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カテゴリー: 生物

ビーバー

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 ベン・ゴールドファーブ 、 出版 草思社
ビーバーについての480頁もある部厚い本です。
ビーバーは、その毛皮が狙われ、また、ダムをつくるので農家から目の敵とされ、一時は壊滅的状況に追い込まれた。しかし、その後、保護策が功を奏して、今や北アメリカには1500万匹のビーバーが生息していて、絶滅の危機は脱している。ヨーロッパでも同じで、わずか1000匹にまで減っていたのが、今や100万匹に急増している。
とはいっても、実のところ、かつての北アメリカ大陸には、ビーバーは6千万匹から40億匹はいたと推定されているので、とてもそこまでは復活していない。
ビーバーがダムをつくるのは、捕食者からの安全確保、風雨からの避難、食料の貯蔵のため。ビーバーは、水中では15分も息を止めていられる。水かきのある後ろ足のおかげで、水中の動きはパワーアップする。まぶたは透明なため、水面下を見ることもできる。
ビーバーは、摂取したセルロースの3分の1を消化する。これは、ビーバーが自分のウンチを食べること、非常に長い腸と多様な腸管内菌叢(きんそう)によって助けられている。
ビーバーの上下各2本の門歯は、死ぬまで伸び続ける。そのため、門歯でものを削っても、大丈夫。自生発刃作用(じせいはつじんさよう)がある。
ビーバーは、家族を大切にする動物で、一夫一婦制をとっていて、4~10匹で一家をなしている。子は2歳になり、下の子(弟妹)が生まれると、自分の縄張りを求めて巣立ちする。
ビーバーのつくるダムは、地表水と地下水をあわせて1基あたり2万2千~4万3千立方メートルの水を貯める。存在するものには、合理的な理由が必ずあるという昔からの格言どおり、ビーバーにも自然サイクルのなかで大きな役割を果たしてきたし、果たしていることを実感させてくれる本でした。
(2022年2月刊。税込3630円)

野ネズミとドングリ

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 島田 卓哉 、 出版 東京大学出版会
ネズミは、鋭い一対の切歯(前歯)をもち、このネズミの切歯は一生伸び続けるため、年をとっても歯がすり減って堅いものがたべられなくなるということがない。
ネズミ算という言葉のようにネズミは多産の象徴として扱われることが多いが、実はそれほど多産ではなく、2~8匹(平均4~5匹)というネズミが多い。日本の野ネズミでは、アカネズミは2~8匹、ハタネズミは1~6匹。最多のアフリカのサハラタチチマウスは平均10~12匹の子どもを1回に出産する。少子のほうではウオクイネズミは1回に1匹のみ。
野生のアカネズミの寿命は半年から1年ほど。
アカネズミは、冬眠しないが、低温やエサ不足のとき、支出エネルギーを節約するため、日内休眠という低代謝状態に入る。
アカネズミにドングリを与えると、2日間から様子がおかしくなり、やせてきて、ふらふらしだし、そのうち数匹は死亡した。ブナの実を食べていたアカネズミはフツーだった。
好物のはずのドングリを食べたアカネズミが異常な状態になるのはなぜなのか…。
ドングリにはタンニンが含まれている。タンニンとは、植物によって生産される、タンパク質と高い結合能力を有する分子量500以上の水溶性ポリフェノール。赤ワインに含まれるポリフェノールや、お茶に含まれるカテキンもタンニンの一種。
タンニンの最大の特徴は、タンパク質との高い結合能力にある。
タンニンは、穏やかに作用する消化阻害物質だとみなされてきた。しかし、それだけなく、消化管の損傷や臓器不全といった、急性毒性をもつ物質だ。これが、タンニンは、量的防御物質でありながら、質的防御物質でもあるといわれる所以だ。
ドングリを日常的に食べているアカネズミにとっても、コナラやミズナラのドングリは、潜在的には有害なのだ。そして、この有害なのは、ドングリに含まれるタンニンによって生じていることが明らかになった。
アカネズミが、ドングリなどのタンニンを含むエサを少しずつ食べて、体がタンニンに馴(な)れた状態になると、ドングリに含まれるタンニンを克服することができるようになるのではないか…?
つまり、アカネズミは、馴化(じゅんか)することで、ドングリのタンニンを克服できるのだ。
ドングリは、植物学的には種子ではなく、果実である。多くのドングリはタンニンを豊富に含み、潜在的には危険。
北米産のドングリと比べると、日本産のドングリは、全般的にフェノール類が多い。要するに、ドングリを食べなれていくうちに、毒性が弱まっていくということのようです。それを観察と実験、そして数式で証明していくという地道な作業を繰り返していくのです。大変ですよね。でも、そもそも森林に入るのが好きな人にとっては、苦にならないのでしょうね。
(2022年1月刊。税込3740円)

熊を撃つ

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 西野 嘉憲 、 出版 閑人堂
岐阜県は飛騨(ひだ)の山奥で熊を撃つ状況をド迫力でとらえた大判の写真集です。
トップ頁の写真は、銃を構えて熊に狙いを定める漁師の目つき、その迫力に圧倒されます。
飛騨市の山之村は昭和の半ばまでは秘境と呼ばれていた。麓(ふもと)の神岡から片道20キロ、車で40分。人口は64戸、132人。冬の積雪は2メートルをこえ、最低気温は氷点下20度。保存食となる寒干し大根が名物。
ここらの熊は絶滅危惧種どころか、数が増えるとともに大型化しているとのこと。その理由は、天然林は多く、餌になるニホンカモシカが増えているため。
熊のエサはカモシカなんですね。カモシカの方が逃げ足は速そうなんですが…。
熊は、肉や毛皮以上に、熊の胆(い)と呼ばれる胆のうに価値がある。熊の胆は万病の薬として昔から珍重されていて「医者の代わり」とか「命のようなもの」として尊ばれた。
熊の胆は、1匁(もんめ)あたり金より高い額で取引され、貴重な現金収入となる。
熊を探すのには猟犬が活躍する。ここでは、地犬の柴犬を使う。冬ごもりの穴に潜む熊を猟犬が探し出す。鉄砲を使う前は、猟師は槍を使った。
冬眠時の熊の肉は全体の8割が部厚い白い脂肪。上品なうま味で、しつこさがない。凍った状態で口に入れると、舌の上で溶け、チーズのような食感と風味が楽しめる。また、汁が冷めて固まることがない。
熊の胆は、米粒の半分ほどの大きさに割り、お湯に溶かして飲む。
東京から石垣島に移り住んだ著者が、熊猟の現場写真を撮るべく、厳冬期の飛騨に入ってつかんだシャッターチャンスの数々の写真です。大判だけあって、その迫力がすごいです。熊を撃つ写真が何枚もあり、よくぞこんな写真が撮れたものだと驚嘆しました。
もよりの図書館に購入してもらってでも、ぜひ手にとって眺めてみてください。
(2022年2月刊。税込3960円)

アリたちの美しい建築

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 ウォルター・R・チンケル 、 出版 青土社
アリの地中にある巣を掘り出し、溶けた亜鉛を流し込んで型をつくったアメリカの学者の本です。見事な造形のアリの巣を見ることができます。驚嘆してしまいました。
アリは社会性昆虫で、1億年から1億4000万年前にカリバチの祖先から分岐した。
アリの社会(コロニー)の特徴は、個体間に明確な機能分担がみられること。受精卵を産むことができるのは、1匹か数匹の女王だけで、残りの大半は、コロニーの仕事の大部分を担う不妊の働きアリ。社会機能を担っている個体はすべてメスで、オスは女王と交尾するためだけに生まれてくる。オスは、1年のうち数週間しか出現しない。
一般的にアリのコロニーは単一の家族で構成されていて、母親が女王、娘が働きアリ。
アリは完全変態をする昆虫で、卵、幼虫、蛹(さなぎ)、成虫という段を経て発達する昆虫の典型。
アリはこれまで、1万4000種が確認されているが、最終的には2万~4万種にのぼると考えられている。
アリは、赤道付近がもっとも多く、そこから離れるにつれて、減少していく。北極圏には2種だけ確認されている。
アリにもっとも近いのはハナバチとカリバチ。
湿潤な熱帯地域では、半数のアリが地中ではなく、樹木に巣をつくる。
アリの巣づくりは4日から6日で完了する。著者が掘った地中のアリの巣は、3メートル10センチが最深。そして、アリの巣を体積としては、11リットルが最高記録。アリは地中に向かって螺旋(らせん)構造でおりていく。右巻きも左巻きもある。反時計回りの両方が混在している。下に伸びる坑道から、ときに左右に広がる坑道があり、そこから、部屋が広がっている。この部屋は、どんなときにも完璧に水平かつ滑らかである。
アリは巣づくりに非常に多くの時間と労力を費やす。ところが、アリのコロニーは、実は自由に移動している。しかし、なぜアリのコロニーが頻繁に引っ越すのか、その理由・メリットは、今までのところ判明していない。
アリは深い層から浅い層へと大量の砂を運び、投棄していた。
あらゆる働きアリは、年齢に応じて従事する仕事を変えていく。働きアリは、年齢を重ねて、巣の上方へと移動し、仕事を変えていく。
採餌アリは、毎日、全体の3~5%が死に、1ヶ月で丸ごと入れ替わる。
規模が最小のコロニーは、平均寿命が4年、中規模だと平均寿命は17年に延びた。もっとも大きいコロニーでは30年を超えた。
アリがつくる地中の巣の姿をまざまざと示してくれる本でした。
(2021年1月刊。税込1600円)

シカの顔、わかります

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 南 正人 、 出版 東京大学出版会
このタイトルの意味、分かりますか?
宮城県の牡鹿(おしか)半島の先にある小さな島、金華山(きんかさん)には、660頭のシカが生息している。ここで、黄金山神社の周辺で生活する150頭のシカ全部に名前をつけて、1989年から33年間、観察を続けて現在に至っている。今では、33年間の家系図もできている。シカの寿命は長くて15年なので、これまで1000頭のシカ全部に名前をつけて追跡したというわけ。いやあ、これってすごいことですよね、シカを個別に識別するなんて…。
シカを個体識別するには…。白髪染め液を2メートルほど離れたところから噴射して、シカの毛の一部を黒く染める。ところが、これだと、シカが座っていたら毛染めが見えないので識別できない。では、どうするか…。
シカの顔をじっくり観察していると、次第に顔の違いが分かるようになってくる。ええっ、うっ、うっそでしょ…。
これは、ニホンザルの顔を識別して名前をつけて行動観察するのと同じ手法。
うむむ、それにしてもサルとシカの違いはないのでしょうか…。
シカの顔の違いといっても、極端に違いがあるわけではありません。体型は遺伝によって似てくるようです。シカの顔を見て、あっ、これはあのシカの母か娘だと言いあてることもできるのだそうです。いやはや、すごーい。
シカのオスには角(つの)がある。この角には、いろんな形があるので、オスは、それで識別できる。
シカのオスは、メスの発情期にだけなわばりをもつ。メスは四季を通じてなわばりをもたない。メスは2年に1回、子どもを産む。メスは発情期の秋に、24時間だけオスを受け入れる発情状態になる。
シカの鳴き声は13種類ある。シカの鳴き声のほとんどは秋に集中している。そして、鳴き声は1キロメートル先まで届く。「メェーフーン」には、威嚇の状態がある。
生まれてくる子ジカは、直後の30分間を乗り切れば、あとは自力で移動して、自分の身を守ることができる。その動けない30分間をカラスは狙ってやってくる。うむむ、何と厳しい生存競争でしょうか…。
シカの母子間の認知は、音が役にたっているものの、最終的には、匂いが母子間の認知のカギになっている。
シカは基本的に集団で生きている動物。シカの子は、祖母やその姉妹、そして自分の姉たちとともに生きる。
オスの多くは2歳までにメスの家族群から離れて生活するようになる。メスは、生涯をずっと家系集団で暮らすことが多い。オスもメスも母と子の関係は、母親が死ぬまで続く。
捕食者から狙われる草食獣にとって、集団で生活することは、自分の身を守り、さらに血縁者の身を守り、自分の遺伝子を残すことにつながる。シカにとって、この母系の血縁グループは、とても大切なものである。
オスは孤立している。成長したオスは、オスになっても孤独を愛している。
シカが、匂いを使ってもコミュニケーションしているのは間違いない。
シカの歯は、すり減ってしまえば、生きていけなくなる。
いやあ、まったくもって驚きました。サルの顔が識別できるというのにも執念すら感じますが、150頭のシカ全部を識別して名前をつけて行動観察するなんて…、すばらしいにもほどがあります。ぜひ、手にとって読んでみてください。出色のできばえの本です。そのすごさに、ついつい目を見晴らされました。
(2022年2月刊。税込3960円)

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