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カテゴリー: 社会

やとのいえ

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 八尾 慶次 、 出版 偕成社
多摩ニュータウンをモデルとして、大都市近郊のひなびた農村地帯が都市化の波にさらされて変貌していく様子を美事な風景画で再現しています。
「やとのいえ」という「やと」は、なだらかな丘と谷があるなかで、浅い谷のことをいいます。
もちろん人々は農業を営んでいました。家は草(茅)ぶきです。村の人がみんなで共同作業します。燃料になる炭も自分たちでつくります。人々は農閑期に大きな目籠(めかご)をつくり、大八車(だいはちぐるま)に乗せて町まで売りに行きます。
大八車は私も見たことはありません。リヤカーなら身近にありましたが…。どうやら大八車のほうが車輪が大きいようです。どちらも二輪車ですよね、きっと…。
戦争中も、遠くの町が空襲にあって赤い空が燃えているのを遠くに眺めるだけですみました。いえ、兵隊にとられて戦場に行った若者はいたのです。戦後、平和になって、村祭りがにぎやかにおこなわれ、子どもたちも歓声をあげていました。
戦後は、ベビーブームとなり、若者も子どももたくさんいて村には活気がありました。
十六羅漢さんのある家に花嫁さんが迎えられました。お祝いに集まった人々は、みな黒紋付きです。一瞬、お葬式なのかと錯覚してしまいました。
ところが、1967年(昭和42年)ころから開発の波が押し寄せてきます。村人に札束攻勢がかけられました。遠くの丘にブルドーザーが入って、たちまち丘陵地帯がなだらかな平地となっていきます。開発途中で遺跡の発掘調査もありましたが、それがすむと、たちまちブルドーザー、ショベルカー、そしてダンプカーが走りまわるのです。
ついに1981年(昭和56年)ころには、大きな広い通りに面して巨大なアパート群が次々につくられていきます。もう、かつてここが緑あふれる田園地帯だったことを偲ばせるものは何ひとつありません。いえ、十六羅漢だけは幸い残されました。
ともかくすばらしい。こまやかな描写の絵に人々の昔、そして現在の生活が見事によみがえっていて、驚嘆してしまいました。都市化の波によって失われたものが大きいことを改めて痛感させられます。
(2020年8月刊。1800円+税)

砂戦争

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 石 弘之 、 出版 角川新書
全世界で高層ビルが次々に建てられていくなかで、コンクリートの原料となる砂が世界的に不足しはじめて、争奪戦が始まっていて、闇ビジネスが横行しているとのこと。ええっ、なんということでしょうか、信じられません。だって、世界中に大砂漠があちこちにあるじゃありませんか…。ところが、この本によると砂漠の砂はコンクリートの原料として使えないというのです。これはビックリ、です。どうして、でしょうか…。
砂漠の砂は、コンクリートの骨材として使えない。セメントに混ぜるには細かすぎるうえに、角がないために砂同士がからみあうことができない。そのため、セメントに混ぜても、コンクリートの強度が得られない。そのうえ、砂漠の砂には塩分含有量が多すぎる。海砂と同じように、アルカリ骨材反応を起こして建造物の強度や安全性が脅かされる。砂漠に植物が育ちにくいのは、水の不足だけでなく、塩分が多いため。
ドバイのような中東の湾岸諸国は、建設ラッシュが続いているけれど、ビル建築用の砂は、すべて海外からの輸入に頼っている。砂漠の国々が砂を海外から輸入する。このパラドックスは冗談でもなんでもない。いやはや、なんということでしょうか…。
世界の構想ビルのうち、300メートルをこえる超高層ビルは世界で178本もあるが、そのうち中国が88本を占めている。いやはや、これはすごいことですよね。世界中の超高層ビルの半数ほどが中国所有だったなんて…。
中国は年間25億トン近いコンクリートを消費している。そして巨大ビルの建設ラッシュによって、砂の需要は増え続けている。
ドバイの人口における自国民の割合は、白人が8%、外国人が9割以上を占める。
インドでは砂マフィアが暗躍している。砂マフィアは、インドの犯罪組織のなかでも、とくに強大。反対するジャーナリストやNGOの活動家、ときには取り締まる役人や警察官に対しても暴力をふるい、殺害もいとわない。インドでは、2020年までに48人のジャーナリストが殺害されたが、そのうちの44人は砂にからんでいる。
シンガポールは、政界最大の砂輸入国。そして周辺のインドネシア、カンボジア、マレーシアはシンガポールへの砂の輸出を禁止した。
ベトナムの砂埋蔵量は23億立方メートルで、あと十数年で枯渇してしまう。
再生プラスチックを道路舗装の砂の代替品として実用化されつつある。コンクリート中の天然砂の10%をプラスチック屑(くず)に置き換えると、年間8億トンの節約になる。
超高層ビルの4割が中国にある、その中国は年に25億トンものコンクリートを消費している。アメリカが20世紀の100年間に使ったコンクリートの総量は45億なので、中国の2年分でしかない。
世界中で巨大ビルの建設ラッシュが続くなかで、砂の需要は増え続けている。
地震国・日本で超高層ビルに居住して生活しようという人の気持ちが分かりません。少し前に川崎で超高層マンションの地下が水害にあって、エレベーターが止まり、水がストップしてトイレが使えないという事態がありました。どんなに近代的な設備にしたところで、電気と水道が止まらないという保障はまったくないのは明らかだと思うのですが…。
砂もいずれ枯渇するということ、すでに争奪戦が始まっていることを初めて知りました。
(2020年11月刊。900円+税)

県警VS暴力団

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 藪 正孝 、 出版 文春新書
日本全国の暴力団員は最盛時に18万人いたのが、今は2万8千人になったとのこと。これには警察の取り締まりの成果も大きいと思いますが、それだけでもないようです。たとえば、暴走族は今ではほとんど見かけません。成人式での暴力的騒動も、すっかり影をひそめてしまいました。
北九州の暴力団「工藤会」とたたかってきた警察官による体験をふまえた暴力団取締の現場の話です。
工藤会が襲ったクラブ「ぼおるど」は、弁護士会の懇親会のあとの二次会の会場として、私も何回も行ったことがあります。
「ぼおるど」が襲われたのは平成15年8月18日(日)の夜9時すぎ。手榴弾が投げ込まれ、店の女性12人が重軽傷を負った。前年の4月には、営業中に糞尿をばらまくという威力業務妨害事件も起きていた。その店長も殺人未遂事件の被害者になった。「ぼおるど」は暴力団員の出入りを禁止する店であり、経営者は暴力追放に立ち上がった市民団体の代表をつとめていた(と思います)。
投げられた手榴弾はアメリカ軍の攻撃型手榴弾であり、たまたま不完全爆発したことで死者が出なかったけれど、完全爆発していたら何人か確実に死んだのは間違いない。うひゃあ、恐ろしい…。
「警察は命までとらないが、工藤会は命をとる」
これは怖いですね。実際、工藤会は漁協元組合長などフツーの市民を殺しています。暴力団担当の元刑事まで狙っていますから、やりたい放題でした。北九州は、ひところいわば無法地帯だったのです。
「ぼおるど」は、営業を再開したものの、実弾入りの脅迫状が送られるなどがあり、事件の翌月には休業し、ついに廃業に追い込まれてしまった。「逆らう者は許さない」という工藤会の目的は達成されてしまった。なんということでしょう。残念でなりません。これでひっこんでいたら日本の警察は顔がありません。
北九州市議会の議長宅、そして北九州県議会議員宅に拳銃弾が撃ち込まれる事件が相次いだ(平成16年1月から5月)。
工藤会が土木・建設業者からとっていたみかじめ料は、建築1%、土木2%、解体5%。
これは大きいですよね。大型公共工事は、全国どこでも暴力団と政治家がトータルで3~5%をまき上げていると言われています。ただし、昔からの「伝統」的な処理なので、警察が証拠をつかんで立件するのは難しいようで、これまた本当に残念です。
工藤会は平成10年に内部通達を出し、傘下の組員が警察と接触することを固く禁止した。違反したら破門・絶縁するというものだった。
暴力団を抜け出して、正業につくことを可能にする社会環境づくりも日本は遅れているように思います。どうなんでしょうか…。体験をふまえているだけに、とても説得力がありました。
(2020年5月刊。850円+税)

民主主義のつくり方

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 宇野 重規 、 出版 筑摩選書
大変失礼ながら、学術会議の任命拒否問題があるまで、東大教授である著者を知りませんでした。略歴によると、私が大学に入った年(1967年)の生年なのです。私も、すっかり年齢(とし)をとってしまったというわけです。申し訳ありません。
著者は東大で法学博士を取得し、政治思想史、政治哲学を専攻していますから、古今東西の政治思想家が次々に登場し、論評が加えられるさまは、小気味がいい感じです。
さて、問題は日本に本当の民主主義はあるのか、育つのか、です。著者はその点、希望を捨ててはいけないという考えです。
現代日本社会においても、民主主義の「種子」(タネ)は少しずつ根を下ろしつつある。もちろん、その「種子」が今後も順調に発育をとげ、さらに相互につながって一つの「森」を形成するようになるかどうかは、予断を許さない。
未来とは、本質的に理解不能なもの。安易に未来を予測できるとする言説や理論のほうが危うい。未来とは、人間にとって本質的に他者なのだ。
現代のように「未来を見通せない時代」だからこそ、すべての個人が自らの信じるところに従って「実験」を行う権利があるというプラグマティズムの教えに希望がある。
みんながあきらめてしまって投票所に足を運ばなかったら、「種子」が「森」になるはずもありません…。ぜひぜひ、投票率を6割といわず、8割にまで上げたいものです。
この本は、民主主義への不信が募(つの)る現代にあって、あえて民主主義を擁護するために書かれている。自分たちの力で、自分たちの社会を変えていくことが、民主主義の本質のはず。誰かが何をやってくれることを期待しているのは、自らの運命を誰かに委ねてしまっていることを意味する。
近代政治思想史は、自己の熱い壁の内にこもった個人が、他者に依存することを何よりも恐れながら、それでも何とか共存をはかるための論理を模索してきた歴史であった。
習慣とは、定着・安定と修正・変化の両側面をともなった媒体である。
習慣は、まったく変化しないわけではなく、長い目でみれば、習慣は、つねに変化し、けっして同じ状態にとどまるものではない。社会に安定性をもたらし、社会の再生産を可能にするのは習慣である。
現代日本の各地で、新たな「民主主義の習慣」が生みだされていることに著者は注目しています。そして、その担い手は、地域社会に根ざした存在であること、若い世代に注目すべき新たな動きが生じているというのです。そんな新たな変革の「余地」は「ローカル」な場所に生まれ、存在しているという著者の指摘が生かされ、現実のものとなり、大きくなっていくことを私も大いに期待したいと思います。
難しい話なのですが、意外にも分かりやすい口調の本でしたので、スラスラと読むことができました。こんなすばらしい能力をもった学者を理由も示さずに学術会議のメンバーに任命拒否するなんて、スガ首相の罪悪はあまりにも大きいと改めて実感しました。
(2020年12月刊。1500円+税)

ロッキード疑獄

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 春名 幹男 、 出版 KADOKAWA
ロッキード疑獄で田中角栄が逮捕されたのは1976年7月27日、私は弁護士になって2年目で、ちょうど、その日は東京地裁に行っていました。連行された場面を目撃したわけではありませんが、東京地裁と東京地検あたりに大勢の人だかりがしていて、マスコミ陣で一杯でした。田中角栄を逮捕し連行した東京地検特捜部の松田昇検事は、横浜修習のときの指導検事でした。それほどキレる検察官とは思っていませんでした(私に人を見る目がなかったということです、はい)。このあと、順調に出世されました。
なぜ、田中角栄が逮捕されたのかをアメリカと日本の関係からアプローチしている興味深い本です。600頁近い大作ですが、刑事裁判の法廷の前後、とても車中では足りずに喫茶店にしけこんで必死で一日のうちに読了しました。
田中角栄は受託収賄罪と外為法違反で起訴され、懲役4年の実刑判決を受けた。最高裁に上告中に75歳で死亡した。一貫して完全否認し通し、裁判は17年間かかった。
アメリカで、ロッキード社が保管していた秘密文書は5万2千頁。
アメリカは日本より書類がよく保存されているようですね。アメリカの弁護士は文書開示が有力な裁判戦術として駆使しているようです。日本では、すぐにシュレッダーにかけられ、それを誰もとがめることがありません。肝心の真相がヤミに葬り去られるというのは、残念ながら日常茶飯事です。
そして、この5万2千頁の資料のうち、東京地検特捜部が入手したのは、全体の5%ほどの2860頁のみ。これには驚きました。まあ、それでも、日本の検察は、なんとか大切な書類を入手していたわけです。
著者は、田中角栄の無罪を主張しているわけではなく、ロッキード事件の本当の主役は、日米安保関係の根幹に巣くう人脈であり、彼らこそが「巨悪」として糾弾しなければならないのだと強調しています。うむむ、なるほど、そうだったのか…と思いました。
田中角栄の金脈疑惑は、アメリカでウォーターゲート事件が問題になっていたころのこと。結局、ニクソン大統領は辞任することになったが、その4か月後に田中角栄も首相を辞任した。1974年11月のこと。私は、この年の4月に弁護士になりました。
田中角栄は政治家としての完全復活をなすべく動き出していたところに、ロッキード事件が勃発した。
ロッキード事件は、ニクソンが大統領を辞任したあとに発覚して大問題になったのだから、「ニクソンの陰謀」で事件が大きくなったというのではないことは明らか。
ロッキード事件では、田中角栄のお抱え運転手が自殺したが、アメリカでもロッキード社の財務担当副社長が、猟銃の銃口をこめかみに当て、引き金をひいて壮絶な自殺をとげている。
ロッキード社は「不正なカネの支払い」ではなく、キックバック(割戻金)だと嘘をついた。
アメリカ政府(国務省)内部では、田中角栄の名前が入った文書を日本政府(東京地検特捜部)に引き渡していいものか、真剣に議論した。キッシンジャーは開示積極派だった。
ピーナツもビーンズも、100個で1億円もする。なので、田中角栄に入ったのは5億円。
キッシンジャー(今も97歳で、死なずに健在のようです)は、「密使外交」の名手だった。キッシンジャーは、田中角栄について侮っていた。首相にはなれないだろうと、タカを括っていた。また、首相になったとしても官僚主導で大したことはできないと予測していた。もちろん、その予測は外れたわけです。
キッシンジャーは、田中角栄と話すたびに好感度を下げていった。
キッシンジャーは、田中角栄がすすめた「日中国交正常化」を「裏切り」だと怒った。日本側は、そんなことを夢にも考えていなかった。アメリカは、ホンネのところで、日本と中国の国交正常化に反対だった。日中国交正常化を先送りにしてほしかったけれど、アメリカの意向がマスコミにもらされたりして大きな話題になれば、アメリカにとって、かえって不利になるので黙っていた。
ニクソンとキッシンジャーは、田中角栄による日中国交正常化にいらだち、いろいろ言うようになった。しかし、日本側は、アメリカの強い不満をまったく理解していなかった。
ニクソンは、田中角栄について、「非常に生意気で、強硬だ」と言った。さらに、「日中に関していえば、日本は良き同盟国ではない」とまで言った。
ニクソンは、田中角栄と一緒にゴルフするはずだったのを、理由もなく止めた。
また、「日本は、経済大国ながら、軍事的かつ政治的には「ピグミーとして裸で立っている」とも言った。田中角栄は、ニクソンから「ピグミー」などと侮辱されたことに反発すらしなかった。これじゃあ、まったく日本はアメリカの植民地そのものです。
戦後の日本外交で、日本側が「ノー」と言って自主外交を貫いた側はきわめて少ない。吉田茂以来のこと。
田中角栄が首相を辞めたとき、キッシンジャーは喜んだ。
キッシンジャーは、中曽根についても、美化しなかった。「あいつは畜生だ。日本を軍国主義化する」と、評価するどころか、警戒していた。
ロッキード事件の本当の主役は児玉誉士夫、ダグラス・グラマン事件では岸信介。岸信介は、アメリカのCIAから潤沢の資金をもらっていたが、1987年に90歳で亡くなった。
岸信介に関する情報は、情報公開のすすんでいるアメリカのなかでも、今なおまったく資料が公表されていない。
当時のニクソン大統領とキッシンジャーは田中角栄のことが嫌いで、日中国交回復をアメリカの了解なしですすめたことから田中角栄には怒っていて、許せないと考えていた。
アメリカの戦略に「ノー」と言った田中角栄をアメリカは嫌うようになっていた。
要するに、自分の頭で考え、アメリカの言いなりにならないようなら、首をすげかえさせられるわけなんですね…。鳩山由紀夫元首相もそうでした。
キシンジャーは、田中角栄が検察から逮捕されてもかまわないと考えて、秘密文書を日本側に提供した。これは、間違いない。
ロッキード疑獄の謎が今一枚だけ晴れた気分です。児玉誉士夫や岸信介のような「黒幕」たち(その後継者たち)は、今ものさばっているのがくやしい限りです。その主要な原因の一つに低投票率があると思います。みんなもっと政治に関心をもち、不正について怒りの声を上げるべきではないでしょうか。
(2021年1月刊。2400円+税)

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