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カテゴリー: 社会

自衛隊のジレンマ

カテゴリー:社会

著者   前田 哲男 、 出版   現代書館
 いやあ知りませんでしたね。
 3.11のとき、航空自衛隊がモタモタしているうちに津波で戦闘機18機をふくめて28機が冠水して全滅していたというのです。この航空機の損害は、なんと2300億円です。ええーっ、嘘では、ご冗談でしょ、と言いたいです。近くの海上保安庁からは2機が離陸して観測任務についていたというのですから、1時間のうちに緊急発進できなかったはずはない。著者はこう指摘しています。まことにもっともです。こんな重要な失態は報道されず、震災での救助活動ばかりを報道したマスコミって、信用ありませんね。プンプンプン・・・。
 自衛隊の海外派遣任務というのは、すべてワシントン発の外圧に日本政府が従う構図によってつくられてきた。
 アメリカ高官から「旗を見せろ」とどやされてインド洋に海上自衛隊補給艦による無料ガソリンスタンドを開業(私たちの血税を惜しげもなくばらまきました)、次に「軍靴で踏みしめろ」と言われてイラク戦争に陸上自衛隊の土建会社を設立したという具合だ。いずれも、国民合意のもとで送り出されたものではない。
ただ、護憲派にも怠慢がある。九条を維持するなかで、どのようにして日本の安全を守るのか、それを正面から議論してこなかった。こうすれば日本国民の安全と安心を守れるという選択肢を示す努力を怠ってきた。
 なるほど、そうなんですよね。遅まきながら日弁連も今、政府の防衛計画大網をきちんと議論しようと呼びかける意見書を準備しているところです。
 紅海に近いジブチに自衛隊は海外恒久基地をもつことになった。そこには、交替要員や後方隊員までふくめると総勢1000人もの日本人がいる。「専守防衛」のはずの自衛隊がそこまでやっていいのか・・・?
 これは明らかに憲法からの逸脱ではないのでしょうか。そもそも、ソマリア沖の「海賊」取り締まりのために、海上保安庁ではなく自衛隊が出動するというのも疑問です。
 マラッカ沖の「海賊」対策のときには、JICAと海上保安庁が主役で、うまく対処できたという実績があるのです。ソマリア沖の海賊を逮捕して日本の裁判所で裁判しようとしても通訳の確保から難しいという問題があり、東京地裁では裁判が進行できずに困っている。そんな話を東京の弁護士がしていました。
 いま、日本の防衛費は年間5兆円。これは世界第4位。海上自衛隊は、今や空母まで持っている。「ひゅうが」は護衛鑑ということになっているが、外観上はヘリ空母にしか見えない。イギリスの『ミリタリー・バランス2011』には、空母1、巡洋鑑2、駆遂鑑30、フリゲート16、潜水艦18と記載されている。これが「世界の常識」である。
 日本の軍事費の伸びは中国の軍事費の伸びをはるかに上まわっていて、中国を批判する資格はない。
自衛隊は、自らのHPには英語で陸軍と明記している。
アメリカの原子力空母「ジョージ・ワシントン」は横須賀港を母港にした。これは出力120万キロワットの原子炉が首都・東京のすぐ近くに浮かんでいることを意味している。
 アワワ・・・、恐ろしいことです。こんな既成事実が積み上げられてはいますが、それでもなお九条はしばりとして生きています。
核兵器は保有できない。長距離爆撃機は持てない。もっぱら攻撃を目的とする空母などの攻撃的兵器を持つこともできない。
 もし日本に九条がなく、自衛軍があったら、韓国と同じようにアメリカの下でベトナム侵略戦争に加担させられ、日本の青年が多く戦死していたであろうことも間違いない。
 日本の国を九条とともにどうやって守るか、アメリカとの対等な外交関係を回復するにはどうしたらよいか・・・。日本の自衛隊の現実を私たちはもっと知ったうえで大いに議論する必要があると思いました。
 一読に値する本としておすすめします。
(2011年7月刊。2000円+税)

泥のカネ

カテゴリー:社会

著者   森 功 、 出版   文芸春秋
 ゼネコンの談合は、裏金をつくり出し、総工事費の3%が政治家と暴力団に流れていきます。大型公共工事というのは、みんな私たちの血税ですから、いわば税金で暴力団を養っているようなものです。ここにメスを入れなければ、暴力団はいつまでたっても日本からなくならないと思います。
 市長や市議会議長、そして警察署長を先頭にデモ行進をし、暴力団事務所の前でこぶしを振り上げて唱和するだけでは決して暴力団をなくすことは出来ません。みんなそれを知っているのに、市民の前でポーズだけとってマスコミがもっともらしく報道するという構図が長く続いていますが、私にはどうにも解せません。
民主党の元代表である小沢一郎は、数いる実力派の国会議員のなかでも抜群の集金力を誇ってきた。その資産形成に対する熱の入れようは類を見ない。小沢一郎は政治資金管理団体「陸山会」をはじめ、政治団体を駆使し住宅用地やビル、マンションを買いあさってきた。普天間基地の移設候補地の近くにも土地を所有している。
 ところで、政治団体には法人格がない。そのため、政治団体が購入したといいながら、不動産の名義人は小沢一郎個人になっている。まるで政治資金による資産の形成だ。
 小沢一郎の所有報告書によれば、歳費などの収入をふくめて小沢一郎の個人的な資金の移動は1年を通して平均3000万円ほどでしかない。しかし、秘書用住宅敷地の購入には現金4億円が動いている。そして、銀行から4億円を借りてそれで土地を買ったかのように見せかけた。
 小沢一郎の秘書だった大久保は西松建設に対して、こう言った。
「おたくらが取った胆沢ダムは、小沢ダムなんだ。今後も協力してくれないと困るよ」
 小沢事務所による「天の声」に怯え、建設業者たちは、せっせとゼネコンマネーを小沢一郎に貢いでいた。
 鹿島建設東北支店と小沢事務所の両輪が東北談合組織の頂点に君臨し、公共工事を歪めてきた。
 田中角栄は建設族議員のドンであり、中央の大型公共工事の受注額の3%を製磁献金する「3%ルール」を確立した。
 2005年5月、水谷建設の本社事務所に見るからにヤクザが一人乗りこんできて、拳銃を2発、社員の足元と天井を目がけて発射した。ところが水谷建設は被害届を出さなかった。そのため、発砲そのものは不問に付された。水谷建設が発砲事件を伏せたのは、世間体を気にしたせいだけではない。裏社会との蜜月に慣れているからだ。建設業界とアングラ勢力との腐れ縁は、そう簡単には断ち切れない。
 建設業界では、談合担当者のことを「業務屋」と呼ぶ。談合組織には、運営委員会社という名称の中核メンバーがいる。大手の業務屋を筆頭に、ランク上位10社程度がそれにあたり、調整機能を果たす。
私も一度、この業務屋をしていたという人の経験談を聞いたことがあります。それはそれは苦しい話でした。メモを一切とらないでコソコソと談合をすすめていく。談合破りを許さない仕掛けもある。そして、いつも日陰の身として生活しているというのです。まったく非人間的な生活のようです。
  太田房江が大阪府知事選挙に立候補し、当選したときには、大阪中の業務屋が一堂に会して応援した。
 日本の政界では、建設業界の政治献金の多くが選挙に費やされ、ゼネコン業界そのものが集票マシーンとして機能してきた。ゼネコンの選挙応援は、まず「選挙人名簿」の作成から始まる。1社平均250票の集票力だ。ゼネコンの談合担当者は、正式な選挙応援要負ではなく、あくまで裏部隊だ。
政治家へ渡るのは、必ず成功報酬、つまりあと払いだ。先出しの話には危なくて乗れない。
ゼネコンは中古重機を海外で売って、設けた利益の大部分が裏金になる。たとえば1億円のブルドーザーの帳簿価格は4千万円。これを4千万円で売れたようにして、差額の5千万円ほどが宙に浮き、それが裏金になる。これを裏帳簿取引、B勘定という。
 小沢一郎という人は民主党の元代表でありながら、国会を通じて釈明するということをまったくしていません。これって国民をまったくバカにしていますよね。
(2011年6月刊。1500円+税)

漢文法基礎

カテゴリー:社会

著者   二畳庵主人、加地 伸行 、 出版   講談社学術文庫
 この本はZ会(増進会)の機関誌に連載されていたものがもととなっているそうです。私も、昔々、Z会には大変お世話になったという思いがありましたので、ちょっくら読んでみようかなと思ったのです。昔に戻って漢詩や漢文の世界に少しばかり浸ってみるのもいいかなという気分もありました。読んでみると、知らないこと、忘れたことがこんなにも多いのかと驚くばかりです。
 高校時代、もう塾には行かなくなりましたが、Z会の通信添削だけはせっせと書いて送ったものです。返送されてくる答案の赤ペン添削が楽しみでしたし、毎号の成績優秀者欄をみて、私もぜひ載りたいと思っていました。
日本人が西洋話を学ぶとき、話すことより読むことを長じていく一つの理由は、訓読の伝統があるから。奈良朝以来、鍛えに鍛えて練り上げられた訓読の技術が知らず識らずのうちに伝承されている。奈良時代、漢文は音読していた。音博士(おんはかせ)という官職があり、この漢字はどう発音するか、ということを担当していた。
 日本語を使って、外国語をそのまま直接に読みとっていくという、世界でも珍しい「訓読」という傑作が完成した。
閑語休題は「さて」と読む。
 一任は「さもあらばあれ」と読む。
 聞説は「きくならく」と読む。
 就使は「たとひ」と読む。
 漢文では、主語は必ずしも置いておく必要はなく、格や動詞の変化がなく、単複の区別もほとんどない。だから、英語には似ていない。
 日本語では、第一にテ・ニ・ヲ・ハ・すなわち助詞が十分に使いこなせなければならない。その次に大切なのが助動詞である。日本語の微妙な表現は、この助動詞の用法にある。
 漢文には、この日本語における助詞・助動詞・活用の三点が欠けている。したがって、漢文を日本語として読むことの真相は、実はこの三者をつけながら読むということなのである。そして、三者をつけたものを送りがなという。
 なーるほど、そういうことなのですね・・・。
 自は、「みずから」と読んだり、「おのずから」と読んだりする。このとき、積極的とか消極的という区別はつける必要がない。
 日本語は、外国のことばをどんどん吸収できることばである。というよりも、外国のものを吸収する必要に迫られていたからこそ、そういうことのできる言語体系となってきた。
 朱唇皓歯(しゅしんこうし)とは、朱(あか)い唇、皓(しろ)い歯、すなわち美人のこと。
 処女とは、処家女、すなわち「まだ家にいる女」ということ。もちろん、女は「むすめ」と読む。まだ家に居る娘のことである。
庶幾(しょき)は「こひねがはくは」とも「ちかし」とも読む。
 「・・・するところの」調の文章は、明治以前にはそう多くなかった。関係代名詞の訳語として採用されてから百年、重要な文章語となった。
世の中には受験勉強をケナしたり、バカにするバカがいるが、彼らは近視眼的に批判しているにすぎない。受験勉強のなかで、日本語がどれだけ練り上げられてきたかを忘れている。
 ふむふむ、そういう見方もできるのですか・・・。なーるほど、ですね。この本を読むと、そうかもしれないと思えます。
 平成になってから漢文を古典の素養として勉強しようという雰囲気の受験生が激減した。なるほど、そうかもしれませんね。でも、漢文っていいですよね。いい調子で漢詩を朗じてみると、気分まで良くなりますよ。受験漢文を久しぶりに再読して漢詩の良さを再発見した気分です。
(2010年12月刊。1650円+税)

世界が見た福島原発災害

カテゴリー:社会

著者   大沼 安史 、 出版   緑風出版
 福島第一原発の爆発事故については隠されていること、報道されていない事実があまりに多い気がします。知らされると国民がパニックを起こしてしまうからだと当局は強弁するわけですが、隠されるとかえってパニックも拡大して起きるのではないでしょうか・・・。
 今回の福島第一原発の事故をめぐる日本政府の「情報統制」はすさまじかったし、今なお、すさまじい。新聞だけでなく、電波メディアも翼賛報道を続けた。
 福島第一原発の事故による放射能雲の拡散を世界中の人々の意識に乗せたのはオーストラリア中央気象局の解析をスクープした「ニューサイエンティスト」誌の功績だ。しかし、実は、日本政府も同じような解析データを持っていた。ただ、その解析データを国民の目から隠していた。
 国連もIAEAも、飯舘村の測定値を見て、日本政府に避難を勧告した。しかし、日本政府は勧告を無視した。
 アメリカの原子力規制委員(NRC)は情報書において、核燃料の高熱化と溶解が続けば、溶解放射能物質のかたまりが長期間にわたってなくならず、放射能物質の放出を続けることもありうると指摘した。私が今心配しているのは、まさに、この事態です。いったん核燃料棒は溶けてしまって、どうなったのでしょうか・・・。その処罰は、誰が、どうするというのでしょうか。ここが明確にならない限り、事故対策の根幹は明らかになったとは言えませんよね。
NRC報告書は、「使用済み核燃料プール」から、核燃料の破片・粒子が1.6キロメートル先まで吹き込んだとしています。これが本当なら、大変なことです。その破片・粒子はきちんと回収されたのでしょうか。現在の保管状況は安心できるのでしょうか?
 「フクシマ」事故の深刻さは、かえってアメリカ連邦議会において明らかにされた。
 なんということでしょう。日本の国会は何をしていたのですか。まさか、ずっと内輪もめばかりではないでしょうね。
 日本政府が日本国民に対して隠していた情報は、実はアメリカの関係企業には筒抜けになっていた。
 フランスのアレヴァ社の女性社長(CEO)であるアトミック・アンヌと呼ばれる女性は、フクシマ後の事故処理・廃炉という途方もなく巨大なビジネスのパイを、フランスと英国、そしてアメリカとロシアとのあいだで山分けする考えだった。
世界的な理論物理学者である日系アメリカ人のカクミチオ教授は、フクシマの危険性を次のように語った。
 フクシマは安定しているように見えるが、ちょっとした余震あるいは配管のもれ、作業員の避難などで三機ともメルトダウンを起こしかねない状態だ。
 いやはや、とんだ「安全神話」でした。指先で崖にぶら下がっていて必死にこらえている状態が、今の安定的状態だ、ということです。
 福島の子どもたちは、いまドイツの原発の作業員並みの放射線量を浴びながら、日々、学び舎で勉学にいそしむことになった。つまり「フクシマ」では、なんと「校庭」に「原発」が来ていることになる。こんなたとえは恐ろしいばかりです。
 アメリカは80キロ以内の避難勧告を今もって解除していないとのこと。それだけ放射能の恐ろしさを重視しているわけです。日本政府の、このもたつき、東電をはじめとする日本の財界の開き直りには同じ日本人として底知れない恐ろしさを感じます。許せません。
 世界的な視点で今回の原発事故をみてみる必要があることを痛感した本でした。
(2011年6月刊。1700円+税)
 日曜日に庭仕事をしました。ツクツクボーシの鳴き声も聞かずにセミの季節は終わってしまいました。枯れたヒマワリやカンナなど刈り取ってすっきりさせました。これからチューリップを植えていくための下準備です。東北地方では放射能の除染作業をしている人がたくさんいるんだろうなと、その苦労をしのびながら精を出しました。6時半には薄暗くなり、7時にはすっかり暗くなりました。6月だとまだ明るかったのですが、秋の気配を実感します。
 8月初めにフランスに行ってきました。シャモニー(モンブラン)、アヌシー、グルノーブルをまわりました。私の個人ブログで写真を紹介しています。ご覧ください。太郎さん、ありがとうございます。チョコさんお元気ですか?

白土三平伝-カムイ伝の真実

カテゴリー:社会

著者   毛利  甚八 、 出版   小学館
 私が大学に入ったのは1967年のことですから、もう40年以上も前のことになります。6人部屋の学生寮での生活は天国のように快適でした。完全な自治寮で、寮費は月1000円、三度の食事付きです。夜になると、夕食の残りものを残食(ざんしょく)と称して寮委員会がマイク放送して売り出します。すると、育ち盛り、食べ盛りの寮生が走り出し、またたく間に長蛇の行列が出来あがりました。私にとってお昼に百円定食を食べるのはちょっとしたぜいたくでした。なにしろ寮定食なら60円で食べられたのです。ただ、一般学生用の学生会館のランチ定食は120円くらいのがありました。私には高値の花でした(たまには食べましたけど・・・)。
 その寮の部屋には毎月の『ガロ』があり、白土三平の「カムイ伝」が連載されていたのです。目を見張るような衝撃的な絵とストーリー展開でした。文字からのイメージしかなかった百姓一揆が視覚的に生き生きと描かれていて、なーるほど、そうだったのか・・・と、頭をひねってしまいました。
 当時、大学生だった人のかなりは「カムイ伝」を一度は読んだことがあるのではないでしょうか。それだけ話題性がありました。それは、「少年サンデー」や「少年マガジン」といった子ども向けとは違った、大人向けのマンガであり、ストーリー展開でした。
 この本は、『家栽の人』の原作者が、白土三平をずっとずっとインタビューして、本人の了解をもとに刊行したものです。白土三平の生い立ち、生活の様子、マンガ作成の過程が実に細かく紹介されています。
 白土三平、本名は岡本登。その父親は戦前プロレタリア画家として活躍し、特高から拷問も受けた経歴の持ち主です。だから、戦前・戦後を通じて白土三平は貧窮生活を強いられています。そして、その中で山野をたくましく生き抜いてきた情景がマンガに結実しているのです。
 それにしても「カムイ伝」は長大なマンガ絵巻です。1964年(昭和39年)に始まり、2000年まで37年がかりで描き継がれたのは38巻。そして、いまなお未完というのです。その息の長さには恐れいります。
 白土三平は1932年(昭和7年)の生まれ、今、79歳。まだまだ大いに活躍してほしいマンガ家です。
(2011年7月刊。1500円+税)

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