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カテゴリー: 生物

隣のボノボ

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 坂巻 哲也 、 出版 京都大学学術出版会
ボノボは、アフリカ中央部のコンゴ民主共和国の森林にすむ。体長80センチほどで、体重は35キロ以下。コンゴ盆地に生息し、ゴリラやチンパンジーとはすみ分けている。
肌は黒い。ボノボの声は鳥のように甲高く、ピャーピャーと叫びあう。
地面を歩くときは、手の平を地につけず、指の背を地面につけるナックルウォークをする。
樹上では、手と足の両方で枝を握る。ヒトにはまねができない。
ボノボはメスを中心として1年を通して集まりがよい。強さを示すデイスプレイを若いオスがよくするが、そんなオスにもメスはまったく動じない。あまりにうるさいオスがいると、子持ちのメスたちが束になってオスを追い払ってしまう。母親は大人になった息子のサポートを欠かさない。
ボノボのすむ森には、村人たちもふつうに生活している。両者は平和的に共存している。
著者は2007年からコンゴでボノボの調査を始めた。その前は、タンザニアでチンパンジーの調査をしていた(1997年から)。
ボノボの調査のためには、そばにいることに慣れてもらう必要がある。その存在を無視してくれるほど、気にしなってもらうこと。いやあ、そのためには、時間がかかることでしょうね…。
著者はボノボの調査のため、朝3時に起き、4時ころ朝食をとって、弁当をつくって暗いうちに出かける。ボノボの寝ているところに朝6時前には着く。いやはや、まだ森の中は暗いんでしょう…。大変ですね。
ボノボは、顔に毛が生えていないので、表情の動きがわかりやすい。それでもヒトほどには、表情をコミュニケーションには使わない。
ボノボの脳みそはヒトの3分の1の大きさ。
ボノボを個体識別する。性と成長段階を確認し、メスなら幼子を確認する。そして、身体的特徴を見つける。
年配のメスがおいしいそうな果実をかかえ、その周りでコドモがおねだりする。オトナがおねだりすることもある。じっとのぞき込むようにして、すぐ近くに立つのは、物をねだるときのしぐさ。気づいていなかのように目をあわせないのは、簡単に分けてやりたくないときのしぐさ。
ボノボのメスどうしは、日に何回か「ホカホカ」をする。これから採食をはじめようとする前。メスどうしが正面から抱きあい、お互いの性皮をこすりあわせる。気持ちよさそうにしている。
ボノボのメスは、生まれた集団で一生を過ごし、メスは思春期を迎えて、お年ごろになると、生まれた集団を出て、よその集団へ移る。子育てすると、その後は集団を移ることなく、年齢を重ねていく。出産間隔は4年から5年ほど。
ボノボにとって、交尾には繁殖のためとは限らない役割がある。
ボノボの集団の出会いは平和的なもので、この出会いがないとメスは移籍しない。メスは、その後、数年にわたって所属集団が安定せず、いくつかの集団を渡り歩く。
ボノボは好奇心が旺盛で、人間を観察しにやって来る。
メスたちは、出自集団を異にするにもかかわらず、よく一緒にして、毛づくろいをして、見るからに仲がよい。
オスは、オトナになっても母親との結びつきが強く、多くの個体が分散するときも、母親と一緒にいることがほとんどだ。
ボノボには子殺しはない。これはチンパンジーとは異なる。
ボノボは、現在、2万頭以下でしかなく、近い将来、絶滅するとみられている。密猟と生息地の減少、そして病気の感染だ。
いやあ、森の中での観察って、本当に大変でしょうね。その苦労をしのびつつ、ボノボの生態、その平和的な生き方に学びたいものだと思いながら読了しました。とても、興味深い本です。
(2021年8月刊。税込2420円)

昆虫学者の目のツケドコロ

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 井出 竜也 、 出版 ベレ出版
昆虫学者って、昆虫との一期一会(いちごいちえ)の出会いを大切にしている人のこと。
ふーん、そうなんですね…。
空をヒラヒラと舞うように飛ぶチョウは幼虫のころはイモムシ。それが5回も脱皮して、さなぎとなったあと、空に飛び出すのですから、本当に不思議です。
完全変態のチョウは、イモムシ時代と生活スタイルがまるで違っている。口の形まで変化している。イモムシの口は鋭い歯のある一対のあごがついている。葉っぱを上手にかじりとるため。このイモムシは、どんな植物の上にでもいるというのではない。ナミアゲハのメスは、生まれてくる子ども(イモムシ)が困らないように、卵を産みつけるミカンの木を探し出している。
では、どうやって探すのか。眼なのか、鼻なのか…。ナミアゲハは色を見分けられる。しかし、決め手は舌。味が決め手だ。
植物を食べる昆虫の多くは、単色性や狭食性。植物なら何でも、どんなものでも…というのではない。そして、食べる植物の部位まで限定されている。
100万種いる昆虫の半数以上は、植物を食べている。なので、昆虫を知るためには、まず植物を知る必要がある。
ナナホシテントウやナミテントウは肉食性。カイガラムシなどの害虫を食べるので、畑づくりの頼れる味方だ。うどん粉病をひきおこすカビを食べるキイロテントウもいる。
アリは世界に1万種以上、日本には280種以上が生息している。アリはハチの仲間で、シロアリはゴキブリに近い。アリは基本的に肉食性。アリ植物というのは、自分の体内にアリが居住できる空間を用意し、アリを住まわせている。
ハチは15万種ほどもいて、その半数以上は寄生バチ。多くの寄生者にとって、寄生相手を見つけだす重要な手がかりとなるのは香りだ。
ノミは、れっきとした昆虫。ノミの足は6本、ダニは足が8本(ただし、幼虫は6本)。世界には1800種のノミがいる。シラミも昆虫だ。
日本のホタルでも、西日本と東日本では光る間隔が違っているし、遺伝子レベルでも違いが分かる。同じゲンジボタルであっても、性質が異なるし、外来昆虫を持ち込んだのと同じ。いろいろ混ぜこぜしてはいけないということなんですね。
昆虫の写真がたくさんあって、昔の昆虫少年にとって、とても楽しい本でした。
(2020年5月刊。税込2090円)

イルカと心は通じるか

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 村山 司 、 出版 新潮新書
著者は動物が苦手。船に弱い。船に乗ると、必ず船酔いする。飛行機だって怖い。それなのに、著者はイルカの研究者。なぜ…。高校1年生のとき、テレビでたまたま「イルカの日」(1973年)という映画をみてしまったことから…。
イルカの脳は大きくて重い。イルカの能はヒト並みの重さがある。ヒトの脳は1400グラム。バンドウイルカは1500グラム。イルカの脳の表面にあるシワは、ヒト並みくらい、たくさんある。イルカの神経細胞の数は、100~200億個。これは、ヒトのそれが140億個なのより多い。
イルカたちは、狩りをするとき互いに協力したり、別の場所で練習してから本番の狩りにのぞんだり、オトリを使ったり、待ち伏せのような行動もする。また、イルカ同士が同盟を結んだり、母イルカに代わって乳母役をするイルカもいる。
紀元前5000年前の壁画にクジラが描かれている(ノルウェー)。そして、紀元前3000年ころの壁画にイルカが描かれている(同じくノルウェー)。
古代ギリシャの哲学者アリストテレスはイルカが哺乳類であること、温血動物であることを知っていた。いったい、どうやって知ったのでしょうか…。
クジラもイルカも俗称で定義も違い、明確ではない。いずれも、祖先は陸上で四足歩行をしていた肉食動物だった。そして、祖先は偶蹄類のカバに近いことが判明している。
サメは魚類で、尾ビレが縦になっている。イルカの胸ビレの中には5本の指の骨がある。後肢は退化してしまったが、その名残の骨は、今でもイルカの体内には存在している。そして、尾ビレは水平についている。この尾ビレは、皮膚が肥厚したもので、陸に棲んでいたころの尾が変化したもの。
イルカが水棲生活して得た強力な能力は聴覚。イルカは、エコーロケーションという能力をもっている。水中は陸上より速く、遠くまで音が届く。
イルカは遊びが好き。イルカだって、練習しているとき、分かればうれしいに違いない。イルカは笑わない。顔には神経が少ない。
イルカが、エサをくれたりケアしてくれるトレーナーを、シルエットだけでなく、歩き方、足音のパターン、そして声などを総合して認識している。
イルカは勉強したら賢くなるし、イルカは、ほめられたら伸びる。7ヶ月たっても、ほとんど間違えることなく、覚えている。
シロイルカのナックは、聞こえた音をマネすることができる。ナックは、こちらがナックに向かって音を発したり、語りかけたときだけマネして返してくる。つまり文脈を理解して模倣している。オウムや九官鳥のように、誰もいないところでスナックがコトバを発することはない。そこに違いがある。
シロイルカのナックは、1988年にカナダからやって来た。少し気が強いところもあるが、根がまじめで、曲がったことが嫌いな性格。
いやあ、根がまじめだとか、曲がったことが嫌いだなんて、どうして分かるのでしょうか…、不思議です。イルカの生態をさらに少し知ることができました。
(2021年9月刊。税込858円)

おもしろいネズミの世界

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 渡部 大介 、 出版 緑書房
私はネズミ年の生まれですし、ミッキーマウスなど、ネズミって可愛いですよね。でも、ドブネズミは大きいし、怖いです。
ネズミ博士がネズミの世界を面白く語っている本です。
世界には5400種の哺乳類がいて、ネズミの仲間(げっし目)はその4割2300種を占め、最大のグループだ。次の1200種のコウモリに大差をつけている。
真のネズミ(ネズミ形亜目)は1500種いる。
ネズミの歯は上下2本ずつの門歯(切歯、前歯)がノミのように生えていて、かじる能力が非常に優れている。
ネズミという名前は、根栖み、根住(棲)み、寝盗み、に由来するようだ。古事記には「禰須美」として登場している。
日本固有のネズミは9種。アカネズミ、ヒメネズミ、セスジネズミなど…。カカネズミは、最小。
モグラは肉食なので野菜は食べない。ただ、モグラのトンネルを利用して、野菜を食べる家ネズミやハタネズミがいる。
ネズミの聴覚は優れていて、人間には聞えない周波数の音で、仲間同士、コミュニケーションをとっている。
ネズミは「寝住み」とも呼ぶように、多くは夜行性。
ネズミの嗅覚は人よりはるかに優れていて、地雷撤去で活躍している。火薬のにおいを探りあてる。オニネズミは体重が1キロしかないので、ネズミが地雷を踏んでも爆発はしない。
ネズミの長いヒゲは、視力の弱いのを補って、重要な役割を果たしている。
ハリネズミはモグラの親戚で、ネズミの仲間ではない。
ネズミは味覚も敏感。ネズミは甘味と塩味を好み、苦味、酸味は苦手。
ネズミの毛は蒔絵(まきえ)の筆として最上級。数十頭のネズミの最上の毛でつくられた本根朱筆(ほんねしゅふで)は、最上級。
ネズミは一晩に週十回の交尾行動を繰り返すので、交尾するとほぼ妊娠する。
マウスやラットは、20日間の妊娠で出産し、そのあとすぐ交尾して妊娠して20日後には出産。1ヶ月弱のサイクルで、一度に多いと10頭の子を産むので、それこそネズミ算式に増えていく。
ヘビを飼うとき、エサとしてネズミを与える。丸飲みにし、そのほとんどを栄養として消化・吸収できるため、ヘビには紫外線すら必要がない。
ネズミは、ダニなどの外部寄生虫の宿主となり、また病原性細菌やウィルスの感染源にもなる。
垂直方向で移動できるのは、家ネズミではクマネズミだけ。ドブネズミにはできない。それでクマネズミが今や日本最大勢力を誇っている。
日本における最初のネズミ飼育記録は江戸時代にある。ネズミを飼い馴(な)らすための教本として『養鼠玉のかけはし』(1775年)や『珍玩鼠育草』(1787年)が出版されている。いやあ、驚きました。江戸時代にすでにネズミの飼い方の本があったとは…。
たくさんのネズミを知ることができる本でした。知れば知るほど、ムチュウになりますよ…。
(2021年7月刊。税込1980円)

植物のいのち

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 田中 修 、 出版 中公新書
100歳をこえた日本人は1963年に153人だったのが、2020年には8万450人。すごい増えかたです。そして、世界には45万人もいるのです。いやはや、地球環境の悪化による食糧危機というのは、どうなっているでしょうか…。
世界中に存在する木は3兆4000億本なのだそうです。地球上の人口は75億人だから、1人あたり400本になります。
そして、木の長寿番付は…。屋久島の縄文杉は3000年でしょうか。アメリカには、樹齢4700年のブリッスルコーン・パイン(イガブヨウマツ)があるとのこと、すごーいですね。
食虫植物も光合成はしている。ただ、虫からタンパク質などの窒素をふくんだ物質を手に入れている。ふつうの植物は、窒素をふくんだ栄養分を土の中から吸収している。
レンゲソウは、根の粒々の中に住まわせている根粒菌が空気中の窒素を窒素肥料に変えることができる。
大賀ハスは、2000年も前のタネが発芽したもの。一般的にタネは、悪条件に耐え、発芽せずに発芽のチャンスを待ち続けることができる。
紫外線は、人間にも植物にも同じように有害。植物は、からだの中で発生する「活性酸素」を消去する術を身につけている。その抗酸化物質がビタミンCとビタミンE。
ジャガイモのイモは茎(くき)なので、光があたると緑色になる。これに対して、サツマイモのイモは根なので、光があたっても緑色にはならない。
サツマイモが花をさかせるためには、「暖かい長い夜」が必要。本州では、夜が長い秋は暖かくないので、花は咲かない。なので、夜が長い秋にも暖かい沖縄では花が咲く。だから、サツマイモの品種改良は、サツマイモの花が咲く沖縄で行われた。
チューリップは、タネをまいて花が咲くまで、5年か6年はかかる。なので、球根を植えて、翌年、花を咲かせる。
アメリカのユタ州のフィッシュレイク国立森林公園には、樹齢8万年というカロリナポプラの木がある。その根は8万年も生き続けていて、地上面に4万本も木を茂らせている。その面積は、東京ドーム9個分の43ヘクタール。いやあ、すごい木ですね…。
キンモクセイもジンチョウゲも、どちらも日本には雄株だけ。なので、挿し木で増やしている。タネができないからだ。
植物の不思議を少しだけ知ることができました。
(2021年5月刊。税込946円)

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