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カテゴリー: 生物

地涌の涙

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 加藤 賢秀 、 出版 南方新社
トカラ列島の諏訪之瀬島が舞台です。
トカラ列島は、種子島や屋久島のさらに南、奄美大島との間の大海原に、点々と12の島々が浮かぶ。有人7島、無人5島。南北160キロに及ぶ、日本一長い村、十島村。
主人公は半分野良猫のニャンと完全に野生のカラス、アラとアララを「飼って」いる。どちらもエサをもらいにやってくるのだ。
主人公は牛を放牧して育てています。母牛のエミールが人知れず、山のなかで出産する。母牛は通常、1年に1頭産む。ところが、母牛のエミールが死産し、自らも死んでしまうのです。そして主人公が現場に戻ると、なんともう一頭、牛の赤ん坊がいたのでした。双子だったのです。エミールは死ぬ間際に2頭目を産み落としたということです。
さあ、大変です。母牛がいないなかで、生まれたての仔牛を育てなくてはいけません。
母牛の初乳を仔牛は飲まないと免疫力がなくて、仔牛は死んでしまうのです。
仔牛の瞳を凝視すると、その瞳の奥には深い存在の根源そのものの静謐(せいひつ)と緊迫と、いまだ封印されている躍動の波が感じられる。透明な視線だった。
仔牛に地涌(じゆう)という名前をつけた。地から湧き出たるものという意味だ。
地涌は食欲が満たされると、躁状態になり、思わずはしゃぎ回る。これをパカラと呼んだ。
和牛業界では、仔牛生産農家が仔を誕生から8.9ヶ月齢まで育成する。そして競(せ)りにかけて売買し、その後、肥育農家の手で20ヶ月間養われ、その後、競売屠殺(とさつ)され、牛肉として市場に出回る。肉牛は経済動物であり、営利の対象だ。つまり主人公は、いくら仔牛の地涌と仲良くなっても、それはせいぜい9ヶ月間だけ、そして競りにかけて手放さなければいけない。
月日がたち、いよいよ地涌との別れの日が明日になった。主人公が声をかけながら牛舎に入っていくと、部屋の一番奥に座っていた地涌は、ゆっくり立ち上がり、一歩一歩いつもとは違う歩調で近づいてきた。あれっ、と思い地涌の顔を見ると、地涌は泣いていた。涙で瞳は光り、下まぶたは涙の滴で大きく濡れている。地涌には明日の別れが分かっていたのだ。主人公は地涌の顔を手で抱いて、頬にまで流れる涙を親指で優しく拭(ぬぐ)った。地涌の命からほとばしる無念の滴(しずく)だった。
かけてあげる言葉はなく、一緒に泣きたかった。そして改めて地涌の涙あふれる瞳を見つめた。地涌もじっと主人公を見つめた。すると、地涌の瞳は愁(うれ)いではなく、明るく慈愛の光に満ちていた。地涌の涙は惜別や悲哀の情ではなく、主人公の心情を斟酌し、そのすべてを許し、すべてあるがままを受け入れる真理からにじみ出た慈悲の涙なのだ。主人公は思わず、その涙に手を合わせた。そして、地涌の目は久しぶりにやんちゃな眼差しに戻っていて、何をして遊ぼうかと行動を起こしはじめた。いつものパカラだ…。
前に女性が豚を2頭、子豚から大人の豚になるまで飼って、ついに殺してもらってとび切り美味しい豚肉を食べたという本を読みました(このコーナーで紹介しています)が、それを思い出しました。日頃、私たちが美味しい美味しいと言いながら食べている牛肉は、このように鋭い意識を持つ生命体を殺しているのですね。そのことを自覚しないといけないと改めて思ったことでした。
世界54ヶ国を放浪している団塊世代(1945年生)の味わい深い小冊子でした。
(2019年10月刊。1200円+税)

ネズミのおしえ

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 篠原 かをり 、 出版 徳間書店
ネズミって、意外に賢いようです。
嬉しくても顔には出さない。ネズミは、母ネズミに可愛がられているとき、子ネズミ同士でじゃれあっているとき、笑い声をあげる。人間がくすぐって笑わせることもできる。ただし、ネズミの笑い声は5万ヘルツという、とてつもなく高い音で笑っている。
ネズミは遊び好き。他者の悲しみに寄り添える。
自分の選択を後悔するし、負け続けると自信を失ってしまう。人間によく似ているネズミは仲間が傷つくのを避け、見捨てないという共感性をもっている。
性格は個体によって異なる。
芸を覚える賢いネズミがいるし、おっとりとして撫でられるのが大好きなネズミもいる。
ペットとしてのネズミの欠点は寿命の短さ。2年しかない。
日本には数十種類のネズミがいるが、日頃みかけるのは、ドブネズミとクマネズミとハツカネズミの3種。実験動物として使われるドブネズミはラットと呼ばれる。
同じくハツカネズミは、実験動物としてはマウスと呼ばれる。
ヌートリアもネズミの仲間。ビーバーもネズミの仲間。
ハリネズミは、モグラに近い仲間。
カヤネズミは体長6センチ、体重7グラムで、日本最小。
カピバラは、ネズミの仲間のなかで最大。カピバラとは「草原の支配者」のこと。とても穏やかな性格。メスは自分の子どもだけでなく、群れの子どもに分け隔てなく授乳し、共同で子育てする。そして、本気を出せばカピバラも時速50キロのスピードで走ることができる。
平安時代の藤原道長はネズミを可愛らしい生き物としてとらえ、歌を詠んでいる。
インドのカルニ・マタ寺院では、2万匹のネズミを放し飼いしている。ここではネズミにお願いごとをすると、それがかなえられるというので人気を集めている。
ネズミは、立派な社会性をもった動物だ。
ネズミは群れで生活している。意外に仲間と一緒にいることを好む動物だ。孤独になるとストレスを受ける。
ネズミが嬉しいと耳にあらわれる。ピンク色に色づき、耳は外側に向かって寝ている。
ネガティブな表情をしているネズミには、ほかのネズミは近付きたがらない。
ネズミは自分が損をすると分かっていても仲間を助けるし、受けた恩は忘れない。
ネズミは隠れんぼのルールを理解して遊ぶ。そして勝ったときには歓声をあげる。
ええっ、これって、いくらなんでもウソでしょ、と言いたくなりますよね…。
地雷除去活動にアフリカオニネズミが活躍している。抜群の嗅覚でわずかな火薬の匂いをかぎとり、地雷を発見する。ネズミは体重が軽いので、地雷を踏んでも爆発させることはない。
ネズミ自身、そしてネズミを通して、いろんなことを知ることができました。ありがとうございます。
(2020年4月刊。1500円+税)

数をかぞえるクマ、サーフィンするヤギ

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 ベリンダ・レミオ 、 出版 NHK出版
イルカがザトウクジラの背中をすべり台にして遊び、幼いチンパンジーはごっこ遊びをする。ガラガラヘビは母親どうしで子どもの世話をし、ワニは、斜面をすべりおりたり、サーフィンしたり、追いかけっこして遊ぶ。
どれもこれも、ウソみたいな本当の話です。そんな驚きの話が満載の本なのです。
このとき、動物は私たち人間と似ていると気づくだけではダメ。そうでなくて動物の生き方が私たち人間とどれだけ違うのか、それに気づくことによって、人間である私たち自身の心と知性が高められる。
なるほど、そうですよね。人間は万物の霊長と言いながら、やっていることは皆殺しの戦争であったり、トランプ大統領のように平和なデモでも暴徒集団視して軍隊で鎮圧しようとするなんて、知性のカケラも認められないでしょう…。
ネズミはくすぐられると笑う。カササギは死んだ仲間を木の葉でおおって、死を悲しんでいる(ように見える)。ザトウクジラのメスは年に1度、女子会をして、そのために何千キロも旅をする。オマキザルは不公平に扱われると憤慨する。
オウムの悪ふざけは有名だ。人間が命令する声をまねして犬をからかったり、いろいろいたずらをする。
実験した結果、サルが不公平な扱いに敏感になるのは、労力と関連していることが判明した。
イヌは、遊びたい気持ちを、遊ぼうよという仕草で最初にはっきり伝える。
水槽の魚は猫が近づいてくると、いきなり水面まではね上って猫を驚かせる。
ゴリラのココは、手話で嘘をつく。規則を破ったことを隠して、叱られないようにする。
チンパンジーは、ヤミの酒場で1回に平均1リットルを飲み、「楽しいひととき」を過ごす。そして、気持ちの良さような場所を見つけてひと眠りし、酔いをさます。
動物は、豊かな感情をもっている。
この本は、最後に問いかけます。人間は宇宙で唯一の知的生命体なのか…。答えは、明らかだ。
「いいえ、違います」
そうなんです。もう少し人類は頭を冷やすべきなのです。
(2017年12月刊。1600円+税)

考えるナメクジ

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 松尾 亮太 、 出版 さくら舎
わが家の台所の板張りの床に、ときにぶっといナメクジ様が鎮座しておられます。そんなときは、うやうやしく白い紙に包み外に放り出させていただいています。もう、もったいないので塩を振りかけて溶けるのを待つようなことはいたしません。
そんな身近なナメクジを研究対象とし、研究室で何千匹も飼って育てているという奇特な学者がこの世にいるのです。信じられませんね…。
日本でよく見かけるナメクジは外来種のチャコラナメクジで、在来種のほうはフタスジナメクジ。こちらは体が大きくて、這い方がスローモー。でしたら、わが家に出没するのは在来種のフタスジナメクジでしょうか…。
著者の研究室では20年近く、常時3000~5000匹のナメクジを維持・繁殖している。現在、なんと38世代目とのこと。飼育箱を取り替え、エサを補充するのに1回あたり3時間かかる。エサは野菜くず。
ナメクジは単細胞生物なので、「動物」ではない。
ナメクジは、水さえあれば、絶食しても1ヶ月半は生きている。
ナメクジは明るい場所を嫌い、暗い場所を好む。それは乾燥を避けるため。カタツムリと違って殻をもたないナメクジの宿命。
ナメクジの寿命は1年から2年ほど。
ナメクジを生(なま)で食べると、寄生虫が脳まで達して重篤な病気になることがある。
ナメクジには脳も心臓もある。その血は赤くない。
ナメクジは頭部右側の孔(あな)から受精卵を産み落とす。
ナメクジの脳は、大きさ1・5ミリ角ほど。ナメクジには、脳で記憶するだけでなく、触覚にあるニューロンにも保持されている。
そうなんです。ナメクジには脳があり、きちんと記憶できるのです。
ナメクジの脳(前頭葉)をピンセットで潰しても、1ヶ月で前頭葉は再生する。大小二対ある触覚も、切断されても自発的に再生する。
ノロノロというペースのナメクジは、1分間に18センチ進む。1時間では10.8メートル進む計算だ。
つかまえどころのないナメクジを研究し続けているなんて、すばらしいことだと思います。それにしても、よりによってナメクジを研究対象とし、さらに人間との相違点を探ろうというのに、ほとほと驚嘆するばかりです。
(2019年10月刊。1600円+税)

花と昆虫のしたたかで素敵な関係

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 石井 博 、 出版 ベレ出版
コウモリが花と密接な関係をもっているというのに驚きました。
コウモリに受粉を依存する植物(コウモリ媒)の花は夜間に開花し、発酵臭など強い匂いをもつ。音を反響しやすい構造の花となっている(アメリカ)。
花の周囲に音を吸収する綿毛を生やすことで、花の反響音を際立たせている。種ごとに固有の反響音をもっていて、コウモリは、その音響指紋によって花の種類を識別している。
花にとっては、植物の多様性が非常に高く、同種の植物が近くに生育していないことが珍しくない熱帯の植物にとって、コウモリの飛行距離が長い(1晩で50キロメートルも飛びまわるコウモリもいる)、学習能力が高いことは重要な意味をもっている。
コウモリと花とが、こうやって依存しあっているなんて、不思議ですよね。
性的擬態を行うランは、多くの場合、たった1種の送粉者だけを利用している。
特定少数の相手とだけ関係を結んでいる植物種や訪花者のことを、送粉生態学の世界では、スペシャリストと呼ぶ。植物にとって、スペシャリストの訪花者に送粉を依存することは、異種植物間の送粉を軽減させるには有効。なぜなら、スペシャリストの訪花者は、浮気せず特定の植物種ばかりを訪花してくれるから。ところが、その訪花者がいなくなると、受粉できなくなるリスクをかかえることにもつながる。
自家受粉によって生産された種子は他家受粉によってつくられた種子(他殖種子)に比べ質が劣ることが多い。このため、自家受粉を行うのは、植物にとって好ましいことではない。
送粉と受粉を終えた古い花が花色を変化させる。古い花をしおれさせずに維持すると、株全体を目立たせることができ、より多くの送粉を惹き寄せることができる。しかし、もし株にやってきた送粉者たちが古い花にまで訪れると、送粉者に付着していた花粉が、古い花に付着してムダになってしまう。そこで、訪れてほしくない古い花の色を変えることで、その花が報酬をもたない、訪れる価値のない花であることを、送粉者にわかりやすく伝えている。
自然界で生物たちは、昆虫も花も、みんな知恵を働かせて一生けん命に生きていることがよく分かります。
農薬は、昆虫の免疫力を下げるため、寄生生物やウィルスへの抵抗性を下げ、これらの蔓延を招く危険がある。そうなんですね、豊かな自然環境をきちんと次世代につなげていきましょう。
不思議な生物界の話が満載の本でした。
(2020年3月刊。1800円+税)

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