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カテゴリー: アラブ

イランの野望

カテゴリー:アラブ

(霧山昴)
著者 鵜塚 健 、 出版  集英社新書
浮上する「シーア派大国」というサブタイトルのついた新書です。イラン・イラク戦争とかシーア派とスンニー派の争いといっても、日本人の私には、なかなかピンと来ない話です。
安易な選択肢の一つは、考えないこと、関心をもたないこと。二つ目は、諸悪の根源をはっきりさせ、徹底的に根絶すること。いずれも、これで問題がうまく解決した例はない。
そうなんです。そうすると、私たちは知るしかありません。そして、単純な「善悪二元論」ではなく、複眼的な見方が求められます。
イランは、今や、中東では希少な、安定した大国である。
ISは、2015年12月の時点で、月8000万ドル(96億円)の収入を得ている。その50%は支配地域での税金徴収や財産没収による。残る43%は石油の密売による収入。豊かな財源と領土を確保している。
イランはイスラム教のなかの少数派のシーア派に属している。かつてイラン王朝が栄えた国だ。
イランは、1979年のイスラム革命のあと、反米路線をかたくなに貫き、アメリカはイラン「封じ込め」に力を注いできた。皮肉にもアメリカの政策は、その意図に反し、結果的にイランに有利な状況をもたらした。
16億人いる世界のイスラム教徒の9割はスンニー派で、残り1割がシーア派だ。
イランは国内人口の9割以上をシーア派が占めている。
イラン・イラク戦争のとき、アメリカはイラクを支援したため、「殉教者」の家族はイラクだけでなくアメリカに対して怨念のような感情を抱く。そして近年の核開発でイランを抑え込もうとするアメリカへの反発心が、共鳴し、増幅している。
イランは産油国であるだけでなく、7900万人の人口をかかえる中東の大国だ。一定の富裕層に加え、購買力のある中間層は分厚く、トルコと並んで魅力的な市場になっている。
最近、中国がイランで存在感を高めている。中国は、イランにとって、最大の貿易相手国となった。イランの原油輸出先の第1位は中国である。
イランは、近い将来、国内に20基の原発を設置する計画で、その中核を担うのがロシアと中国だ。ロシアはイランにおける原発利権で突出している。
イランの実情の一端を知った思いがしました。
(2016年5月刊。720円+税)

中東と日本の針路

カテゴリー:アラブ

(霧山昴)
著者  長沢 栄治、栗田 禎子 、 出版  大月書店
 安保法制はアベ首相のいうように日本に平和をもたらすどころか、世界の戦争に日本を巻き込ませようとするものです。百害あって一利なしとしか言いようがありません。そのことを中東を長く研究している学者が語り明かしている本です。
 中東が戦争の標的とされてきた主たる要因は二つ。一つは石油。二つは、この地域の戦略的・地政学的な重要性。
 安保法制は、自衛隊がこれから中東やアフリカを標的として起きるであろう、ほとんどすべての戦争・軍事行動に協力・参加する道を開くものである。
 安保法制は、中東と日本、ひいては世界全体を出口のない戦争と混乱の時代へと導いていく扉となるだろう。
 ネット時代において、情報・カネ・モノが瞬時に国境を超えてしまうグローバル金融資本のもとにあって、逆にナショナリズム的な情動が人々の行動を規定することになってしまうという皮肉がある。
アメリカ社会で生活に行き詰まった「負け組」の若者たちが、州兵として民間軍事会社に動員され、イラクで殺されていった。
中東におけるアメリカの同盟国であるイスラエルは、グローバル・システムのなかの「勝ち組」と化し、安倍政権は中東において一人勝ちのイスラエルと手を組んで、世界大に広がるネオリベラリズム的潮流の「優等生」として国際社会を生きのびようとしている。
安全保障という名のもとで軍事産業の成長が日本経済の成長を約束するかのような議論がまかり通っている。
いま、日本はアメリカという泥船と運命をともにし、沈没しつつあるのではないか・・・。
アメリカとの結びつきを日本が強めるのは、かえって中東における日本の立場を悪くし、アメリカの介入策に下手につきあうのは、利よりも害が大きい(と案じられる)。
イラクを全面的に支配したはずのアメリカ軍は、治安の悪化に歯止めをかけることができず、内戦に対応できなくなった。
シリアの内戦は、逆説と矛盾にみちた複雑な連立方程式である。しかも、変数は増えていく。
アメリカは、アフガニスタン・イラクと続けてきた失敗を、結局のところシリアでも繰り返している。
アメリカは、イラク戦争そのものに2兆という巨費をつぎこんだ。イラク軍の訓練に250億ドルの予算を使い、600億ドルを復興にかけた。ところが、イラクに安定した親アメリカ国家をつくるという目論見は成功しなかった。
 イランについては、穏健なロウハニ政権の後押しとなるような経済交流を日本はすすめ、周辺諸国との「アツレキ」を抑制することに貢献すべきだ。
250頁ほどの本ですが、日本と中東の関係において、安保法制はきわめて危険かつ有害であることが際だって明らかなものであることを強調している本として、ご一読をおすすめします。
(2016年5月刊。1800円+税)

移ろう中東、変わる日本

カテゴリー:アラブ

(霧山昴)
著者  酒井 啓子 、 出版  みすず書房
2011年に「アラブの春」と呼ばれる大規模な民衆デモが起き、アラブ世界に広がった。ところが、今またアラブ社会そして中東地域を暴力と抑圧が覆っている。
本当に残念な事態です。そこに例のISIS(イスラム国)が進出し、さらに野蛮にかつ強権的に支配しているようです。日本人も何人も殺されてしまいました。一刻も早く、暴力の連鎖を止めてほしいと願うばかりです。
ISISは、今やイギリスと同じほどの領土を支配し、その残虐性、偏狭性、奇抜性に世界は震撼する。理念のない空爆、共通利害のない介入は、ますますISISというモンスターを強大にしている。モンスターの方に理念が、義が、夢があると考える人々が、世界中からISISに集まり、モンスターを支えている。ISIS(イスラム国)が代表する世界は、混沌である。
本来、戦争とは、外交手段が尽くされたときに、最終手段としてやむをえず取られる手段のはず。ところが、中東諸国の国民は、自分たちの指導者がそういう合理的判断ができるかどうか、怪しいと思っている。
いま中東で起きている戦争が厄介なのは、軍特有のルールが通用しない世界が生まれていることにある。そこでは、人ではなく、機械が戦う世界がある。無人偵察機や爆弾処理ロボットが戦力の主軸になっている。
シリアでは、軍は国や国民を守るための暴力装置ではなく、党や政権を守るための組織になってしまっている。
アメリカ国民も、駐留が長引くなかで、帰還兵士から戦場の様子を聞いたりして、戦場の危険とあわせて、現地住民や中東全体で、アメリカ兵への憎しみが募っていることを感じないわけにはいかない。
イラクのサマワに日本の自衛隊が進出したとき、それは民間企業が進出するまでの「つなぎ役」という役割を日本の財界は期待した。しかし、その期待は見事に裏切られた。
イラクへの自衛隊派遣は、対米協力を謳うとともに、イラクで経済利権の獲得につながればと、二兎を追ったものだった。しかし、経済利権については、日本は目的を達成することができなかった。
 日本政府は自衛隊をイラクに派遣するとき、「日本とイラクのため」としたが、本当の目的は対米貢献であり、中東における日本人とイラクの安全に貢献したのではない。
イラン・イラク戦争が長引くなかで、イラクのフセイン政権は、従軍兵士の士気高揚のために、トヨタのスーパーサルーンを贈った。トヨタは、イラク人にとって、長いあいだ富と繁栄の象徴だった。
 コカ・コーラは、エジプトでは1967年から12年間、販売が禁止されていた。アラブ連盟は、1991年までコカ・コーラをボイコットしていた。アラブ世界で長く飲まれてきたのはコカ・コーラではなく、ペプシ・コーラだった。コカ・コーラがアラブ世界でボイコットされたのは、そのイスラエルとの親密な関係からだ。
 中東という複雑な社会をイスラム研究センターで長らく働いてきた学者が分かりやすく解説しています。目が開かされる思いがしました。
(2016年1月刊。3400円+税)

イスラム国の野望

カテゴリー:アラブ

                             (霧山昴)
著者  高橋 和夫 、 出版  幻冬舎新書
 イスラム教全体の中ではスンニー派が9割を占め、シーア派は1割でしかない。ところが、イラクではスンニー派は2割だけ、残りの6割はシーア派と2割のクルド人。
2005年の選挙で初めてイラクでシーア派が権力をにぎった。
イスラム国で名前をきいて、アブー、バクル、ウマル、ウスマーンという名前はスンニー派。シーア派は絶対にこの名前を使わない。
シーア派がもっとも多いのはイラン。国民の9割がシーア派で、スンニー派は1割のみ。
イラクの治安悪化の元凶はアメリカの脱バアス政策による。イラクでは、何らかの専門機能を持った人の大半はバアス党関係者だった。この人たちをすべて排除すれば、当然に社会機能は麻痺する。
アメリカ中央軍の司令官となったペトレイアス将軍は、ゲリラ戦や、ゲリラになりそうな現地人への対応を重視した。その基本は敵を殺さないこと。殺さずに心をつかめとマニュアルは教える。また、あまり銃弾を撃たない。その代わりに金をばらまき、買収できる人間は、みな買収する。
現地人とは、きちんと目を見て話す。通訳は、中間ではなく自分の側に立たせる。
民衆の心をつかむのが大切だとペトレイアス司令官は言った。そして、ペトレイアスは、アメリカ軍の基地を大きなものから、小さなものに転換した。すると、はじめのうちは犠牲者が増えた。月80人が120人以上に増えた。しかし、翌年には月20人にまで減った。イラク人の死者も劇的に減った。さらに、インフラ整備を進め、店舗再開のための資金提供などで、民衆の心をつかんでいった。
ペトレイアス司令官は、スンニー派を買収していった。こうして、ペトレイアスは、2010年までイラクを安定に導いた。ところが、ペトレイアスは女性との不倫によってCIA長官を辞任してしまった。
シリアでは7割がスンニー派だが、国を支配しているのは人口の1割でしかないアラウィー派。残り2割の少数派であるシーア派やキリスト教徒は、アサド政権に寄り添っている。
1割が7割をおさえつけるというので、相当むごいことをしてきた。だから、権力を手放したら、すぐに仕返しされてしまう。
シリア内戦の核心は、アラウィー派街抱いている恐怖心だ。反アサド勢力のなかには、アラウィー派の有力者はいない。
アラウィー派の信仰は秘密主義であり、イスラム世界の大半の人からは異端と思われている。シリアの中でアラウィー派を要職にとりたてたのはフランス。1920年代の委任統治時代のこと。アサド大統領は、イスラム国とは真面目に戦ってこなかった。
イスラム世界では、カリフが国を統治する「カリフ制」が長く存続してきた。しかし、1924年にカリフ制は廃止された。
カリフに必要なのは、正統性。正統性がなく、実力で権力を握った人は「スルタン」と呼ぶ。黒いターバンを着用するのは、ムハンマドとの血のつながりを主張する意味をもつ。黒は、イスラム世界では預言者ムハンマドとのつながりを示すシンボルカラー。
イラン・イスラム国を樹立したホメイニも、現在のハメネイも黒いターバンを巻いている。
処刑される外国人が着せられている服はオレンジ。キューバのグアンタナモ基地にアルカイダ系の人間が収容されたときに着せられていた服がオレンジだったから。その仕返しだ。
クウェートでは、ゴミ箱の色はオレンジ色で、ゴミ収集人の服もオレンジ。イスラム世界ではオレンジ色は軽蔑のニュアンスがある。
イスラム過激派が過去5年間に人質とした欧米人は105人。その解放のために125億円が支払われ、それが過激派の重要な資金源となっている。ドイツ人やフランス人が標的になっている。アメリカ人やイギリス人は交渉に応じず、身代金を支払えないから。
自爆テロとは、きわめて現代的な現象である。自分たちもF15戦闘機があれば、それで突撃をする。ないから最後の手段に訴えている。これが自爆する側の理屈。
「自爆しても天国に入れる」から、「自爆したからこそ天国に入れる」というように変わり、英雄視されるようになった。殉教者として高い評価を得てしまうと、実行する者が跡を絶たない。殉教者は神の友という発想だ。
過激派を支援する富裕層がいる。これは、アメリカに対する反発から。日本人の想像する以上に、世界ではアメリカに反発する感情は根強い。
「イスラーム国」の根深さをしっかり解説している本です。とても勉強になりました。
(2015年2月刊。780円+税)

イスラーム国の衝撃

カテゴリー:アラブ

                                (霧山昴)
著者  池内 恵 、 出版  文春新書
 イスラーム法では、カリフの存在の必要性は明確に規定されている。『コーラン』とハディース(預言者の言行録)に依拠して、歴代の法学者が議論で合意に達した見解を疑うことは宗教上許されない。イスラーム世界が統一されてカリフが統治するという理念に異論を挟むことは、イスラーム教徒のあいだでは困難である。
かといって、全世界のイスラーム教徒や政府が「イスラーム国」のバグダーディーにしたがって、「イスラーム国」への加入を求めるという事態は起こりようもない。
 バグダーディーは、預言者の血統を象徴する黒いターバンなど、「衣装」にも入念に気を配っている。
 欧米人人質の処刑については、処刑の対象者も、処刑の実行者も入念に人選し、時期を選んでいる。欧米人一般ではなく、まずはアメリカ人を、続いてイギリス人を選び、それらの国によるイラクあるいはシリアへの軍事介入を止めるよう要求する映像を流して、一定期間をおいたうえで、処刑して公開していった。それによって、少なくとも集団の側の論理では、これらの殺人に正当性があるという主張の根拠を示す形で情報発信を試みた。
 人質にオレンジ色の囚人服を着せることで、グアンタナモ(キューバ)やアブー・グレイブ(イラク)でのイスラーム教徒への不当な扱いに憤る者たちの目には、斬首や映像公開といった行為も、「正当」に見えるという効果を狙っているのだろう。
 アメリカによる「対テロ戦争の」圧力を受けたアル・カーイダが復活した最大の要因は、2003年のイラク戦争だった。
 2014年に「イスラーム国」を名乗るまで、この組織は少なくとも5つの別の名前を名乗っていた。2003年のサダム・フセイン政権崩壊のあと、反米武装勢力の中心組織として、「タウヒードとジハード国」が台頭した。
 欧米側は、「イスラーム国」と呼ばず、ISISとかISILと呼び続けている。「イスラーム国」がイスラームを代表せず、「国家」でもなく、その勢力範囲は、イラクとシリアに限定されているという認識を確認するためである。
 オバマ政権が、アメリカ軍の完全撤退を2011年来に完了すると、「イスラーム国」はまたもや息を吹き返した。「イスラーム国」は、旧フセイン政権の軍・諜報機関の関係者を指導部に多く含んでいる。土着化をすすめる「イスラーム国」は、旧フセイン政権幹部の秘密組織とのつながりを深めた。
 仮に「イスラーム国」の半数ほどが外国人であるとしても、その主たるメンバーはイラク、である。2013年以降は、シリア人も増えた。
 「イスラーム国」が自らの存在を宣伝するには、無関係な第三者によって興味本位で転送されて広まるのが、一番効果的である。そのためには、話題にあがるほど衝撃的な映像でなければならない。しかし、同時に、残虐すぎてはならず、視聴に耐える範囲の残虐さでなければならない。見た目の残虐さを緩和するのが、処刑人の演劇的なしぐさである。
 これによって、人々は映画やドラマを見ているかのように錯覚して映像を見てしまい、転送しているうちに、映像はホンモノだと思われてしまう。
 なかなか宣伝に長けた集団のようです。いずれにしても、安倍首相の言うようなアメリカ尻馬に乗って日本の自衛隊が戦闘行為をするようになったら、日本自体がテロ攻撃の対象になる危険があります。絶対そんなことにならないように安倍内閣の戦争推進法案に反対しましょう。
(2015年1月刊。780円+税)

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