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カテゴリー: 社会

肩書きだけの管理職

カテゴリー:社会

著者:安田浩一、出版社:旬報社
 企業側に立って労働事件を手がけることの多い、私の親しい弁護士が、先日、今のサラ金・過払金バブルのあとには、無償残業の不払い賃金請求事件が激増するだろうという予測を語っていました。なるほど、そうかもしれません。
 この本は「名ばかり管理職」の非情な労働実態を鋭く告発しています。ひゃあ、そんなにひどいのかと私も少なからず驚きました。本当に衝撃を受けるほどでした。これでは、まるで現代にも奴隷労働があるじゃないかと思ったほどです。一家団らんなんて、夢のまた夢。それどころか、過労死が迫っているのです。今や、カローシ、としてカラオケ並に世界的に有名になってしまった、日本を代表する嫌な言葉です。
 高野氏は1987年にマック社に入社した。マック社は、今、日本全国に3800もの店舗を展開している。マックは、基本的につくり置きせず、しかも1分以内に商品を出す。そこにあるのは、安かろう悪かろうだ。
 私は、この30年間、一度もマックを食べたことのないのを誇りに思っています。化学薬品みたいなものを食べられるものか、という気持ちです。マックにはどれだけの食品添加物が入っているのでしょうか。そして、牛肉。どこで生産されている牛なのでしょうか。アマゾンの原生林を焼き払って牧場に変え、牛を生産しているという事態は変わったのでしょうか。人工飼料による安上がりの牛肉生産方式は、今も続いているのではありませんか・・・。
 マック社は1994年から、アメリカ本社主導で経営改革をすすめた。すべての商品を値下げした。殺伐とした社内の雰囲気。そして、異常な長時間労働。
 日本マックの創業者(藤田田)が2004年に死んでも、マック社は何もしなかった。マック社にはアメリカ流のドライな経営手法が導入された。成果主義は店長の給与ダウンをもたらした。厳しい売上目標とノルマを社員に課した。高野店長は、時間外労働が月100時間をこえ、1ヶ月に3日休めるかどうか。
 管理職と管理監督者とは、まったく異なる存在である。管理職とは、
 ? 職務内容や職務遂行上、経営者と一体的な地位にあるほどの権限を有し、これにともなう責任を負担している。
 ? 本人の裁量で、勤務時間を自由に調整できる権利を有している。出退勤は自由。
 ? その地位にふさわしい処遇を受けている。
 というもの。ところが、高野店長は、このどれにもあてはまらない。まさに、「名ばかり管理職」だ。マック社は、全世界で労働組合への敵視政策をとっている。
 中島氏がすかいらーくに入社したのは1979年。すかいらーくは、「小僧寿し」「ジョナサン」「バーミヤン」「ガスト」などを経営している。
 店長の中島氏は、毎日の拘束時間が最長17時間40分、最短12時間30分。休日は1日のみ。毎月の平均残業時間が150時間。す、すごーいですね。いえ、ひどいです。非人間的な長時間労働です。
 「セブン・イレブン」は日本全国に1万5000店舗をかまえている。労組はなかった。店長の年収は平均400万円。実際、店長の裁量が及ぶ余地などない。防犯用の監視カメラで、休憩時間中に漫画雑誌を読んでいるのを「発見」されて、店長からヒラ社員に降格された。「店長としてふさわしくない」というのが表向きの理由だ。これまた、ひどいです。
 紳士服の『コナカ』では全社員1000人のうち、店長は400人もいる。店長こそ一番早く出勤しなければいけない。開店時間の1時間半前、午前8時30分、店長は店舗のカギを開ける。ノルマを達成するため、社員が自腹で購入する。それは年に30万円ほどになる。これも、ひどいですね。
 店長は税込み月収35万円。ボーナスは年2回、50〜70万円。最低でも1日に13時間は拘束される。労基署が立ち入り調査した。その結果、一般社員720人に対して、未払い残業代として9億円が支給された。店長など管理職400人に対して、特別賞与として4億7000万円が支給された。
 あまりにもひどい労働実態が描かれています。まさに搾取です。これでは現代日本で『蟹工船』が飛ぶように売れ、マルクスが見直され、日本共産党が脚光を浴びるのも当然です。
 庭にグラジオラスの花が咲いています。淡いピンクの花はほのかな色気を感じさせます。ヒマワリに囲まれて、ひっそりと黒紫色に近い濃紺のグラジオラスもあります。
 カンナの花が咲きはじめました。黄色い花に赤の斑(ふ)が入っています。私のお気に入りの色です。本格的な夏到来を示す情熱の花です。
 夏の庭は大変な勢いで雑草がはびこるので、日曜日にあちこち整理して、少しスッキリ感を出しました。
 夜、ホタルを見に歩いて出かけました。2週間前とちがって、チラホラ飛んでいるだけでした。九州北部は、まだ梅雨入りしていないようです。
(2007年12月刊。1300円+税)

朝令暮改の発想

カテゴリー:社会

著者:鈴木敏文、出版社:新潮社
 私はコンビニをなるべく利用しないようにしています。従来型のパパ・ママ・ストアーをつぶしたくないからです。でも、出張したときなどには、コンビニを利用せざるをえません。だって、他に店がなければ選択の余地がないからです。
 この本によると、今や「セブン・イレブン」は日本全国に1万店舗をこえます。一国内の店舗数では世界最大規模。ところが、四国、北陸、山陰など、13の県には1店舗もありません。これをドミナント戦略と言います。ドミナントとは、高密度多店舗出店と言われます。ドミナント戦略は、経営面では物流やシステム、広告、店舗指導等の各面での効率向上などの効果が期待できる。出店地域の消費者に対しては心理的な面で及ぼす影響が大きく、爆発点をもたらす一つの仕掛けになっている。
 うへーん、「セブン・イレブン」って、日本全国どこにでもある店かと思っていましたが、違うのですね。それはともかく、1万店舗を統率するリーダーの言葉には重みがあります。
 過去の経験をなぞる時代は今や完全に終わった。環境が激変し、マーケット全体が縮小(シュリンク)し、アゲンストの風が吹くなかで、仕事の仕方はかつてなく難しくなった。今は、一度言ったことでも、環境が変化して通用しなければ、すぐに訂正して新しい方針を示さなければ変化に取り残されてしまう。朝令暮改をちゅうちょなくできることが優れたリーダーの条件の一つとなっている。
 必要なことは、もう一人の自分を置いて、自分を客観的に見つめ直すこと。自分は過去の経験にとらわれていないか、前回と同じやり方を繰り返すので挑戦にならないのではないかと、「もう一人の自分」から自分をとらえ直す。そして、過去の経験をいったん否定し、一歩ふみ込んで考えてみること。
 顧客がその商品を買うか買わないかは、心理によって大きく左右される。単に需要があれば売れるわけではなく、顧客に買うだけの価値ある商品であることを心理的に認知してもらえなければ、買ってもらえない。まさに心理学の時代である。
 日本の消費者は世界でもっとも対応が難しい。そして、日本ほど「画一化」が進んだ国はない。そうなんですよね。日本人って、ホント、横並び心理が強いですよね。あの人が持っているのなら、私も持っていなければ、と思ってしまうんです。
 日本ではソフトドリンクだけでも毎年1000種類もの新製品が生まれ、そのほとんどが半年、早いものは2週間で店頭から消えてしまう。セブン・イレブンで扱う商品も、年間7割が入れ替わる。これほど商品のライフサイクルが短い国は日本以外にない。
 セブン・イレブンでは、毎週20〜30アイテムの新商品が登場している。
 会議は90分まで。生産性の低い仕事の典型は、多すぎる会議と、そのための膨大な資料づくり。
 人間は、妥協するより、本当はこうありたい、ああありたいと思っているときの方が精神的に安定するものだ。守ろうとする自分があることも認めながら、新しいことに挑戦しようと意欲を持ち続ける。それが人間本来の生き方ではないか。要は自分から逃げないこと。
 コンビニ必要悪論者である私も、大いに学ばされる本でした。
(2008年1月刊。1400円+税)

「非国民」のすすめ

カテゴリー:社会

著者:斎藤貴男、出版社:ちくま文庫
 戦前、「アカ」と呼ぶと、人間でないエイリアン(異星人)のように思われ、人権無視があたりまえという風潮があったようです。同じようなことは、現代日本でも残念ながら「健在」のようです。「アカ」と同じ意味でつかわれるのが「非国民」です。そんなことを口走る人物がどれほど「国を愛して」いるのか疑わしいところですが、政府・文科省が「愛国心」教育にやっきとなっているところをみると、権力を握る人々からみて、「愛国心」という従順な心をもった人が少なくなっているのは問題なのでしょう。
 でもでも、よく考えてみたら、日本国を守ることが自分の家族を守るのと同じくらいに大切なことだと思ったら、自然と、そのような行動をすることになるのではありませんか。いまの日本って、それほど守りたい国なのかどうか、もう一度考え直したほうがいいと思います。だって、75歳になったら、それ以上、長生きせずに、ほどほど医者にかかって、早く死んでくれと言わんばかりの後期高齢者医療制度というのが、世界に冠たる「長寿国」日本で始まったばかりなのですから・・・。これって、信じられないほど人間無視の政治です。これを推進している厚労大臣が老母介護に挺身し、そのため実姉とも派手にケンカしたという人物なのですから、世の中は奇怪至極です。
 日本のマスコミのレベルは、週刊誌の見出しを見ていたら分かります。タレントの不倫や離婚騒動なら何頁にもわたって特集しても、アメリカのイラク侵略戦争の実情レポートなんてまったくしません。日本政府が渡航自粛と言えば、それに素直に従うだけ。ところが、そこは戦争のない安全地帯のはずなのです。そして、日本人がイラク戦争反対のデモや集会をしても、ニュース価値がないとして、ほとんど黙殺するだけ。いったい、マスコミって、どうなっているんでしょうか・・・。
 私たち団塊世代より10年遅れた世代である著者は、何もかも、悪いのは団塊世代だと決めつけています。団塊世代は、親として、「私生活主義」をこえたメッセージを子どもたちに発信しなかった。私生活主義は、生活保守主義とほぼ同義である。
 なるほど、団塊世代に日本を悪くした大きな責任があることは認めます。でも、日本を良いほうにしたことも認めてほしいのです。それは、なんといっても、自由と民主主義(もちろん、自民党のことをさしているわけではありません)が大切なこと、それが日本の社会にそれなりに定着していることは否定できないと思うからです。いかが、でしょうか。
 いま、「ゆとり教育」の見直すが始まっています。この「ゆとり教育」を言い出した、教育課程審議会の三浦朱門前会長(作家)は、「できん者は、できんままで結構」とホンネを語る。
 「日本は、戦後50年、落ちこぼれの底辺を上げることにばかり注いできた労力を、できる者を限りなく伸ばすことに振り向ける。限りなくできない非才、無才には、せめて実直な精神だけを養っておいてもらいたい。それが『ゆとり教育』の本当の目的。エリート教育とは言いにくい時代だから、回りくどく言っただけのこと」
 フィンランドの教育の理念は、まるで、これと反対です。それが全体としての国の活性化につながりました。一部の人を伸ばそうとしても、結局のところ、国の荒廃がすすんで失敗するだけなのです。ところが、それに気がつかない人があまりに多いのは悲しいことです。
 いま庭にツバメ水仙の花が咲いています。紅い折り鶴が飛んでいるような面白い形をした変わりダネの水仙です。百合の花も咲きはじめました。すかし百合です。白にピンクのふちどりがあり、爽やかな花です。先日うえたアスパラガスが早くも芽を出しています。ヒマワリがぐんぐん伸びて、初夏の近さを思わせます。
(2007年7月刊。780円+税)

僕たちの好きだった革命

カテゴリー:社会

著者:鴻上尚史、出版社:角川学芸出版
 実のところ、読む前は全然期待しておらず、車中で昔の学園紛争についての資料みたいに軽く読み流すつもりでした。ところが、さすがはプロの書き手ですね。次はどういう展開になるのか知りたくて、ぐいぐいと引きこまれてしまいました。
 今から40年前、学園闘争を果敢にたたかった人たちが、その後どんな仕事と生活をしているのか、私も大いに興味と関心があります。この本は、30年前の学園闘争のとき機動隊に頭を直撃されて植物人間となった高校生が、30年後に目が覚めて現代の高校に復学したという、とてもありえない設定で始まります。今どきの高校生と30年前の高校生徒で話が合うはずはないのですが、そこは同じ日本人なのです。いつのまにか共通するところが出てくるのが不思議なところです。
 しかも、現代の高校の教頭先生が実は30年前の全共闘のリーダーであったり、今どきの高校生の親たちが、実は、かつての全共闘の活動家だったりするわけです。となると、内ゲバの悲劇も登場せざるをえません。そうなんです。そのトラウマを今も引きずっている母親がいたのでした。
 これらを一つのストーリーに仕立てあげて読みものにするあたりは、私に真似できそうもない小説家の技(わざ)ですね。
 「オレたちは夢を見ていたのかもしれん。マルクス主義という夢、人類の平等と解放という夢、だがなあ、おまえが30年ものあいだ寝ているあいだに、ソ連を初めとする社会主義国は、続々と崩壊したんだ。あの当時の理想は消え去った・・・」
 「そんなことじゃない。あなたは賢いから、マルクスとか、いろんなことを考えていたでしょう。でも、ぼくは、自分たちの文化祭だから、自分たちだけでやりたい。自分たちの文化祭の内容を先生ではなくて自分たち生徒が決めるのはあたり前、それだけだったんですよ。それって間違いなんですか?」
 団塊世代よりちょうどう10年若い著者による本です。この本を読んで学園紛争とか全共闘について関心をもった人には、『清冽の炎』(神水理一郎。花伝社)をおすすめします。相変わらず売れていないそうです。私は、なんとか売れるように必死で応援しています。
 食事をすませ、夜、うす暗くなったころ、歩いて近くの小川に出かけます。ホタルに会いに行くのです。夜8時ころがホタルの飛んでる時間です。道端をフワリフワリと飛んでいます。そっと両手でつかまえ、ホタルの光を指のあいだにしばらく眺め、また放してやります。ホワンホワンと光るホタルって、すごくいいですよ。手にのせても、まったく重さを感じません。童心に帰るひとときです。
(2008年2月刊。1700円+税)

同盟変革

カテゴリー:社会

著者:松尾高志、出版社:日本評論社
 自衛隊の本来任務は、自衛隊法第3条に規定されている。それ以外のものは付随的任務であって、本来任務に支障のない限り行うという扱いだった。そして、海外展開任務は、自衛隊法では、雑則あるいは付則に入っていた。ところが、それを全部まとめて3条2項をつくって本来任務とした。
 たとえば、アフリカに派遣された自衛隊の駐屯地のそばで暴徒があばれ、現地の政府軍が発砲して大騒動になったとき、見張り台の上にいた自衛隊員は、命令の前に逃げていた。命令がないのに逃げるのは軍隊ではない。
 また、自衛隊がトラックで物資を輸送するとき、自衛隊には警護の任務は付与されていないため、外国の軍隊に警護を依頼せざるをえない。このように自衛隊は、軍隊でありながら、国際法上の軍隊としては海外に行けない。
 さらに、軍刑法のない現状では、自衛隊は刑法にしばられて行動する。裁かれるのは地裁である。これでは軍として動けない。海外展開を本格的にしようと思えば、軍刑法と軍法会議が、どうしても必要だ。
 これから自衛隊が海外展開するにあたってのネックになるのは、武器使用の問題である。
 海外展開の最初は1992年のPKO法によるもので、武器使用は個人判断であり、刑法にいう正当防衛と緊急避難だけだった。
 防衛省に昇格して発表されたロゴマークは、日本を守る自衛隊ではなく、世界平和のために戦う自衛隊への大きな転換・変質を如実に示している。
 そういわれると、まさにそのとおりの図柄です。みなさん、よく見てやってください。
 イラク戦争の実質的な責任者であるアメリカ中央軍のアビザイド司令官は、記者会見のとき、「イラクでは古典的なゲリラ型の戦闘がアメリカ兵に対して行われている。われわれの軍事用語でいうと低強度紛争だが、まさにこれは戦争だ」と述べた。
 自衛隊はアメリカ軍とのあいだでACSA(日米物品役務相互提供協定)を適用し、自動車部品や燃料などの物品や輸送などの役務を提供することとし、2003年12月、イラク作戦実施中のアメリカ中央軍と自衛隊の詳しい取り決めをした。自衛隊が海外でACSAを適用するのは初めて。
 自衛隊はイラクに派遣するにあたって、初めて「部隊行動基準」を決めた。これは国際的には「交戦規則」と言われるものであるが、憲法によって自衛隊には「交戦権」がないため、「交戦規則」と言えなかっただけのこと。
 アメリカ軍の部隊編成において、実は「在日米軍」とは、「日本の領土・領空・領海に存在する」米軍をいう。したがって、日本の領域から離脱すると、その米軍は「在日米軍」ではなくなる。
 現在、横田基地には、アメリカ第5空軍司令部とともに、在日米軍全体を統括する日米軍司令部が置かれている。この2つの司令部の司令官は実は同一人物が兼務している。1人の空軍中将が「2つの帽子」をかぶっている。
 昨年6月に急逝してしまった著者の貴重な論稿を集めた本です。
(2008年3月刊。2700円+税)

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