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カテゴリー: アメリカ

戦場の哲学者

カテゴリー:アメリカ

著者 J・グレン・グレイ、 出版 PHP研究所
 第二次大戦にアメリカ軍の少尉として従軍した著者が、戦場体験をふまえて、戦争で人がなぜ平気で人を殺せるのかを考察した本です。
 無数の兵士たちが程度の差はあれ進んで命を投げ出してきたのは、国、名誉、信仰、あるいはそのほかの抽象的な善のためではなく、持ち場を捨てて己が助かろうとすれば、仲間をより大きな危険にさらすはめになるのをよくよく心得ていたからである。
 まとまりのない大集団内にいる者は、小規模ながらも組織化された集団に対しては自分たちの分が非常に悪いことに、常々気づいているものである。捕虜からなる巨大な群集がいくつも、ライフルを背中に下げた数名の監視員によって捕虜収容所へと移動させられている光景は、哀感に満ちている。これらの捕虜たちが監視員を前にして無力なのは、武器を携帯していないせいではない。共有の意思が欠如しているため、すなわち、ほかの者も自分と協同して征服者に対するはずだとの確信を持てないためである。
 戦闘中にともに奮闘する経験は、条件の変化した近代戦においてさえ、兵士たちの生涯で最高のときである。恐怖や疲労、汚れ、憎悪などがあるにもかかわらず、ほかの者とともに戦闘の危険に加わることには忘れがたいものがあり、その機会を逃したことはなかったはずである。
 自由をわくわくするような現実、つまり真剣だが喜びに満ちたものとして経験できるのは何か具体的な目標に向かって他者と一致して行動しており、しかも、その目標は絶対的な犠牲を払わねば達成できないような場合に限られる。男たちが真の仲間となるのは、互いが相手のために熟考することも個人的な損失を考えることもなく、自らの命を投げ出す覚悟がある場合のみである。自分の命を仲間と共有している者にとって、死はいくぶん非現実的で信じがたいものとなる。
 破壊の喜びには、ほかの二つと同様に人を有頂天にさせる性質がある。人間は破壊行為に圧倒され、外部から羽交い絞めにされ、これを変えたり支配することなどとてもできないと感じる。これは一体化なしの忘我状態なのである。
 これが軍隊仲間の戦友会(同窓会)の盛んな理由なのですね。初めて分かりました。
 戦時下には性愛が優先時となる。多くの女性が偶然出会った兵士への激しい思いに突如として駆られる。性的な表現に対する抑制が弱まるのみならず、互いのなかに相手の性への強烈な興味が存在し、それは平時の場合よりはるかに激しいものがある。通常なら他の関心事に心を奪われている男女が、気がつくと性愛の渦に巻き込まれていて、この愛が現下の優先事となる。戦時中は婚姻数が増加し、出生率が上昇する。
 兵士は故郷の精神的なよりどころや、地域社会といった背景から引き離されて、どこにも所属しなくなり、心配、脅威、孤独、寂しさにさらされる。男ばかりの敵意に満ちた環境にあって、兵士が切望するのは、自分を保護してくれる穏やかな存在であり、その象徴が女性であり、家庭なのである。兵士が性行動にのめりこむのは、失ったものに対するある種の埋め合わせとなる。いうなれば、不適応状態の表れである。戦争でぞっとするような、あるいはなにもこれと言って特徴のない昼夜を何日も過ごした後で、従順でやさしく愛撫してくれる女性を腕に抱くことは、報いのないことに慣れきっていた兵士にとっては途方もなく素晴らしいことだった。
 女性は、自分の親兄弟と戦いを交えて殺戮していた敵(連合軍)の兵士を愛することができた。もっとも自明なのは、基本的本能と言われている自己保存の本能や、利己心、自己本位の動機すべてに反して、人間は行動できるということである。
 死に直面して臆病になるものと、生来の臆病者を区別しなければならない。ほぼ誰にでも、ときには臆病者になる自分が潜在している。臆病者は戦闘中に何度も死ぬ思いをする。そのたびに計り知れないほどの精神的な辛さを味わう。
 戦争は人間を人間でない存在にするのですね。体験にもとづいての考察ですので、言いたいことがよく伝わってきます。
 
(2009年9月刊。1700円+税)

金融大狂乱

カテゴリー:アメリカ

著者 ローレンス・マクドナルド、 出版 徳間書店
 リーマン・ブラザーズの元社員が、その内情を曝露した本です。サブプライム・ローンの実態を知るにつけ、アメリカは狂っているとしか言いようがありません。
 頭金の確保や月々のローン返済もままならないような人々が、銀行から住宅ローンを提供された。クリントン大統領によって住宅都市開発相の次官補に抜擢されたロバータは、全国的に体制を整備し、各地の出先機関に弁護士と調査員を配置した。この配置の目的は、差別禁止の法律を銀行に対して適用すること、アメリカ国民に住宅ローンの資金を供給することにあった。1993年から1999年までのあいだに、200万人以上の人が新たに住宅の所有者となった。
 2004年の末、不動産の世界には、新たな文化が生まれていた。住宅ローン会社は、自社の資本をリスクにさらしていないため、将来の返済状況を気にする必要がなくなった。
 カリフォルニアで働くセールスマンは、無理やり中低所得者にまで顧客層を広げ、相手が大喜びする条件で見境なくローンを売りまくった。ここには規範もなければ、責任もなければ、非難もなかった。結果を気にする者は皆無だった。いや、結果を気にする必要自体がなかった。
 このころ、カリフォルニア州だけでも、毎日50万人ものセールスマンが住宅ローンを売り歩いていた。サブプライムローンの貸し手の40%以上は、カリフォルニアで設立された企業だった。当時は、新車のローンを組むよりも、新居のローンを組むほうがたやすく、マンションを借りるよりも、住宅を買う方が安くついた。住宅ローンのセールスマンは、史上空前の報酬を得ていた。
 収入も仕事も資産もない人が借りられるローンを、ニンジャ・ローンと呼ぶ。
 買い主は代金の支払いを心配する必要はなかった。ニンジャ・ローンは、お金に困っている多くの家族にとっては奇跡以外の何物でもなく、たいてい住宅価格より10%増の融資が行われた。契約書にサインした人々は、100%分をローンの支払いに充て、10%分を自分のポケットに入れて新居での生活を始めた。
 住宅ローンのセールスマンの顧客の半分は、契約書を理解するどころか、読むこともさえできなかった。ニンジャ・ローンは当初の金利が1~2%と不自然なほど低いものの、数年後には5~10倍に跳ね上がる。これが、結局、住宅ローンの債務不履行の微増に繋がる。
 フロリダのマイアミ地区で10年間に建てられたコンドミニアムはわずか9000棟だった。ところが。最近たったコンドミニアムは2万7000棟。このほか、建設許可待ちが5万棟もある。
 ウォール街の労働者が受け取ったボーナスは、ニューヨークの非金融系労働者の2.5倍。年収額で見ると、2003年に比べて1.5倍となっていた。
リーマンブラザーズの社員にとっては、ボーナスが至高の重要性を持っていた。なぜなら、給与体系上、報酬の大部分がボーナスだったから。しかも、報酬の半分は自社株で支給されているため、生きていく糧を確保するには、会社に収益をあげさせ、株価を高く保たせる必要があった。そうなって初めて、自分たちの財政状況が向上する。
 社員はほぼ同水準の固定給をもらっていた。差がつくのはボーナスの部分だ。たとえば100万ドルのボーナスをもらうためには、会社に2000万ドルの収益をもたらさなければならない。
 倒産した会社の取締役たちが、とてつもない高額をとっていたことが何度も明るみに出ました。まさしく狂っているとしか言いようのないアメリカです。そのせめてもの救いは、こんな本で実態を教えてくれる人がいることでしょうか……。
 庭の紅梅が先に咲き、遅れて隣の白梅も咲き始めました。紅白の花は春の到来を告げてくれます。隣家の庭のピンクの桃の花も盛りで、メジロがチチチとせわしく鳴きながら花の蜜を吸っています。
 
(2009年9月刊。1800円+税)

大搾取

カテゴリー:アメリカ

著者 スティーブン・グリーンハウス、 出版 文芸春秋
 アメリカでは、毎年、4年制の大学に行く資格のあるハイスクール卒業生の40万人以上が、経済的な理由から進学をあきらめている。そのうち、20万人は2年制の短大に行くが、17万人は大学教育をまったく受けない。その結果、10年間で400万人以上のハイスクール卒業生が4年制の大学への入学資格を持ちながら入学できていない。
 法律事務所のなかには、25歳の一流法科大学院出身者の初任給が年16万ドル(1600万円)というところもある。退職者の医療保険給付を削減しながら、その一方で、重役たちに対しては、途方もない高額の退職後医療保険給付をおしみなく与えている。役員のための「補足」年金制度を別に設け、しばしば平均的従業員の賃金の40倍という年金を与えている。
 多くの企業の取締役会では、CEOの友人が役員報酬決定委員会の委員におさまり、年金をCEOの報酬を増やす手口の一つとみなしている。
 アメリカ人材派遣協会によれば、1982年に98万人だった派遣労働者は今日では300万人にまでふくれあがっている。マイクロソフトのような一流の巨大企業でさえ、派遣社員は全従業員の20%を超える。
 人材派遣業は、1975年の年商10億ドルから、今や720億ドル産業へと急成長した。今やアメリカの臨時雇用労働者は800万人に達する。正規雇用労働者の64%が、雇用主の提供する医療保険に入っているが、派遣労働者は9%しか入っていない。
 ウォルマートが医療保険を提供しているのは、従業員の50%にすぎない。
 ウォルマートが地域に参入してくると、その地域の賃金水準が低くなる。
 ウォルマートの経営者だったサム・ウォルトンは、合計資産が800億ドルを超え、世界一の富豪であり、その相続人が年に30億ドルを寄付してウォルマートの従業員のためにすばらしい医療保険制度をつくるくらい、わけもないはずだ。
ホントですね。でも、決してそんなことしないんですよね。金持ちはケチですから。
 労働組合に加入している労働者のほうが間違いなく経済的に優遇されている。組合のおかげで労働者の賃金は平均20%引き上げられ、医療保険その他の福利厚生を加えれば、総収入で28%も上がっている。組合に加盟している工場は、労働者一人当たりの生産性も高い。
 アメリカ人が今ほど借金まみれになったことは、かつてなかった。
 底辺から5分の2の世帯では、4分の1近くが月の収入の少なくとも40%を借金返済に充てている。まじめに働けば、その報いとしてまともな暮らしが送れる。日々、正直に働けば、家族に十分な衣食住を与えられるというアメリカの約束は、破られてしまった。
 社会は、労働者や労働者が抱えている問題について、もっと関心を払わなければならない。見えないことが無視につながり、逆に関心は尊重につながる。
 日本は、アメリカ社会のようになってはいけない、つくづくそのように思わせる本です。
 
(2009年6月刊。2095円+税)

アメリカの眩暈(めまい)

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著者 ベルナール・アンリ・レヴィ、 出版 早川書房
 私と同世代のフランス人哲学者がアメリカを駆け巡って考察した本です。200年前にもフランスのトクヴィルが同じようなことをしました。
 今回はアメリカを車で2万5000キロも移動しながら見聞したのでした。売春宿も刑務所も訪れています。しかし、ウォールストリートもシリコンバレーも見ていないじゃないか、と批判されています。
 ケネディ神話は、もはや神話ではない。ジャッキーとの幸福な家庭生活の光景は、宣伝用につくられたイメージだった。日焼けした若きヒーローが、実はテストステロン剤(男性ホルモン剤)とコーチゾン剤(副腎皮質ホルモン治療剤)を常用する重病人で、そのバイタリティあふれる外観はまやかしだった。
 イラクの平和化を先導するはずのアメリカ軍は、平凡で素人っぽく、装備も悪く、訓練もきちんとされていない。イラク派遣部隊は、半分は星条旗の下で参戦すれば帰化手続きが早まるのを見込んだ非アメリカ人で構成されている。もっとも難しい任務、たとえば政府施設やアメリカ大使館の警護は、民間警備会社が雇った傭兵がしている。これで本当に近代の帝国軍隊なのか……?
 奇妙な転移現象がみられる。伝統的な生産活動の大半が第三国に移転されている。銀行、政府、企業、つまり国の年金や健康保険など原則的に支配国家のものであるはずのものが、巨額の対外債務に依存している。これ自体が原則として被支配国家の経済、とくに、インド、ロシア、日本、中国の資本によって資金を供給されている。
 アメリカには、公式に3700万人の貧困者がいるにもかかわらず、アメリカ国民は自らを「アメリカン・ウェイ・オブ・ライフ」を運命づけられた巨大な中流階級と思い続けている。
アメリカの浮浪者は、退去命令に従うとか逃げる手立てさえないので、町の廃墟に閉じ込められている。
アメリカの真実を、フランスの哲学者が鋭く暴いています。
(2006年12月刊。1600円+税)

現代の傭兵たち

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著者 ロバート・ヤング・ペルトン、 出版 原書房
 イラクで2006年春までに死亡した民間軍事要員は314人と発表されている。しかし、民間軍事要員の死亡がすべて報道されているわけではない。アメリカ政府もイラク政府も、死亡した民間軍事要員の数を公式に数えていない。それも当然で、交戦地域で現在稼働している民間警備会社の数も、その社員の数も把握していないからだ。
2006年春、イラク政府だけでも、730個の身辺警護隊を必要としていた。イラク民間警備会社協会なる組織が設立されて、企業の合法化に取り組み、モグリの企業を取り締まる法案づくりを働きかけた。だが、イラク政府は民間請負会社を取り締まる能力も意思もなかった。
 武装した身辺警護隊で働いているイラク人のうち、1万4000人が未登録になっている。
 1万9120人の外国人警備員を加えると、合計3万3720人をこえる人間がイラクで殺しのライセンスを支えられていることになる。
 西洋人の警備要員が日常的にイラク人の車や車内に向けて弾丸を浴びせている。
 民間軍事要員による発砲事件で市民が死傷した重大事件400件を分析すると、バクダッドの民間警備要員は、この9ヶ月間で61台の車両に発砲した。そのなかで、相手が発砲や暴力、危険な行為で反撃してきた例は、たったの7件。そして、ほとんどのケースで、警備要員は事件の直後に現場から遁走している。警備要員は、年がら年中、人に向けて銃を撃っているが、死人やけが人が出たかどうか、いちいち止まって確かめたりはしない。
 2006年春の時点で、民間軍事(警備)要員がイラクで犯した罪で、告訴された例は一つもない。その一方、何百人という兵士が、軍の軽い規則違反から殺人にいたるまで、さまざまな罪で裁かれている。
 軍事要員の故意または不注意による市民に対する攻撃が、たまたま明るみになったとしても、どのような法的手段をつかって犯人の責任を追及するのかも定まっていない。
 交戦地域や高度危険地域での民間警備会社の台頭は、新種の民兵や武装した傭兵、警備要員や企業体を生み出した。彼らは攻撃されたら全力をあげて反撃するライセンスを与えられている。いわば、あいまいな法規制のもとで活動する傭兵階級予備軍だ。
 ロシア人が退くと、ジハードの戦士は職を失った。故国に帰った者もいたが、多くはアルカイダに加わるか、他のイスラム武装勢力とともに戦う道を選んだ。
治安の悪い場所で働き、殺しのライセンスを与えられるなどというと、ぞっとする人もいるだろう。ただ、これが病みつきになって、アドレナリンが体内を駆け巡るという人種もいる。雇用の水源が枯れあがったとき、現在、イラクで働いている何千人という警備要員のうち、どれだけの人間がふつうの市民生活に戻れるかは見当もつかない。
 警備事業は、既成の企業や政府の顧客のしがらみから解放されると、即座に物騒な方向に走り出すだろう。なにしろ、傭兵は、儲け第一主義の個人事業主なのだ。
 いやはや、とんだことです。イラクの「安定」は世界中に不幸をもたらす「不安定」につながりかねませんね。これもアメリカのイラク侵略によって引き起こされた悲惨な事態としか言いようがありません。今年11月、アメリカ軍はイラクから撤退するということです。遅きに失しました。しかし、今度はアフガニスタンへ進駐(増派)するといいます。ますます世界の不安定要因(危険)が増大してしまいます。
 
(2009年12月刊。2200円+税)

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