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カテゴリー: 社会

検証・同和行政下の解放運動の光と闇

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 植山 光朗 、 出版 小倉タイムス出版部
 もう40年も前のことです。開業医の妻が相談があるとやってきました。話は、息子の結婚相手が部落出身の娘だと分かったので、やめさせたい、どうしたらやめさせられるか、というのです。私は呆れ、また怒りを覚えました。結婚は当事者の決めること、たとえ親であっても介入してはいけない。ましてや部落出身者を差別するなんてとんでもないことだと言って説教して帰ってもらったという記憶があります。それから40年たちましたが、そのあと1回も、そんな結婚差別に関わる話を聞いたことはありません。
30年前までは、あの地域は部落だと言う人がいました。でも、私の住んでいる町には、明らかに他と異なる雰囲気というところはまったくありません。実感として、部落差別は解消したと思います。いえ、一部には残っているのかもしれませんが、まったく気がつきません。
でも、差別は、いろんな場面で、現に日本社会に存在します。聞くに耐えないヘイトスピーチの対象となっている在日朝鮮(韓国)人への差別がなくなったとは、とても思えません。ゲイ(レズビアン)の人への差別、アイヌの人々への差別、そして「アカ」という思想差別も今なお強烈なものがあります。また、フィリピンやベトナム人などの東南アジアから働きに日本へやってきている人たちへの差別がないと言えるでしょうか。私は言えないと思います。
みんな違って、みんないいという金子みすずの言葉を実践するには、それだけ気持ちにゆとり(余裕)がないとできないように思います。自分が苦しいと、そのはけ口を求めて、誰かを見下して、攻撃する行動に走りがちになるのが人間の悲しい現実です。
「解同」の暴力と利権あさりは、私の町でも目に余るものがありました。私の住む町では「解同」の言いなりにならない社会党の地方議員が暴行される事件も起きました。なので、「解同」は怖いと思われ、かえって差別が温存される状況も続いていました。それも、今では過去のことです。国が、宣言したことは大変大きかったと思います。
1969年に始まり、全国4607の「同和地区」を対象に実施された同和対策特別対策事業は、33年間で16兆円を投入し、2002年3月、事業の所期の目的は達成したとして終結しました。総務省は、「国、地方公共団体の長年の取り組み等によって、劣悪な生活環境が差別を再生産するような状況は改善され」た。「特別対策をなおこれ以上続けることは、差別解消に有効ではない」としたのです。
この本で、著者は、「部落差別」は今では深刻にして重大な社会問題とはいえないとしています。たとえば、結婚について、20代、30代では8割から9割が結婚差別を体験することなく結ばれている。そして、部落差別は、人間として恥ずべき行為だとする市民的常識が確実に広がっていると強調しています。まったく同感です。
ところが、部落差別解消推進法が制定されようとしています。そこには、部落差別について、明確な定義がありません。そして、「差別意識」という個人の心の問題を法律で規制しようとしているのは問題です。抽象的で漠然とした法律は拡大解釈が容易ですから、非常に危険な法律としか言いようがありません。
私が弁護士になった年(1974年)11月に兵庫県立八鹿高校で、「解同」による教職員への集団暴行、長時間吊し上げ事件が起きました。このとき、白昼、大変な暴行、傷害事件が起きたのに、警察の対応は信じられないほど生ぬるく、しかも、一般の新聞・テレビはまったく事件を報道しませんでした。強烈な「解同」タブーがマスコミを支配していたのです。
北九州にあった「同和地区」では、10人に9人が中卒以下、新聞を購読している家庭も1割しかいなかった。ところが、生活が苦しいのに、生活保護の申請をする人は少なかった。
1964年、北九州市の生活保護率53%は全国平均の18%の3倍もの高さだった。
「解同」による暴力的な糾弾行動は善良な人々を畏怖させました。そして、幹部たちが利権あさりに狂奔しました。たとえば、「クジラ御殿」が有名になりました。
また、税制上も明らかに無法な特別待遇がまかり通っていました。北九州では解同幹部による「6億円の土地転がし」が発覚しました。そして、「解同」の糾弾の対象となった校長が自殺してしまうという悲劇が発生したのです。
八女市では、「解同」の支部役員が「差別ハガキ」を44通も自作自演していたという信じられない事件が発覚しました(2009年7月)。
小倉税務署長までつとめた「解同」顧問の税理士が脱税指南をしていたとして、実刑判決(2011年11月)が下されたことも忘れられません。
大阪に存在した旧「同和地区」では、今では9割以上の住民が地区外からの転入者になっている。もはや、「同和地区」の閉鎖的地域性は解消され、「地区」とは言えなくなっている。著者は、このように紹介していますが、私の実感にもあいます。
差別の解消は今でも大変な人権課題だと思います。でも、それは、部落差別だけではありません。人間の尊厳と個人の尊重の実現こそ目ざすべきだと著者が何度も強調しているのに、私も大いに共感します。
300頁をこす貴重な労作です。福岡自治研の宮下和裕事務局長の紹介で読みました。
(2022年11月刊。税込2000円)

国鉄

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 石井 幸孝 、 出版 中公新書
 JR九州の初代社長が自画自賛した本です。でも、私は内容にまったく賛同できません。公共交通機関であるという使命を放棄して、もうけの追求だけ。ローカル線を切り捨て、新幹線のホームに駅員を配置しないなんて、とんでもありません。そして、「七つ星」とか超高級列車を走らせ、ひたすら自慢する。本当に間違っています。
 JR九州は、「鉄道会社」であるより「不動産会社」の道を選んだ(328頁)と得意気に言い切っているのにはゾクゾクとした寒気すら覚えます。関東・関西の大手私鉄グループにならった手法です。もうかればいいという発想しかありません。多角経営、利益率の確保、それだけです。
 JR九州のスローガンは「お客さま第一」、「地域密着」。看板に偽りありです。
 鹿児島本線の特急をなくし、新幹線のホームは無人化してしまう。駅の無人化もすすめ、ローカル線は切り捨て。これで、なにが「地域密着」でしょうか。
 そして、JR九州ではありませんが、リニア新幹線なんて、不要不急かつ危険で赤字必至の路線に莫大な金額を投入しています。全国一本の国鉄だったからこそ、地方のローカル列車は存続できたのです。
 労働組合の存在もまったく影が薄くなってしまいました。国労つぶしをすすめた著者は労働者にも権利があり、憲法で保障されているなんて、まったく念頭にないのでしょうね。
 残念ながら、日本の社会を金、カネ、カネ本位というように、ダメにした張本人の一人としか言いようがありません。今なお、なんの反省もないので救いようがありません。
 私は、国鉄の分割民営化は郵政民営化と同じく日本をダメにする大きな賭け、間違いだったと考えています。最後まで腹立たしさ一杯で読み通しました。
(2022年10月刊。税込1210円)

統一教会との闘い

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 山口 広、 川井 康雄 ほか 、 出版 旬報社
 統一協会(この本では、本当は統一協会だけど、世間に広く知られている統一教会とすると断っています)と長く闘ってきた全国300人あまりの弁護士による全国霊感商法対策弁護団(全国弁連)によって緊急出版された本です。さすがに、長年の取り組みを反映して、本文は170頁ほどですが、ずっしり詰まった内容です。
 私がもっとも驚いたのは、2012年に死亡した文鮮明が教祖様であって、今も崇拝の対象とばかり思っていたのですが、今の代表者である韓鶴子は夫の文鮮明をけなしているということです。これには開いた口がふさがらないほどショックでした。
 韓鶴子は、アメリカで三男・顕進派との訴訟において、文鮮明には「原罪」があった、この文鮮明の「原罪」は、「独生女」であり、無原罪である自分と結婚したことでなくなったと証言した。これまで、文鮮明こそ「再臨のメシア」であり、無原罪だとしてきた教えを根本から否定するもの。なので、これに反発して韓鶴子派から脱退した幹部もいるとのこと。いやあ、統一協会の創始者の文鮮明を、その妻だった韓鶴子が批判するだなんて…。内部亀裂の深刻さを物語っています。
 そして統一協会は家庭平和連合として、あたかも家庭を守るように装っていますが、肝心要の文鮮明と韓鶴子の14人もの子どもたちは、両親から放ったらかされ、子育てに親が関わらず、信者まかせだったため、早死したり、事故死したり、浪費が激しくて社会的に能力がなかったり、散々のようです。実の母親と息子が利権争いをして、アメリカで10年以上も裁判を続けているというのも異常すぎますよね。
 最近、統一協会の「二世問題」の深刻かつ悲惨な状況が明らかにされつつありますが、本当に育児放棄、家庭崩壊、借金まみれ、社会的にも孤立という状況に追いやられた「二世」たちは哀れとしか言いようがありません。そんな「二世」が5万人以上もいるというのですから、大変な社会問題として放置できないと思います。ところが、そんな統一協会の幹部たちが表向きでは家庭を大切にしようというのですから、まさしく憤飯ものです。
 文鮮明は、日本を「エバ国家」と呼びました。韓国は「アダム国家」です。エバはアダムを墜落させた。「エバ国家」である日本は、「アダム国家」である韓国に侍(はべ)らなければならない。「万物復帰」として、サタンある日本の財物はすべて神(統一協会)の側に戻さなければいけないとした。
 信者に対して、国民を欺して大金を奪うが、そのとき、小さな「悪」にこだわってはいけない、統一協会に尽くすという「善」をなさないことこそが、大罪だと統一協会は説きます。
 冷静な頭で考えたら、そんなバカな…というところですが、もうろうとした頭になって聞かされた、有りがたい説教に、ついつい盲従させられてしまいうのです。
 統一協会は、文鮮明という男のホラ話を信じ込んで、本当に神が地上につかわした再臨のメシアだと絶対視する信者たちで構成されている。とはいうものの、教会のナンバー2だった郭錠煥が安倍元首相の襲撃事件のあと記者会見して「事件に責任がないとは言えない」と言ったり、大打撃を受けているようです。
 そして、一般の信者も8割ほどは自分で脱会していると山口宏弁護士はみているそうです。脱会する気になったのは、文鮮明が本当はメシアなんかではなく、単なる「ハッタリかます欲ばりじいさん」だと分かったから、という話は、聞いていて本当にそのとおりだし、むなしい日々を過ごして哀れだと思いました。
 統一協会の勧誘は、正体を隠して勧誘し、深みにはまっているところで文鮮明を登場させて、もはや抜け出せない状況に追いこむという巧妙なもの。
 信者の8割は女性。青年(男性)のほうは、もっと綿密な教化システムがある。
 統一協会問題が深刻なのは、自民党を丸かかえしていること、そして、自民党は今なお、統一協会と決別しておらず、関係を温存したまま、世間の忘却を待っていることです。その典型が萩生田光一政調会長です。萩生田議員は落選していたとき、統一協会の「教会」に何度も行って、「一緒に日本を神の国にしましょう」と言っていました。こんな議員を政調会長にしたままの自民党、そして自公政権が日本をダメにしてしまうのは明らかなのではないでしょうか…。
 いずれ日本の国民は忘れるから、しばらく黙っておこうなんていう自民党の政治を、あなたは許せますか…。私は許しません。とてもタイムリーな本です。ぜひ、読んでみてください。
(2022年11月刊。税込1650円)

過労死

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 過労死弁護団全国連絡会議 、 出版 旬報社
 KAROSHIはカラオケと並んで世界に通用するコトバです。なんと不名誉なことでしょう。しかも、過労死の企業の典型といったら、なんと日本を支配する電通です。まったくひどいものです。
 日本の過労死問題について、世界の人々の理解を広げるため、過労死弁護団は、1991年に「KAROSHI」英語版を刊行した。それから30年あまりが経過した今日でも過労死はなくなっていない。なくなっていないどころか、ますます増えそうな状況にある。
 それというのも、日本ではあまりに労働組合が弱体化し、労組への加入率は激減したまま低迷し続けていて、ストライキは現代日本では死語も同然。
 他人(ひと)への迷惑をかけたらいけないから、自分の権利主張も控えるのが当然だという風潮、他人の足をひっぱるのが「常識」になっている。いやいや、昔は日本でもストライキがあり、職場占拠も珍しくなかったのです。それは江戸時代の百姓一揆の伝統を良い意味で承継していたのです。でも、今では…。
 過労死とは、働きすぎによる過労・ストレスが原因で死亡すること。この分野で第一人者である川人博弁護士は、過労死が現代日本では毎年1万件ほど発生していると推定している。厚労省が労災と認定する脳・心臓疾患や精神症疾患等の疾病(死亡を含む)は毎年800件で、そのうち死亡者は200件。これは氷山の一角。
 過労死弁護団連絡会議が設立したのは1988年6月のこと。最初の10年間は、死因のほとんどは脳卒中や心臓病死だった。
 1998年以降は自殺が急増した。そして、40代、50代の男性が多かった。
 1998年以降は20代、30代の労働者のケースが増え、女性のケースも増えている。
 過労死KAROUSHIは3K、Karaoke、Kaizenと並んで、世界的に有名な日本語。
 日本の労働組合は、欧米に比べると、活動力が弱い。そのうえ、組織率は17%だけ…。
 労働時間が1日に12~13時間、2週間連続勤務、月350時間労働、そして、年間4000時間をこえる過重労働。これでは病気にならないほうが不思議ですよね。
 電通に入った東大卒の高橋まつりさんは、上司からのパワハラもひどく、24歳になったばかりのクリスマスの朝に、会社の借り上げ寮から投身自殺。
 「今週10時間しか寝ていない。1日2時間の睡眠時間」なんて、信じられません。
 ところが上司は、こう言ったのです。
 「会議中に眠そうな顔をするのは、管理ができていない」
 「髪ボサボサ、目が充血したまま出社するな」
 「今の業務量で辛いのは、キャパ(能力)がなさすぎる」
 まつりさんは、こう書いています。
 「死にたいと思いながら、こんなにストレスフルな毎日を乗り越えた先に何が残るんだろうか」
 将来ある若い女性をここまで追い込む会社に存在価値があるのか、疑ってしまいます。ところが、先日の東京オリンピックの汚職事件の主要な舞台もまた電通でした。
 そして、アベ首相を押し上げていたのも電通。どこか、狂っているとしか言いようのない会社が日本を表でも裏でも動かしているのです。ここまでくると、日本の社会がおかしくなっている責任の一端が電通にあると言って、言い過ぎではないと私は思います。
 労災認定された過労死は2002年の160人を最高に、近年は減少傾向にある。それでも2020年は67人もいた。過労自殺のほうは、1999年の11件が少し増え、過去13年間は63~99人で横ばい。2020年は81人。2020年の過労死と過労自殺者の合計148人は、業務上死亡802人の2割を占めている。
 長時間労働は、うつ病、不安障害、睡眠障害の原因になる。
 メンタルヘルス休職者比率の高い企業のほうが、時間の経過とともに企業の利益率は悪化していく。
 では、電通はいったいどうなのでしょうか。相変わらず、超々大儲けしているように外見上は見えますが…。川人博弁護士は、過労死は、日本社会の構造的な原因によるものだと断言しています。本当にそのとおりだと思います。
 労働組合なんて、あってないような存在と化している現代日本において、労働者が自分の生命・健康そして基本的な権利を守り、主張することがとても難しくなっています。でも、あきらめてはいけません。そのための手引書もたくさん出ています。ぜひ活用したい本です。
 長年の知己である川人博弁護士から、本書の英語版と一緒に贈呈していただきました。ありがとうございます(英語版のほうの活用は検討課題です)。
(2022年12月刊。税込1430円)

決戦!株主総会

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 秋場 大輔 、 出版 文芸春秋
 ドキュメント、LIXIL死闘の8ヶ月。辞任させられたCEOが挑んだ勝目の薄い戦いは、類例を見ない大逆転劇を生んだ。これが、サブタイトルであり、オビの文章です。
 創業者の一族がいつまでも大企業を牛耳るというのは、まるで感心しませんが、天下のトヨタも相変わらず創業者一族がトップなのですから、嫌になります。こうやって、下々の庶民階級とは別レベルの上流階級が日本の支配層として君臨しているのでしょうね・・・。
 創業家出身者といっても、株式自体は3%しか持っていないのです。なのに、天下の大企業を支配できるというのは、どんなカラクリがあるのか・・・。それも知りたくて読みすすめました。
 3%しか持っていない少数株主であり、会社に顔を出すことも滅多になく、月の半分以上はシンガポールで過ごしているというのに、日本の大企業を牛耳って、自分の思うように動かすなんて、信じられません。シンガポールでは、骨董品を収集したり、プロの声楽家を呼んで発声練習したり、悠々自適の生活。こんな生活を送りながら、鋭敏な経営感覚を持ち続けるなんて、ありえないことだと、しがない弁護士でしかない私は思います。
 ところが、世の中には、現場の実務なんて経営者は知らなくてもいい、大きな方向性を打ち出すだけでいい、そう考える人がいるのです。驚きです。
株主総会をめぐる死闘において、その背景にうごめいているのが弁護士。この本では、森・濱田松本法律事務所ともう一つ、西村あさひ法律事務所が登場します。CEOの解任が正当な手続を踏んでなされたのかどうかを検証する委員会が立ち上げられ、そこにも弁護士が関与しています。問題は、その内容を会社として、どういう形で外部に公表するか、です。あまりに会社に不利なないようだったら、会社としては隠しておきたくなりますよね。
財界、経済界の人脈は大切なようです。麻布・開成・武蔵という「私立御三家」の人脈、そして東大の人脈も登場します。私のような田舎の名もない県立高校の出身だと、人脈なんか、何もないわけです。大企業に就職しなくて本当に良かったと思います。
 アクティビストとは「物言う株主」。臨時株主総会の開催要求を常に視野に入れている。
プロキシーファイトとは、委任状・争奪戦のこと。ここでも弁護士の助言が求められます。機関投資家は、アクティブ投資家と、パッシブ投資家に大別できる。
こんな有象無象と渡りあう仕事なんて、私は絶対やりたくありません。なんで、こんな職業に大勢の若い人が興味があるのでしょうか・・・。私には理解できません。地方で人間と向きあっていたほうが、やはり一番私の性にあっています。田舎で弁護士をやるって、本当に面白いのですよ・・・。
(2022年6月刊。税込1870円)

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