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カテゴリー: 生物

昆虫食スタディーズ

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 水野 壮 、 出版 同人選書
 地球環境を守るため、昆虫を食べよう。そんな呼びかけをしている本です。
 昆虫はこれまでの家畜と同じく栄養価が高く、かつ、地球環境免荷を軽減できるエース級の動物タンパク源だ。
 2050年までに世界の人口は90億人に達する。そして、2010年から2050年にかけて、肉と牛乳の消費量は58%も増加する。すると、肥料の需要が増加し、牛・豚・鶏肉の価格は30%以上あがる。そのうえ、地球温暖化を促進してしまう。
 家畜に代わる代替タンパク質として期待されているのが昆虫。
 実は、古くから昆虫は人類の食料として利用されてきた。現在でも、世界で20億人以上が昆虫を食べ、2000種もの食用昆虫がある。
 昆虫のタンパク質含量は乾燥重量あたり40~75%。これは牛肉・豚肉に匹敵いやそれ以上の豊富なタンパク源。しかもタンパク質を構成する必須アミノ酸の組成も悪くない。
 昆虫は、とくにビタミンB群を豊富にふくむ種が多い。
 昆虫の炭水化物は、表皮を構成するキチンが大半。キチンは機能性食物繊維としての活用が期待できる。キチンやそこから生成されるキトサンはコレステロールの体内への吸収を低下させる作用がある。昆虫由来のキチンは、カルシウム含量が少ないので、精製が容易。また、加水分解されやすいので、さまざまな用途への活用が期待できる。
 昆虫の温室効果ガス排出量は非常に低い。それはメタンガスをほとんど生成しないことのほか、変温動物のため代謝量が低いため。
 たとえば、イエバエとアメリカミズアブを養殖したら、1ヘクタールの土地で年間150トンのタンパク質が生産できる。しかも、高密度で飼育でき、発育スピードも非常に速い。さらに、昆虫の水分摂取量は非常に少ない。また、少ない餌で効率よく育つ。
 廃棄物を昆虫が食べて育つことで、廃棄物はタンパク質に変わる。
 イエバエは卵から成虫になるまで35度で1週間。アメリカミズアブは、卵から蛹まで1ヶ月。コオロギもイナゴも日本では昔から食べてきた。ハチノコも年間数キログラムが消費されている。
 昆虫食ビジネスが注目されている。そこまでは理解できます。でも、その昆虫のなかに、ゴキブリまで対象となっていると聞くと、うえーとなりそうです。だけど、そこを乗りこえないとビジネスにはならないのでしょうね、きっと…。
(2022年2月刊。税込1870円)

きのこの自然誌

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 小川 真 、 出版 山と渓谷社
 私が好きなきのこはシイタケとマイタケです。焼き鳥屋で肉厚のシイタケを焼いてもらって食べると最高ですよね。マイタケは、やっぱり天プラですね。
 マツタケなんて、何年も食べたことがありません。わざわざ超高価なマツタケを食べようとは思いません。それ以外のきのこは、毒きのこのイメージが強くて、とても手が出ません。毒をもつフグなら、ちゃんとした店で調理したものに限ります。
 フランス料理の珍味の一つのトリュフ。ブタが、このきのこの匂いにもっとも敏感。だけどブタはともかく頑固で、人間の言うことを聞かずに、見つけたトリュフをさっさと自分で食べてしまう。なので、ブタをつかってトリュフを探すのは困難すぎる。
 イタリアには、トリュフ狩り用のイヌの訓練校があるとのこと。トリュフの匂いに敏感なハエがいて、それでトリュフを探す。というか、トリュフの匂いは、このハエを招き寄せるためのもののようだ。トリュフは有史以前、ギリシャ、ローマ時代に、既に珍味中の珍味になっていた。
 トリュフは日本ではほとんど採れない。日本は土壌が酸性で、かつ雨量が多い。しかし、トリュフは湿った場所を嫌い、アルカリ性の土だけを好む。石ころ混じりの腐植の多いアルカリ性の土地を好む。年間雨量が600から900ミリの地帯にのみ発現する。このように、トリュフの栽培は、マツタケと同じように難しい。
 きのこの縄張りは、広がったり、食われたり、入れ替わったりと目まぐるしい。10年もすると、すっかり種類が変わってしまうほど。それぞれの種が、それぞれの暮らし方にしたがって、縄張りをつくり、互いに競争しながら精一杯生きている。
 マツの老齢林でマツタケが見る間に出なくなるのは、若いマツの根が少なくなり、落葉が厚くなって、地表に敵がふえ、シロが次々に攻められ、マツタケがきのこ戦争に敗れるためだと考えられている。関西では、昔からマツタケの出る場所をシロと呼びならわしている。
 マツタケの生えるマツ林にうかつに近づくと、「泥棒っ」と怒鳴られてしまう。
 マツタケのない地方では、山への出入りは勝手放題だし、人の心ものどかだ…。なーるほど、ですね。
 人を殺すほどの猛毒をもっているのは、タマゴテングダケとドクツルタケ。
 『今昔物語』に出てくるきのこは、「オオワライタケ中毒の症状」とそっくりだという。
 さすが、キノコを長年研究したことがこうやってまとめれているのです。すごいきのこ図鑑(文庫本)です。
(2022年2月刊。税込1188円)

生命の大進化40億年史

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 土屋 健 、 出版 講談社ブルーバックス新書
 地球の歴史は46億年。39億5000万年前に生命が誕生した。そして30億年以上かけて生命はゆっくりと進化していった。
 5億7500万年前に、多様な生物群が出現。
 5億3900万年前のカンブリア紀に、動物たちが本格的な生存競争を始める。その後、オルドビス紀、シルル紀、デボン紀、石炭紀、ペルム紀という6つの「紀」があり、2億8700万年間を古生代と呼ぶ。古生代が始まったときには、海域だけだったのが、次第に陸域へ進出した。
 カンブリア紀には爆発的な多様化が誕生した。まさしく奇妙奇天烈な格好の生物が無数にあらわれました。有名なアノマロカリスも、今ではたくさんありすぎて、さらに細かく分類されているようです。
 そして、動物が眼をもったことが進化を加速させたというのが通説になっています。なるほど、見えるのと見えないのとでは、進化の様相が違ってくるでしょうね。
 そして、ついにサカナが登場。すべての脊椎動物はサカナから始まった。初期のサカナたちには歯もアゴもなかった。海底にたまった有機物を吸い込むだけだった。
 カンブリア紀から現在に至るまでに5つの大量絶滅事件があった。ビッグ・ファイブともいう。シルル紀の海で、サカナたちの進化は進んだが、まだ弱者だった。カンブリア紀以来、1億年以上にわたって海のみを生活と進化の舞台としていたサカナたちの中に、陸に上陸することができるものが現れた。
 サカナから四足動物が誕生するにあたって、からだのつくりは、タテ型からヨコ型へと変わり、眼の位置も変わり、胸びれと尻ビれ以外のひれは消失し、胸ビレと尻ビれは骨と筋肉と関節をもつ足へと変化し、あわせて、肩や腰、首などをもつようになった。
 石炭紀の大森林の主力はシダ植物。このころのシダ植物は、日陰ではなく、日向の主役だった。
 150点をこえるカラー画像もあって、生物の進化を視覚的にたどることのできる楽しい新書でした。でも、目の前にある化石をこうやって、いつの時代のものと位置づけられるって、すごいことですよね。
(2022年6月刊。税込1760円)

したたかな植物たち

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 多田 多恵子 、 出版 ちくま文庫
 もの静かで、じっと動かない植物。しかし、本当は「戦う」存在だというのです。ええっ、そ、そうなの・・・。そんな驚きを見事に納得させてくれる、写真たっぷりの文庫本です。
 植物たちは、したたかに、そしてけなげに生きている。
ヨーロッパ原産のセイヨウタンポポと日本原産のカントウタンポポの違い。セイヨウタンポポは、総苞(そうほう)片がそり返る。カントウタンポポは、総苞片がそり返らず、先端に角のような小突起がある。
セイヨウタンポポは、明治時代の初めに日本にやってきた。放牧している乳牛に食べさせるために北海道の牧場に導入したのが始まり。葉や茎を切ると、白い乳液が出ることから、西洋では牛に食べさせると乳の出が良くなると信じられていたという。
セイヨウタンポポが爆発的に増えたのは、昭和30~40年代の高度成長時代。
セイヨウタンポポは春だけでなく、夏から冬も開花結実し、多数のタネは、軽く、遠くまで飛ぶ。そして、無融合生殖で増えていく。つまり無性生殖。単独で子をつくってしまう。ドクダミ、ヒガンバナ、シャガそしてニホンスイセンも、みな無融合生殖。 花が咲いても実を結ばず球根や地下茎でクローンを増やしていく。
 在来タンポポは、虫が別の株の花粉を運んできてくれないと結実できない。
 パンジーやビオラは、スミレの仲間。ヨーロッパの野生種からつくられた。なるほど、パンジーとビオラって、ほとんど形の大小のほか違いがありませんよね。
スミレは、アリの好物である脂肪酸を「おまけ」としてアリを呼び集める。アリはせっせとタネを巣へと運ぶ。そうやって、スミレは広がっていく。
カタバミの実は、何かが見に触れると、その振動を感じて、ピュピュッと中からタネが飛び出してくる。そして、袋の中に充満していた透明な液体もタネとともに飛び出す。この液体はいわば「瞬間接着剤」で振動を与えた人の靴や足にタネを貼りつける。こうやって、人の稼動力を利用して生活圏を広げていく。
 植物は常に窒素(ちっそ)分に飢えている。窒素分は不足しやすい資源だ。空気中には窒素ガスが大量にあるが、分子の結合が固いので植物は利用できない。唯一の例外が根粒菌。マメ科植物は根粒菌と「共生」することで「飢え」から解放された。
ネジバナの1個の実には、数万個のものタネ(種子)が入っている。タネは、長さ0.4ミリ、重さはわずか0.0009ミリグラム。
ミズバショウ(白い花)とザゼンソウ(茶色の花)は、どちらもサトイモ科の多年草。ドクダミとは遠縁にあたる。ミズバショウの花はよい香りで、ザゼンソウの花は悪臭。
いま、庭にフジバカマを5本植えています。アサギマダラという「テフテフ」(ちょうちょ)が来るのを待ち構えているのです。いえ、昆虫採集の趣味はありません。単純にフジバカマの花を植えると、アサギマダラがやって来ると聞いたので、フジバカマを4株だけ植えてみたのです。さてさて、うまくいくでしょうか・・・。もちろん、うまくいってほしいのです。
(2019年3月刊。税込1012円)

面白くて眠れなくなる進化論

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 長谷川 英祐 、 出版 PHP文庫
 お昼に食事しながらの雑談のとき、突然、私はこの本で得た知識をその場にいた人たちに披攊しました。言わずば腹ふくるる心地だったからです。
 コオロギのメスは、オスの価値をその鳴き声で判断している。オスは「リリリリ」と鳴く。そのとき、1秒間あたり、たくさん「リ」のパルスがある、つまり、テンポの速いオスの声を好む。
 そこで、まず、それを確認するため、メスを真ん中に置いて、両側に細長い通路をつくって、その奥にテンポの違うオスを置いて鳴かせ、メスがどちらのオスを選ぶかを実験する。その結果は、案の定、テンポの速い鳴き方をするオスをメスは選ぶ。
 そこで、次に、メスからのオスの位置を変えてみる。テンポの速いオスを遅いオスよりメスから遠くに置く。すると、その遠さが一定以上になると、メスは近くにいるテンポの遅い、つまり質の悪いオスを選ぶようになる。
 これは「時間割引」という現象。常に死の危険があるため、次の瞬間にも生きている確率は「1」ではない。遠くの質のいいオスを求めて行く途中で天敵に襲われてしまったら、元も子もない。いやはや、こんな実験を思いついて、実際にやってみるんですね…。学者ってホント偉いです。
 いったい、こんな実験が人間の生存に何か関係があるのか、これって人の役に立つ学問なのか…。そんな疑問は無用だと私は思います。疑問がわいたら、それを究明することこそ、人間の、人間たる所以(ゆえん)なのではないでしょうか。
 アリは、全体の3割くらいしか働いていなくて、あとの7割はぼおっとしているだけ…。そして、その働いている3割を強制的に取り除くと、残った「7割」のうちから、またもやその3割だけが働きはじめ、その比率は変わらない。
 なんで、そうなのか…。それは、アリも疲労するから…。たとえば、シロアリは卵を放置しておくとカビが生えて死滅してしまう。そうならないよう、抗生物質をふくむ唾液を卵に塗りつけてカビを防ぐ。これも疲れる作業ではあるので、全員が働いて疲れてしまったら、そのコロニーは全滅してしまうことになる。なので、そうならないように予備軍を確保しておく必要がある。働いていないアリは、まさしくこの予備軍だ。いざとなったら、みんなのために働き続ける。そのときまでエネルギーは無駄使いせず、残してためておく。なーるほど、とてもとても合理的な発想ですよね。
 生物の世界も奥がとても深いことが実感できる、200頁ほどの薄い文庫本です。眠れなくはなりませんでしたが、たしかに面白い本です。
(2022年4月刊。税込836円)

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