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カテゴリー: 社会

財は友なり

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 髙岡 正美 、 出版  浪速社
現代日本では残念なことに労働組合というものの存在がほとんど見えない状況です。過労死・過労自殺そしてブラック企業の横行、さらにはパワハラ・セクハラが止まない職場・・・。いったい、労働基準法・労働組合法はどこにいってしまったんだろうかと心配します。
この本を読むと、労働組合は労働者の生活と権利のために欠かせないものなんだということを改めて教えてくれます。そして、労働者の生活を守るためには、労働組合が会社経営に関与することもあるし、労働組合の幹部が会社の取締役になることだってあるのだと著者は力説するのです。
これは単純な労使協調路線ではありません。資本に労組のダラ幹が抱き込まれ、懐柔されるとは少しばかり違うのです。だって、目の前には工場閉鎖・企業倒産が迫ってくるときの話なのですから・・・。
もちろん、お金をもらえるだけもらって、そんな会社とは見切りをつけてさっさと辞めてしまうほうがいい場合もあるでしょう。でも、他に職を探すのも容易ではありませんし、少しでも会社再建の可能性があるなら、それに賭けてみようという気にもなりますよね。
この本のなかでは、著者が関わったものとして、無責任な旧経営陣を退陣させて、労組が会社を管理し、新しい社長には労組幹部が就任したり、既に引退していた有能な元社長をひっぱってきて社長にすわってもらって見事に企業を再建した例も紹介されています。たいしたものです。
著者のたたかいは、なによりも企業を存続させて労働者の雇用を確保しようとするものだった。そのため、企業を敵視せず、企業再建のためには、労使が一緒になって取り組むことを著者は求めた。これは、使用者言いなりの「労使協調路線」ではなく、労働組合が自ら方針を立て、主体的に経営にかかわり、合意に達しなければ、裁判闘争・労働委員会闘争などの法的手続をとることも辞さない。
著者は、頭の良さに加えて、持って生まれたエネルギーの量と負けん気、手を抜かない自己に厳しい姿勢と努力でこのような力を身につけ、難局にあたってきた。
著者は紙パルプ労連の中央執行委員をつとめ、各地の労働争議に関わってきました。
労働組合のなかには、組合費を基本給の3%にしているところもあるそうです。その高さに驚かされます。3%の組合費を払うだけのメリットがあると一般組合員が受けとめているからこそ続いているのでしょうが、すごいことです。実に素晴らしいです。別のところでは、1人月1万8千円という高い組合費のところもあるとのこと、信じられません。
著者は大阪府地労委の労働者委員となり、4年間に審査事件84件、調査事件50件を担当しました。相手にした企業は91 社。結果は命令交付が25件、和解等で解決したのが23件、訴訟になったのが18件だった。いやはや、大変だったでしょうね。
大商社の伊藤忠を相手にした大阪工作所事件では、残った組合員はわずか18人。ところが、まいたビラは1日4万枚、トータルで100万枚をこえ、2千人からの労働者による抗議行動が御堂筋で展開するという華々しい活動を展開した。その成果として、労組が億単位の解決金に加えて、土地や技術を譲り受け、会社の経営権を握って見事に再建することができた。今も、この会社は存続しているというのです。たまげましたね・・・。
読んでいるうちに、そうか労働組合って、こんなことも出来るのか、やれば出来るんだねと勇気が湧いてきて、心がぽっぽと温まってくる本です。大阪の大川真郎弁護士より贈っていただきました。いい本を紹介していただいてあつく、お礼を申し上げます。
(2018年10月刊。1667円+税)

憲法が生きる市民社会へ

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 内田 樹 ・ 石川 康宏 ・ 冨田 宏治 、 出版  日本機関紙出版センター
いまの日本社会をどう考えたらよいのか、アベ流改憲の恐ろしさの本質はどこにあるのか、深く思い至ることのできるブックレットでした。80頁あまりの薄さで、値段も800円です。ぜひ、あなたも手にとって読んでみてください。
カナダはGDPが日本の3分の1、兵力で日本の4分の1だけど、国際社会から敬意と共感を得ている点は、日本を圧倒している。
まことに、そのとおりです。日本なんて、アメリカの属国だと国際社会ではみられていると思います。日本国内のいたるところにアメリカ軍の基地があり、治外法権みたいな状況で、莫大なお金を貢いでいる残念な現実がそれを裏付けています。
自民党には、今では1800万票しか票が入らない。投票所に足を運ばない人が2000万人もいる。
どうせ選挙に行ってもムダだ、変わらないと考えている人が自民党政権を支えているわけです。
いまの日本の政治が劣化した最大の原因は「語るべきビジョンがない」ことにある。アベ首相たちが語る「戦前回帰」、軍事力信仰、そして「日本はすごい」キャンペーンは、日本の未来に見るべき希望がなくなった人たちが過去の栄光を妄想的につくり出して、それを崇拝するという、苦しまぎれのソリューションだ。つまり、未来に何も期待できないので、妄想的に「美しい過去」を脳のなかで構成して、そこに回帰しようとしている。彼らは、20年後、30年後の日本について語ることが出来ない。
そうなんですよね、戦前の日本は良かっただなんて、とんでもないことです。
いまの天皇が護憲派であることはアベ首相もよく分かっている。なので、天皇の退位宣言以降、天皇に対する激しい嫌がらせをしている。アベ首相が集めた「有識者」会議には、天皇を平然と罵倒する人物もいた。「天皇は黙って祈っていればいいんだ」と彼らは言う。天皇崇敬の念は彼らに感じられない。現実の天皇が何を考え、何を願っているか、なんて彼らは何の興味もない。
でも、私たちは希望を捨てることなく、新しい日本の姿を展望しつつ、一歩一歩たしかに前進していきたいものです。沖縄の県知事選挙、那覇市長選挙の勝利は、それが可能だということを証明しているのですから・・・。
(2018年5月刊。800円+税)

「資本論」

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 マルクス 、 出版  講談社
講談社が、まんが学術文庫なるものを創刊したのですね、知りませんでした。
マルクス『資本論』には、少なくとも3度は挑戦しています。学生時代に1度、弁護士になってから1度。それぞれ分からないながらも、なんとか読み通したつもりです。そして、もう1回、時期は忘れましたが、挑戦したように思います。
『資本論』は、部分的には分かるところもありましたが、全体としての経済理論は、ついによく理解できないままでした。大学1年のときには、有名なサムエルソンの『経済学』も読みましたが、こちらも、さっぱり訳が分かりませんでした。要するに、この人は何が言いたいんだろうか・・・、そんな疑問が私をとらえて離しませんでした。経済学って難しいというか、まるでピンと来ませんでした。それより、法理論のほうが、よほど私の性分にもあい、理解できました。
そこでマンガで『資本論』を語ると、どんな展開になるのか・・・。ストーリーがあります。『資本論』の記述の説明マンガではありません。
19世紀イギリスの現実社会のなかでもがく若者たちが、パン屋から起業してスーパーを展開し、土地を所有して地代を稼ぐ地主階級を没落させていくというストーリーです。なかでは労働者階級の悲惨な状況も描かれていて、なかなか読ませ、考えさせる展開になっています。
ははーん、こうやって労働者を搾取する支配階級がつくられていくんだな・・・。マンガですから、当然、視覚的な分かりやすい展開です。
しっかり『資本論』を勉強した気分になるのは、さすがです。
(2018年4月刊。680円+税)

おじいちゃんのノート

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 中村 輝雄 、 出版  セブン&アイ出版
開くと真っ平になるノートが付録として付いている本です。いわば奇跡のノートですよね、これって・・・。
「このノートは、書きやすくコピーやスキャンも影が出ない、画期的な水平開き製本の新時代ノートです。左右ページ単独に、または両面をワイドに使用!テーマに合わせて使い方いろいろです」
なるほど、どのページもたしかに水平開きになるノートです。
そこで、問題は、誰が、どうやってこんなノートを開発したのか、です。
誰が・・・。零細そのものの「中村印刷所」という会社です。80歳になる製本職人と70歳の社長の二人して2年がかりで完成させたのです。すごい執念です。2012年に始めて、2014年に完成しました。
どうやって・・・、というと、製本職人と社長が二人で、試行錯誤を繰り返したということに尽きるようです。でも、零細な町工場が画期的なノートをつくったからといって、一挙に市場で注目され、売れるものではありません。
そこに、SNS(ここではツィッター)が登場します。
「うちのおじいちゃん、ノートの特許をとってた・・・。宣伝費用がないからできないみたい。どのページを開いても見開き1ページになる方眼ノートです」
このツィッターがたちまち拡散して、半日たたずに2万件をこえた。やがて、10万をこえるアクセスがあり、テレビ局や週刊誌から取材したいと電話がかかってきた。
在庫はたちまちなくなり、引き戸を閉め、カーテンを引いて、部屋の電気も消して居留守を使った・・・。
いきなり、大騒動になったのです。ツィッターの威力って、すごいんですね、見直しました。
すでに10万冊以上の水平開きノートが販売されたそうです。おめでとうございます。
きっかけは、印刷所が不景気になって、仕事がなくなったことにあります。そこで、なんとか売れる商品をつくろうとがんばって世に送り出したのが、水平開きノートだったのです。
「ノドが膨らまないノート」です。ノドとは、見開いた本の真ん中、ページを閉じた部分のこと。水平開きノート開発のカギは、接着剤にある。
いやあ、いい話ですね。苦労が報われる社会というのはいいものですよね。
(2016年8月刊。1500円+税)

前川喜平が語る、考える

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 前川 喜平 ・ 山田 洋次 ・ 堀尾 輝久ほか 、 出版  本の泉社
世の中のことを、真面目に深く考えている人がこんなにたくさんいることを知ると、思わず私の身体も底から熱くなってきます。
山田洋次監督が夜間中学を舞台とした映画『学校』をつくりましたよね。本当にいい映画でした。
昼間の生徒たちは勉強するのがうれしくない。でも、夜の教室に行くと、みんなうれしくてしょうがないという顔をして勉強している。そして教員室も明るい。ちょうど劇団の事務所みたいに、生き生きとしている。
夜間中学では、生活基本漢字381文字を重点として教える。とりあえず大人の日常生活に必要な漢字を身につけさせる。
寅さん映画を見て厚労省に勤める人が山田洋次監督に次のような手紙を書いた。
「寅さんは、どうして健康保険に入ってないんですか。寅さんでも入れます。住所不定なら、さくらさんの住所にすればいいんです。私たちの仕事は一人残らず健康保険に入ってもらう。これが国民皆保険の思想ですから、ぜひ寅さんも入れてやってください」
この手紙は厚労省の本当に心ある公務員は、日本に暮らす人々の暮らしをちゃんと守りたいという気持ちを、強く持っていることを示している。
うむむ、なかなか感動的な手紙ですよね、これって・・・。
同じように、日本の法曹界にしても、まだまだあきらめてはいけない。前川さんのような人が、まだいるかもしれない。だめな人もいっぱいいるのかもしれないけれども、ちゃんと話の分かる人が、これじゃあ良くないと思いながら、悩んでいる人たちもたくさんいるんじゃないか、そう思った・・・。そうであってほしいと、私も切に願います。
教育学の堀尾輝久名誉教授の授業を前川さんは法学部でありながら、教育学部で「もぐり」で受講していたとのこと。私も教養課程のとき聴いた覚えがありますが、人間性を大切にする教育の真髄を教えられ、ズシンと来るものがありました。
いまの教員は忙しすぎて、子どものことを考えられない。マニュアルにしたがってやれば楽だし、文句も言われない。多くの教師が流されていて、労働組合も弱体化している。
右翼が「日教組、撲滅」と叫ぶほどに日教組の力は強くないというのは世間で公知の事実ではないでしょうか・・・。
前川さんも、私と同じようにテレビ『ひょっこりひょうたん島』をみていたそうです。私の旅行仲間の愛称が「ひょうたん島」です。
そこで勉強の歌がうたわれる。
子どもたちが、「勉強なさい、勉強なさい、大人は子どもに命令するよ、そんなの聞きあきた」と歌う。これに対して、先生が「いいえ、いい大人になるためよ。人間らしい人間、そうよ人間になるために、さあ勉強なさい」と歌う。
小学5年生の前川さんは、それで、「そうか人間になるために勉強するのか」、そう思ったとのこと。
学習することが、すべての人間らしい生き方のベースなんだ。人間にとって学ぶことの意味、自分らしく生きることの大切さ、個人の尊厳を大切にする多様性のある社会の必要性、そしてそれらを圧殺しようとする権力の危険性、これをずっと一貫して考えてきた・・・。
教育とは何か、その本質に迫る対談集でした。
大変勉強になると同時に、元気の出る本です。ぜひ、ご一読ください。
(2018年9月刊。1500円+税)

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