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カテゴリー: 社会

祈りの幕が下りる時

カテゴリー:社会

著者  東野 圭吾 、 出版  講談社
うむむ、うまいですね。いつものことながら、ストーリー展開が実に見事なので、終わりまで次の頁をめくるのがもどかしくなるほど、息を継がせない面白さです。伏線が次々にはられていきます。いったい、この話とあの話は、どうやって結びつくのだろうか、それとも両者は結びつかない話なのだろうか。そんな疑問を抱かせ、いろんなストーリーが順次展開していきます。
推理小説なのでネタ晴らしはルール違反となるので、やめておきます。と言いつつ、少しだけ・・・。
子どもが転校するとき、親が事件を起こしたあとだったら、当然、同じクラスだった人間には、何らかの記憶が残るものだ。
 ふむふむ、なるほど、そうなんですよね。
 ところが、いつのまにかその子は転校していったという。そして、誰も事件のことを覚えていない。むむむ、なにかおかしいぞ。
 こんな仕掛けがあります。言われてみれば、なるほど、そのとおりです。ナゾ解きというのは、いかにもあり得るものでないと納得できませんよね。
 もう一つ。実は、この話には原発労働者のことが登場します。福島第一原発事故について、安倍首相は「終息宣言」を撤回するどころか、「完全にコントロールできている」なんて、真っ赤な大嘘を高言して国会を放り出して、トルコまで原発を売り出しに行ってきました。その無責任さもきわまれり、です。しかも、武器の製造・開発まで一緒にしようというのですから許せません。
 原発労働の実態については、私も実際に働いていた人から話を聞いたことがありますが、完全装備で雑巾がけをしているようなものなんですね。そして、完全防備で苦しいから、いい加減に扱っていたり、線量計を貸し借りしたり・・・。実に前近代的な労働現場のようです。ですから、そこで働いている人々には早死にする人が多いということです。
 話が脇道にそれてしまいましたが、緊迫したストーリーです。読んでいるうちに、松本清張の『砂の器』を思い出してしまいました。
(2013年9月刊。1700円+税)

藤沢周平伝

カテゴリー:社会

著者  笹沢 信 、 出版  白水社
山形新聞社で文化欄を長く担当していた著者が藤沢周平を語った本です。読んでいて、とっても心が温まってくる本でした。藤沢周平の本は、それなりに読んでいたつもりでしたが、いやいや、ほんの序の口でしかなかったことを痛感させられました。
私は40年前の司法修習生のころ、いま仙台で活動している同期の庄司捷彦弁護士のすすめで山本周五郎の小説を読みふけっていました。
藤沢周平は、弁護士になってまもなくから読みはじめたと思います。とりわけ山田洋次監督の映画、「たそがれ清兵衛」などを見て、ますます読みすすめていきました。
 藤沢周平の小説の最大の特徴は情景描写がこまやかで、何の抵抗もなく、すっと小説に描かれた場面に入っていけることにあると思います。
 周平は、教員生活をしていた23歳のとき、肺結核が見つかり、29歳まで6年あまり東京で闘病生活を余儀なくされました。このときの挫折感が、社会と自然に対する観察眼を深め、想像力とあわせて書く力をつけたのでしょうね。若い20歳台のときの6年間というのは、恐らく永遠に感じられるほど長かったと思います。
 東京の療養所で、周平は失語症にかかったといいます。東北弁でしか話せず、東京弁ではなおさら話せなかったのです。ただ、そこで俳句、ギター、囲碁、花札を覚えたとのこと。
療養所は周平にとって、一種の大学だった。
 そして、退院したあと、周平は業界新聞の記者として働くようになりました。
 やがて、短編小説コンクールに応募するようになったのです。やはり、満たされない思いがあったのでしょうね。
 周平は、作家になったあと、友人(同級生)である共産党の候補者の応援演説までしています。世捨て人ではなかったのです。
 周平は「君が代」について、次のように書かれている。
 「私は『君が代』をうたいながら、誰かにだまされていたのだという気が抜けない」
 周平の仕事部屋は、とてもつましいものだったようです。自宅とは別にマンションの一室を借りるという作家もいますが、そういうことはしていません。
 夜11時に寝て、規則正しい生活をしながら、執筆活動に没頭したようです。
周平は慢性肝炎、自律神経失調症、閉所恐怖症だった。だから、地下鉄に乗れなかった。バス・電車も苦手だった。ところが、タクシーやエレベーターは平気だった。
 自宅を出て、電車に乗って都心に出かけるのは月3、4回。このときには家族が同行した。
 そんな身体の持ち主だからこそ、作品の登場人物に気のやさしい人が多いのでしょうか。もう一度、藤沢周平の本を読んでみようという気になりました。ありがとうございます。いい本でした。
(2013年10月刊。3000円+税)

メルトダウン・連鎖の真相

カテゴリー:社会

著者  NHKスペシャル取材班 、 出版  講談社
NHKテレビで放映された三本の番組を再構成した大型本です.写真がたっぷりあって、迫真力があります。
 すでに亡くなられた吉田昌郎所長(福島第一原発)は、何度も、死ぬだろうと思ったと振り振っています。
 1号機の爆発、3号機の爆発、そして2号機の原子炉に注水するとき、なかなか水が入らず、最悪の場合メルトダウンが進んで、コントロールが不能になって、これで終わりかなと感じた。これで終わりということは、東京をふくむ250キロ圏内に人間が住めなくなるということです。すなわち、日本の終わりを意味していました.幸いにして、そうはならなかったわけですが、今なお、その危険は続いていることを、つい忘れがちです。4号機の使用済み核燃料の取りだし、移動に1本でも失敗したら、同じ状況が生まれるのです。それは、いまからの作業なのです。
 そして、そこを狙ったテロ活動をどうやって防ぐというのでしょうか.秘密保護法で防止することも出来ません。本当に、原発は人類のコントロールできない怖い存在なのです。
小泉純一郎元首相が、しきりに脱原発しろと叫んでいるのに、私は心から賛同します。
 この本には、在日アメリカ大使館の高官が福島第一原発をこっそり訪問して、一人一人、全員に握手してお礼の言葉を述べたことが紹介されています。それほど福島第一原発事故が大惨事にならなかったことをアメリカ当局は喜んでいるのです。とりわけアメリカ側が恐れたのは4号機のプール内にあった大量の使用済み核燃料の行方でした。
 アメリカ大使館の高官は、免震棟にいる一人残らず全員と握手したまわり、事故対応にあたった健闘をたたえた。これに対比すると、わが菅首相は、緊急時対策室で作業に当たっていた人たちの労をねぎらう言葉をかけることもなく帰っていったのでした。これは、人間性の遠いというより、大所高所からの視野の広狭の違いではないかと思いました。
 今回の事故は、日本での使用済み核燃料の危機対策が無防備きわまりないことをあらわにした。もし、むき出しのプールから直接大量の放射性物質が放出されることになったら・・・。
原発は直ちに廃止する。そして、脱原発の作業をじっくり進めていくべきだとつくづく思ったことでした。大型本の割には安価ですし、一読されることを強くおすすめします。
(2013年6月刊。1900円+税)

戦後歴程

カテゴリー:社会

著者  品川 正治 、 出版  岩波書店
何回か著者の話を聞きました。戦中体験にもとづいて憲法9条の大切さを諄々と説き明かす話でした。そのたびに、深い感動を覚えました。中国戦線に駆り出され、最前線で爆風とともに意識を失い、危うく生命をとりとめたのです。身近なところで、戦友が死んでいくのを見守るだけでした。
 そして、なぜ著者が中国大陸の最前線へ行くことになったのか。それは、京都の第三高等学校の生徒総代をととめていたときの事件に原因がありました。
 ある生徒が軍人勅諭を暗誦しはじめたのです。
 「我国の天皇は世々軍隊の統率したまうところにぞある」・・・・
 天皇と軍隊を入れかえて、まったく逆の意味にしたのでした。
 それに気がついた軍人に対して、その生徒は「天皇に名をかりて、軍はいったい、この国をどこに連れていこうとしているのですか?」と逆に問いかけたのです。いやはや、すごいことです。戦時中に、こんなことを軍人に向かって正面きって言った学生がいたなんて・・・。
 上海から復員船に乗って著者が日本に帰ってきたのは。1946年4月のこと。
 船中で日本国憲法草案を読んだのです。
 読み終えると、全員が泣いた。陸海空軍はもたない。国の交戦権は認めない。よくぞここまで書いてくれた。これなら、亡くなった戦友も浮かばれるに違いない。読みながら、突き上げるような感情に震えた。
 いま、憲法9条という旗は、解釈改憲の歴史のなかでボロボロになっている。だが、それでもなお、その旗竿を国民はしっかり握って離さないでいる。
 うん、うん。まったくそのとおりですよね。握って離すものですか・・・。アベノミクス、もとい、アホノミクスになんか負けはしませんよ。
 東大法学部の卒業試験を無事に切り抜けた話は、まさしく神業(かみわざ)でした。すごいです。
 卒業後は保険会社に入り、労働運動の世界へ。これまた、労働学校に一生徒として夫婦そろって入学して勉強したというのですから、生半可な気持ちでは出来ません。
 60年安保闘争のときには労組委員長も3年間つとめています。そして、次は損保会社の経営の中枢に入ったのでした。社長そして、会長です。国際的な活動も展開しています。
 ともかく話のスケールの大きい人です。惜しくも先ごろ亡くなられました。その志を私も少しは継ぎたいと考えています。
(2013年9月刊。1800円+税)

生活保護リアル

カテゴリー:社会

著者  みわ よしこ 、 出版  日本評論社
先日、私の住むまちで、市役所の保護課に市民課に市民からの通報(告発)がありました。生活保護を受けている隣人がうどん屋でうどんを食べているのを見かけた。国から保護を受けているくせに、外食などしてうどんを食べるなんて、けしからん、というものです。
 それを聞いて、本当にびっくりしました。これまで、生活保護を受けている人がパチンコ店に出入りしているのを見かけるが、とんでもない、けしからんという叫び声を聞いたことはありましたが、まさか、うどん屋でうどんを食べていてもぜいたくだ、いけないなんて、信じられない「告発」です。「告発」した隣人は、恐らく外食もせず、せいぜいコンビニ弁当で我慢しているのでしょうね。
 そこには、恐るべき妬み心を認めることができます。
 生活保護を受けている障害者は、嫌がらせにあいやすい。
 生活保護は、あくまで申請主義である。福祉事務所は基本的に生活保護の申請を拒むことはできない。
 だから、「水際作戦」と称して申請自体がないようにしていた北九州市のような自治体があったわけです。
 生活保護は世帯単位で申請する。生活保護受給者の11%は15歳未満の子どもたち。
 生活保護の不正受給はしばしば問題とされるのに対して、必要とする人が保護を受けられない(漏給)ほうは問題とされることがない。日本の相対的貧困率は、16.0%(2009年)。1920万人が生活保護水準より低い生活を強いられている。つまり、日本の生活保護は、必要とする人の20%しか対象としていない。これをさらに減らそうというのがいまの安倍内閣が進めている福祉切り捨て政策である。
 生活保護を受けると、世論に攻められ、遊び半分でネタにされる。しかし、好きで生活保護を受けているわけではない・・・。
生活保護たたきに走る人には、生活の苦しい人が多い。本来なら生活保護を受けられるような人が、受けずにがんばっている人。恥の意識が強くて、自己責任を内面化している。自分は必死でがんばっているから、生活保護を受けている人に対して、「なぜ、あいつは」と思ってしまう。でも、結局、生活保護たたきをしている人は自分の首を締めているだけ。そのことを自覚していない。
 弱いもの同士が「いじめ」あう変な世の中です。その一方で、スーパーリッチは高見の見物をしているわけです。それに乗っかって弱者切り捨ての政治をすすめているアベノミクスって、絶対に許せませんよね。
(2013年7月刊。1400円+税)

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