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カテゴリー: アメリカ

連邦陸軍電信隊の南北戦争

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 松田 裕之 、 出版  島影社
アメリカの南北戦争は1861年から65年まで続き、戦死者が実に62万人という、とんでもない近代的消耗戦でした。大砲や新式連発銃が戦場で威力を発揮したわけですが、南北戦争の勝敗を決めたのは、モールス信号をはじめとする情報戦における北軍の優位だったことを知りました。
そして、リンカーン大統領を暗殺した犯人を逮捕するにも、この電信連絡がフルに生かされたといいます。
太平洋戦争で日本軍はレーダーその他の情報網を軽視していたため、後半戦では圧倒的敗北を重ねていきましたが、南北戦争のときの南軍が同じでした。
南北戦争は、情報の収集・共有・分析にかかわる戦力が勝敗の帰趨に決定的な影響を及ぼした最初の戦争だった。最新鋭の情報通信技術であるモールス電信を軍事領域において、どれほど広範囲かつ効果的に駆使できるのか、USA(北軍)とCSA(南軍)の力量差は、文字どおり、この点に凝縮された。
CSA(南軍)政府は電信によって最前線からもたらされる情報を自国民に公表せず、徹底した秘密主義をとり、情報操作もおこなった。ゲチスバーグとヴィックスバーグの両会戦で大敗したのに、CSA領内の新聞は「CSA軍の大勝利」と報道した。
これって、戦前の日本軍の大本営発表と同じですね。
これに対してUSA(北軍)政府は、軍用電信網が刻々ともたらす戦況報告を包み隠さず国民に周知させることで、国民に戦争の当事者たる意識をもたせ、挙国一致の気運を高めていった。まさしく両者は対照的だった。
リンカーンは、南北戦争のとき絶えず電信室に顔を出し、最新の軍需情勢を絶えず頭に叩き込んだ。
大変な知的刺激を受けた本です。アメリカの南北戦争についての知見が増えました。
(2018年4月:東京・蒲田宅)

新時代「戦争論」

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 マーチン・ファン・クレフェルト 、 出版  原書房
戦争をする者は、あくまで勝利を得るために戦うのであって、ありとあらゆる理論を試すために戦うのではない。なーるほど、それはそうでしょうね・・・。
二つとして同じ戦争はない。人間の歴史と切り離せない戦争そのものが絶えず変化しており、今後も変化し続けるだろう。うむむ、なるほど、そういうことですか・・・。
時代を問わず、多くの兵士が、敵を殺すのはセックスするようなものだと語っている。人間のどんな行動も、それを愛好する人こそが、それをもっともうまくやる。
経済問題のみが原因で起きた戦争は、ほとんどない。とはいえ、経済的な原因が、おそらく大半の戦争に関わっていることも真実である。
戦闘部隊が全兵力に占める割合は、1860年は90%だった。その100年後の1960年には25%にまで減少した。そして、1990年ころから、民間への業務委託が始まり、割合が増加しつつある。
第一次世界大戦までは、軍事物資の大部分は何より食料と飼料だった。現代では、弾薬や燃料、潤滑剤、戦場で運用される装備品の予備の量が大幅に増えている。戦場で兵士1人の1日の活動を支えるのに必要な物資の量は、以前の30倍に増えている。
アメリカ軍に、ドローン運用者にストレス症候群を訴える人が多い。これは、戦争がビデオゲームになっていないことの証明だ。戦争は今もって人間的なこと(古代ギリシアのツキディデスの言葉)なのだ。
サイバー戦争から身を守る最善の方法は、コンピューターに頼らないこと、少なくともコンピューター同士をつなぐネットワークを使わないこと。しかし、これってかなり無理ですよね。
核兵器の偶発的な爆発が起きなかったのは奇跡と言ってよいくらいだ。核兵器の抑止と強要のゲームは、じつに愚かしく、非道なものである。核兵器の使用は瞬時に、ほぼ完全に人類が滅亡してしまうレベルのものだ。
朝鮮半島で戦争が終結することの意義は限りなく大きいものがあります。日本政府は「圧力」ではなく「対話」に路線を転換すべきです。それが出来ないアベ首相は辞めてもらうしかありません。
(2018年5月刊。2600円+税)

「マーチ」 2・3

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ジョン・ルイス、アンドリュー・アイディン 、 出版  岩波書店
アメリカという国が、いかに暴力と偏見に満ちた国であるか、心が震えてくるマンガ本です。でも、それに非暴力でたたかった黒人集団がいて、ともに歩んだ白人たちがいたことも知り、アメリカはまだ捨てたもんじゃないな・・・、とも思わせます。
それにしても、アメリカでの黒人差別はすさまじいものがあります。白人と対等な口をきこうものなら、ボコボコ乱暴されるのはまだいいほうで、殺されても殺した白人は逮捕もされないというのです。今でも、200万人いるというアメリカの刑務所人口の半分以上は黒人が占めているのでしょう。
黒人は「白人専用」と書いたトイレを利用することは許されない。
白人と同じようにカウンターに座って商品を注文しても無視されるだけ。
投票するために有権者として登録しようとすると、黒人だけは読み書きテストを受けさせられて、不合格とされる。いえ、その前にテスト自体も受けることができない。
差別主義者の白人が黒人の教会を爆破して黒人の少女たちが亡くなります。黒人が平和に行進していると、白人の警官隊が警棒をもって非武装・無抵抗の黒人の男女を殴る蹴る。そして抵抗したといって拘置所に収容する。
法治国家どころではありません。野蛮な国です。
黙っていると殺される。現に何人も、何住人も野蛮な白人たちに仲間が殺されるのを前にして、このまま非武装・無抵抗の行進(マーチ)を続けていいのか。それにどれほどの意義があるのか・・・。それでも、生命の危険を賭して、平和行進を続けるのですから、本当に勇気があります。心が震えます。
映画『ミシシッピー・バーミング』の話も出てきます。黒人の権利を擁護するためにミシシッピ州に入った白人青年たち3人が警察の検問を受けたあと行方不明になった事件です。FBIなどの捜査によって3人の遺体が発見されました。犯人は州の権力者仲間だったのです。
ケネディ大統領が暗殺され、マルコムXも暗殺される大変な状況のなかで、ジョンソン大統領は公民権法の制定についに踏み切った。
バラク・オバマがアメリカの大統領として、いったい、どれだけの実績を上げたというのか、振り返ってみると、いささか疑問がないわけではありません。ノーベル平和賞に本当に値したのか、いささか疑問はあります。でも、それでも今のトランプ大統領の知性のなさには呆れ、かつ恐れます。ちょうどアベ首相の無知蒙昧と同じレベルです。そんなアベ首相が三選されそうだというのですから政権党の知的劣化はとどまるところを知りません。
マンガ本で知る、アメリカの黒人運動、公民権運動といったおもむきがありました。
マンガ本にしても少々値がはりますので、ぜひ図書館で借りてお読みください。
(2018年5月刊。2400円+2700円+税)

レッド・プラトーン

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 クリントン・ロメシャ 、 出版  早川書房
Il doesn’t get better.
今よりマシにはならないぜ。
これがレッド小隊(レッド・プラトーン)の合言葉。
今から9年前のアフガニスタンでの出来事です。アメリカ軍がアフガニスタンの東部山中につくった前線基地がタリバン軍に強襲され、辛うじて撃退した経過を現地で指揮したロメシャ2等軍曹が詳しく語った本です。その戦闘場面の描写は大変な迫力です。
前線基地を戦闘前哨と呼ぶのですね。ともかく孤絶した山中にアメリカ兵50人あまりがいて、タリバン兵300人を迎え撃ち、強力な航空兵力の助けを得て、なんとか絶滅の危機を免れたのでした。
タリバン軍は、周囲の山頂からこの戦闘前哨をよく観察していて、きわめて効果的に強襲し、アメリカ軍に不意討ちをくらわせた。攻撃はアメリカ兵の大半がまだ眠っていた午前6時前に開始され、緒戦は防御側にとってきわめて不利に推移していった。航空支援を受けながら、アメリカ軍は14時間の死闘に耐え抜いた。
アメリカ軍の死者は8人、負傷者22人。つまり、50人のうち死傷者30人ですから、大変な損耗率です。対するタリバン側は150人の死者を出したと推定されています。
でも、そもそも、なぜこのすり鉢の底のような不利な地にアメリカ軍が戦闘前哨をつくり、50人もの兵がいたのか、それが根本的な疑問です。
近くに小さな村もあり、タリバン兵が戦闘前に占拠していましたが、アメリカ軍と村民とが交流していたような気配は感じられません。むしろ村民はアメリカ軍にとって非友好的存在だったように思われます。そんなところに軍隊を置いて、いったいアメリカ政府(軍を指揮するものとして)は、どうするつもりだったのでしょうか、まったく訳が分かりません。
アメリカ兵50人の救援に向かった航空兵力のなかでは、アパッチ攻撃ヘリコプターが活躍していますが、この近代兵器も悪天候と燃料切れには勝てないのですね。
そして、B1戦略爆撃機の投下する巨大な爆弾です。そして、それは精密誘導爆弾キット付きなのです。ベトナム戦争のときのような友軍を誤爆するようなことは避けなければいけません。
そして、アメリカ軍は戦死した兵士の遺体の回収に全力をあげる、そのために犠牲者がでても仕方がない。こういう考えでアメリカ軍は運用されているようです。
この戦闘で死んだタリバン兵士150人にも、それぞれの人生があったと思いますが、それが文章化されることは恐らくないでしょう。死んだアメリカ兵士8人については、著者が写真とともに、その人柄を紹介しています。
なぜ人の好きそうなアメリカの青年が、こんなアフガニスタンの山中で死ななくてはいけなかったのか、彼らの死に果たしてどれだけの意味があるのか、そのあどけない生前の笑顔を見ながら大いに考えさせられました。
『ブラックホーク・ダウン』、『アフガン、たった一人の生還』に続く本だと思います。
(2018年3月刊。2100円+税)

ギャングを抜けて

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 工藤 律子 、 出版  合同出版
中央アメリカのホンジュラスのスラムで生まれ育ち、ギャングに入った一人の若者が、なんとか故国から脱出してメキシコで再生しようとする苦難の歩みが、分かりやすい文章といくつかの写真で紹介されています。
ホンジュラスで2番目に大きな都市がサン・ペドロ。亜熱帯気候なので、1年中、ランニングシャツ1枚で過ごせる。ところが、町の大部分は貧しい人々の質素な家が並ぶスラムで、活気がないし、しかも危険な空気に満ちている。
サン・ペドロは、世界で一番、殺人事件の発生率が高い。いたるところに、「マラス」と呼ばれる若者ギャング団がいて、町のスラムを支配している。
マラスは、メキシコやコロンビアの麻薬密売組織(麻薬カルテル)と手を組み、マリファナやコカインを売ったり、ライバルのマラスと縄張り争いをして殺し合っている。
ホンジュラスには、マラスのメンバーが3万人以上いる。スラムにいるマラスのメンバーに指示を出しているのは、刑務所に入っている大ボスたち。指示は、外で活動している「ホーミー」と呼ばれるリーダーに伝えられ、その下の「バイサ」へ伝えられていく。
ホーミーからケータイで指示を受けながら、支配地域で実際にギャング団の仕事をしているのは、バイサやその下っ端の連中。それから、特別な命令で動く暗殺部隊。
ギャングたちが10代の少年たちの前で、こう言った。
「このあたりは、これから俺たちの縄張りだ。おまえたちも仲間にならないか」
そして若者はギャングの仲間になることを選んだ。その環境では、それがもっとも現実的な答えだった。ほとんど唯一の選択肢だった。もし、「仲間にならない」と言ったら、ここから逃げるか、殺されるか、しかない。
このスラム街に入ってくる車は窓を開けていないと攻撃される。窓を開けていないと誰が乗っているか、外から分からないから。この決まりごとを知らないと、命を喪う。
学校でいじめられっ子の若者はギャングに入った。いじられないし、むしろ恐れられ、リスペクトされるから・・・。
ギャングの犯罪を取り締まるはずの警察や軍の内部にもマラスのメンバーが潜入していた。
マラスのメンバーに昇格するためには、敵あるいは自分の家族や知人を一人殺さなければならないことになっていた。
「霧社事件」を起こした台湾の現地民(タイヤール人など)は、一人前の男として認められるためには、首ひとつを村にもち帰る必要がありました。このことを思い出しました。
それにしても苛酷過ぎるルールです。この若者は、自分は殺したくない、そう決意してギャングのいる故郷のスラムから脱出したのです。そして、今では難民認定も受けてメキシコ・シティでがんばっています。
小学生時代に一緒に遊んでいた幼なじみの大半は、もうこの世にはいない。生き残った人間の一部は塀の中にいる。麻薬密売や強盗・殺人などで警察に捕まった。残りは国内の別の地域にひっこして息を潜めて暮らしている。
いちどギャングになってしまえば、まわりの人々の抱く恐怖心が、ギャング少年たちをいい気分にさせる。単に恐ろしがられているだけなのに、リスペストされていると勘違いしてしまう。
この若者は、物事が思いどおりに運んでいるときは、実に賢く立派に振る舞う。ところが、いったん歯車が狂いはじめると、周囲の支えがなければ、自暴自棄に陥ってしまう。これは、幼いころ、誰かにしっかりと守られ、愛されたという経験がないため、本当の意味の自信が育まれていないからだろう。
暴力と殺人が日常茶飯事の中央アメリカのスラムに育った若者が人としてまともに育つことの難しさも証明しているように思いました。現代日本の若者の生育状況と対比させながら読むと、さらに新しい知見がきっと得られます。
(2018年6月刊。1560円+税)

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