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カテゴリー: 社会

「核の時代」と戦争を終わらせるために

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 大久保 賢一 、 出版 学習の友社
日本反核法律家協会の会長として活躍中の著者が核廃絶の信念を披瀝するとともに、その現実性と必要性を力説しています。著者による半年前の前著より、体裁も内容も、とてもすっきりしていて、読みやすくなっています。
著者は冒頭部分で、34歳のころの、当時4歳の娘さんとの会話を紹介しています。
頭上を自衛隊の飛行機が飛んでいるので、娘さんが「何をしているの?」と尋ねたのに、「人を殺す訓練をしている」と答えた。「どうして原爆ってあるの?」「人を大勢殺せるようにさ」、「どうして人を殺すの?」「人を殺してでもお金もうけをしたい人がいるのさ」「じゃあ、お金なくしてしまえばいいじゃない」。
子どもの直観って驚くほど鋭いものがありますよね。この問答にもハッとさせられます。
著者が核兵器に反対するようになったのは、まだ幼いときに母親から「原爆で、人は蒸発して、石段に影として残った」と聞かされたからだとのこと。ところが、この旧住友銀行広島支店の入り口にあった石段の「人影の石」について、人間が蒸発するとは思えないと指摘されているといいます。知りませんでした。人が蒸発するような温度であれば、おそらく石の階段も蒸発するか、熔融するはずだというのです。なので、熱線のあたった部分と、そこに腰かけていた人間にさえぎられて熱線があたらなかった部分の違いだろうとのこと。なるほど、「蒸発」ではなく、そこにいた人は、吹き飛ばされてしまっただけなのかもしれないのですね。
そこで、著者は、どちらでもいい、その人の日常が、突然、理不尽にも奪われてしまった事実こそが問題だとしています。まったく同感です。
2019年4月、アメリカの連邦議会(下院)で、核兵器禁止条約を受け入れるよう求める決議案が提案された。その提案者であるジム・マクバガン議員は、次のように提案理由を述べた。
「核戦争は人類の生存を脅かす。結局、問われているのは、人類が核兵器を終わらせるのか、核兵器が人類を終わらせるのかということだ」
そうなんですよね。地球温暖化など地球環境の破壊が進行しているのも重大な問題ですが、緩慢なかたちで人類が生存できなくなるのか、一瞬にして人類が滅亡するのか、どちらも目をそむけるわけにはいかない重大な課題だと私は考えています。
それにしても、アメリカというのは本当に不思議な国ですよね。トランプみたいな、とんでもない人間が大統領になったりしますが、民主主義を守ろうという力もそれなりに強く、たくましいのですね…。
日本の青年・学生のなかに、「戦争はなぜ悪いのですか?」と真面目な顔で質問してくる人がいることが紹介されています。コロナ禍前から学生は忙しいし、政治に関心がなく、その多くはなぜか現状をなんとなく肯定し、同調圧力もあって自民党を支持するのが多数だということのようです。若い人の投票率は3割程度で、半分以上は投票所に行っていないという調査結果が紹介されています。本当に残念です。この本のなかで、昭和女子大の学生たちの取り組みが紹介されています。平和問題についての青年・学生の関わりを高めるにはどうしたらよいか、みんなで知恵を出しあうべきでしょうね。
コロナ危機の陰で核軍拡がすすんでいることに、著者は警鐘を乱打しています。これまた、まったく同感です。日本はコロナ対策ではアベノマスクや「GoToトラベル」にみられるように無用なことに大金をつぎこみながら、肝心のPCR検査やワクチン確保は後手にまわるとともに、保健所の廃止・統合をすすめ、医療機関も減らしつつあります。その一方で、「中国の脅威」をあおりたてて軍事予算はついに5兆円をこえて6兆円に迫りつつあります。オスプレイが日本本土をぶんぶんうるさく飛びまわり始め、コロナ感染の有力発生源であることが明らかなアメリカ軍基地について、日本政府は出入り禁止を申し入れることすらしません(できません)でした。
そして、今や、「敵基地攻撃」を国会で公然と口にしています。現実に攻撃されなくても(なので、正当防衛ではありません)、攻撃の意図があると認定したら(国会ではなく政府が勝手に)、敵国の領土にある施設を攻撃し、破壊する(安倍元首相は「殲滅(せんめつ)」という恐ろしい軍事用語を使っています)というのです。これはまるで先制攻撃、つまり戦争を仕掛けるのとまったく同じで、恐ろしいことです。狭い日本列島に住む私たち日本人は、どこにも逃げ場なんてありません。戦争になったらいけないのです。対岸の火事ではすまされません。
鳩山由紀夫・元首相は、「悪魔のペンタゴン」に敗北したと語っているとのこと。「悪魔のペンタゴン」なんて聞いたことはありませんが、政界・財界・官界の三角形にアメリカ軍とマスコミを加えたものです。ともかく、今の日本のマスコミはNHKをはじめ政権擁護が露骨すぎます。また、「ディープ・ステート」というコトバも出てきます。軍産複合体のことです。アメリカでは強大な力をもっているようですが、日本でも、そうなのでしょうか。
ともあれ、わずか170頁ほどの小冊子ですが、今回もまた大変勉強になりました。本書が広く読まれることを願っています。
(2022年1月刊。税込1760円)

台湾有事で踏み越える専守防衛

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 半田 滋 、 出版 立憲フォーラム
アベ首相にならってキシダ首相も国会で堂々と(臆面もなく)敵基地攻撃論をあたかも憲法で許されているかのように述べたてて恥じません。でも、「敵」基地を攻撃するというのは、よく考えたら、戦争をしかけるということですよね。日本は政府の行為によって戦争の惨禍が起きないように決意した(憲法前文)はずなのに、その政府が日本を守るためにはやられる前に戦争することがありますと国会で高言しているのです。ホント恐ろしいです。しかも、それをNHKなどのマスコミが平然と、批判することもなくタレ流し、国会でも大きな対決点ともならず(与党とゆ党があまりに多いため)、世論もあきらめムードが漂っています。本当に残念ですし、心配です。
著者は防衛ジャーナリストとして、この分野によける日本有数の専門家です。わずか36頁の薄っぺらな小冊子ですが、中味はぎっしり詰まっています。
いま、日本政府が想定している「敵」は、かつてのような北朝鮮ではなく、中国です。日本が中国軍の侵攻を迎えうって戦うというのです。そんな戦争をしたら、日本が勝てるかどうかなんて他人事(ひとごと)のような予想をする前に、日本は破滅します。
だって、日本には無防備同然の原発(原子力発電所)が、玄海原発、島根原発そして福井原発「銀座」といったように数多く存在するのですよ。そこを「敵」が狙うことはないという想定は、それこそ「平和ボケ」以外の何者でもありません。ところが、現実に政府(防衛庁)・自衛隊がやっているのは、中国軍による奄美大島への侵攻を想定した訓練です。それも、九州ではミサイル実射ができないので、北海道の矢臼別演習場で、初めてアメリカ陸軍の高機動ロケット砲システム(ハイマース)と陸上自衛隊の多連製ロケットシステム(MLRS)の共同射撃訓練をしたのです。これは、奄美大島に飛来する弾道ミサイルや航空機を迎撃し、上陸する敵をロケット砲で殲滅するための訓練です。
アメリカ軍は、奄美大島だけでなく、宮古島や与那国島、石垣島にも展開しようとしていますが、これは、あくまでもアメリカ本土を守るためのものです。日本防衛なんて、アメリカ軍は、ハナから考えていません。
中国がこれらの島々を本当に攻撃すると仮定します(私は、そんなバカなことを中国軍がするとは思えませんが…)。このとき、自衛隊やアメリカ軍は自分たちの身を守るため「敵」の中国軍に当然のことながら反撃するでしょう。問題なのは、このとき、住民(島民)保護は日米両軍の頭にまったくないということです。
中国は、2期10年をつとめあげた習近平国家主席が、本年(2022年)には3期目に入る勢いです。そうすると、2027年が注目されます。そのときまでに「台湾を統一する」ことが実現できていれば、習近平は、さらに、その次も安泰だろうというのです。いやはや、恐ろしい独裁国家です。
台湾が「中国領土の一部」であることは、日本政府も再三にわたって認めているところです。すると、台湾を独立国とみなして「密接な関係にある他国」と言えるはずがありません。
ナチス・ドイツの高官は次のように言いました。
「政策を決めるのは、その国の指導者、国民は単にその指導者の言いなりになるように仕向けられる。国民にむかって、我々は攻撃されかかっていると煽(あお)りたて、平和主義者に対しては、愛国心が欠けていると非難すればよい。このやり方は、どんな国でも有効だ」
まさに、このナチス・ヒトラーばりのあおりに乗せられて、日本の軍事予算は5兆円から6兆円台に乗り、さらに10兆円を目ざそうとしています。年金が削られ、介護保険料が引き上げられ、高齢者の病院での窓口負担増が図られているなかでのことです。大学生や若者が無料の食糧品提供に行列をつくっている状況を放置しておいて、軍事予算だけが一気に増強するなんてとんでもないことです。国民の生命・健康を守らず「領土」を守るなんて、おかしいことです。
日本国憲法を大切にして、戦争ではない道を模索し、実行するのが、政府の責務だと固く信じます。まさしくタイムリーな小冊子です。
(2022年1月刊。税込100円)

夫婦別姓

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 栗田 路子ほか 、 出版 ちくま新書
夫婦同姓が法律で強制されているのは、世界中で日本だけ。あきれたことに自民党のなかに強硬に反対する議員がまだいます。今では自民党のなかでも少数になっているのに声高に叫びたて続けて、選択的夫婦別姓制度の実現を妨害しているのです。
彼(彼女)らは、夫婦同姓の日本古来の伝統のように言うことがありますが、日本も江戸時代までは夫婦別姓でした。明治になって、旧民法が夫婦同姓を義務づけて出来あがった「伝統」にすぎません。これって、日本に女性天皇がいなかったかのように言っているのと同じで、まったくの間違い、俗説にすぎません。
この本は、韓国・中国といった昔から今も夫婦別姓の国だけでなく、イギリス、フランス、ドイツ、ベルギーについても夫婦別姓のさまざまなパターンを紹介しています。要するに、夫婦とか家庭といったものは、ペーパー(形式)ではなく、生身の人間の結合だということ、そして、それはさまざまなパターンで(違い)があるということだと思います。
イギリスは、姓も名前も自由に変えることができる。そして、改名の理由を明らかにする必要はないし、変えたことを公式に登録する義務はなく、あくまで任意。
イギリスでは、結婚して10年内に4割近くが離婚する。そして全国2000万のファミリーのうち、結婚しているのは67%で、年々減り続けている。4割近くが事実婚。
フランスでは、出生したときに出生証明書に登録された姓名が一生を通じてその人の法律上の本姓名。ただ、夫の姓を通称としている既婚女性が圧倒的に多い。子どもの姓は父親の姓とするのが多数派。
ドイツも、しばらく前まで夫婦同姓が法律で定められていたが、現在は、同姓、別姓、片方だけが連結姓という三つの選択肢がある。男性の9割が結婚しても姓を変えておらず、女性の8割は姓を変えている。子どもの姓は生まれた時点で、どちらの姓にするか決める。ドイツでは親と子で姓が違うのは珍しくないので、学校などで奇異な目で見られることがない。
ドイツでは、離婚するには少なくとも1年間の別居が必要であり、どちらかが裁判所に離婚を請求したら必ず離婚になる。また、離婚するのに、理由は問われない。なお、浮気があったとき、その人やその相手に慰謝料を請求するのも認められない。これは、大人なのだから、結婚生活破綻の原因はどちらにもあるという考え方から。
ベルギーでは、婚姻は個人の姓名に何の影響も与えない。
いやはや、家族というものは実質も形式も、どんどん変化していることがよく分かる本でもありました。日本でも夫婦別姓にしたいと思う人がいたら、好きにしていいですよという制度を早く実現したいものです。それで被害を受ける人なんて、誰もいないのですからね。自民党の一部議員の皆さんは、世界に目を見開いて真剣に反省してほしいです。
(2021年11月刊。税込1034円)

ゴミ収集とまちづくり

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 藤井 誠一郎 、 出版 朝日新聞出版
大学教授が清掃車に乗ってゴミ収集の現場を体験し、現場でつかんだ問題点を具体的に指摘している本です。学者が、研究を深めるために自分も清掃車に乗って働いてみるなんて、とても想像できませんが、すばらしいことです。
朝7時40分に始業時間の20分前に庁舎に入る。そして1時間の昼休みには、10分か15分ほど仮眠する。これで午後からの体の動きが良くなる。午後3時25分になると、入浴・洗身が始まる。染みついた臭いを落とすため、念入りにボディソープで洗身する。作業着を洗濯し、乾燥機にかける。退庁時間は午後4時25分。
清掃作業は危険をともなうので、安全教育が徹底される。
ゴミ収集作業は単純肉体労働のイメージだが、実際には、現場で、いかに効率良く完遂させるか、頭脳労働の側面もある。
過度な人員削減は、清掃職員に過剰な負担を強いて、モラルを低下させる。
清掃現場の人員削減のため新規採用をしないことは清掃職員のモチベーションの低下をもたらした。新人と接する年長者は、新人を教育するときに自らも学び成長していく。ところが、何年も新人が入ってこないと、そんな機会がなくなり、惰性で仕事をしがちになる。
家庭から排出させるゴミのなかには、コロナに感染した人のものがあるかもしれず、清掃員は清掃車に積み込み作業のなかで感染する危険性がある。清掃事務所でクラスターが発生して閉鎖を余儀なくされると、たちまちゴミ収集が破綻してしまう。
ゴミ量が増加する背景には、大量生産・大量消費・大量廃棄という社会経済システムが存在する。多くの企業は依然として廃棄物の分別や収集までを視野に入れず、これまでどおりの生産活動を続けている。
コロナ禍のもとで、ゴミ収集という日常生活に必要不可欠な職場で働いている労働者に被害を及ぼさないようにしてほしいものです。
(2021年8月刊。税込1650円)

仕事の未来

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 小林 雅一 、 出版 講談社現代新書
先日、知人からAIが進んだら弁護士の仕事は不要になりますか、と質問されました。私は即座にそんなことは考えられませんと答えました。すると、だけど判例検索なんかAIを使うと、たちどころに正解が出てくるわけでしょ、と突っ込まれたのです。いえいえ、論点がきちんと設定されてから、これにふさわしい判例を探すのは、たしかにAIでやれます。でも、生身(なまみ)の人間が抱えている問題のなかから、表面上の争点と、裏に隠されている真の争点とを相談者・依頼者の態度・表情を見ながら探り出していく必要があり、そんなことはAIでやれるはずはありません。まさしく、そこに弁護士という人間の職業の存在意義があります、そう答えると、知人は、なんとか納得顔になりました。
この本でも、AIによるパターン認識で、人間の複雑な意図を理解するのは現時点では非常に難しいとされています。たとえば、歩道に立ち止まって片手を上げている人がいるとします。その人が、いったい何のために片手を上げているのか、車道を走るタクシーを停めようとしてるのか、単に上空を飛ぶ鳥を指さしているだけなのか、AIシステムは区別ができない。こんなまぎらわしい事例が実社会では山ほど存在するため、AIはとても対処しきれない。これまでAiが目立った成果を上げたのはパターン認識だけ。
あるコンサルタント会社は、AIによって世界全体で4億人から8億人の雇用が奪われる一方で、新たに5億5千万人から8億9千万人もの雇用が創出されると予想している。
顔認証システムも騙しのテクニックがすでに使われはじめているそうです。
「ディープフェイク」は、人物画像の合成技術がすすんでいて、本人がしてもいない演説を、あたかも本人がしているかのように報じているのです。
ディープ・ラーニングには「教師あり学習」が必要で、それはAIシステム開発の80%を占めている。「教育」とはいえば聞こえはよいけれど、実際には、多数の労働者が大量の写真やビデオ映像に延々と投げ縄のように丸印をつけていく単調作業。このように現在のディープ・ラーニングは多数の単純労働者や技術者らが手間暇(てまひま)かけて面倒みることによって、使い物になるというレベルにある。
顔認証システムもすでに悪用されている状況が報告されている。いやあ、怖いですね…。
ディープ・ラーニングが、インドの人たちに支えられているというのを初めて知りました。気の遠くなるような単純作業をやっている女性が何千人もいるのです。
そう簡単にAiが人間の知識に代わることができないことを、本書によって、実感することができました。
(2020年4月刊。税込990円)

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