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カテゴリー: 社会

秘密保護法は何をねらうか

カテゴリー:社会

著者  清水雅彦・台宏士・半田滋 、 出版  高文研
 「何が秘密か?それは秘密です」
 特定秘密を漏えいしたら、最高10年の懲役刑に処せられる。現行法の1年以下(自衛隊員だと5年以下)にくらべて格段に重い。未遂だったときも処罰される。
特定秘密の内容が示されないまま、逮捕、起訴されて、裁判になったときにも有罪になる。
 こうなると、もう裁判ではありません。誰も、なぜ処罰されるのか説明できないというわけです。政府の思うままに処罰できる。これっで、まったく民主政治では、あるまじきことです。
公務員による内部告発も委縮してしまう。マスコミも足がすくみ、スクープ報道が期待できない。
 防衛省は秘密開示したことがない。これまでずっと廃棄してきたから。
 自衛隊員の給料は、一般の民間企業のサラリーマンより、はるかに高い、一佐(戦前の大佐)は、年収1200万円をこえる。そして56歳で定年を迎えても、天下りして週3日の勤務で現役のときの7~8割の年収が保障される。
 自衛官が「高給取り」だと叩かれないのは、国民が自衛官の高い年収を知らないから。
 これだけの高給取りなので日本の自衛官にとって、外国のスパイになるなんて、まったく割の合わないこと。
いま、弁護士会は、強行採決で成立した特定秘密保護法の施行(年末の12月が予定)までに廃案しようという署名運動に取り組んでいます。ご協力ください。
(2014年1月刊。1200円+税)

福島第一原発・収束作業日記

カテゴリー:社会

著者  ハッピー 、 出版  河出書房新社
 福島第一原発で今も働く現役作業員である著者が発信しているツイッターが本になりました。著者のフォロワーは7万人もいるとのこと。すごいですね。
 3.11のとき、著者は福島第一原発にいて、その後の収束作業にも自ら「志願」して参加しているとのことです。もっとも、親には言っていないそうです。著者名が仮名になっているのも、そのせいでしょうか・・・。
 それにしても、現場からの貴重な情報発信だと思います。今も続いているようです。
この本で明らかになったことは、
 第一に、福島第一原発事故は今も「収束」なんかしていないこと、政府の宣言は国民をだますものであること。
 第二に、原発事故の収束作業は今から何年どころか。何十年でもなく、何百年もかかるものであること。
 第三に、それにしては国が東電という私企業にまかせているのはおかしいこと。東電は予算を削ろうとしているが、国が全面的に責任をもってやるべきこと。
 第四に、そのためにも現場の作業員をきちんと確保しておく必要があるけれども、劣悪な環境で働かされる割にはペイがよくないし、海外へ原発を輸出したら、日本では技術者が足りなくなること。
 第五に、これがもっとも肝心なことだが、要するに原子力発電所というのはあまりに危険すぎて、とうてい人類の扱えるようなものではないこと。
 これらのことが、現場で働く実感をもって語られています。同感、共感させざるをえません。
 福島第一原発事故の収束作業に従事している人たちは、ごくごく普通の人が一生けん命にがんばって働いている。ただ、この現場は今でも特別な場所だし、事故は収束なんかしていない。
 現場で3時間も働くためには、移動時間をふくめて前後8時間以上がかかる。逆に言うと、拘束8時間であっても、そのうち3時間しか現場では働いていない。
現場付近でマスク外して、タバコを吸ったり、食事したりする作業員がいる。建設作業員には、放射線について知識のない人も多い。人手が足りないので、そんな人たちも集められている。
 使用済み燃料の取り出しが3年後から始まって、3年くらいかかるだろう。原子炉の燃料とり出しは10年後に始まるだろう。つまり、早くて20年後にすべての燃料の取り出しが終わるということ。
 原子炉建屋内は線量が高いので、作業員が被曝しながら「人海戦術」でやるしかない。
東京電力は解散して、送発電を分離して、国が先頭に立って予算も作業員の給料も面倒みなければダメ。今は、一流企業(私企業)のやり方で「収束」作業をしている。
 2011年12月の「収束宣言」のおかげで、現場での労賃が大幅に下がった。「収束」したのだから「危険手当」が少なくなってしまったのである。
 いまだに、毎時0.6億ベクレル以上の放射性物質が日本中に向けて拡散している。
 テロ対策の訓練をしているけれど、ガードマンが1時間もテロリストと対応しているという非現実的なマニュアルに頼っているのが現実。
 そうなんです。北朝鮮の「テポドン」の脅威を安倍・自公政権は強調しますが、原発へのテロ攻撃は現状では防ぎようがないものですよね。そのことについて、政府は知らんぷりです。本当に怖いことは国民に知らせません。それは、「国民がパニックになってしまうから」だというのです。それって、まるで国民をバカにした発想だと思いませんか・・・。
 著者の健康が心配になりますが、ぜひ引き続き内部の情報を発信してください。心より期待しています。
(2013年10月刊。1600円+税)

原発の底で働いて

カテゴリー:社会

著者  高杉 晋吾 、 出版  綜風出版
 いま、福島第一原発でたくさんの労働者が事故収集作業に従事しています。高濃度の放射能によって汚染されている場所での作業ですので、どんなに不安なことでしょう。でも、そうやって黙々と働いてくれる人のおかげで、日本という国は成り立っています。
 安倍首相の親族が、その一人でもそんな作業現場で働いているというなら操業再開を声高に叫ぶ資格があるのでしょう。でも、そんな人がいたなんて聞いたこともありません。自分はのうのうと快適な暮らしをしながら、原発は安全だなんてうそぶく首相をかかえる日本は不幸だというしかありません。
 この本は、かつて浜岡原発で働いていた青年労働者が放射能にやられて若くして白血病で亡くなった事件を改めて追跡しています。放射能汚染区域での作業の恐ろしさを実感させてくれる本です。
 それにしても、浜岡原発というのは、とんでもないところに立地したものです。地盤は脆弱なうえに、活断層が近くを走っている。冷却のための海水取水口は沖合にあるが、そのパイプは地震に耐えられそうもない。そうすると、冷却できなくなるから、福島第一原発と同じ事態になるのは必至・・・。
 どこの原子炉にもある高い煙突。これは煙突ではなく、気体性放射性物質の排気筒。
 放射能の一部はフィルターで吸着されるけれど気体性放射能は、そのまま大気中に放出されてしまう。
 浜岡原発の敷地は、南海地震が発生して津波が来たら、周囲が津波に囲まれ、放射能の泥沼と化してしまう。
 民主党政権の菅直人首相は、浜岡原発を「いったん停止」した。しかし、防波壁が完成し、その安全性が確認されたときには再稼働されるという条件がついていた。
 ところが、3.11のとき、釜石湾にあった防波堤は一瞬にして崩壊してしまった。浜岡原発では予想される津波の高さ19メートルに対して、防波壁の高さは18メートルの高さしかない。
 浜岡原発では、地震が来たらもたないと予測されていたが、データが変造され、地震にも耐えるかのように発表された。
浜岡原発のなかで働いていた青年労働者は白血病になった。
 白血病になると、神経部分が正常に機能しなくなる。そのため、脳神経障害から、さまざまな異常行動が見られるようになる。眼振、顔面の表情異常、行動異常、けいれんなど、さまざま。
 原発労働に入る労働者を斡旋する業者には暴力団関係者が多い。
 あまりにも前近代的な労働環境のようです。本当に心配です。
(2014年1月刊。2000円+税)

アウト・オブ・コントロール

カテゴリー:社会

著者  小出 裕章・高野 孟 、 出版  花伝社
 原子力発電所は安全だと言いながら、政府も東電も、原発を東京につくるとは決して言わない。なぜか?
 ここで燃やしているのがウランだから。そして、生み出される核分裂生成物の量が半端な量ではない。一つの原子力発電所は1年動くごとに広島原発の1000発分をこえるような死の灰を原子炉のなかにため込んでいく。
 原子力発電所は大変効率の悪い蒸気機関で、100万キロワットの電気を使おうと思うと、そのほかに200万キロワット分のエネルギーは使えないまま捨てるしかない。
 原子量発電所の別名は、「海温め装置」。1秒間に79トンの海水温を7度も上げる。
福島第一原発事故は、今も終息していない。溶け落ちた炉心が、今どこに、どんな状態であるかは分かっていない。
 4号機の使用済み燃料プールは、半分がまだ中吊りのまま、そこにある。使用済み燃料プールの中に1331体の使用済み燃料がある。これを一体ずつ、キャスクという巨大な容器の中に入れていく。
 1331体を1回もしくじらないで、本当に容器に移せるのか、大変な不安がある。その作業を終えるまでに何年もかかる。途中で再び大地震にあったら、どうなるのか・・・。
 1号機から3号機までで、広島原爆がばらまいた放射能の168発分を大気中にばらまいたと政府は言っている。本当は400~500発分だろう。
100ミリシーベルト以下の被爆なら、無害だという学者は、まず刑務所に入れるべきだ。
 大切なことは、これからの子どもを被爆させないこと。人間は年をとっていくと、被爆についてどんどん鈍感になっていく。ところが0歳の赤ん坊は、4倍も5倍も危険だ。さかんに細胞分裂しているときなので、敏感だ。
 日本の原発はもう安全なんだとか適当な嘘を言って海外へ輸出しようとしている安倍政権のインチキぶりを、私は絶対に許すことが出来ません。
(2014年1月刊。1000円+税)
 今朝おきて雨戸を開けると、向かいの山が真っ白になっていました。夜のあいだに降った雪が積もったのです。この冬はじめての雪景色でした。
 寒いなかをいつものように元気に走りまわっています。

初日への手紙

カテゴリー:社会

著者  井上 ひさし 、 出版  白水社
 作家の創作過程とは、かくも壮絶なものなのか・・・。読んでいて、何度となく、思わず息を呑みました。
 この本は東京の新国立劇場で公演された「東京裁判三部作」(「夢の裂け目」「夢の泪」「夢の痂」)の制作過程で、作者である著者から担当プロデューサーに送られてきたファックスを中心とするものです。私は残念ながら演劇をみていませんし、脚本もあらスジも知りません。そのうち読もうと思います。
 恒例の人間ドックに持ち込んだ本のうち、東京裁判について書かれたものがあり、それをたまたま読んでいましたので、内容の理解が早まりました。これはまったくの偶然でした。
 著者の人物設定は実に詳細である。土台となる登場人物がおおよそ決まったところで、次は物語、ドラマの展開に着手する。人物は「劇」の展開を背負って登場させる。
 これからの10日間が戯曲の生命が宿るとき。だから、あまり人に会わず、ただただ内側から知恵と力が湧くようにやっている。
 旅館にこもって書くときには、長い経験からあまり資料をもっていっては失敗する。そこでは、物語の発展に集中する。
話の展開をつめているとき、著者は盟友であり、「先生」と呼ぶ作曲家の宇野誠一郎と電話で2、3時間はなし、聞いてもらう。これは著者の戯曲制作の過程で必要な儀式の一つだ。
 ホンモノの東京裁判に登場した証人400人のなかに「日本紙芝居協会の会長」がいたのでした。信じられない気がしますが、著者はドラマの主人公として取り込むことにしたのです。そして、紙芝居に関する資料を猛烈に集め、作成しました。
 いま最後の仕上げに、昭和20年8月から1年間の朝日新聞をサーッと読んでいるところ・・・。
 私も、実は、同じようなことをしたことがあります。1968年6月に始まった東大闘争の1年間を小説にするため、この年の4月から翌年の3月までの1年間の朝日新聞縮刷版を図書館から借りてコピーし、読み通しました。
 著者は登場人物の小さな写真を三角形の人形につくり、机上に置き、人形を眺め、動かしながら物語の展開を考えていった。
 「ほんとうに切羽詰まった状況ですが・・・。いまは、この芝居を果たして成立するだろうかという不安と恐怖で、1字打つたびに、緊張のあまり吐きそうになっております」
 これは午前4時09分のFAXの文面です。
 著者は、構想段階で、多様かつ綿密なプロットをつくる。だた、プロデューサーとしては、いつ著者が戯曲本体の執筆を始めるのか、気が気ではなかった。
著者から午前4時にFAXが届くと、担当プロデューサーとしては、とにかく早く返信しなければいけない。相手は天才、しかもギリギリまで自分を追い込み、いわば普通でない状態になっている。いい加減なことは書けないし、執筆が順調にいくように配慮もしなければいけない。ほぼ24時間体制で対応する。
 部屋に閉じこもりきりの著者にとって、プロデューサーからのFAXは現場をのぞく鍵穴のようなもの。現場で感じたことは貴重な情報にもなる。ただ、その書きかたは非常に微妙で難しい。ストレートに書けばいいというものではないし、かといって伝わらなくては意味がない。
 著者の作品を担当したプロデューサーは基本的に自宅に帰れない。劇場近くに部屋を借りる。
 著者の遅筆は有名です。初日まで10日間(5日間しかないこともあった)の稽古しかできない、ギリギリのタイミングでの脱稿。それから、初日に向けてのスタッフ・キャストの死に物狂いの戦いが始まる。
 井上新作劇を上演するのは、井上作品に精通した百戦錬磨の優秀なスタッフ軍団にしかできない。そして、キャスト・スタッフを統括する演出家は、ごく限られてくる。
 帝国ホテル地下の寿司屋「なか田」の中トロ丼が著者の好物だったとのことです。私も一度、味わってみたいと思います。
 眠ることができれば、頭がよくなるのに・・・。がんばれ、集中せよと自分に声をかけながら、深夜の庭をうろうろ歩き回っているばかり。マクベスのように「眠りがほしい」と切なく祈る。
 今夜は思い切って薬をつかって寝よう。そして、明朝から、最後の勝負をかける。それでも打開できなければ、私財を投げうって自爆するしかない。いえ、死のうというのではなく、一切、家に閉じこもって、また最初のスタート台に立つ覚悟ということ・・・。
 まことにすさまじいばかりの格闘です。圧倒されてしまいました。いくら著者が天才といっても、これほど身を削る努力をしていたとは・・・。すごい本です。
 著者の戯曲創作のスゴさは人間業とは思えないもの。天才こそ努力家だという、まさに見本だ。膨大な資料を読み込み、年表など克明な資料をつくり、俳優にあわせて登場人物を考えて物語を構想し、綿密かつ大量のプロットを書き、ようやく戯曲本体を書き出しても、さらに推敲のうえに推敲を重ねる。
こんないい本をつくっていただいて、ただただ、ありがとうございます、としか言いようがありません。
(2013年9月刊。2800円+税)

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