分の身は針で刺されても飛び上がるけれど、相手の身体は槍で突いても平気だと言う感覚をしている。これをなくさないとだめだ。
 マドラッサというのは、地域の共同体のカナメである、マドラッサで学ぶ子どものタリバンと政治勢力としてのタイバンは違う。国連も、欧米そして日本も、マドラッサつまりモスクを中心にして行われている学校教育は危険思想の中心だと考えている。しかし、地域のアイデンティティのもとなのである。
 マドラッサがないことには、アフガニスタンの地域共同社会というのは成り立たない。いま、ペシャワール会はマドラッサを建てている。そこで、ペシャワール会はタリバンのシンパじゃないかと偏見を持つ人がいる。しかし、イスラムの過激論者は、農村部には発生する土壌がない。ほとんど都市部である。自分の生きる根拠を失った人々が極端な行動に走りやすい。
 ペシャワール会の職員で、日本人の伊藤さんのほかに5人が亡くなった。弾にあたって死んだ人のほかは、事故死。
 ペシャワール会のかんがい事業は、150人の従業員と数十万人の命を預かっている。
 62歳になって、体力の限界を迎えているが、「身から出たサビ」と考えて、一人、アフガニスタンに止まっている。代役は、そう簡単に見つからないと思う。
 アメリカ軍は、アフガニスタンに十万人派兵すると言う。しかし、襲撃されるから地上移動を極度に制限している。そこで、アフガニスタン国軍を育てようとしている。
 ところが、アフガニスタンという国は、イラクより二枚も三枚も上手である。遠からず、自分が育てたアフガン国軍兵士がアメリカ軍と対決する構図になることが大いにありうる。
 中村さん、ぜひ、安全と健康に気をつけて、今後とも大いに頑張ってください。心より応援しています。
 ぜひ、あなたも、この本を買って読んでください。それが、ペシャワール会を助けるのですから……。
 
(2010年3月刊。1900円+税)

知ってほしいアフガニスタン

カテゴリー:アラブ

著者 レシャード・カレッド、 出版 高文研
 著者はアフガニスタン出身のお医者さんです。今は日本に帰化して、静岡県の島田市で医師会長をしておられます。たいしたものですね。
 NGO「カレーズの会」の理事長として、アフガニスタンに診療所を開いて治療にあたっているといいます。ペシャワール会の中村哲医師といい、このレシャード・カレッドさんといい、その並々ならぬご努力に対して心より敬意を表します。
 先日、「ペシャワール会」の伊藤さんがアフガニスタンで不幸にも殺害されてしまいましたが、この伊藤さんも初めは「カレーズの会」の所属でした。農業の分野で貢献したいという本人の希望により、「ペシャワール会」への移籍をすすめたということです。善意が時として戦争の中で通じなくなるという不幸なことが起きてしまって残念です。
レシャード・カレットさんは生粋のアフガニスタン人ですが、日本に関心を持って大学生の時に日本に渡ってきて、千葉大学そして京都大学で医学を学んで、医師になったのでした。なれない日本語を身につけ、たくさんのアルバイトをして苦学していたことが書かれていますが、本当に大変だったと思います。
 そして、アフガニスタンを見捨てることなく、現地でも診療活動を続け、ついに診療所まで建てたのです。大変治安の悪くなっているアフガニスタンでも、この「カレーズの会」の診療所にはアフガニスタン人の患者が殺到していると言います。地元の人々の絶大なる信頼を得ているわけです。
 日本政府は、自衛隊なんかアフガニスタンへ送るのではなく、このような「カレーズの会」や「ペシャワール会」への援助を大々的にしたら、どれだけ現地の人々に喜ばれることでしょうか。
 アメリカでオバマ政権が誕生しても、日本で民主党政権が生まれても、チェンジ(変化)が起きず、相変わらず軍事制圧しか考えないと言うのは悲しすぎます。
 お前は甘っちょろいという人がいるかもしれません。でも、戦火をくぐってボランティアで献身しているレシャード・カレッド医師は何と言っているでしょうか……。
 どんなに困難であっても、アフガニスタンは復興を目指して歩んでいかねばならない。当然、多くの国々から支援を続けていただかなくてはならないが、その支援はあくまでも武力を使っての援助ではなく、非軍事的な手段で平和構築に貢献してもらうことである。
 今のところ日本は、アフガニスタンでもっとも信頼が厚く、信用のある国です。その日本の役割は、カンボジアや東ティモールで実績をあげた『対話路線』を推進することであると確信している。すなわち、日本がカンボジアでの道路整備をPKOで行ったように、農業や飲料水の確保、ダム等の建設、空港や鉄道などのインフラ整備を、軍事的な手段を使うことなく進めていったら、それはアフガニスタン国民に対する友情の賜物として深く感謝され、かつ賞賛されることだろう。
 まさに、この通りではないでしょうか。アメリカ軍の後ろに自衛隊がのこのこと尾いていくというのこそ、最悪の事態です。そして、それは日本の治安悪化までもたらしかねません。多くの人に、ご一読をおすすめします。
(2009年2月刊。1600円+税)
 チューリップがいよいよ咲き始めました。先発隊ですね。今5本がピンクの花弁を閉じています。庭の数区画に球根500個をまとめて植えています。今月末から4月上旬にかけて我が家はミニミニハウステンボスとなります。
 青紫色のヒヤシンス、朱色のクリスマスローズ、白とピンクのクロッカス、紫色のツルニチニチソウそして可憐な黄水仙が庭のあちこちで咲いています。
 そして春にはウグイスです。ずいぶん上手くなりました。ホーホケキョと住んだ泣き声を聞きながら花々を見ると春到来を実感します。

イスラエル

カテゴリー:アラブ

著者 臼杵 陽、 出版 岩波新書
 ユダヤ人といっても東欧、ロシア出身の「白人」からエチオピア系の「黒人」まで様々である。アシュケナジームは、ドイツ系ユダヤ人。スファラディームはスペイン系ユダヤ人。エチオピア系ユダヤ人は10万人。貧困層が多く黒い肌の色のために差別されている。そしてイスラエル人口の2割が超正統派ユダヤ教徒である。
 イスラエルには建国前からこの他に住んでいるアラブ人が人口の2割近くもいる。イスラエルの人口は737万人。そのうちアラブ人が148万人いる。740万人に対して150万人だから、アラブ人の占める比率は決して小さいとは言えない。イスラエルに居住するアラブ人はイスラエル国家と文化に決して同化しようとはしない。
 世界で最大のユダヤ人口を擁する国家はアメリカである。アメリカには650万人のユダヤ人がいる。
 イスラエルには憲法がない。憲法に変わる基本法はある。ユダヤ国家においてユダヤ教をどのように位置づけるかを巡ってユダヤ教宗教勢力と世俗勢力が激しく対立し妥協を見出せなかった。そのために憲法を制定することができなかった。
イスラエルの独立宣言はユダヤ国家であると同時に民主国家であると規定している。イスラエル大統領は国事行事を行う国家元首であるが、実権を持たない名誉職である。
 イスラエル建国後の大規模なユダヤ人新移民のほとんどではシオニズムという政治イデオロギーとは無縁の人々だった。そのため、建国前のシオニズムの考え方に共鳴してやって来たユダヤ人移民の性格を根底から変えた。
 1950年代に入ってモロッコ系ユダヤ人(ミズラヒム)が大量に移民してきた。ホロコーストの悲劇を経験しておらず、シオニズムのイデオロギーも信奉せず、モロッコ社会で培われた独自のユダヤ教信仰を持っており、イスラエル社会では異質の人々であった。このようなホロコーストを体験していない人々をイスラエル人として国民統合すべく政治的に利用されたのがホロコーストの神話であり、アイヒマン裁判であった。
 1960年代を通じてホロコーストは、イスラエルの国民統合にとって不可欠なシンボルへ昇格した。というのも、シオニズムがイスラエル国民を統合するためのシンボルとはなりえなったからである。
 1995年11月オスロ合意に調印したラビン首相は和平に反対する熱狂的なユダヤ人青年によって暗殺された。
 私は、このとき、ちょうどデンマークかどこか、ヨーロッパの都市にいました。また戦争が始まる。そんな不安へかき立てられたことをよく覚えています。
 2005年11月、労働党の党首にモロッコ出身のペレツが選出された。
 それまで労働党の支持者はキブツ居住者と都市中間層を中心にする高学歴の欧米系ユダヤ人だった。他方、リクード党は地方都市在住で、中東イスラーム世界出身の貧困層だという大まかな図式があった。それも壊れつつある。
 大きな内部矛盾を抱えるイスラエルという国を垣間見ることができました。
(2009年4月刊。780円+税)

空爆と「復興」

カテゴリー:アラブ

著者:中村 哲、 発行:石国社
 9.11あとのアフガニスタンにおける、著者を現地代表とするペシャワール会の困難な活動が紹介されています。伊藤さんが殺害される前の活動状況ですが、今でもその意義は高く評価できるものです。同じ福岡県人として中村医師の活動に心より敬意を表したいと思いますし、わが郷土の誇りです。
 2001年1月、大干魃によって死に瀕しているアフガニスタンを国際社会は見捨て、援助どころか国連制裁を実行した。
 アフガニスタンの権力の基盤は、各地域のジルガ(長老会=伝統的自治組織)にある。階層的に、より大きなジルガがつくられ、大事な決定はそこで行われる。タリバン政権といっても、日本で言われているような「ひと握りの圧制者」対「民衆」という図式は成り立たない。タリバンを受け入れるかどうかも、ジルガが決めたものであり、人々の平和を求める声が政権を支えていた。暴力に対して暴力で報復するのではなく、少なくとも人が餓死するような状態を解消しなければ、テロは根絶できない。
 タリバン政権は、いってみれば非常に古風な農村社会を代表する「田舎政権」そのものなのである。アフガン社会を律するのは、地縁と血縁である。そして、強固な伝統社会を底辺から支えている、もっとも強力なパワーは女性である。ともすれば妥協しがちなアフガン男性の尻を、「あんた、それでも男か」と叩いているのが、アフガンの女性なのだ。これが、どこの村でも見られる光景である。抑圧されているようで、実はアフガン社会をコントロールしているのは女性なのである。
アフガニスタンにおける対日感情、日本に対する信頼というのは、絶大なものがあった。それが、日本の自衛隊が軍事行為、報復に参加することによって損なわれる可能性がある。自衛隊派遣は有害無益である。著者たちが十数年かけて営々と築いてきた日本に対する信頼感が現実をふまえないディスカッションによって、軍事的プレゼンスによって一挙に崩れ去る危険が現実のものになろうとしている。
日本の国際貢献は、軍事力によらず、アフガン社会の再建に平和的に寄与することにあるべきです。
 ペシャワール会の目標は、平和な自給自足の農村を回復すること、それだけである。教育の破綻しかけた(日本のことでしょう)が外国に教育支援するなど冗談にもほどがある。現地のことわざに「アフガニスタンでは、カネがなくても食っていける」といい、「アフガン人に半人前はいない」という。精神はカネでは買えない。独立不羈の気風がアフガニスタンの屋台骨だ。
 目先の利にさとく、強いものには媚び、衆をたのんで弱い者には居丈高になるのは見苦しいこと。自分の身は針でつつかれても飛びあがるが、他人の身は槍で突き刺しても平気。かつての日本でも、こういう人間は嫌われた。
 あるアメリカ士官が、「タリバン兵は、昼はフツーの農民の顔をしており、夜になると凶暴な攻撃者に変わる」と言ったが、そのとおりである。
 アメリカ軍がいる限り、カルザイ政権は国家統一ができない。しかし、アメリカ軍が去ったら、即座に国家は崩壊する。そんな矛盾の中でカルザイ政権は延命している。
 ペシャワール会のような地道な活動こそ日本政府は支えるべきであって、自衛隊を派遣するなんて愚の骨頂だとつくづく思います。中村医師の安全を心より願っています。
(2004年7月刊。1800円+税)

拡大するイスラーム金融

カテゴリー:アラブ

著者:糠谷英輝、出版社:蒼天社出版
 最近、ときどき話題になるイスラーム金融について知りたいと思って読みました。
 世界におけるイスラーム教徒(ムスリム)は15億人。これはキリスト教に次いで第2位で、シェアは20%。しかし、ムスリムは人口増加率が高く、2030年代には世界人口の3分の1となり、キリスト教を抜いて、世界最大の宗教となる。地域別でみると、最大のムスリム人口をかかえるのはアジアである。ヨーロッパでは、フランスに6000万人、ドイツに300万人いる。中国にも3900万人、ロシアに2700万人いる。日本には18万人と言われているが、実数は1万人以下とみられている。
 イギリスに居住するムスリム人口は180万人で、総人口の3%。ただ、そのうちの6割が中流以上であって、富裕層が多い。イギリスのムスリムは、6割がパキスタンとバングラデシュ系であって、ムスリム人口の3分の1がロンドンに集中している。
 アメリカには600〜800万人のムスリムが居住しているが、イスラム金融の拡大はすすんでいない。アメリカでは、ムスリムは地域的に分散していて、ムスリム地域社会を形成していない。むしろ、アメリカの地域社会に溶けこもうとしている。
 2007年3月に、サウジアラビアの石油化学プラント建設事業に向けて三井住友銀行が58億ドル(7000億円)の融資をしたとき、うち6億ドル(720億円)はイスラーム金融で調達された。
 イスラーム金融とは、イスラム教の規範にしたがった金融のこと。具体的には、シャリーアと呼ばれるイスラム法に適合した金融のこと。シャリーアは次の4つを禁止している。第1に、利子の禁止。利子の受払いはコーランによって明示的かつ絶対的に禁止されている。イスラム教の原理の一つとして、資金は退蔵せず、生産・役務の提供に向けるべきとされている。金銭は商品ではなく、価値保存の手段であり、商業活動等に利用されて利益配分を受けられる。
 第2に、不確実性の禁止。不確実性のある取引は、投機的な要素を有するものとして禁止されている。第3に、賭博・投機の禁止。第4に、アルコール・タバコや豚肉、武器、ポルノなどの禁忌とされる物品やサービスに関する取引の禁止。
 シャリーアに適合する形式で発行されるイスラム債券はスクークと呼ばれる。はじめて価値を生み出すもの。単に時間の経過を待つだけで金銭が増加するのは不当利得である。
 イスラム金融では、利子のかわりに利益配分という概念がつかわれる。物的財産はすべて神に属するものであり、人はそれを信託されているに過ぎない。信託された財産を有効活用した結果として、人はこのスクークが増加したことでイスラム金融が世界的に拡大した。イスラム金融は、ここ数年、年平均で15%を上回る拡大を示している。イスラム金融資産は総額で1兆ドル(120兆円)をこえる。それでも、世界全体の金融資産に占める割合は1%にすぎない。
 イスラム金融は、ムスリム社会においても10%のシェアでしかなく、ムスリムも一般金融を利用している。イスラム金融はムスリムのみが利用するものではなく、非ムスリムが利用することも可能である。マレーシアでは、非ムスリムの利用が7割を占める。
 イスラム銀行の特徴は、一般に銀行の規模が小さいこと。
 イスラム金融という言葉を最近よく聞きますので、読んでみました。少しだけ分かりました。
 チューリップは最後の一群がまだ咲いてくれています。黄色い花と赤い花の固まりです。アイリスも咲き続けています。そのそばにボタンの濃い赤紫色の花が咲いているのを見つけました。2、3日前までは固いツボミだったのですが、開いてくれました。深い赤紫色の花ビラが八重に重なっているさまは重厚さと気高さを感じさせます。島根の妻波弁護士より5、6年も前にいただいたものですが、肥料もやらず、何の世話もしていないのに、毎年ちゃんと咲いてくれます。去年いただいたボタンはお休みのようで、ツボミもつけていません。
 スモークツリーの若葉が赤味がかった茶色で光りかがやいています。若葉が緑とは限らないのですね。ちょっと見ると紅葉しているようですが、少し違います。みんな違って、みんないい。金子みすずの詩を思い出します。
(2007年9月刊。2800円+税)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.