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カテゴリー: 社会

ペコロスの母の贈り物

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  岡野 雄一 、 出版  朝日新聞出版
 『週刊朝日』に連載されたペコロスのマンガが本になっています。
 著者は長崎に戻ってタウン誌の編集長になってから、認知症になった母親のエピソードをマンガで紹介しはじめたのでした。
 父親は酒におぼれ、家庭内暴力がひどかったようです。それで、母親は若いころ裸足で家を飛び出して逃げたりしていたのです。
 そんな父親が、認知症になった母親の前にとてもいい感じのお爺ちゃんになって現われるのです。そして、それが息子である著者のトラウマを癒し、リハビリの時間になっていくのでした。
 母親の口癖がいいですね。「生きとかんば!」というのです。生きておきなさい、っていう言葉ですよね。
いろいろ大変なことがあっても、あきらめずに生きていこう。そしたら、いつかきっと、良いことがあるさ、という楽天的な言葉です。
 飲んだくれの暴力父は、実は、若いころにはアララギ派の短歌をよんでいたそうです。斉藤茂吉のあとの土屋文明にケンカを売っていたとのこと。
 著者のマンガは、そこはかとないペーソスを感じさせ、味わい深いものがあります。
(2016年1月刊。1200円+税)

この国の冷たさの正体

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  和田 秀樹 、 出版  朝日新書
 衝撃的な内容の本です。でも、ホント、そうなんだよね、いつの間に日本はこんなに冷たい国になってしまったのか・・・と思いました。
 著者は、それは小泉元首相のときに始まったと言います。そして、テレビが冷たさを増幅させた共犯だと厳しく糾弾しています。テレビを見ない私ですが、まったく同感です。
 「自力で生活できない人を政府が助ける必要はない」と38%もの日本人が、そう考える。アメリカ人は28%。でも、ほとんどの先進国では10%でしかない。うへーっ、そ、そんなに日本人って弱者に冷たいんですか・・・。これで、日本を愛せよ、なんて無理な注文ですよね。それにしても、あのアメリカより日本が冷たい国になっているだなんて、これまた大ショックでした。
 この15年間で、日本社会は一変した。企業では年功序列や終身雇用がなくなり、大型店が繁栄する裏で個人商店がバタバタとつぶれていった。そして、働く人の非正規雇用が4割をこえる。弱者が増える一方で、何億円という資産をもつ富裕層は日本でも続々と生まれている。
 そして、その仲立ちをしているのがテレビ。テレビは、弱者とは関わりたくないという感情の増幅装置になっている。
 弱者が、自分より弱い立場の人間を攻撃することで、自分の不安を解消している。
 安倍首相の言う「一億総活躍社会」というのは、「働かない人間を許さない」という社会のこと。これは戦時中の日本を想起せざるをえない。
 テレビは常に画一化された情報をたれ流し、視聴者の認知的成熟度を低下させている。
 ヨーロッパの消費税率はたしかに高い。しかし、それは医療費が無料、大学までの教育費もタダといった手厚い福祉を支えるためのもの。だから、国民は納得している。ところが、日本では福祉予算が切り捨てられ、軍事予算が増大しているなかで、消費税率のみ上げられている。とんでもないことです・・・。
 高い消費税はヨーロッパ並み、お粗末な福祉はアメリカ並み。これでは困ります。
弱者である国民が、日本では「自己責任、自己責任」と言いつのる。この自己責任という言葉は、強者の責任のがれにすぎない。自己責任をもち出すことで大きなメリットを得ているのは強者である。自己責任を真面目に守っているのは、弱者だけ。自己責任論でものを考えたり、行動したりすることから決別する必要がある。そうでなければ、人生を強者のいいようにされてしまう。
 日本人は、世界から奇異な民族だと見られている点が二つある。その一つは、借金が返せないから自殺すること。もう一つは、借金を返すために強盗すること。強盗したお金で借金を返すなんて、世界中の人はありえないと考える。
 弱者を叩いて、一時的に「正義の味方」になるというのは、百害あって一利なし。強者と一緒になって弱者を叩くと、結局のところ、自分にはね返ってくる。
日本人は、世界一、自分を責めがちな国民だ。
 テレビは、日本人の単純化思考に拍車をかけている。テレビは、思考のパターンを単純化させる装置だ。テレビは、エビデンス(証拠)にもとづく議論をする場ではなく、大多数の視聴者の感情に迎合するのが大前提のメディアなのだ。
 50代の精神科医の指摘には、いちいちもっともだとうなずくばかりでした。
(2016年3月刊。720円+税)

牛肉資本主義

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  井上恭介 、 出版  プレジデント社
  日本人が「吉野家」で安い牛丼を食べられなくなる日が近づいているようです。
  この本を読んで私が一番すごいと思ったのは、日本でも野放しにして飼育した「野生牛」がいること、そして、完全放牧酪農があるということです。アメリカ流の成長ホルモン漬けの牛肉だけでは困ると思います。「野生牛」というのは、エサは牛が食べるのにまかせるというものです。ですから、肉は今より少し固めになります。それでも、かめばかむほど味わい深いものがあります(あるそうです。私は残念ながら、まだ食べたことはありません)。あまりにも、薬(成長促進ホルモン剤など)に頼った牛肉は、いずれ良くない結果を人間にもたらすこと必至だと思うからです。
  この本を読んで認識したのは、牛肉争奪戦が世界的規模で始まっているということです。その主役は、言わずと知れた中国です。なにしろ、スケールが違います。いま、私たち日本人は「爆買い」の恩恵をいささか受けています(私の住む町までは、まわってきていません)が、よくよく考えると、それは、私たちの食生活を根本から脅かしかねないレベルの話なのです。なにしろ、ケタ違いの数量なのですから・・・。
  いま、中国人のビジネスマンは、牛肉がもうかりそうだというので、投資の対象としている。日本の牛丼屋は、アメリカ産バラ肉に頼ってきた。安く手に入り、味も触感もいい。それがショートプレートだ。ショープレと呼んでいる。
  中国では、これまで「肉」と言えば、豚か鶏だった。しかし、今では、牛がそれらより先に来る。昔の硬い牛肉ではなく、輸入された柔らかい牛肉だ。中国では、いま空前の牛肉ブームが起きている。だから2013年に、牛肉輸入量は、中国が日本を追い越した。
  そして、それは豚でも同じ。世界の半分を中国が食べるという豚肉でも同じで、2013年にアメリカ最大の豚肉加工業者を中国企業が47億ドルで買収した。
  日本は牛肉をショートプレートしか買わないが、中国は、牛を丸ごと買うので、売り手は日本より中国を好む。
中国で「牛肉いため」は800円するのに、日本では牛丼は300円代でしかない。
札幌のジンギスカンは羊肉だが、その羊肉のニュージーランドからの仕入れ価格が3割も上がった。ニュージーランドの農家からすると、同じ面積なら、羊より牛を飼ったほうが、5倍以上も利益が違ってくる。
  何でも安ければいいという発想を変える必要があります。そして、食料の自給率の向上とあわせて、食の安全というのにもっと私たちは気を使う必要があると思いました。
(2015年12月刊。1500円+税)

仕事のエッセンス

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  西 きょうじ 、 出版  毎日新聞出版
著者は予備校(「東進ハイスクール」)のカリスマ教師のようですね。
人にとって働くことって何なのか、仕事するってどんな意味があるのかを根本に立ち帰って考えてみた好著です。いろんな仕事があることを改めて思い知らされます。
スペインでは、生活苦から卵子を売る女性が増えている。1回10万円もらえるけれど、大量に薬を飲んで、全身麻酔で手術をうけるなど、時間がかかり、苦痛をともない、身体面のリスクがある。
日本人にも、タイや韓国に渡って卵子を提供するドナーが100人以上もいて、1回60~70万円の謝礼をもらっている(2011年)。
タイで、代理母による男女産み分けを利用する日本人夫婦が年間100組以上いる。
介護士は、賃金の低さと仕事量の多さ、きつさから、離職率が他よりも高い。
同じ作業であっても、自分のしていることに意味を見出せるかどうか、大きな心理的違いを生む。
東北新幹線の車内販売員は平均して7~8万円の売り上げなのに、なんと片道で54万円を売った人がいる。そして、別の販売員は、全400席の乗客に187個の弁当を売った。弁当の注文を受けたとき、彼女は「お土産でしょうか?」と尋ねる。すると、客は弁当を土産にできることに気がついて弁当を買い求める。こんなわけです。
お客様の視点に立つ。自分のしてほしいことを相手にしてあげる。客の心を読み、その行動を予測する。なーるほど、ですね。たいしたものです・・・。
私は幸いにもしたことがありませんが、「宮仕えは辛いもの」です。ところが、フリーランスになったら、よりひどい隷属状態になることもありうるわけです。ですから、軽々しく会社を辞めるべきではないと著者は強調しています。これだけブラック企業があって、若者をとりまく雇用環境が悪化しているのだから、学校教育のなかで、身を守るすべや働くリスクまで教えるべきだ。そのとおりです。 
好きで、個人がワーカホリックになっていくのではない。職場にそれを生み出すからくりが幾重にも埋め込まれている。そのシステムに踊らされながら、人は、それを自分が選んでいるという錯覚に陥っている。
英語力の習得とグローバル化というのは、ほぼ無関係だ。私もまったく同感です。英語が話せるかよりも、人間力のほうが大切だと思います。
諸外国では大学卒業の平均年齢は25歳なのに、日本だけが22歳。高校を卒業したらすぐに大学、そして大学を卒業したら、すぐに就職するというのは日本だけ。日本はとても不自由な国。しかも、日本では大学に100人が入学したとして、12人が中退し、13人が留年し(私も1年だけ留年しました)、残る75人のうち就職できるのは45人で、3年続くのは31。 
新卒で正社員として入社し、できる限り長く勤めあげるのが正しい人生なのだ。それができない者は落伍者だ。これは、昭和の幻想的な教訓であって、そんなものに今どき縛りつけられる必要はない。
就活自殺が、2007年から2013年までの7年間で218人にのぼる。これは、いかにも悲惨な事態である。
仕事すなわち自己実現という等式は捨ててしまったほうがいい。仕事を続けるうちに、それが自分のしたいことと一致し、周囲にも認知されるようになることで自分も満足感を得、環境もより良くなっていく、そういうこと地味に続けることで人に必要とされ役に立っているという喜び、幸福感を高めていく。
仕事とは、自分と社会を持続的に接続するものであり、積極的に選択できるもの。仕事から「はたらく」(「はた」を楽にする)喜びを得られるようになると、「はたらく」ことで自他ともに幸福感を与えられる。そうして、自分が安心して生活できるコミュニティを形成し、維持することにつながる手段となりうる。
著者は、日々、苦労と工夫をしながら生き、そして考えている人なんだろうな、そう共感しながら読了しました。
(2015年11月刊。1350円+税)

日本はなぜ米軍をもてなすのか

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  渡辺 豪 、 出版  旬報社
  著者は『沖縄タイムス』の記者を17年間つとめていました。
  沖縄にいたら見えるもの。それは、日本が戦争に負けた国であるということ。沖縄では、敗戦と占領の残滓が日常にあふれ、日本がアメリカに従属している現実と否応なしに向き合わされる。
  日本の政府中枢そして中央官僚は、アメリカの意向を忖度(そんたく)して自発的に隷従するという、信仰にも似た強固な意識や価値概念に支えられている。彼らには、アメリカの威光を背景として、既得権益の保持や権力の強化を図る意図が働いているのでは・・・。
  日本の敗戦後、GHQの間接占領によって温存されたのは、天皇制であるとともに、官僚機構である。
日本は、憲法76条によって軍事会議を設置することができない。世界中で、軍法会議をもたない唯一の軍隊が自衛隊である。
  政権中枢と防衛省サイドには、辺野古で甘やかすと、次は嘉手納基地の返還を求めてくるだろうから、辺野古で譲歩するわけにはいかないと本気で考えているようだ。
  うひゃあ、お、おぞましい発想ですね。まさしくアメリカの奴隷の発想です。独立国日本の官僚ではありえません。恥を知れ、そう言いたくなります。
  アメリカ軍への思いやり予算が始まったのは1978年度で、このときは62億円だった。それが、2015年度は、なんと年1899億円にも達している。このほかにも、年に5000~6000億円ものお金をアメリカ軍基地を維持するために使っている。
  これではアメリカにとって、こんなにおいしい日本の基地を手放すはずがありません。
巨額の「思いやり予算」による恩恵を在日米軍に付与してもなお、アメリカへの従属的な対応から脱しきれていないのが、日本の実情だ。しかし、この「思いやり」の強要が、あたかも自発的意思にもとづくかのように、ならされているのは、日本政府だけではない。それは日本国民についても言えること・・・。
  大半の日本人は、アメリカ軍の基地があるという、意識することが不快な事実から目をそむけている。
  対米コンプレックスよりも、多くの日本人には対中国コンプレックスがある。他国の軍隊が長期間にわたって駐留し続けることから生じる、独立国家としての理念や制度の崩壊、そのことで生じる国民の犠牲や痛み、屈辱といった精神性の毀損をすべて、「カネでかたのつく問題」に転換して処理してきたのが、戦後日本の統治システムの本質だった。
  たしかに沖縄から日本本土を見ると、日本という国の本質が良く見えるのですね・・・。それにしても寒々とした光景です。
  
(2015年10月刊。1500円+税)

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